番外編:とある週末の戦英プロ〜リーナの場合①〜
side リーナ・タングルス
私はリーナ・タングルス。
下級貴族のタングルス家に生まれた末娘で、元冒険者で、世間で言うところの邪神崇拝教団に属していたこともあった。
そして、今ではいろいろあった末に『美少女化怪獣』兼『戦後英雄プロダクションの社員』をやっている。
……我ながら、なかなかにムチャクチャというか、いろんなものに流されてきた珍妙な経歴だ。
自分で言うのもなんだけど、私は人間だった時はなんにも特別なことができない人間だった……いや、今にして思えば自分がそういう人間だと周りに言われて、自分でもそう信じ込んで、いつしか自信も何もかも失って何もできない人間になってしまったのかもしれないけど。
そんな私が、努力でもなんでもない偶然で力を手に入れてしまった。
『怪獣くらい強くなりたい』とも思ったわけでもなければ『なれる』と思ったこともないのにこんな不相応なまでの力を手に入れてしまった。
おかげで多少なりとも自信はついて、力で言えば人並みからは外れてしまったことを思えば皮肉ではあるけれど人並みには自分にも何かができると思えるようになって、ちゃんと行動できるようになったと思う。
……そう、今の私は、良くて『人並み』だ。
普通ならちょっとした全能感に浸ってしまうかもしれない『怪獣』の力を手に入れて、ようやく『人並み』の精神性。
自分で言うのもおかしな話だけど、消極的な生き方をしていしまっていると思う。
他人が私の経歴を見れば、全くそんなじゃないと思われるかもしれないけれど。
『悪者になりたい』とも『それを倒す英雄になりたい』とも全く思わなかった……とは言わないけれど、それほど強く思ったことなんてないはずなのに所属した組織のネームバリュー的には(特にその世間一般での風聞や認識的には)邪神崇拝を志す『悪の組織』に属した後に『戦後の英雄をプロデュースする組織』に籍を入れて、なんなら会社の名前ばっかりじゃなくちゃんと実際に妖怪やら悪徳貴族やらを倒していて、そこそこの数の人から英雄みたいに感謝されてたりもする。
他人から見れば波乱万丈の人生に見えてしまうかもしれない。
だけど、それでも。
経歴はムチャクチャで珍妙ではあるけれど、波乱万丈と言われればそうかもしれないけれど、消極性と全能感が打ち消しあってようやく『人並み』の精神性を自覚する私自身の認識としては、私のポジションは『クラスメイトの中で一番の常識人』だ。
一般的には非常識な経歴ではあると思うけど、あのクラスメイトの中で見れば常識的な部類で、実際の価値観で言っても外の社会に一番適応できてると思う。
そもそもとして、私は自分が『大人組』でもいいと思ってる……特に実年齢的な意味で。
人間性の維持のために空山さんの『美少女化』の能力を受けているから外見年齢が『少女』の範囲に固定されちゃっていてややこしいけれど、私の実年齢は今の外見よりも数年分高い。
就労促進のために十五歳に設定されてる法律上の区切りを無視しても、本来の肉体的年齢には充分に『大人』の見た目になっていておかしくない頃合い……もっと具体的に言えば、たぶん小野倉さんとほぼ同じくらいの年齢だ。
今だってやろうと思えば身なりを整えて童顔だと言えばなんとかならない外見年齢じゃない。
常識的な振る舞いとか社会経験って意味でも冒険者としてそれなりに経験済み。
下級とはいえ貴族の生まれとして、そこそこちゃんとした教養も然るべき時期にちゃんと受けてきたわけだし、なんなら異世界育ちの転生者の大人たちよりもこの世界では真っ当な価値観を持った戦英プロ有数の常識人だと思ってる。
……さすがに、普段からそういうアピールはしてないけど。
マウントを取るつもりじゃないとしても、クラスメイトの子たちの経歴が大体『元少年兵』だったり『元テロリスト』だったりって感じで本人に非がないとしても一般的な教養やマトモな育ち方ができなかったことを考えると、『育ちの良さ』を見せびらかして自慢するようなことは良くないってことくらいわかってるし。
そこらへん、私は本当に常識人だし良識人だって自覚というか自認してる。
……まあ、きっと『だからこそ』って話ではあるんだろうけど。
本来は完全に『大人組』でいいはずの『小野倉さん』を、『半分子供』の『ねねさん』としてCクラスに所属させているように、社長サマはそういうことをする。
クラスの中で苦労人になることを分かっていて、大人側の視点を持つメンバーを『Cクラス』に混ぜ込んでいる。
経歴的に『大人』を全面的に信用することが難しい子供たちが形成する独特の社会にスパイを仕込むように、常識と良識のある私を敢えて完全な子供側として所属させている。
そう考えると、『半分大人組』を公言した上で『Cクラスの一員』として扱われている小野倉さんの存在はむしろ私のポジションを目立たせないための『囮』みたいなものなのだろう。
はっきりそう振る舞えと命令されたわけじゃないけど、私はそう思ってる。
そういうポジションを、子供たちの中にしれっと混ざっている『ぱっと見では子供みたいな大人』という役割を自分の仕事だと思っている。
冒険者として依頼を受けてそれをこなして生活していた時の仕事と同じように、そういう仕事をして、戦英プロのお抱え傭兵みたいな感じの長期依頼の報酬で日々の糧を得ているような感覚で生きている。
……『だから』、というのは逃げとか責任転嫁になるのだろうけれど。
私には、『将来の夢』みたいなものがない。
というか、本当にぶっちゃけたことを言っちゃえば卒業後の内定……みたいなものまでもらってしまっていて、私の未来はそれを蹴るか受け入れるかの二択しかない。
そう……私は、女神たるエルノア様からの『内定』をもらっている。
今は『怪獣少女』でいられる私の『少女』でいられなくなった先の未来は二択。
エルノア様の誘いを受けて、修行して、土地神や神獣と呼ばれるような『神様』に近い存在になるか……それをせず、このまま人間性を消費し尽くして、理性のない『怪獣』に戻るか。
……まあ、常識的に考えて人間性を残したければ実質的には『神様ルート』一択の選択だ。
きっと悩むまでもないことだって言う人の方が多いのだろう。
ただ、これはさすがに堂々と公言はしていないけれど。
私は少数派になるであろう『怪獣ルート』でもいいんじゃないかと思ってしまっている。
……別に、望んで『怪獣』に戻りたいってわけではないんだけれども。
本当に『人間扱い』をされずに生きてきて苦労してきたヒトミやトマルなんかの手前、簡単に口にする気にはなれないけれど。
私はそれほど、『人間性』を残すことに執着がない。
クラスの中でも一番『普通』に人間として生まれて、それなりの教育を受けて、社会や常識を知ってしまっているからこそ、それほど無条件に『人間』であることを素晴らしいとは思えない。
怪獣の力を得てようやく『人並み』であるからこそ、人間として才人でも有望でもない自分の人間性にそこまでの価値があると思っていない。
そりゃ、確かに人間である方がいろいろと快適で便利でやれることもたくさんあるんだろうけれども。
その反面、人間として生きることの面倒くささみたいなものは確実にあって、私の中はわりとそれに本気で飽き飽きしている部分もある。
……というよりも、一度『怪獣』になってみて、そういうしがらみが全部なくなった状態での気楽さみたいなものが強く残ってしまっていると言ったほうがいいのかもしれない。
生きるだけなら怪獣に戻って、人に迷惑をかけたくないのならどこかの無人島にでも飛んで行ってそこの生態系のヌシとして振る舞うのが一番楽な道なんじゃないかと思ってしまう。
……いや、それもまた言い訳なのかもだけれど。
卒業後の進路について『実家が太いから働かなくても生きていけるし仕事なんてしない』なんて公言するみたいなもので、さすがに恥ずかしいから言い訳として口にすることもできないような逃げでしかないのかもだけれど。
今の私には、自分が『神様』になるというのが感覚としてわからない。
人間性に縋り付くためでも、偉大なものになりたいでも、そういうモチベーションで真面目に修行できるイメージが湧かない。
下級貴族の末娘的に、常識的に、良識的に、消極的に、受動的に流されて生きてきたから。
冒険者になったのだって、本質的には私に何の期待もしていなかった実家からの『逃げ』でしかなかったから。
ここで初めて『進路』という『自分の将来のことをちゃんと考えなさい』という問題を突きつけられて、当たり前に『より楽な方向』へ流れようとする自分と向き合ってみてその大きさと意固地さに呆れている。
「ニドラはすごいなぁ……ちゃんと夢を持って頑張ってるんだから」
眩しい光を秘めて日々を生きているクラスメイトの姿を想う。
本人は恥ずかしがってるのか隠しているつもりみたいだけど、『大人の視点』で見ていれば子供の隠し事なんて『気付かないふりをしていて』ってお願いされているだけみたいな可愛い秘密だったりもするのだ。
生まれつきの従者、存在意義としての使役獣という立場。
それに従ってその在り方通りに生きて死ぬのが一番楽だとしても、その先を見て毎日努力しているクラスメイトの姿は、楽な方へ流れされようとしてしまう私の魂が目を眩ませてしまうくらいに輝いている……『青春』している。
本当に、羨ましい。
もしかしたら、忘れてしまっているだけで私にもあったのかもしれないけれど、ああなれるならなりたい……いや、戻りたい。
けれど、その情熱の引き出し方がわからなくなってしまっている今の私は、やっぱり善くも悪くも心が『大人』になってしまったんじゃないかと思う。
子供と大人では、悩む問題や答えの出し方が違う。
『子供の物語』は、どうにもならないものや答えのないものにどう向き合うかを知る物語。
『大人の物語』は、満点を出せないことだとしても、何かを切り捨てることになるとしても、問題を現実的にどうにかする手段を見つける物語。
私は既に情熱や感情じゃなくて、淡々と『何を諦めてどうやれば問題を解決できるか』という方法論で物事を考えられてしまう段階に入ってしまっている。
エルノア様から、神様になるつもりなら戦英プロにいる間の課題として、『偉業』を一つ達成しなきゃいけないとも言われている……学院の生徒がやらなきゃいけないっていう卒業論文みたいなものだと思うけど、今の私が『神様になれない理由』は突き詰めればそれだけ。
解決しようと思えば解決できる問題だ。
たとえば悪党の百人斬りだとか、一人で運河を造るとか。
そういう『偉業』をやろうと思えば、戦英プロの社員としての仕事と学校をしばらく休ませてもらえばたぶん怪獣パワーで作業的にやれてしまう。
私の人間性の存亡がかかった問題なのは嘘でもなんでもないし、そのために長期の『お仕事』をさせてほしいと社長サマに申請すれば休学も通るだろう。
けど、今の私はその気にならない。
私にはそんな『偉大な仕事』扱いされるような『すごいこと』に挑戦する自分のイメージもまるで湧かない。
……きっと、こんな心持ちのまま作業的に偉業への挑戦に入っちゃいけないのだろうと思ってる。
『偉業』は、単なる卒論じゃなくて私が神格化されるための必要条件だ。
社長サマによるとそれによって神様になるというよりも後世に伝説として認知されるようになることの方が近いらしいけれど、私の場合は何もしなければ人間性を消費して理性のないただの怪獣に戻ってしまうのを人間側に引っ張り寄せるために必須の条件らしい。
けれど……やっぱり、思ってしまう。
私が伝説なんかになって何になるのか。
私なんかがそんな大層なものになって何になるのか。
もしかしたら、そもそもがその不相応な『大層さ』に自分を合わせるための課題なのかもしれないけれど、立場が人を変えるみたいな理屈なのかもしれないけれど。
少なくとも今の私には、そんな『偉業』なんてものを、ただの偶然で力を得てしまっただけの自分なんかがやろうとするのが間違っている気がしてしまう。
頭の中はいつも堂々巡り。
答えなんてない、いわゆる『卵が先か、親鳥が先か』みたいな話になってしまうけど。
これまでの人生で胸を張れるような何かを成し遂げることもなく流されて、楽な方へ楽な方へと逃げて来てしまった私が今更になって何かを成し遂げようとするのは虫が良い話じゃないかと思えてしまう。
それこそ、情熱や夢みたいな青春的モチベーションでもなければ。
「……社長サマは『美少女化』で心まで子供に寄ってるとかなんとかって話だけど、私はそうはいかないなぁ……」
なまじ大人を自負してしまっているから、あんなふうには振る舞えないと確信してしまう。
子供な部分を認めた上で『大人な自分』と『情熱』を上手く両立して精力的に生きている社長サマには……いろいろと変人な部分とか外れ値みたいな部分が多くてちょっと堂々とは言えないけれど、まあまあ尊敬しているつもりではある。
少なくとも、仕事の上司としては申し分ないし、職場環境は良すぎるくらいに良いと思っている。
だから、これも自分の進路という問題に向き合うことからの逃げの一つかもしれないけれど、とりあえず今は戦英プロでの仕事に集中している。
そして……
「リーナ、そろそろ待ち合わせ場所だけど、大丈夫?」
「あ、美森教官……ごめんなさい、ちょっと考え事してた」
「例の進路の話? 確かに大事なことだけど、今からはちょっと仕事の方に集中しなきゃだから気をつけて。あと、今は『教官』はなしで」
今日は学校は休みの日だけど、それとは別に戦英プロの社員として、戦力としての仕事がある日。
仕事の内容は、ピークドットに来る客人の護衛任務……を兼ねた、実質的な監視役。
その客人は信用できる人ではあるけれど、このピークドットという都市ではちょっと立場が良くないというか、一応は前の戦争での『敵軍』にあたる組織の所属ではあるし、転生者でこそないけれど近い個人戦力はあるから。
へんないざこざに巻き込まれた時に対応する戦力として、一年前の戦争の後遺症で万全には戦えない美森さんの補助として私が派遣されている。
そして、都市の入り口で迎え入れる客人というのが……
「どうも、お久しぶりです。美森さん、リーナさん」
「久しぶり、少し見ない間になんか立派になってきたね。やっぱり立場が人を変えるってことかな?」
「ははっ、一年前までただの一新兵でしかなかった自分には重い立場ですけどね」
美森さんと握手を交わす青年。
騒ぎにならないように軍服は着ていないけれど、彼は今でもガロム正規軍に所属する軍人……『ユーキ・マキシマ』。
あの軍都で夕子の暴走を止めたという神器使いだ。
見るからに、そして内面も見た目通りの好青年である彼が今日の客人。
美森さんは最低限の挨拶を終えると、待ち合わせ場所に予め呼んでおいた馬車……ピークドットの名物の一つとも言える、『恐竜馬車』を指し示す。
「じゃあ、早速だけど行こうか。病院まではあれで」
「はい……この街で『ガロム兵』が堂々と歩き回るわけにはいきませんからね」
馬車に入る。
観光目的の側面もある名物だけあって、恐竜馬車は客席もなかなか快適にできているし、中での会話も外に漏れないようにできてる。
扉を閉めて、改めて会話が再開される。
「どう? ガロム軍の方はやっぱり苦労してる?」
「ええ、お察しの通り……戦英プロが正確な情報を公開するようにしてくれたおかげで、どうにか血を見るようなことは避けられてはいますけど、事が事でしたから。どうやったら信用を回復できるかといったら……やっぱり、地道に人々を護っていくしかないんでしょうね。でも、戦英プロが記者のツイッタさんを紹介してくれたことで、『闇市』と無関係な軍人もたくさんいたと発信できたのは本当に助かりました」
「まあ、『闇市』と『ガロム正規軍』の実質的トップが同じ人間だったとしても、組織そのものが同一のものじゃないっていうのは早めに公表しないとまずかったからね……まだ、そこの理解が難しいって人もたくさんいるんだろうけど」
「ええ……『軍人』というのは、自分の仕事がどういった意味を持つかを知らなくても正式な命令であれば従うように訓練されてきて、組織の構造もそういうふうにできてますから。本人は何も知らず『悪徳権』に加担させられていたという人も少なくない。そういう意味では、ガロム軍人全てが罪を問われるべきというのも間違っていないのかもしれない」
「ま、そんなことをしたら今も残ってるガロム軍人がまるごとテロリストに転向しかねないし、悪意を持って『闇市』の活動に加担してた人間とそうでない人間はちゃんと分けないとだけどね。そこら辺……頑張ってね、『マキシマ派』の代表くん」
「ええ、本当に……責任が重い立場です。でも……父もきっと自分の名前で助けられる人がいるのならそうしろって言ってくれると思うから。僕も自分にできることを全力でやろうと思っています」
美森さんと話しながら、肩に重いものを乗せられているかのように小さく俯きながら、それでも強い瞳で視線を上げるマキシマ青年。
一年前、このピークドットは戦場になった。
その時の私は旧都の神殿で儀式の準備をしていて『ピークドット・レジスタンス』には所属していなかったけれど、『戦争』が起こった以上はどちらも主張する正しさがあって、そして同時にどちらも糾弾された汚名があった。
そして、その結果として。
戦争を終えてレジスタンスから会社となった『戦英プロ』に未だにこびり付いている汚名が『世界の敵』なら、不祥事を暴露したレジスタンスを嘘つきの悪者と喧伝した上で討伐しようとして返り討ちされたことで汚名返上に失敗したガロム正規軍が受けた不名誉は『大戦犯』。
『悪徳権』『人体実験』『麻薬の密造密売とその製造のための非合法な奴隷村』。
その他にも無数の悪事が『闇市』という組織で、それを覆い隠す『ガロム正規軍』という信用の裏側で長年行われてきたことが暴露されて、栄誉と名誉ある社会的エリートの証だったはずの『ガロム軍人』という立場は『悪事の加担者』という意味を持ってしまった。
中には、本当に治安維持組織としての誇りを持って市民の生活やガロム社会を守っていただけの軍人もいたとしても。
大衆の認識は推定有罪……戦英プロの協力もあって主立った『裏のキャリア組』が次々と捕まって名指しで晒されている今も、ガロム正規軍に残っている軍人たちへの風当たりは厳しい。
他の組織ならもう完全に解体されていて然るべき信用喪失だ。
けれど、どんな裏があったにしろ、ガロム正規軍が世界規模の『正式な治安維持組織』であった以上は解体なんてすればこの社会は無法地帯になってしまうから完全解体なんてできない。
だから、今のガロム正規軍は針の筵の中で再編と信用回復のための活動を続けている状態だ。
そして……その『再編』の要になっているのが、目の前の彼を中心とした『マキシマ派』という派閥だ。
軍都が『氷戒の魔王』によって凍結するという大事件の中でたくさんの非戦闘員を救い、軍都の地下に隠されていた軍の暗部を暴いて英雄扱いされている『ユーキ・マキシマ』。
……そして、その父親である転生者『槙島誠実』。
これはピークドットでの戦争の後、グラム将軍が過去に行っていた悪事について追加調査が行われた結果としてわかったことだけど、事故で死んだとされていた槙島誠実は一人でグラム将軍の秘密に辿り着き直接対決の末に討ち死にしていた。
たった一人、孤独にガロム軍の闇と戦い、その首魁の首元まで迫った男の非業の最期。
そして……その息子が神器使いとなり、軍都の闇の核心を暴き出し、直接対決とは言えない形ではあったとしても父親の仇討ちを果たした。
そんな『物語』が生まれ、それを錦の御旗として担ぎ上げる『マキシマ派』が結成された。
元々、冒険者ランキングの上位ランカーにまで上り詰めて引退後も軍都の守り手として多くの人を助けていた実績もあってヒーロー視されていた部分があった槙島誠実の人生は、そのヒロイックな生き様と人知れず正義を貫いた死に様からある種の『伝説』になった。
そして、その『伝説』を掲げる『マキシマ派』は、生前の彼と交友のあったガロム軍関係者を中心として生まれた派閥だ。
『グラム将軍に命を狙われないように公言はできなかったが、密かに彼の意志を継いでいた息子のユーキ・マキシマがいるように、自分たちもまた槙島誠実の影の後援者だった』。
後付けではあるけれど、今ではその物語が『闇市に与していなかった理由』として多くのガロム軍関係者を攻撃的な風評や推定有罪の断定から護っている。
単に槙島誠実との交友があったというだけでそう語るのは虫のいい話だとは思うけど、実際に『闇市』の存在すら全く知らなかったという真面目で潔癖だった軍人だって少なくはない。
実際、シックスさんもそうなりかけた事があるように、槙島誠実の他にも『闇市』と戦おうとして消されてきた軍関係者もたくさんいる。
レジスタンスが将軍を斃さなければ後々その犠牲者リストに名前を刻んでいたであろう正義漢だっている。
そんな彼らをまとめ上げる旗印として、いま私の目の前にいるユーキ・マキシマが代表者となったマキシマ派がガロム軍再興の希望になっている。
そして、今日のピークドット来訪の目的はその要となっている『槙島誠実の伝説』を物語として確立するためのすり合わせ。
伝説となってしまった転生者の息子であるユーキ・マキシマが、父親の槙島誠実は自分の知らない戦場ではどんな振る舞いをしていた人間だったかを知るため、それを知る人に会いに行く。
私の仕事は、そのための護衛……マキシマ派の代表ではあってもガロム軍人が大手を振って歩くことはまだ難しいこのピークドットに彼を招く上で最低限必要な身辺警護役であると同時に、彼が会いに行くこの街の重要人物に万が一にも危害を与えさせないための監視役としての護衛任務だ。
問題は起きないだろうけど、それでも仕事なのだから油断するべきじゃないと気を引き締めていると恐竜馬車が停車して軽い慣性で背中が背もたれから浮く。
美森さんがカーテンの隙間から外を見て、小さく息をつく。
「お、着いたみたいだね。それほど心配はしてなかったけど、途中でなんにもなくてよかった」
「ここが……」
「うん、槙島さんと一緒に戦ったことがある『あの人』が入院してるところ。目立たない内に早く入ろっか」
ピークドットの特別病院。
転生者の能力や神器、シィさんの技術なんかもあって普通の都市よりも深刻な傷や病気まで簡単に治せてしまうことも多いこの街でもなかなか治せない特殊な症例で長期入院している患者……それに、警備厳重な病室に入れなければいけない要人なんかも利用する、入院患者数のわりに大きな施設。
事前に予約を取って決めてある面談時間に合わせて受付を通って三階にある目的の病室に向かう。
その途中で……廊下に大きくて少し歪な人影が見えた。
そのシルエットを見て、美森さんが声をかける。
「あ、オーリッシュさん。先に来てたの?」
いつものように目深にフードを被っていて顔は見えにくいけど、特徴的な『六本腕』を隠して膨らんだ上着のシルエットは間違いない。
クラスメイトのダミーの親戚のおじさんことオーリッシュさんだ。
……ちなみに、私もこの人の『オーリッシュ版画集シリーズ』は小さい頃からちょっとファンで集めてたこともあったりするけど、それは秘密だ。
それはさておき、戦英プロの本社区画以外では何気にレアエンカウントなオーリッシュさん。
相変わらず職人気質というかコミュニケーションが活発な方じゃない彼は、目的の病室から出てきたところらしく私たちの正面から来て、そのまますれ違うように外へ向かう。
「えっ? オーリッシュさん、帰っちゃうの?」
「……槙島さんのことで僕が話せることは資料にまとめて渡しておいた。好きに使え」
「それならマキシマさんの前で一緒に話せばいいのに」
「仕事があるからな……お前たちが山ほど確保してくれやがった『収納紙』の処理がまだ残ってる」
「あはは……それは、その、ご愁傷さまです」
この間、『靴裏男』こと硲田黒雄という転生者を倒した時に大量に残された『収納紙』。
保存用のサンプル分以外はノンの消去砲で焼却処分する予定だったけど、性質を調べたら収納紙の中にさらに収納紙を入れ子式に収納できてしまうことがわかって、詳しい精査が済むまで焼却処分は延期になったのだ。
たとえば、中にまだ閉じ込められた人間がいたりだとか、あの転生者が盗んだ金品だったりがしまい込まれてる収納紙があったりだとか、そういう可能性があるまま焼却してしまうと後から何かが見つからないとなった時に非常に困ったことになるから。
入れ子式に収納されているものもある山のような収納紙を一つ一つ調べるなんて、普通にやったらどれだけ時間がかかるかわからない。
そういう『手がいくらあっても足りない』って仕事はオーリッシュさんの得意分野ではあるけれど、さすがに大変なのだろう。
その上、彼の場合は口で喋るよりも手で資料を書き上げる方が遥かに速いだろうし、こうして直接それを渡しに来てくれているだけでも槙島さんの知り合いとしての義理のためにかなりの時間を割いてくれていると見ていいはずだ。
「美森、リーナ。僕はこのまま帰る。今の仕事が終わったらまた連絡する。あの社長には次の仕事はできればその連絡の後にしてくれと言っておいてくれ」
「いいけど……せっかくピークドットに来たんだし、本社区画には寄って行かないの? 夕子ちゃんともまだ……」
「仕事があるから僕は帰る。そう言った」
頑なに帰りの足を止めることなく私たちとすれ違って出ていくオーリッシュさん。
何度か本社区画にも来てはいるんだけど、夕子がいない時を選んでるとしか思えないのは……まあ、理由が想像できないわけじゃないけど。
レイさんや美森さんがそうであるように、オーリッシュさんも『恐怖の大王』との戦いで心に負った何かがあるのだろう。
「美森さん、今の人は……」
「……ううん、あんまり気にしないであげて。槙島さんとは友達だったはずなんだけど……ちょっと人付き合いが苦手なタイプだから。さ、入って。面会時間も限られてるから」
「……はい。今日は父さんのことを教えてもらうために来ましたから。本題を忘れてはいけませんね」
病室の戸を空けて、部屋の中に入る。
そこは、ぱっと見では病室には見えないような……多趣味な人間の私室のようにも見える、様々な小物に彩られた空間。
その奥にあるベッドの上で、オーリッシュさんからもらったのであろう資料を読みながら私たちを待っていたのは……
「フィースさん……はじめまして。父さんの話を聞きに来ました」
かつては『五番目の正規勇者』という名前を持っていた女性。
ピークドット・レジスタンスのNo.2にして、実質的な発起人でもある美の女神の化身……だった人。
彼女は……フィースさんは、手にした資料をそっと閉じて、微笑みながら言った。
「こちらこそ……はじめまして、だね。槙島さんの息子さんか……なるほど、確かに面影があるね。彼には返せなかった恩もあるし……彼が軍の闇に踏み込んだのは、きっと私と関わったせいもある。その責任のためってわけじゃないけど……私が知る『槙島誠実』という転生者について語るとしようか」
ちなみに、こちらのルートでは
セブンスが『亜竜の谷』で手に入れた祭壇を『闇市』がそのまま保持
(旧都砦でジャネットさんを逃したため)
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グラム将軍がピークドットに祭壇を持ち込む
(場合によってはジャネットさんを奪ってそのまま本編でやろうとしたように自己強化に使うため)
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シックス・セブンスの奮戦で将軍撃破、レジスタンスへ寝返ったノン・ブレイブが将軍にとどめを刺して祭壇をキャッチ
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フィースさんの肉体を乗っ取った美の女神イディアルによるバックアタック
(本編ではシィさんだった刺されるポジションがノンさんに)
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シィさんと違い肉体耐久が異常値まで強化されているノンさんに槍が刺さらず、致命傷にはならなかったものの祭壇の横取りには成功
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美の女神が祭壇を掴んだ瞬間に背後から『恐怖の大王』の奇襲で祭壇を強奪される
(数秒後にロバートさんがさらに祭壇奪取で覚醒済みマサヨシくんにパス)
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身体に大穴の空いた瀕死のフィースさんにシィさんが自分の肉体の心肺を共有することで即死回避、その後全力治療
の流れでフィースさんは神性を破損しながらもギリ生存してます。
ちなみに、本編の致命傷(徘徊魔王による胴体貫通+体内から怪獣花)もシィさんが無事であれば治療できるのでギリ生存できてました……シィさんが無事であれば。




