番外編:とある週末の戦英プロ〜ニドラとソニアの場合③〜
side ニドラ
ソニアと話しながら歩いている内に、集合場所の冒険者ギルドは目の前になっていた。
扉を開けて中に入ると、入ってすぐのテーブルに待っていたのは……
「シアンさん、それに空山さん。ごきげんよう、今日はよろしくお願いいたしますわ」
「……よろしくお願いします」
今でも会う度に、海で二人から受けたダメージを思い出してちょっと胸と歯が痛くなる。
シアンさんと空山さん。
二人は、レジスタンスと一緒に戦ってくれた冒険者ギルドからの助っ人で、敵だった時は僕が何度もやられた歴戦の冒険者だ。
ソニアも王位継承権は失っていても一応は王族のお姫様ということもあって、冒険者としての活動の時はベテラン冒険者のパーティーに臨時メンバーとして入れてもらう形になっている。
そして、僕もマイマスターから『ロバートさんを目標にするなら最短経路よりもいろんな経験をしたほうがいい』と言われているから、ソニアのお付きをしつつ一緒に冒険者として活動するパーティーメンバーの一員の扱いになる。
他の冒険者パーティーとか、稀にマサヨシくんとも組むことはあるけど、最近では僕たちが入れてもらうパーティーはこのシアンさんと空山さんのコンビの所になることが多い。
ちなみに、空山さんは近々冒険者引退を考えてるらしいけど、ギルドの方からせめて後進育成はしてからにしてほしいと泣きつかれているのもあって、最近は『超ベテラン師匠』ことシアンさんと元勇者パーティーの縁でコンビを組んで新人冒険者の仕事に同伴していろいろと技術指導しているのだとか。
……本当はあともう一人、『元勇者パーティー』のメンバーがいるんだけど……
「トーリーさんは……」
「ああ……まだ、現場はしばらくやめておきたいってな。まあ、戦力的には俺たちだけでも充分だし無理強いするものでもないから、気長に待つつもりだ。また、感知役は二人に頼ることになるがよろしく頼むよ」
『トーリー・ウィートリー』。
シアンさん、空山さんと一緒に『勇者パーティー』のメンバーをやっていた彼女は、セブンス・ブレイブと親密な関係だったのもあって彼の死のショックが大きかったそうで冒険者を長期休業している。
シアンさんたちの話によると、トーリーさんとセブンスとは恋人だった……わけではないけど、もしかしたらそれに近い関係になっていたかもしれない、らしい。
死を偽装して暗躍していたシックスがレジスタンスを立ち上げたと知って思考停止したままガロム正規軍側に行ったセブンスの心をなんとか立て直そうと一緒について行ったトーリーさんだけど……シアンさんたちも知らないその後、いろいろあったのだとか。
トーリーさんはピークドットでの決戦にはどちら側としても参戦しなかったからセブンスの死については事後報告で知ることになった。
そのせいで実感が追いつくのに時間がかかったのかもしれないけど、ピークドットでの決戦から数ヶ月経ってからトーリーさんは誰にも姿を見せないくらいに塞ぎ込んでしまったらしい。
……ともかく、そんな経緯もあって、ソニアと僕はよくトーリーさんの穴埋めとして一緒に冒険者としての活動をさせてもらっている。
「まあ、ニドラさんがいれば街から離れた現場でもひとっ飛びできるので、それはそれでかなり助かっていますしトーリーさんが戻って来てからも時々一緒にパーティーを組んでほしいと思っていますわ。ただ、今回は現場ではなくその近くに降りてもらいたいと思いますけれど」
「あれ? 今日って確か『遺跡調査』の依頼の予定じゃ……」
「それはそうなのですけれど……近隣の情報から十中八九、裏組織の残党の根城になっているらしくて。おかげで遺跡の防衛機構が機能停止していることは確実だろうというのは調査より先にわかりましたけど、残党に逃げられないように根城から見られない場所に着陸してもらいますわ」
数時間後。
さすがに最寄りの街から直接飛ぶとその時点で目立ってしまうのを考慮して、一度街から徒歩で離れてから目的の遺跡近くへ飛んで、そこからまた徒歩で遺跡の入り口へ……『ダンジョン』へ入る。
『ダンジョン』……このガロムにおいてそう呼ばれる建造物の多くは、約二百年前から約百四十年前の戦乱期に造られた軍事施設の廃墟、その防衛区画だ。
戦時下の軍事施設だけあって秘密裏に建造されたものや造った国が滅びていて内部がどうなっているかわからないものも多くて、中には軍事施設としての防衛機構や保管されていた兵器が生きている危険なやつもある。
『聖典』があった時には『歴史の解釈』が固定されていた影響で認識阻害のような状態になっていた施設群……簡単に言えば、そこに存在していたのに正しく認知されていなかった建造物が聖典の焼失をきっかけに一斉に認知されるようになって、最近では冒険者の主な仕事はその調査になっていたりする。
まあ、今回のはちょっと入ってみた感じでは完全に防衛機構としてのシステムは止まっているし、単なる『秘密の住処』として裏組織の残党に利用されているだけみたいだけど……
「スンスン……隠し扉を抜けたけど、思ったよりも奥行きがないねこのダンジョン。たぶん、奥の隔壁が閉まってて開けられないまま見つかりにくい穴倉として使ってるだけみたい。人の匂いも一箇所に集まってるし、すぐ終わると思う」
「なら、裏組織の残党を冒険者ギルドへ連れて行ってから後日再調査が必要になりますわね。はぁ、二度手間ですわ」
「いいじゃありませんの、悪者退治と遺跡調査で依頼二つ分の仕事を達成できますわ」
「まあ、そうだな。できるなら、近隣の村で盗まれたって『家宝』も取り返して元の持ち主に返してやらないと」
「『家宝』……ですか? 空山さん。こんな、言っちゃ悪いとは思いますけど僻地と言えるような場所の村にそんなものあるんですか?」
「そりゃあるだろうさ。宝物って言ったって、必ずしも金銀財宝ってわけじゃない。ドラゴンのニドラちゃん的には『お宝』って言われたら最初に思い浮かぶのは光物かもしれないけど、小さな村にもその村なりの歴史や伝統が込められた大事なものはあっておかしくないさ。まあ、その価値が一般受けしなきゃ他のところじゃ売れないかもしれないけどな」
「他で売れないなら盗む意味もあんまりない気が……」
「まあ、それもそうかもしれないな。元の持ち主にとっては命より大事な親の形見とかだったりしても、それを知らない別の誰かがそれを盗んだら二束三文で売れても大儲けだと思ってたり……そうやってなんの気なしの他人に気軽に踏みにじられちまう『大切なもの』もある。ゲームの中の『大切なもの』みたいに売ったり壊したりできないタグ付けができるのは持ち主の心の中だけだからな……だからこそ、その依頼を受けた俺たちは依頼人側の価値観を尊重してやらなきゃいけないってわけだ。ニドラちゃんも良いメイドさんになりたいなら、そういう見方も大事にしなきゃいけなくなるかもな」
そういう見方……自分自身の価値観じゃなく、他人の、主人の価値観に合わせて『大切なもの』を大切に扱うこと。
確かに、それができない従者には自分の大切なものは預けられないし任せられない。
それはつまり、信用できないと見なされるということだ。当然、愛着も愛情も与えられるわけがない。
ただ……
「価値観を合わせるには、まずその相手の価値観を理解しなきゃいけないんですよね……今の僕なら、ソニア様の価値観を」
正直に言って、ソニアの価値観や考え方を理解するというのは普通の人を相手にするよりもかなり難しいことだと思う。
今は僕の礼儀作法や従者としての姿勢が間違っていた時に指摘してもらえるように、王室のお姫様として育ったソニアに仮の主人をやってもらっているけど、心底から終生の主人として心酔してるわけでもそう思えるほどの自己暗示ができてるわけでもない。
もう何か月かこの関係を続けてはいるけど、今でもソニアのことを理解できる気はあんまりしない。
ソニアは掴みどころのない人間で、どこか超然としていて、一応は行動に一貫性があるけれどそれも自分で考えてやってるロールプレイみたいな節があって、本当は何を考えてるかもよくわからないから。
仮の主従とはいえ……僕は、血生臭い世界とは縁遠いお姫様だったはずのソニアが本当はなんで『大量殺人』なんかをやったのかも知らないまま一緒にいるのだ。
「あ、ちなみに依頼人から特に取り返してほしいって言われてるのは、村長の家に伝わる古い家宝らしくてな。なんと、それを使って夢を誓うと必ず叶うらしいぜ?」
「必ず夢が叶う……それはなんというか、胡散臭いというか……そんなものがあるなら僕が使いたいというか……」
「クスクス、ニドラさんったら。もしかして、自分で夢を叶えられる自信がないのかしら?」
「そうじゃない、ですけど……そりゃ、頑張って勉強とか訓練とかを続けていけばちゃんと自分で叶えられるとは思いますよ? でも、その途中で夢が叶えられなくなるような何かが起きる可能性もあるじゃないですか……事故とか、事件とか、テロとか。そういうのが夢を叶えるまでは起こらなくなるとか、そういう確証が得られるものなら……みたいな」
「そういうものは起こる時は起こるものでしょう? そんなものは、神秘そのものに頼らなくても『そういうトラブルが起きませんように』みたいなお祈りをして、きっとそれがちゃんと叶うって信じておくだけでいいと思うの。それでも何か起きちゃった時には……別に大した後悔なんてしないと思うわ。せいぜいが『お祈りはちゃんとしたのに聞き入れてくれなかった神様のバカやろー!』くらいの一言でもボヤくだけ。あとは、後悔なんてする暇もなく必死にその何かと正面から戦うだけなんだから。大事なのは『ずっとおっかなビックリ生きていたら、いつまで経っても何も成し遂げられない』ってことだけよ?」
「『転生特典の使役獣』としては勝手に祈っておいて神様に文句を言うのはかなり抵抗感があるんだけど……」
「神様側はそんなの慣れっこよ? 私が保証するわ」
「いや、それはもうソニア様が何様って話になっちゃいますから……」
いや、まあお姫様ではあるけど……いや、それも『元・お姫様』だしどうなんだろ。
マイマスターとかの神性持ちならギリ言っても良さそうとは思うけども……いや、でも……
「いやいや。まさか、いくらなに考えてるかわからないからって、ソニア様が神──あっ! 総員警戒! 気配が五つ、正面です!」
会話に夢中になっていて危うく感知し損ねる所だった。
接触前に気付けて良かったけど、『人間の匂い』が通路の先から五つ、ゆっくりだけど着実に接近してくる。
「血の匂いもするけど、これは……」
「……待て、ニドラちゃん。本当に匂いは『五人』か?」
「スンッ……はい。空山さんは何か気になることでも……」
「いや、俺の耳じゃ足音は『四人』っぽいからプロが一人紛れてるのかと思ったが……そういうわけじゃなさそうだな、ありゃ」
空山さんが見据える先。
長い通路の向こう側から姿を見せたのは、五人の男たち。
いや……もっとわかりやすく表現すれば、『四人の男が担ぐ神輿の上にふんぞり返った仮面の男が一人』、歩調を合わせた神輿のゆっくりとした速度を焦らすこともなくこちらへやってくる。
神輿を担ぐ四人は上裸で、その肌には鞭打たれた痕が痛々しく残っていて、怯えたように震えながら俯いている。
そして、その神輿の上の男はエキゾチックな装飾の木のお面を付けて片手に鞭を握り、もう片方の手に持ったナイフを仮面の口の隙間から出した舌で舐めながらこちらを見下ろしている。
そして……こちらに充分に近付いたところで、仮面男は言った。
「我は神なり……遥か遠い時代、この神殿に封じられし王神なり」
仮面から覗くその目はギラリと輝き、空山さんを一瞥してから睨めつけるようにシアンさんと僕……そして、ソニアを見て、笑みの形に歪む。
「我はこの地に再び我が王国を築くため、この肉体を器とした……故に、知っている。我は汝らを、そこな娘を知っているぞよ……」
尊大にふんぞり返りながら、唾液がテラテラと光るナイフでソニアを指し示す。
その興味がソニアに向いているのを見て、シアンさんと空山さんが小声で言葉を交わす。
「空山さん、あの仮面が……」
「ああ、依頼人から聞いた『家宝』の情報と一致する。だが、もしかしたらと思ったがあれは……」
空山さんが言葉にするよりも早く、僕はその先を『初期対応部』での経験から確信していた。
あれは散逸した『森の民の神器』の一つ……それも、『妖怪』にかなり近い状態にあるものだ。
そういう可能性もあったからこそ僕たちがこの依頼の助っ人に選ばれたのかもしれないけど、こんなところで妖怪案件なんて……
「そこな娘……『アルゴニア・ガロム』の娘、『ソニア・ビィ・ガロム』であるぞよな……これはいい。歴史浅き王家であろうと、当世では高貴とされる血……この神が妾にしてやる価値はあるぞよ」
…………ん?
空山さんたちと話してる間に、なんかアイツとんでもないことを言わなかった?
ソニアを妾に、とか……いや、それって……
「あらあら? もしかして、私は今、プロポーズされてしまったのかしら? とても熱烈でびっくりしちゃうわ」
クスクスと笑うソニアの反応は余裕そのもの。
まるで『好き』という言葉の深い意味を知らない幼い子供から好意を告げられた大人みたいな、どうやって相手を傷付けずに話をはぐらかすかと思案しながら微笑ましく大人の優位を堪能するような態度。
少なくとも、この瞬間は確かにそうだった。
本当に、間違いなく……この瞬間までは。
「たわけ! 妾にしてやるから感謝しろと言うのだ! 娘は殺人鬼で息子はクーデター首謀者! そんな『ガロムの子育て失敗王』のゴミみたいな血でも神たる我の血で清めてやれば多少はマトモな血筋になろ──う゛っ」
行動のタイミング的に、引き金はおそらく、ソニアの父親たるガロム王……議長王『アルゴニア・ガロム』への侮辱。
超音速で空を飛ぶこともできる僕の動体視力でも見逃しかけた初動からの大跳躍。
標的は男四人の肩の高さにある神輿の上に腰を下ろしてふんぞり返る男。
高低差からワンアクションでの攻撃が難しいはずの相手を正確に射抜くように、ソニアの護身用神器である『銀の尻尾』を天井に突き刺して、跳躍の力と速度をそのまま斜め下へ変更しての空中方向転換サッカーボールキック。
連撃への布石とか牽制とかそういうのでは一切ない、本当にただ一撃、思いっきり的となった物体を『蹴飛ばす』ためだけの蹴り足が突き刺さった。
仮面男の股間に……人体の、特に男性体の最重要急所に、思いっきり。
「あっ……」
ソニアのあまりの攻撃速度に認識が遅れたのか、少し遅れてシアンさんが声を漏らす。
「い゛っ!」
「うぃっ!?」
『美少女化』している今は同じ痛みを感じる弱点がない僕も思わず変な声を出してしまった。
空山さんも同じ男として致命的な一撃へ恐怖を感じたのか、普段は絶対に出さないような声を出しながら思わず股間を手で守っている。
「「「「…………えっ?」」」」
神輿を担いでいた四人は、いきなり神輿に衝撃と追加の重みがかかったことで何事かと顔を上げて神輿の上を見るけど、間近に見えた状況が理解できないらしく唖然としている。
そして……
「ふっ…………ふぐぅうう〜〜〜〜〜!?!?」
たぶん、衝撃から少し遅れてやって来た本格的なダメージの実感。
仮面男は股間を押さえながら神輿の上を転げ周り、みっともなくその縁から転げ落ちて激突した床の上でもまだ落下の痛みより鮮烈な苦痛に襲われ続ける股間を押さえて悶え続ける。
そのジタバタの激しさにあっさり外れた仮面の下の顔は、とても『神』を自称していた人間とは思えないごく平凡な男のものだった。
いや、最初から相手から言葉通りの神性なんて感じなかったから仮面の下の顔に驚くことはないんだけども。
なんというか、『神器使い』にしても『妖怪憑き』にしても、尊大な態度と言葉のわりに弱すぎるというか……
「もしかして、あの仮面って……『強くなった気分になれるだけの神器』……?」
「そう、だな。一応、森の民の神器ではあるようだが……『自己肯定感が爆発的に上がって無敵になった気分になれるだけの仮面』……だったみたいだな。たぶん、村では儀式の短い時間だけ付けて自分がなりたい自分のイメージを明確化するように使ってたんだろうけど……」
「その肯定感に酔って付け続けてしまうと肥大した誇大妄想に我を忘れてしまう……と。『王神たちの戦乱』の頃の遺跡でもないのに自分が何千年もここに封じられてきた王神の魂を宿したと信じ込んで、おそらく仲間だった他の四人を奴隷のように……あの様子を見ると、四人の方は精神影響を受けていたわけでもなく、あまりに自信満々に尊大な神様ムーブをされて逆らえなくなっていただけのようですわね。別に実際の強さは変わっていないはずなのに」
……『ずっとおっかなビックリ生きていたら、いつまで経っても何も成し遂げられない』。
それは、本当についさっきソニアから言われたことではあるけれど。
それは、確かに本当のことではあるらしい。
少なくとも、床で転げ回り続けている目の前の男は『自分はすごい』という思い込みと態度だけで自分と強さは大差がないであろう男四人を奴隷のように扱い、この遺跡の中で小さくとも自分の王国を築いていたのだから。
ただ、それも神をも恐れないメンタルを持つソニアを相手にすれば関係がなかったわけで……いや、それにしたって今の動きは即断即決が過ぎたというか……
「名も知らぬどこぞの自称王神様? 私のことはなんと言ってもいいのよ? 愚かで哀れなランディお兄様のことも、あまりいい気はしないけれど、まあ仕方がないと思うの。けれどね、けれどね?」
神輿を支える四人が、自分たちの担ぐものの上を見上げたまま石柱のように固まっているのが見えた。
そして、固まった彼らに支えられて大地のように静止した舞台の上で……にこやかな笑顔を浮かべながら、そのこめかみに青筋を浮かべて地に落ちた偽物の神を見下ろすソニアを見て、一瞬で理解する。
「こんな私も分け隔てなく、ちゃんと『人』として育ててくださったお父様のことは……ね? 前に、私の目の前で『そういうこと』を言った人たちは、親戚家族共々とても残酷なことになったのを……知っているんでしょう? 知らないとは言わせないわ? あなたが言ったんじゃない、『私を知っている』って」
完全にキレている。
笑顔のまま、こめかみに血管が浮かぶほどキレている。
そして、男が落としたナイフを手に再び跳躍の姿勢を取って……
「って! ちょっ! 待ったソニア!! とどめ刺しちゃダメ!!」
一瞬の判断での『天竜の鎧』発動で、間一髪。
とどめの一撃が入る寸前でソニアにぶつかるようにして飛びかかり、尻尾と翼まで最大限に使って絡みついて床の上で寝技と羽交い締めを同時にかける。
蓬の練習相手として美森教官から柔道の訓練を受けておいてよかった! 本当によかった!!
「ソニア! 落ち着いて!! こいつら裏組織の残党ではあるけど下っ端の下っ端だから!! 口だけのコソ泥集団だから!! さすがに殺したらマズいくらいの小悪党でしかないから!!」
「よしっ! グッジョブだニドラちゃん! そのままソニアちゃんを抑えててくれ!」
「あなたたち! 今すぐに、彼女が解放される前に投降なさい! でないとマジで殺されますわよ!」
「「「「は、はい!!!!」」」」
「ふぐぅぅぅ…………」
僕がソニアをなんとか押さえ込んでいる間に、犯罪者たちをさながら要救助者みたいに確保して遺跡の外へ運び出していくシアンさんたち。
これで、後はソニアが落ち着くまで僕が耐えるだけ、なんだけど……
「ていうか、いや、これ本当に『なんとか』って感じ!? 僕、ドラゴンなんですけど!? 僕の本気の寝技とか蓬やリーナでも抜け出せないはずなんですけど!? うぎぎっ、ちょっ、噛むな噛むな翼噛むな! ソニア様の歯が折れても知りませんぃっっったい!? 竜鱗が負けたぁあっ!?」
とても、仮にもお姫様とメイドの間でのやり取りとは思えないような格闘を繰り広げながら、考える。
今まで、どれだけ考えてもわからなかったことがあった。
いつも余裕で、超然としていて、何をされても絶対に怒らなさそうなソニアが、ただ誘拐されたくらいなら面白がって終わりそうなこのクラスメイトが、なんで『人殺し』になんかなったのか。
もしかしたら、こんなソニアでも耐え難いような酷いことをされて、それを他人に言えず態度にも出せずに余裕の仮面を被って生きてきたんじゃないかとか、ソニアがそうしたことで救われた人がいたんじゃないかとか、もしかしたら根本的にソニアは自分なら罪は軽く済むからと誰かを庇っていたりするんじゃないかと……そんなドラマチックな筋書きを考えたこともあった。
けど、今日のことで、ハッキリと確信した。
『このお姫様、そういうのじゃなくて、普通に地雷を踏まれてブチギレたんだな』って。
普段が普段でこんな行動パターンが隠されてるなんて誰も予想できないからこそ、まるで天災。
あんな誇大妄想で『我は神なり』とかいって常に尊大に振る舞ってる偽神よりも、不敬の地雷一つでいきなりブチギレて雷《神鳴り》みたいに予兆も警告もない天罰を浴びせてくるこっちのお姫様の方がずっと怖い神様みたいだ。
「離して!! ちょっとあの不敬者を族滅しに行くだけよ!? 従者なら主人のしたいことを全面的に手伝うものでしょう!?」
「いや余計に離せるかぁぁぁああ!! 止まれぇええ、こぉんのファザコン姫ぇぇえええ!!」
……こうして、この日また一つ。
僕は『主人の価値観を理解する』という困難な課題をどうにか乗り越えて、また一歩夢への道を進んだのだった。




