番外編:とある週末の戦英プロ〜ノン・ブレイブとレイの場合〜
side レイ
『マート地方領』。
ガロム中央会議連盟の北部西寄りにある海沿いの地方領。
港に適した海岸と海流、それに加えて港周辺の物流に適した平地に恵まれて、海上交易の要所として栄えた……というか、神話によれば『そうなる』ように大昔の王神がお隣の王神の領地から港や航路を引っこ抜いて最初から自分の土地のものだったことにしてしまったという話がある土地。
そして、その神話で港や航路を引っこ抜かれてしまったお隣さん……一年と少し前までは『ノーラン地方領』と区分されていた地方領の隣に位置していて、今は『研究施設』の一件で取り潰されたノーランの一部を取り込んで領地拡大の混乱がまだ少し続いている地方領でもある。
そんな混乱の中、大量の移住者に混じって現れてどさくさ紛れに市民権と土地を手に入れた『黒肌の老爺』がいるという診療所。
ボクがノンちゃんの付き添いとして毎週訪ねているのは、そんな経緯でひっそりと街の隅に住み始めた『友達』の家だ。
「アヤメー! おはよう!」
「ノン、診療所では『アイリス』って呼んでください……まあ、今は誰も来てないから別にいいけど」
診療所で手伝いとして働いているノンちゃんの友達のアイリスちゃん……いや、まあテンションが上がったノンが本名を言っちゃったんだけど、アヤメちゃんがヤレヤレと肩をすくめる。
そして、アヤメちゃんは診療所の奥へ声をかける。
「イコール博士ー! レイさんとノンが来たから槌屋さんのところ行ってきます!」
「ああ、アイツにこっちは変わりないと言っておいてくれー。レイくん、アイリスを頼んだよー。アイリスは……いざという時はわかってるな?」
「もちろんです。厄介事に巻き込まれそうになったら二人は置いてさっさと逃げます。どうせ二人とも自力でなんとかするだろうし心配するだけ無駄。面倒事はここまで持ち帰らない」
「「いや、それはそうだけども……」」
この診療所の主である『イコール博士』は、ルルの個人的な友人の一人。
戦英プロの関連施設の人でもない、完全に『外部』の人間だ。
というか、まあぶっちゃけ……お隣の地方領が取り潰される原因となった事件の首謀者というか。
生きてるのが世間に知られるだけでも結構大きな問題になる立場の人だから、こっちが変な小競り合いに巻き込まれたりしたくらいで関係者として注目されると確実に最初の問題よりも遥かに大きな問題に繋がる。
そのリスクを考えればアヤメちゃんには何か起こったら全力で距離を取って無関係の赤の他人を装ってもらった方がありがたい。
……ちょっと『友達』としてはアレな関係性だけど、お互いにまだまだ日の下を堂々と歩くのは難しい立場だから仕方がない。
「じゃあ、行こっか。ノンちゃん、アイリスちゃん。神拳大岩……ううん、『ウンゼン大岩』に」
診療所のある街に程近い山岳地帯。
転生特典で身体強化してるボクよりも健脚な女の子二人を追いかけて辿り着くのは、『巨大な握り拳』を思わせる大岩が内側から山肌を突き破るように覗く小山。
最近はすっかり健康祈願の観光地として定着し始めたらしい『大岩の表側』を避けて、普通の人間ならまず見つけられないし見つけられても進めないアスレチックみたいなルートを通って、おそらくボクたち以外には存在すら知られていない『大岩の裏側』に接触できる洞窟に入る。
そして、アヤメちゃんとノンちゃんは揃って大岩に手を当てて、いつもの挨拶を口にする。
「「おはようございます、土蜘蛛さん。今日もよろしくお願いします」」
いつもの儀式。
二人が持ってきた道着に着替えるのを外で待って、着替え終わった二人が座禅みたいに胡座を組んで大岩に向かって静かに座り込むのを見届ける。
ボクの仕事は週一通いの道場への送迎みたいなもの。
『修行』の時間が始まったら邪魔にならないように本でも読んで静かに時間を潰すのがいつものルーティンだ。
「それにしても、『ウンゼン大岩』か……アイリスちゃんもイコール博士も、土蜘蛛さんの本名なんて口外してないらしいのに。いつの間にかそう呼ばれるようになってるっていうのは、確かに『神格化』が進んでる感じはするなぁ……」
この『神拳大岩』……通称『ウンゼン大岩』の正体は、かつて『土蜘蛛』と名乗って多くの悪い転生者を倒し、そして狂信者に倒され、改心して姿を消した転生者。
そして……姿を消した後、その人の身には大き過ぎる力に見合う器となるべく『地獄』での羽化登仙を経て『神域』から本物の『神様』の格へ至った、いわば神仙。
……いや、まあぶっちゃけ『羽化登仙』とか『神仙』とか、そういう神話的な話とか道教の秘術みたいなのはボクにはよくわからないからルルから聞いたまんま『とにかく凄いことなんだな』くらいに思ってるけど。
ちなみに、ルルの『そういう視点』から言ったらボクは『邪仙』の部類らしい。
能力を悪いことに使ったからとかじゃなくて、誰にも師事せず独学で我流を究めすぎたのが理由だとか……まあ、実際それで『道』とか『教え』とかなく裏技で得た力を持て余して盛大にやらかした経験はあるから反論できないけど。
そんなボクと違って、このウンゼン大岩……ウンゼン大明神? まあ、ルルは『土蜘蛛さん』って呼び続けてるから土蜘蛛さんって呼べばいいんだろうけど、彼はまあちょっと怪物化ルートを踏んではいても、弱きを助け強きを挫く王道という名の『道』は踏み外さず、決定的に踏み外しかけたところをルルに叩き返されて、真っ当に神域の先の神格化に至った。
今では、この『ウンゼン大岩』は触れれば健康になるパワースポット扱いされてるし、それだけでなく周辺地域の特産物なんかは急激に『健康にいいもの』としての側面が注目されるようになって、廃れかけていた民間療法や元からこの地域に伝わる風習、料理、伝承なんかがこの『新しい神様』へと関連付けられている。
遺伝子学の世界には『トマトは観察を始めた瞬間から変異を始める』なんて言葉があるけれど、それに近いのだろう。
無病息災、肉体の壮健を司る信仰の集約点。
肉体の鍛錬を究めきって神域へ至った土蜘蛛さんの『神格化』は世界に緩やかな影響を与え、人々の認識や解釈に新しい指向性を与え、それまでは散り散りでそれぞれが小さかった民間伝承や動植物への信仰を束ねて『健康な肉体を与えてくれる神様の存在とその恩恵や加護』として万人に認知させた価値ある象徴の確立イベントとして歴史に刻まれる。
日本人なら『手を洗えば雑菌を落として病気を防げる』って理屈で手洗いを習慣としているけれど、雑菌という概念がイメージとして定着していない人々に同じ習慣を継続させるのは難しい。
けれど、手を洗う動作をそういう『風習』として信仰に統合して、それを『健康を司る神様へ加護を祈る儀式』として認知させれば、その『根拠』が生まれるだけで発病率は激減する。
きっと、そういうふうに人々がもっと健康になる選択を当たり前に行っている世界を緩やかに実現する……権能という直接的な影響力を除いても『神格化』というのは、そういう世界の変化の起点でもあるのかもしれない。
まあ、魔法が存在するこの世界ではそういう前世の世界でも適用できそうな話だけじゃないのも確かで……
「ふぎゃっ!?」
「ノン、今のはちょっとやられ方はかっこ悪すぎです」
「んもーっ!? スキルの偏りがひどい!!」
座禅を組んで集中していたノンちゃんが突然面白い声を上げてひっくり返り、アヤメちゃんがそれを嗜める。
毎週、二人はここに来て精神を集中することで土蜘蛛さんに精神世界での修行みたいなものをつけてもらっているらしい。
アヤメちゃんもノンちゃんも神域に足をかけてる……というか、どちらも転生者の改造能力を受けた歪な形ではあるけれど実際に神域に足を踏み入れた『剣神の神性持ち』と『理想の勇者』だったからこそできる、所詮は邪仙如きなボクには立ち入れない世界だ。
……まあ、なんて言ってたら一回だけルルに誘われてやってみて一緒に入れちゃったわけだけど、精神世界。
土蜘蛛さん、神様にまでなったのに困惑してたよ……自分が鎬を削った末に負けて改心させられた男が美少女化して『私のお婿さんです』って一見して男には見えないボクを見せびらかすんだから。
なんかもう困惑しすぎて返答が『そ、そうか……と、とりあえず、祝福しとくか?』だったよ。
よく神社とかお寺さんとかでやる神様への神前報告への祝福っていうよりか、いきなり友達から結婚報告された人そのまんまな反応だったよあれ。
いやまあ……そんな思い出話は置いておいて。
面白い声を上げながらひっくり返ったノンちゃんはちょっとプリプリ怒り気味になりながらもまた座禅を組んでアヤメちゃんと一緒に精神世界に潜る。
これは、ノンちゃんの『夢』のための努力の時間だ。
アヤメちゃんも自分自身の神性を取り戻すための修行としてここに来ている部分もあるけれど、ノンちゃんの夢に協力するためにこうやってスケジュールを合わせて毎週の修行に付き合ってくれている。
「『新しい武術の流派を作る』……か。自分自身が世界最強になるっていうんならノンちゃんにとってはむしろそっちの方が簡単なんだろうけどね」
ノンちゃんは『理想の勇者』として裏組織で徹底改造された人間兵器だ。
その身体にはグラム将軍が長年に渡って集めてきたスキルの因子が、それも最終兵器としての運用を想定して惜しげなく注ぎ込まれたこの二百年間で最高レベルの達人たちの戦闘技術がこれでもかと詰め込まれている。
それは、ただひたすら『素材』として扱われ続けたノンちゃん自身の望んだことじゃないし、そのスキルを奪い取るために理不尽な追い詰められ方をされてきた人たちへの罪の意識なんて感じる必要はない。
だけど、彼女は自分に詰め込まれた技術の結晶を、自分が使って終わりの『略奪品のコレクション』として抱え落ちするのではなく、『次の時代の誰かに繋ぐために預かった伝統技術』として体系化しようと、四苦八苦しながらも試行錯誤している。
「うぎゃっ! またやられたぁ……」
「だから自分から急所で受けに行くのはやめたらって……」
「癖が出ちゃうんだもん!!」
……無理やり詰め込まれた秘奥レベルのスキル群があるからといって、それを技術体系にリバースエンジニアリングするのは簡単なことじゃない。
なにより、ノンちゃんの中のスキルは彼女を人間兵器として運用することを前提にした『殺人術』として編纂されてしまっている。
それも、敵だった時よりはかなり低下してしまった『偶像崇拝』の力……『理想の勇者』の反則的な肉体的な耐久力を前提に、防御方面を軽視して詰め込まれている。
『普通の戦闘経験』を積んだ相手に慣れない戦闘スタイルでの不利を押し付けられるように、普通の人間なら絶対にしないような動き、それこそ自分から急所で攻撃を受けに行くような動作すら肉体の癖として反射的に実行してしまう。
けれど、ノンちゃんが作りたいのはそんな『殺人術』じゃなく、人を守る『護身術』の流派だ。
だから、こうして神域の達人たちに協力してもらって自分自身の中のスキルを研究している。
『殺人術』として編纂されたスキルの動きにわずかに残された本来の技術体系の癖や、その基盤にある術理や立ち回りから『護身術』としての使い方を逆算している。
まだまだ、ちゃんと形になるのは先の話だろうけど……
「はうぁっ!?」
「ほらまたぁ……少し休みますか?」
「まだまだー!」
『道のりが遠そうだからやめる』。
『難しそうで大変だからやらない』。
子供が本気で抱いた『夢』は、そんな理屈で止まらない。
そういう時、大人がするべきことはその歩みを陰ながら応援することだけだ。
数時間後。
いつもの修行終了時間を迎えて、アヤメちゃんを診療所へ送り届けて帰り前にカフェで昼食ついでに一服する。
いや、まあタバコとか吸わないし気分的なものというか、ノンちゃんへのささやかな『お疲れ様会』みたいなものなんだけど……
「習い事の帰りに一緒にケーキとお茶、か……これ、なんか『お父さんと娘』っぽいかな」
ボクの左手の薬指にはまっている指環を見て、少しだけ想いに耽る。
ルルとボクはまだ『夫婦』じゃない。
それは、まだ『戦後英雄プロダクション』が手を離せない段階にあるから。
仕事が半端な状態で人生の区切りとなる大事な儀式をするのは嫌だと言われれば、まあ確かにそうだねとしか言えないというか……ルルは器用に見えて不器用な人間だから、『社長サマ』と『家庭』は両立できないって判断なのだろう。
だから、たぶん本格的に段階を進めるのはシックスちゃんが一人旅から戻って来てから、引き継ぎをちゃんと済ませて社長の椅子を譲ってそれからって話になると思う。
その計画に不満はない。
というか……ボク自身に覚悟する時間が欲しかったというのが本音だ。
家庭を持つということ……というよりも、『父親』になるということに。
このノンちゃんの『道場通い』の付き添いを毎週担当しているのも、その予行演習みたいなものだったりする。
まあ、ぶっちゃけこれくらいで『父親らしい仕事ができてる』って言っちゃいけないんだろうけど……こういう他の家の親子関係として見たことがある『親らしいこと』しか思いつかないのはもう人生経験的に仕方がないと思う。
「いや……そこを『仕方がない』で終わらせたらいけないのかな。ルルはちゃんと『母親』のやり方についていろいろ勉強してくれてるんだし……ボクも勉強はしてみてるけど、しっくり来ないんだよなぁ……」
体験や実感が伴わないから知識を入れても本当にそれでいいのかという信用ができない。
信用ができない情報を鵜呑みにして間違うのが怖い……『父親』を失敗するのが怖い。
『人の親』という世界で一番責任重大な仕事を、ぶっつけ本番で成功させなきゃいけないのが怖くて仕方ない。
だから……
「ノンちゃん……ノンちゃんは、ルルのことを……ママのことを、どう思ってる? ……いや、この聞き方は変かな。今の、戦英プロのみんなやニドラちゃん、トマルちゃんたちと一緒の生活に点数をつけるなら……」
「レイさん……それ、聞かない方がいいっていうか、あんまり良くない聞き方だよ」
「えっ……」
「それでわたしがなんか点数言ったら『最低限それ以下にはならないように』みたいな感じで合わせようとか思ってるでしょ? わたしが『百点満点』とか言ったらどうするの?」
「あー……えっと……みんなのお邪魔をしないように空気になる?」
「そういうのを余計なお世話って言うの。ママと熱々ならそれでいいじゃん。わたしたちもママが幸せそうならそれだけで嬉しいし」
「ノンちゃん? いつもはもうちょっと子供っぽい感じだよね? ちょっとボクにだけトゲトゲしてない? やっぱりボクみたいな父親は嫌だみたいなこと思ってない?」
「店員さーん! ちょっといいですかー!」
「あ、はーい。なんでしょうか?」
ボクをスルーして店員さんを呼ぶノンちゃん。
そして、空にした水のコップを差し出して言う。
「水のおかわりと……ちょっと質問。『わたし』と『この子』、どっちが『お姉ちゃん』だと思う?」
「あ、はい、えっと……」
「似てないでしょ? でも、今度ママが結婚して家族になるの。どっちが『お姉ちゃん』になると思う?」
「ああっ、そういう……うん、それならあなたの方がお姉ちゃん……じゃないかな? あなたの方が歳上……よね?」
「ふふんっ、正解。ほら、わたしのほうが『お姉ちゃんらしい』って……あっ、お水、ありがとうございます」
「いえいえ、ではどうぞ仲良くお過ごしくださいませ」
去っていく店員さん。
そして、ノンちゃんは勝ち誇った表情でボクに言う。
「ね?」
「『ねっ?』って。いや、まあ確かにボクは自分の外見がちょっと特殊過ぎるって自覚はあるけども。あの聞き方はずるくない?」
「わたしが歳上なのは本当だよ? 少なくとも八倍くらいは」
「それを言ったらルルだって歳下になっちゃうけど……」
「ママはいいの。わたしを産み直してくれたんだし、ママはその時点で無条件にママ」
「それならボクだって……」
「レイさんはあれだから……『ママの恋人二号』。あ、一号はテーレさんだけど、テーレさんは家政婦さんポジかな?」
「婚約者の連れ子からの認識が生々しい……というか家政婦さんが一号さんで配偶者が二号さんは闇を感じる相関図になっちゃう……いや、順番としては正しいんだけども」
一応、ピークドットでの決戦の時にはボクもノンちゃん抑えるためにかなり頑張ったはずなんだけど……いや、でもあの時はなんかモチベーションバフがかかりまくったルルの立ち回りが凄すぎてそのサポートしてた所しか認識されてなくても仕方ない気がする。
というかボク、自分で思ってるよりも父親として受け入れられてないかも……
「はぁ……わたしが言いたいのはね? レイさんは無理に『父親』しなくていいってこと」
「そうは言われても……」
「第一、レイさん自身が父親に育てられたことってないんでしょ? 千里先生から聞いて知ってるよ?」
こういうところ、子供は本当に怖い。
大人がストレートに言わないようなことを直球でぶち込んでくるんだから。
あと千里さん、そういうところだぞ本当に。
「勘違いしないで、それでレイさんが父親になる資格がないとかは思ってないから。ただ、知りもしない見たこともないものを真似しようとしても上手くいかないよって話。むしろ、『パパ』との思い出があるわたしの方がよく知ってるくらいなんだから、下手な見様見真似されても反応に困るよ」
「その『パパ』ってあの将軍さんでしょ……あの人を基準にされても困るというか、あれに負けるって思われてるのが結構かなりショックというか。ていうか、最終的にその『パパ』を消し飛ばしたよね? ノンちゃんが自分で」
「それこそ絶対に勘違いしないで、次やったら怒るよ? あれは『パパ』じゃないから」
「…………」
「あれはパパだったものの残骸にパパじゃないものが……蛆虫みたいなものが湧いて詰まって暴れてただけ。むしろ、それを灼いたんだから供養みたいなものだよ」
「……うん、そうだね。ごめん、謝るよ」
「……うん、レイさんのそういうところは悪くないと思う。変に大人ぶって意地張るんじゃなくて、同じ目線で向き合ってくれるしちゃんと変わろうとしてくれるところ。ママが悪い男に引っかかったら一緒にミンチにしようって二人と約束してるんだよね。レイさんはそうしなくてよさそう」
「ちょっと待って? 『リンチ』じゃなくて『ミンチ』なの? いや、リンチでも怖いけどミンチはその気になったらみんな本当に出来ちゃうからマジで怖いんだけど?」
「ていうかよく考えたらレイさん、ミンチにされても別に死ななくない?」
「命は減るよ確実に! 痛いのも嫌だし!」
連れ子の三人娘の計画が怖い。
なにせ戦争の中で育った子たちだから致命的に物騒な計画があんまり冗談に聞こえないのが余計に怖い。
いや、でもルルもキレさせたらわりと死ぬくらいのこと本気でやってくるしな……ボクなら『命の予備』があるってわかってるからこそだろうけど。
「まあ、勝手にミンチの妄想で震えるのもそれくらいにして……わたしの『パパ』は、百六十年前にいて、わたしが意識不明で眠ってる間に死んだ『パパ』が唯一で一番なの。仮にレイさんがどれだけ理想的な『父親』をやったとしても、パパよりもわたしに構ってくれたりわたしを護ってくれたりしても、わたしを十三歳まで育ててくれたパパはパパだけなの。それは……ごめんね、『テセウス・グラム』しか知らないレイさんにとっては『あんなのなんかと』としか思えないかもしれないけど」
「……ううん、そうだね。ノンちゃんにはちゃんと『パパ』がいた。そのポジションを後から現れたやつが上書きするようなことは、確かにあっちゃいけないと思う。まあ、『ママの恋人二号』っていうのも……事実ではあるんだけど、あるんだけどぉ……」
「そこはちょっと受け入れ難いんだ……まあ、いいや。わたしにとって、レイさんはレイさんでいいと思う。レイさんが父親らしくしたいっていうなら……できれば、大事な時はいつも側にいて。それで、わたしたちがいつでも頼れる人でいて。ついでに、ママに相談できないことが相談できる人でいてくれれば、それで充分だよ」
「『大事な時に側にいて、いつでも頼れる人』か……本当にそんなことでいいの?」
「わたし、パパに一番頼りたかった時にそのパパが近くにいてくれなくて死んだようなもんだし。わたしのパパはパパだけど、それはそれとしてあの誕生日だけは仕事で帰ってこなかったの今でも怨んでる」
「な、なるほどね……了解。ボクなら仕事しながらでも分身くらい送れるし」
「そこは分身じゃなくてちゃんと本体でこっち来てよ。いつもとは言わないけど、大事な時は絶対ね」
「はーい……」
ボクがそう返事をすると、ノンちゃんは満足そうに頷いてケーキの最後の一欠片をフォークに刺して言った。
「じゃあ、そんなわけでだけど……さっそく相談! 聞いてくれる?」
「オッケー。頼れるママの恋人二号さんに任せなさい」
「開き直った……ってのは置いといて! ニドラとトマルの『お姉ちゃん』はやっぱりわたしがいいと思うの! なんたって一番強いし、なんだかんだで生まれたのは一番先なわけだし! ママはみんな仲良くしてくれればそれでいいって言うけど、やっぱりママの一言があれば二人も納得するから! だからママに口利きして!」
いつもの子供っぽさを取り戻しつつ、強かさも忘れず、上目遣いでお願いしてくるノンちゃん。
だけど……
「ごめん、それはちょっと……無理かも」
「えー、なんでー?」
「実は、他の二人にも……ニドラちゃんとトマルちゃんからも、同じような相談されてるから……かな? ていうか、みんな言い方は違うけど『自分が三人の中で一番強くて大人』って認識なんだね……」
「…………あいつらー!!」
ノンちゃんはぷりぷりと可愛らしく怒りながら最後のケーキを口に放り込んで頬をふくらませるのだった。
オマケ『誰も口にはしないけれども……』
(レイ)「まだ名前呼びでちょっと距離感じるけど、その気になったらいつでもボクのことパパって呼んでくれていいからね!」
(ノン・ニドラ・トマル)(レイさんのことは別に認めてないわけじゃないけど、自分よりも歳下の女の子にしか見えない人をパパって呼ぶのはちょっとなぁ……)




