第40話 『初期対応部』VS『靴底男』
side 硲田黒雄
『友情、努力、勝利』。
そんな子供向け漫画の鉄則みたいな文言を人生の成功に繋がる呪文だと信じてる馬鹿が、世の中には信じられないほど山程いる。
馬鹿みたいなやつらだ。
『現実』ってものをちゃんと知ってる俺からすれば、そうとしか思えない。
同年代でつるんでガキっぽい娯楽に時間を浪費する『友情』なんかよりも、権力のある奴や点数を与える権利を持った奴とのコネクションを手に入れるために時間を使うのが有意義だなんて誰でもわかる。
曖昧で結果に繋がるか不確定な『努力』なんかよりも、その人間が持って生まれた才能と環境を見極めてそれに合った目標に向けた教材に淡々と従って課題をこなす方が確実なのは明らかだ。
ほんの一瞬の成功体験を得るだけの『勝利』そのものなんかよりも、必要なのはそれで得られる金や評価。
効率の悪いスポーツやらそこに注ぐ情熱やらよりも、学歴や組織で重用されるスキルの獲得に気力や精力を注ぐのが高効率だっていうのは目に見えてるはずだ。
それが現実だ。
それが現実のはずだ。
だから、それが見えてる俺の方が『成功』に常に近い、最終的に勝つ側にいるはずだ。
なのに……
『みんなー! 応援、行くっすよー! いつもながらアニソンくらいしか歌えなくってごめんっすー!』
『メロディーは任せなさい! 興奮しすぎて暴走するんじゃないわよー!』
精霊羊に繋がった馬車の屋根の上。
好感度を増幅する変身能力の『小野倉ねね』がマイクを握り、転生特典に匹敵するレベルの演奏スキルを持つ改造人間『ミュジカ』がギターを弾き鳴らし、空間に満ちる士気高揚の音。
まるでゲームで強大な敵に挑む主人公パーティーの攻勢に流れるBGMのようなそれは俺に自分が倒されるべき悪役を演じているかのような錯覚を沸き立たせ、やつらへの支援と同時にこちらへの反支援として機能する。
そして、その音色に背を押されるように立ち上がるのは夜神夕子を自分自身の収まる胸中に保護した『日暮蓬』の『火焔魔人』。
「正面から来るつもりかてめえ!? 俺の方が一回りデカいのがわかんねえのか!!」
『そう言うんだったら殴り勝ってみろぉらあ!!』
正面から取っ組み合いに来る炎の守護者。
だが、こっちは無限質量だ。
放熱も、破壊不能の神器の紙で分厚く層を作れば怖くない。
取っ組み合いなら、そのまま掴んで倒れ込むように押し潰すだけで『収納』を発動して俺の勝ち……
『あんたみたいな馬鹿みたいにド素人の力自慢はやりやすいんだっての!』
接敵の瞬間。
炎の魔人を、魔人の火焔を『足場』にして眼前に飛び出てきた小さな影。
直前で視認できたのは、俺の目へ向けて振り抜かれる戦斧で……
「うぉおおっ!?!?」
ガンッ!
目前に迫ったように見える斧の刃も、収納空間の内外を隔てる空間の壁を前にすれば届くことはない。
それはわかっていたのに、思わず目を閉じて両手で顔を守ろうとしてしまった瞬間……腕と違って紙の層を増産していなかった紙の巨人の腹部に、魔人の炎拳が食い込んだ。
「ふぐぅっ!?」
『防御力が高くてもこれで怯むビビりなら関係ないね。それに神器と一体化してるだけあって防御を固めてない所は結構効くみたいじゃない?』
ミュジカと同じ、ガロム正規軍の闇が作り出した改造人間『ベルシィ』。
俺を煽るように笑いながら炎の魔人の体内に落ちていく奴は、落下も熱も恐れず守護者のコントロールで作られたであろう足場を跳んで魔人の裏側へ逃げ込む。
「この野郎! バカにしやがって!」
『お前の相手はこっちだっての!!』
「うぐぇっ!?」
紙の巨人の顎の下から突き上げる炎のアッパーカット。
人体そのもので受けるようなダメージじゃないが、俺自身が紙の巨人と一体化することで動かしているためかフィードバッグするように熱さと痛みと衝撃が脳を揺らす。
直接触れれば熱を受けると判断して一体化を解いて展開した紙の重装甲はそのまま身体の一部のように動かせないから腕だけを覆う防具のようにしたが、それが裏目に出た。
「ぐっ……もっと紙の鎧を……全身に……!」
首が上向いたままでも、とにかく今すぐに防御力を上げようと、体表から紙の層を増産して全身に鎧を作ろうとした時。
真上、空からまた二つの『人間大』の人影。
だが、このパターンはついさっき経験済みだ。
「チッ! 来いよ! どうせお前らチビの攻撃なんて効かな……」
今度は怯まない。
そう決めて、紙の鎧を生成しながら直視したのは……
『本当に効かないかどうかは!』
『自分の「目」で試してみなさいよ!』
視界を確保するために鎧を作れず防御の穴となっていた『眼球』にフィードバッグされたのは、ボウガンの矢を至近距離から撃ち込まれたかのような鋭い衝撃。
「うぎゃぁぁあああっ!! 目が、目がぁあああっ!?!?」
一瞬だけ見えた、竜の翼と青銅の翼。
元はドラゴンライダーの使役獣だった『ニドラ』と、美少女化の能力を得た怪獣『リーナ・タングルス』。
人間サイズで怪獣形態と変わらないパワーを生み出すやつらが、鎧の弱点の目に飛び乗って至近距離の打撃ラッシュを撃ち込んで来ている。
それを、両手で掴み潰そうと腕を上げようとしたが……ガシリと、後ろから両腕をロックされた。
火焔の魔人に、鎧の上から締め付けられている。
『アンタの身体そのものになってる本体そのものはともかく、わざわざ外付けにした鎧の表面からならベッタリ密着したって、いきなり収納空間に引っ張り込まれることはないでしょう?』
「て、てめぇ!? いつの間に……」
『ところで、あんたは「鎧」を着て防御を固めたつもりみたいだけど……それで威力が上がる技だってあるのは知ってる?』
ぐっと、炎の魔人が腰を落として背中を反らし始める。
両眼を襲っていたミニ怪獣女共も攻撃をやめて離脱するが、これから起こることをわかってて回避しているようなそのタイミングはまさか……
「バ、バックドロップだあ!? そんな見様見真似のプロレス技なんて……」
『プロレスじゃないっての! これは、美森教官直伝……柔道の裏投げだぁぁああっ!』
「ぐぎゃぁああっ!?」
視界が日の沈みかけた紫色の空を高速で巡って、天地がひっくり返る。
紙の巨人の質量と、火焔の魔人の爆発力、そして鎧の重さの全てが頸に突き刺さるかのような衝撃のフィードバッグで背骨が粉々になったかのように錯覚する。
バラバラと剥離する鎧の中で悶えながら、わけのわからない現実に混乱する。
なんだ、これは。
正面からの力比べなら押し潰せるはずなのに、うざったい連携で押される。
『ベルシィ』『ニドラ』『リーナ・タングルス』。
なんでこいつらは圧倒的なスケールの差を前にして、自分が羽虫みたいに叩き潰される恐怖も抱かずに俺に攻撃できる?
『日暮蓬』……お前は、もっとわからない。
どうして自分と同じスケールの相手を想定した格闘技なんて『守護者使い』には99%使う機会なんてないようなもんをしっかり訓練してるんだ。
真面目に格闘の訓練なんてしなくても能力を使えば誰にでも勝てるのがわかってるのに、どんなモチベーションがあってそんな技を修得した。
「うぐっ……ぐぐぐっ……!」
頭からひっくり返った衝撃で世界が揺れる。
三半規管が今の俺にそのままの形で存在してるのかわからないが、重大な感覚異常のせいで紙の巨人を立ち上がらせられない。
その頭の上に、さらに巨大化して断頭台の刃のようになった炎の足を掲げた魔人が立った。
『これで効くかわからないけど……これで、「一本」だおらぁあっ!!』
喉への踏みつけ。
鎧も崩れて、もろに受けるわけにはいかないそれを前に、俺は……
「調子に、乗るんじゃねぇええ!! このアマ共がぁああっ!!」
『っ!』
俺の、紙の巨人に吸い込まれるように消える断頭台の刃。
『収納』で炎を吸収し、そのまま全身を呑み込んでやろうとしたところで魔人の脚の炎が切り離されて飛び退かれる。
だが……もう関係ねえ。
『戦闘』の構図なんてもう保たなくてもいい。
「今の俺は『無限質量』だけじゃねえ……『無限収納』だ!! お前ら全員、この一帯ごと俺の一部にしてやる!!」
地面すら区別しない。
触れさせない、足場も残さない。
体表全てを『収納神器』として発動して、足下から自己を拡張していく。
一部の飛べるやつは助かるかもしれないが、これで俺の優位は確実なものに……
『【点火】』
次の瞬間。
全身で、『体内』で、何かが爆ぜる今日一番の痛みが炸裂した。
「ぐぎゃぁああああああっ!?!?」
『追い込まれたらそういうことをやるのは想定内よ。やたらと何でも呑み込むタイプの妖怪には呪い爆弾がよく効くわ、本当に』
爆弾魔『マイン』。
あの砦では俺の指示に従っていたこともあるはずのテロリスト。
俺がなりふり構わず収納能力を発動することを読んで、先に爆弾を……
「なら、これならどうだ!! もう戦闘も格闘も気取らず転げ回ってでもお前ら全部踏み潰してや──ぐっ!?」
視界が唐突に上を向いた。
どこまでも巨大化して押し潰してやろうとした俺を止めたのは、不自然で強力なパワー。
両手首が脇に引っ張られて、首が後ろへ引っ張られて、まるで見えない壁に通せんぼされて壁の高さを見上げるパントマイムのような姿勢に固定される。
『気付かなかったかしら? 右手首から右脇を通って、首を経由して左脇から左手首へ。私の「尻尾」を結んでおいたの。これも不壊の神器だから、そう簡単に切れないわよ?』
『ソニア・ビィ・ガロム』。
ガロム王家の殺人姫が、いつの間にか肩の上で俺の醜態を嗤うように微笑んでいた。
「て、てめっ……握り、潰して……ぐぼぁっ!?」
『『『させるわけないだろう(でしょう)が!!』』』
「ぐはっ!? ふぐっ!? ぐっ!? ごばがぁっ!?」
両手を上げて、正面を見ることすらできない『お手上げ』に近い状態で、死角になってしまった真正面から襲いかかる猛ラッシュの衝撃。
日暮、リーナ、ニドラ。
爆拳、青銅の鳥、ドラゴン。
三騎の『巨大戦力』が容赦も遠慮もなく『大きな的』になった俺に拳で、鉤爪で、尻尾と角で同時攻撃を注ぐ。
衝撃が重い。
両眼に食らった鋭い衝撃とは違う、腹の底へ、内臓の深くまで響くような衝撃の連続。
「うぷっ、うげあっ!?」
巨人の口から『試験用紙』が噴き出した。
夕子への攻撃でやった時は意図的だったが、これは違う。
吐かされている、森の民の神器に食わせた俺の神器が逆流している。
これは……ヤバい。
このままじゃ、紙の巨人が保てない……!!
『これで! っ! 退避!!』
「うげぇぇえええええっ!!!!」
最適な動きやすさを超えた巨大化。
そのために突貫で食わせたはずの試験用紙が消化不良の食い物みたいに口から溢れ出て周囲一帯を白く染める。
「うげっ、はぁ、はぁ……ざまぁ、みやがれ……結果オーライだが、これで全滅……」
周囲はすっかり紙束の海。
無数の紙束に潰されたやつらを掘り出して捕まえるのは面倒だが、これで俺の勝ち……
『あんたにはこれが「全滅」に見えてるんだ。ふーん?』
目の前に浮かぶ獣耳の少女。
おそらく幻影であろうそいつは……
「『ムジルシトマル』……? なんで無事に……まさかこれは、『光を操る能力』……!!」
見ていた景色が変わる。
俺が吐き出した試験用紙が周囲一帯を覆い尽くしたように見えていたのが、空中で燃え尽きていく神器とそれを焼き尽くす極光の弾幕の決着に塗り替わる。
『【双式消去砲】……こういう場合は、オリジナルさえ確保できれば増殖した分の神器は破壊しても構わないって許可はもらってるから』
『理想の勇者』。
破壊不能の属性が付いてるはずの神器を関係なく焼滅させることができる魔法を乱発する最強の正規勇者。
そして、そいつに守られた地上で……
『解析完了だ!! こいつの弱点は織り込まれた背中!! その収納神器は「背面」から強く叩けば収納物を押し出せる! 無敵に見えるのは紙を丸めて裏側を内側に入れるのと同じように弱点を背中の奥に隠してるだけだ!』
『タカラ』……『イラズ・クロミネ』。
精霊羊の馬車から迫り出した観測機器を使って俺の身体を調べていたらしい女装趣味のオスガキは、『理想の勇者』に叫ぶ。
『ねーちゃん! データは送ったぞ! ひん剥いてやれ!!』
「こ、この……さ、させるかよぉ……おおうおっ!?」
あのオスガキをうざったい後方支援の馬車ごと蹴り飛ばしてやろうと前進した俺を躓かせる何か。
それは……いつから存在したのかわからない巨大な鎖。
その両端をドラゴンと青銅の鳥になったニドラとリーナ・タングルスが咥え、一斉に引くことで紙の巨人となった俺を転倒させた。
思わず地面に腕をついて四つん這いの姿勢になった俺の顔の先で、得意げに腕を組んだ巨乳女が胸を張る。
『特注生産、完了です! 普通の人は得意なものしか魔法で具現化できないらしいですけど、わたしはこのくらい構造が簡単なものなら何でもいくらでも出せますよ!!』
第九位冒険者『贋作工房』の弟子『ダミー』。
戦力外だろうと思っていた生産職の思わぬ一手に一杯食わされたことに怒りが湧き上がったが、それすらも隙ありとばかりに背中へと熱が走った。
『【唯式消去砲】』
「づぁっ!? や、やめろぉおお!!」
背中の一点。
『裏面』を完全に隠すために丸めた巨大な紙面の内側へ繋がる穴。
複雑に絡み合わせ絶対に開かれないようにしたはずのそれを、光の剣で焼き切られる。
そして……
『トマル! 最大出力行くよ! 裂け目に誘導して!』
『オッケー! 任せて!』
空を走る曲射の光線。
『光を操る能力』で裂け目へ誘導された高熱のレーザーが、注ぎ込まれたエネルギーを文字通りの袋小路で乱反射されて内側から爆発する。
魔眼姫『ヒトミ』。
邪神崇拝教団のテロリストにして、建物を一閃に切り裂くほどの『魔眼』を使う女。
その最大出力は、『巨人』の背を開きにするのに充分な威力で俺の弱点を露出させる。
「後は任せたよ! 部長!」
「夕子ちゃんも頑張れー!」
「ラストアタック!! 決めるっすよー!!」
クリアに聞こえてくる声援。
空間の壁で隔たれていた外の世界が目の前にあるような現実感。
それは、まるで巨大ロボットのコックピットを守る防壁が破壊されて搭乗者が露出したような状態を証明するもので……
「ま、まずい……それはやめろ!! やめてくれ!!」
背中が完全に開いて『裏面』が無防備になっている。
『容量以下の物体を押し付ければ収納でき、裏側から叩けば収納したものを出せる』というシンプルな使用法のこの神器と俺が融合できたのは、この神器に傷口を、自分自身の断面を押し付けて、この神器そのものの収納機能を誤作動させた結果。
それが、『中身を取り出す』という操作を受けるということは……
四つん這いで、まだ数々の衝撃が残っていて立てない俺がどうにか顔を横に向けた、その視線の先。
上空で、直上で、落下してくる『炎の魔人』が『黒い兎』を鈍器のように振り上げていた。
二体の守護者が……爆発力という名の『推進力』を生み出せる火炎と、『質量』を生み出せる不明が、力を合わせて。
「行くわよ夕子! 思いっきり、重くなりなさい!」
「はい!!」
日暮蓬と、夜神夕子。
手を握り合って力を合わせて、俺の背中を押そうとしている。
前へ、下へ、どん底へ。
「「はぁぁあああああっ!!!!」」
「やめ、やめろ! やめろやめろやめろやめぁぁああああああっ!!!!」
上から降りかかる衝撃。
弾き飛ばされる、押し込まれる、押し出される。
何十、何百、何千層にも折り重なった収納紙の空間を突き抜けるようにどん底へ落ちていく。
どうしてこうなった?
なんでこんなことになった?
やつらの一人一人には確実に勝てる性能差があったはずだ。
それなのに、うざったい連携に邪魔されてまともな反撃すらできなかった。
やつらは、俺の反撃に自分がやられるかもしれないという不安すらなく全力で攻撃を注いできたのに。
この収納紙の神器と出会って、後天的であっても俺は究極の『才能』を手に入れたはずだ。
あいつらに負ける要素なんてないくらいの能力……戦闘だけじゃなく、諜報や人材の確保育成にも使える、長期的に見てもいくらでも手が打てるし立て直せるはずの能力と、それを誰にも知られていない、なりふり構わず逃げに徹すれば絶対に逃げ切れるという優位があったはずだ。
やつらの動きには迷いがなかった。
まるで、勝ち筋への確信があるようだった。
俺にも勝ち筋のイメージはあったはずなのに、ただ『手を伸ばして握り潰す』というワンアクションさえ決まれば一撃必殺なのはわかってたのに、やつらは自分の攻撃では俺を倒せないことも気にせず、このラストアタックに繋がることがわかっていたかのように即断即決を重ねて俺の動揺が途切れないほどの展開速度でこの一撃を叩き込んだ。
高速で落ちていく。
視界が高速で移ろう中、繰り返される紋様に……いや、試験用紙に浮き出た言葉が連続写真のパラパラ漫画みたいに像を結ぶ。
『絶望しろ』。
『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』──
世界が光を宿す。
課題を『達成』された試験用紙が消えゆく時の光が、どん底へ落ちていく俺を導くように連なっていく。
「い、嫌だ……絶望は嫌だ……もう、『絶望』だけはしたくないんだ……絶望は、いやだぁぁあああああっ!!!!」
この力があれば、もう二度と『絶望』することはない。
そう思ったから、この『課題』を重ねた。
俺はもう絶対に『絶望』しないと確信していたから、最高難易度の『100点満点』のテスト用紙が生成されることに安堵して、それが『不可能な課題』であるということを俺の力が消えることのない保証としてきたはずだった。
なのに、それが『達成』されている。
その光が、その幻想的にすら見える情景が、この現実が終わりのない絶望の無限ループへ俺を叩き落とす。
どこまでも、どこまでも……いや、違う……!!
「待って! いやだ! イヤダイヤダイヤだ!! そんなバカみたいな最期イヤだ! 自分の出した課題の山に潰されるなんて──
『絶望しろ』
──プチリ。
妖怪図鑑『イロロの敷紙』
原材料は『彩皮の魔王』の脱皮殻。
魔王化したカメレオン型の魔獣『イロロ』の保有していた物体を模様化して体表に収納する能力を神器化したものだが、その利便性・他の神器の製作におけるコンパクト化に応用できたことから森の民の神器としては珍しく量産性を追究されていたものの、想定通りに効力を引き継いだ自己複製神器を生み出す確率が低く、実用的な量産性能が実現するまでに大量の森林資源を消費してしまう危険があるとして研究を停止し途中段階の試作品として封印されていた。
……そのため、今回の事例での大量複製は森の民にとっても予期せぬ技術的ブレイクスルーに繋がる可能性があるらしく、山程増えた収納紙を見たアーリンさんは珍しく驚きを通り越した呆れ顔で笑っていた。
「ちなみに、森の悪神としてのイロロは群れのリーダーとして群れ全体を自分の中に収納して移動していた……どこに餌を取りに行くか、危険が迫ったときはどう逃げるかの全責任を負うポジションだったみたい。手駒を閉じ込めて支配するだけだった靴底男とは大違いね」
───by 蓬




