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転生したので狂信します外伝:『夜神夕子の友達100人計画』  作者: 枝無つづく
第一章:『新人期間(チュートリアル)編』

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第38話 『繰り返さないための選択』

side 夜神夕子


「それにしても……私とシックスさんがペアというのは少々意外でしたわね。もしものことを考えたら、こういう戦闘配置で私と一緒になるのは蓬さんかと思っていましたから」


「まあ、今回は戦闘そのものが目的というか追い込み漁のための包囲配置だからね。戦力を最大化するよりも平均化して敵が逃げにくい環境を作るって考えたら夜神さんと蓬ちゃんは別の場所の方が合理的って判断かな。この辺一帯は収納能力で隠れながら通過しようとしたら引っ掛かる警報結界がセットしてあるし、感知さえできちゃえば直接戦闘に強いタイプの転生者じゃないだろうからね」


 もうかなり太陽の位置が低い時間。

 場所は隠れるものがほとんどない草原がかなりの範囲に広がっていて、見通しのいい平原。

 今まさに追い込みを受けている『靴裏男(アンチガム)』がやって来る可能性がある逃走ルートの一つ。


 一見逃げやすそうにも見えるこのような場所で私たちが待ち伏せをしているのは、ここが『壊してはいけないものがない場所』だから。


 相手は収納能力を使って自分自身を小さな紙片のようにして、物に貼りついたり隙間に入り込んだり、さらには宙を舞って移動できる。

 その能力もあって、これまでは人混みに紛れて接近され、ジャネットさんの店のように目視まではできても人混みに逃げられてしまった。


 あのイベント会場で捕まえられなかったのもそれと同じ。

 春子さんの『夢占い』で妖怪仏像を投下するために『ステージの直上』に現れることまではわかっていたとしても、その場で捕まえようとして来客の衣服や荷物の中にでも逃げ込まれたら攻撃できないし魔法でもノイズが多すぎて正確な場所を特定できない。


 だから、その場で捕まえるのではなく飛び去る紙片形態の『靴底男』をレイさんの虫で追い立てて、こうやってこちらが遠慮なく『範囲攻撃』を使えるような地形にしかいけないルートまで誘導した。


 ここなら、敵が感知結界に引っかかればその場所が多少大雑把でも魔法なり守護者なりでその辺りを徹底攻撃できる……その命中確率が100%でないとしても『それをやられる可能性がある』というだけで、臆病を極めて逃げ隠れを繰り返してきた『敵』は近付けなくなる。


 これは詰将棋。

 そのリスクを避けて別のルートへ行けばまた別の待ち伏せに遭遇し、ルート変更を余儀なくされた敵は最終的に一か八かの運任せでの突破すらできない本命の罠へと誘い込まれることになっている。


 だから、私たちの役割は『いつでも攻撃できる状態』で私たち自身も隠れる場所がないこの平原に待機していること。

 もうすぐ日が暮れてしまうのは少し不安ですけれど……それを見越してか、春子さんから渡された着物は発光機能も付いていますし、周囲にも迎撃に充分な光源は隠してあるそうなので問題はないはずですわ。


 あとは、端末に蓬さんからの『捕獲完了』の連絡が来るまで長くても数時間待っていれば……


「……ねえ、夜神さん」


「は、はい! なんでしょう、何かトラブルでも……」


「ううん、そういうんじゃなくてさ。今のうちに言っておこうかと思ってさ……この仕事が終わったらみんなにちゃんと言うつもりなんだ。しばらく一人旅するって話。もう、社長サマとかテーレさん辺りは知ってるんだけど、全員の前では話してなかったからさ」


「それは……そう、でしたわね。『靴底男』の件が終わったら、と言っていましたものね」


 シックスさんがあの『デート』の日に明かしてくれた自分探しの旅の予定。

 『勇者』としての使命を終えた後の、自身の人生を見つめ直すための一人の時間。

 望まずとも『世界の中心』になってしまう『メアリ・ナンバーズ』として生まれ持った勇者因子の性質に振り回されず生きるため、世界に対する自分のちっぽけさを知るための旅。


 彼女が、『勇者と魔王の戦いの物語』から脱却して、どこか夢のような『戦後の世界』を現実として受け入れるための旅立ちが、すぐそこに迫っている。


「夜神さんにはまだサポートが必要かも……とか、テーレさんに叱られてなければ言っちゃってたかもだけど、区切りとしてはここしかないかなっていうのはわかるからさ。ボクが抜けると戦力的には少し厳しくなるのはわかってるけど、みんなに相応しい自分になるには……ボクが自分自身の生き方に納得するためには必要な時間だって社長サマにも言われたからさ」


「その言い方だと……今はまだ、納得できていませんのね。シックスさんの、今の生き方に」


「…………どうなんだろうね。他ならぬ自分自身の人生なんだし、最終的に受け入れる以外はないとはわかってるんだけど……『自分は自分にしかなれない』、そんな当たり前のことを受け入れるのがこんなに怖いなんて、おかしな話だと思うよ。普通なら……棒きれ振り回しての『勇者ごっこ』なんて、大人になったら思い出すのも恥ずかしい子供の遊びなんだろうけど、ボクの場合はそれがずっと命懸けだったから」


 シックスさんは、この剣と魔法の活躍が絵空事ではない世界でも数えられる程度しか生まれない、『ごっこ遊び』なんかじゃない本物の『勇者』として生まれた自分の運命を、大人になったら忘れるような子供の頃の遊戯のように卒業しなければいけない……本当にそうできるかも、そうすることが幸せな未来に繋がるかも確信できなくても、踏み出さなければいけない。


 私もきっと、いつかはそういう選択をしなければいけないように。

 シックスさんは『大人組』だけれど、きっとまだ精神面で『子供』でもある……その中間の微妙な位置で、境界線を越えるための儀式を目前にしている。


 ああ、無理して笑顔を作っているのはその表情を見ればわかる。

 『怖い』……けれど、怖くても踏み出さなきゃいけないと決めて、先に進む決意を固めている。


 この人はきっと……私にとって、初めて見送ったと思い返す『卒業生』になるのだろう。

 お世話になった先輩で、デートまでして……私が憧れ過ぎていないからこそ、将来への不安まで吐露してくれた……『先に大人になっていった、同じ子供だった人』になる。

 だからこそ……私がいつか、同じ場所を通るのを怖がりすぎないように、強がってくれている。


「…………私、シックスさんのこと、もっとたくさん知りたかったと思いますわ。今だって、こんなときにどんな言葉をかけたらいいのかわからなくて、ちょっと気まずいんですもの。これでもお世話になった相手だとは思っていますのに、いい感じの励ましの言葉も思い浮かびませんわ」


「……ごめんね、実はずっと、ちょっと距離取っちゃってて。それも……本当は、あんまりいいことじゃないってわかってたんだけどね。いつ、どこで、何を願ったにしても……これが、それが叶っちゃった結果だとしても、やっぱり『夜神さん』は悪くないんだから」


「アウト、またアウトですわ。『知らないはずのことを知っている』……でしたっけ? そういうのをこれからはやめたいって話じゃありませんの?」


「あはは、これに関してはちょっと説明が難しいというか、ボク視点だと知ってて当然のことしか話してないんだけどね。まあ、けど、そうだね……一方的に知ってる素振りばっかりでボク自身の話をあんまりしてないっていうのは間違ってないか」


 そう言って、シックスさんは太陽が地平線に大分近付いて空色を夕焼け色へ変えつつある西の方を見遣って、感慨深そうに言った。


「ここ実家がこの近くでね、両親は引っ越しちゃったらしいけど……おばあちゃんがさ、この先の村に一人で住んでるんだ」


「えっ……それって……」


 昨夜の夢の中の、鏡の向こう側に見た景色を思い出す。

 言われてみれば、場所の雰囲気というか僻地具合というか、そういう部分は似ているようにも感じるけれど……この先に、あの家が……


「この配置も、気を回してくれたのかもしれないけど、社長サマは『靴裏男』の件が解決したらそのまま一度おばあちゃんと……『家族』と会ってきたらどうかってさ。ボクとしてはたくさん迷惑かけちゃったし、会いに行っても迷惑なだけじゃないかとも思うんだけどさ……両親との別居の原因もボクだし……」


 前にシックスさんから聞いた両親との関係の話。

 『正規勇者』を育成するために、勇者の資質を持った子供を親に手放させる策略……そのせいで、シックスさんを我が子と認識できなくなり怪物扱いして手放した実の両親。

 その時期の同じ家に、正気のままの家族が、『おばあちゃん』がいたとしたら……何が起きたかは想像に難くありませんわ。

 けれど……


「……もし不安なら、私も一緒に行きますわ」


「……え?」


「道中の不安を少しでも和らげられるなら、一人よりマシかと思いますの。もちろん普通にお邪魔だというのなら席を外しますけれど……それくらいの恩返しはしてもバチは当たらないと思いますもの」


 それこそ、入社初日……あの牧場に連れて行ってもらった日のように。

 一人で知らない場所へ行って何が起こるかわからない何かをするのは、とても不安だから……誰かが一緒にいるというだけでも、前へ進むのはきっと気楽になるから。

 この『戦後』の世界での私の第一歩……何もわからない未知の世界での新生活という冒険の始まりは、シックスさんが支えてくれたのだから。


「……ふふっ、ありがとう。でも、やっぱり……」


 と、そこで。

 『ビッー! ビッー!』

 シックスさんの端末が通信の受信音を鳴らす。

 それも、『緊急連絡』の専用通知音で。


「っ! ……春子さん? 何か作戦にトラブルが……え……?」


 通話を開始するや否や、顔を青くし始めるシックスさん。

 彼女は、通信を切ってから……明らかに無理をして余裕を取り繕おうとしながら、私に言った。


「おばあちゃんが危篤……だってさ……『今すぐに会いに行けば間に合うけど、どうする?』って。あははっ、あの人、ほんとさ……占いの結果のために人をどうしても動かしたい時、こういう無理やりな嘘とかもわりと平気で言うから……いくらなんでも、ちょっと怒ってもいいと思うよね、これは……」


「で、でも……それがもし、本当だったら……」


「そ、それはない……はず……本当にそうなら、先に手を回して誰か送ってるだろうし、こんな場面で連絡なんて……作戦を、仲間を、戦場を投げ出しておばあちゃんに会いに行くかどうか選ばせるとか……行けないに、決まってるじゃん……ボクは、責任ある『勇者』で……」


 『勇者』。

 その言葉が口から漏れたのは、きっとシックスさん自身にとって無意識のこと。


 けれど……わかってしまった。

 『おばあちゃんの危篤』というのが本当であれ嘘であれ、シックスさんは今すぐに走り出さなければいけない。

 他ならぬ彼女自身のために……彼女が囚われ続けてきた『勇者』としての道ではなく、『自分自身の人生』を選べる人間になるために。


「……行ってください、早く!!」


「夜神、さん……?」


「もし、万が一にも本当のことだったら……向き合えないまま死なれたら絶対に後悔しますわ!」


「でも……ほぼ100%、嘘だってわかってるんだよ? 春子さんは、必要ならこういうこともする……本当に危篤でも、ギリギリまで伝えないっていうのも、するかもしれないけど……こんなタイミングよくなんて……99%、ないでしょ?」


「それでも! 残りの1%が怖くて震えているのはどこの誰ですの! 本当の可能性がたった1%でも、その『もしも』が耐えられないくらい怖いと感じているのは!?」


「けど……もしも、もしも本当だったとしてもさ……行っても、ギリギリで間に合わなかったり、何もできなくて、本当に死に目に合うだけとかだってありえるしさ……『そんなこと』のために、作戦から離れるなんて……」


「『そんなこと』ができなかったから! 私は死ぬまで、死ぬほど、ずっと辛くて苦しかったの!」


 シックスさんの詳しいことなんて、なにも知らない。

 励ましも説得も、一番適切な言葉なんてわからない。

 けれど、それでも、私自身が経験したことだけはわかる。


「本当か嘘かもわからない、迷った時間で間に合わなくなるかもしれない! それでもいいから、とにかく走って! 辿り着くまで、怖くて、苦しくて、それが正しいのかもわからなくても……それでも、とにかく走って、走り出して! じゃないと、もう二度と、会えなくなる……本当に、死んでも顔向けできなくなってしまうから」


 もしも、私が小学生になったばかりのあの頃へ戻れたなら。

 もしも、正確な命日すら憶えていないけれど、おばあちゃんが生きていたかもしれない日へ戻れたなら。

 私は、お母様に、誰に何を言われても、無駄だと言われても、病院へ走り出す……そこでおばあちゃんが生きていようと、意識がなくて会話なんてできない状態だろうと、もうとっくに死んでしまっていようと関係ない。


 私は、おばあちゃんと最後に何を話したかすら憶えていない。

 夜中におばあちゃんが倒れて、突然のことでその姿すら見ていなくて、最後に顔を見たのがどんな時でどんな顔だったかも憶えていなくて……今もそれを後悔しているから。


 おばあちゃんが帰ってこなかったことを後悔してるんじゃない。

 私が自分の足でおばあちゃんに会いに行こうとしたことが一度もなかったことを後悔してる。


 この世界に来て、あの世界に二度と帰れなくなって、一番後悔していることを問われたら、今の私は迷わず『病院へ行かなかったこと』だと言える。


 自分の健康診断とか心臓のことなんて知ったことじゃないと言えるけれど……たとえ、高校生になってからであったとしても、おばあちゃんが死んだ病院へ、おばあちゃんがいたはずの病室へ行くべきだった。


 完全に手遅れだったとしても、なにも伝えられないとしても……『みっともないくらいに心配して、「やりたくもないのにやらされてること」なんて全部投げ出しておばあちゃんのお見舞いに行くこと』が、散々可愛がってもらった私にできる唯一の恩返しだったはずなのに、私はそんな当たり前のことすらできない恩知らずの不孝者のまま死んだことを、転生者として生まれ変わった今でも悔やんでる。

 だから……


「ここは任せて、行きなさい……今すぐに!!」


 この人には恩義がある。

 だからこそ、同じ後悔はさせたくない……させない。

 ここは、私がちゃんと見張ればいいだけの話だから……一人前とは言えなくても『それくらいの仕事』は任せてもらえるくらいには育ててもらえたはずだから。

 私は退かない、彼女を送り出すのが私のここでの仕事だ。


「ごめん、なさい……すぐに、代わりに誰かくるはずだから、それまで気を抜かないで……」


「わかったから早く!!」


「うん……ありがとう!」


 私に背を向けて、沈み始めた夕日へ向かって走り出すシックスさん。

 私よりも背が高いはずなのに、遠ざかって小さくなるとどこか子供のように見える背を遠くまで見送って……


 狙ったように、声がした。



『ここはお前一人か……夕子』



 薄々、こうなるのはわかっていた。

 春子さんが私にこの着物を渡したことに、そうする必要性があるのなら、『そういうこと』なのだろうと。


「……一人になるのを見ていたから声をかけたのでしょう?」


 聞いたことのある声だった。

 頭の中で情報が繋がって、納得感が湧き始める。

 なんで私が執拗に狙われていたのか……何故、私がこの『旧都砦にいた時と同じ服装』でここに待機するように仕向けられたのか。

 それが『囮』として機能する相手とは一体誰なのか。


「久しぶりですわね……黒雄さん。 けれど……そのお体はどうしましたの?」


 振り返って見た姿は、半分想定通り。

 声から察した通りの顔見知り……生真面目そうな眼鏡と見栄えを気にしてキッチリと整えられた黒髪から一目でこの世界の人々から浮いた『日本人だ』と思わせる容姿の青年。

 旧都砦で一緒の時間を過ごした転生者の一人、『硲田黒雄』。

 ただ、半分想定外だったのは……


「ペラペラ……ですけども。それ、大丈夫ですの? 人間として……というよりも、人体として」


 比喩ではなく、薄っぺらの紙に印刷された絵のようにしか見えない身体。

 しかも、憶えている通りの容姿の上半身はともかく、下半身は足がない代わりにその部分が溶け込んだような赤い紙が細長い尻尾ように伸びている。

 まるで、昔テレビのCMか何かで見かけた反物の『妖怪』のよう……いえ、まるでというか……


『俺が死んだと思ってたか?』


「まあ、はい。レイさんからは、旧都砦から脱出した人たちの中にはいなかったと……だからてっきり、あの日の戦闘に巻き込まれて亡くなったのかと思っていましたわ」


『……そうさ、俺は旧都から離れなかった。アントニオと一緒に遺跡の隠し部屋と食糧を見つけて隠れてたんだ。そのせいで、お前たちの「最終決戦」に巻き込まれてこうなった』


「最終決戦……確か、ピークドットでの戦いの後、旧都へ場所を移して行われた『恐怖の大王』との戦いでしたっけ?」


『白々しいな、お前。記憶がないとは聞いてたが……そうだよ。遺跡が崩れた時に落ちてきた瓦礫に足を潰されて、なんとか止血しようと手近にあったものを、この「白紙の巻物」を遮二無二巻いた……それが、邪神崇拝者共が儀式のために集めていた「森の民の神器」の一つだったんだ』


 私の初登校から二日目に受けた千里先生の授業を思い出す。

 神器と融合した人間というのは、実物は見たことがないけれど聞いた覚えがあるパターンで……


「傷口に神器を巻きつけて、血を吸わせて……そのまま融合して、『妖怪』に、なってしまいましたのね。運が良いのか悪いのかはわかりませんけれど」


『悪いに決まってんだろうが!! こんな姿になっちまって、オマケに独立軍の後ろ盾だった第二王子は捕まってテロリストのレッテルを貼られた俺はもう普通には生きていけない! なのにお前らは、お前はどうなんだ夕子!』


「…………」


『俺とお前で何が違った!』


 激昂する黒雄さん。

 その身体が、その姿を写した『紙』が、怒りに呼応するように膨らみ始める。

 厚みを、質量を持って巨大な人型を取り始める。


『俺はお前と違って人も殺してねえのに、お前だけ……「戦後英雄プロダクション」だなんて、自分だけ英雄扱いされようとしやがって……俺が脚を失ったのも、他ならぬお前たちの……あの日あの場所で大暴れして遺跡を壊した「お前」のせいなんだぞ……なのに、俺の能力で与えてやったポイントまで自分の都合のいいように使いやがって!!』


 ズシン。

 風に漂う反物のように薄くなっていたものが高密度の紙の塊となって地に足をつけて自立し始め、さらに急速に増えていく重量で地面を鳴らした。


『アントニオもそうだ! あいつ、ノーランの復興なんかを目指して政府からもらった金で商売なんて始めやがって……俺と一緒に隠れてただけのくせに!』


「…………」


『あいつはただあの戦場で間抜けなお前らが落っことした「祭壇」を拾って、ヒイヒイ言いながら転げ回って、反吐はき散らして血反吐まで吐いて無様に死にかけながら祭壇を聖女のところまで届けたってだけで……あんなみっともない姿晒してただけで英雄の一人みたいに赦されやがって!! 俺だってな! 自分がそうしていれば結局五体満足で生き残って英雄になれるって知ってたら間違いなくそうしたんだ!!!』


「だからあのイベントを……だから、私を狙ったんですの?」


『……元々、シックス・ブレイブは許せなかったから目をつけてたんだ。そしたら、しばらく見なかったはずのお前まで連れ立って、何を始めたかと思えばレイのやつに俺の能力を使って強くなるアドバイスなんて受けやがって……その後も、シックスのやつはお前を……お前なんかを、前に進ませようとして、聖女や転生者なんかに引き合わせやがって……ふざけんな! 俺が世間から必死に隠れて生きてるってのに、お前だけ! お前らだけ!! お前らのせいで!! あいつの、シックス・ブレイブのせいで!!!』


「シックスさんの……?」


『そうだ!! あいつのせいで「戦争」が終わって俺の能力に使い道がなくなったんだ!! 生まれついての勇者だかメアリーなんたらだか知らねえが、戦争してる世界だって聞いて、そのつもりで転生特典を選んで降りてきた転生者からしたら戦争を終わらせてめでたしめでたしなんてハッピーエンドなんて求めてないんだよ!!』


「…………」


『だが……俺は、負け犬のまま、見下されたままなんかじゃいない。なあ、夕子……お前は俺の能力を憶えてるか?』


「……『課題をこなすとスキルを上げられるポイントをもらえる「テスト用紙」を生み出す能力』だったように思いますけれど、さっきからあなたが巨人のように大きくなっているように見えるのは、気の所為ではありませんわよね? そんな力もありましたの?」


『いいや! 同じ能力さ!! ただ、この神器は「物体を収納できる紙の神器」だったらしくてな、俺の能力で作った「神器の紙」を食わせると増えるんだぜ。単なる紙じゃいくらあっても餌には不足らしいがな』


 また、授業を思い出す。

 『森の民の神器は生きている』。

 そして、『人間との融合などで想定外の変異を起こす場合がある』。


 テーレさんは『人間を収納できるような神器がない』という話をしていたけれど……容量の少ない収納神器の変異を、その先の成長を促す『餌』を用意できる転生者がいれば成長させられる。


 それなら、これまでのことも説明できる。

 『スキルを与える』というのも黒雄さんの能力なら『闇市』の技術がなくてもできるのは私が身をもって知っている。


『ビビったか? 他のやつが使えば単なる小物入れだが俺が使えば無限質量、無限収納の最強神器になる……これはもう「運命」だろ!! だから決めたんだ!! 俺は「紙の神」になる!! 妖怪の退治屋なんて気取ってるお前らを手始めにぶっ潰してなあ!!』


 『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』。

 『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』『絶望しろ』──

 紙に浮き出たテスト用紙に書かれた唯一の課題。

 それが数え切れないほど無数に連なっている。


『さあ!! まずはお前、次はシックスブレイブだ!!』


「…………」


『聞いたぜ、この先にあいつの身内がいるんだってなぁ? 前にお前の「不明」のせいにしていただいた資料で読んだぜ? 資料は長く会ってない身内が平穏に生活できてるかどうかの調査書みたいなもんだったが……それによれば、あいつのババアは普通の村に住む普通の弱い人間、人質にすれば芋蔓式に戦英プロの連中も封じられるぜぇ!?』


「……薄っぺらい人」


『ああんっ!?』


「あなたの能力なら戦争なんてなくなってもいくらでも使い道なんてあるはずなのに。『戦後』に入ってもうそろそろ一年だというのに、そんな使い方しか思い浮かばないんですの?」


『生意気だぞてめぇ……まさか、今の俺に勝てると思ってるのかぁ?』


「その言葉、そのままお返ししますわ。戦時中、いつも砦に籠っていて戦場に出たこともないあなたが私に勝てるとお思いですの?」


『そんなに無謀な挑戦がしたきゃ相手してやるよ……だが、始める前に一つだけ聞いておいてやろうか』


 巨大化した紙の巨人に合わせて巨大化した黒雄さんの紙面の上の顔がニヤリと歪む。

 そして……こう言った。


『夕子、お前は「記憶喪失」だそうだが……お前がそうなったのがあのシックス・ブレイブとかいう自己中なクソアマが「選んだ」結果だってことをわかってるのか?』


「選んだ?」


『わかんねえだろうなぁ? こう言い直してやるよ。お前は、お前らは、あいつが「死に戻り」できるって……「タイムリープできる勇者」だってのを知ってて、こうやって実現したお前らの全員生存ルートも、万に一つの奇跡みたいな大勝利の連続も、ただ「そうなるまでやり直しただけ」だってことがわかってて、あいつに理想のリーダー面させてんのか?』


 聞き慣れない言葉をいきなり会話の中に放り込まれて困惑する私に、黒雄さんは目を見開いてこう言った。


『「この世界はループしてる」って言ってんだよ! あのクソ勇者の身勝手のためにな!』


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確かな成長実感どころか、事実スキルポイントを付与できる最高の教育者の可能性が、ただ本人の薄っぺらさのせいでしんだ!この人でなし?! 課題『ループものの短所、「この犠牲は許容せざるを得ない」 をテーマ…
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