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転生したので狂信します外伝:『夜神夕子の友達100人計画』  作者: 枝無つづく


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第33話 『舞踊剣士』

side 夜神夕子


 『舞踊剣士(ダンシング・ナイツ)』。

 今回のティーンズのライブ演出で登場する、舞いながら戦う剣士のコンビ。


 その衣装は中華風の着物に近いデザインで、剣舞を大きく派手に見せるように袖や裾が広く作られているもの。

 身体のラインが外見に出にくいそれに仮面を加えれば、『中の人』が私たちだとはそう簡単にはわかりませんわ。


「ちなみに、今回は初登場で『ゴーレムか人間かもわからないキャラ』って感じで通すし『正体は全てが謎』って設定だから、仮にミスってズッコケたりしても後から公式でドジっ子属性とかにできるから気軽に()ろうね」


 舞台袖での待機中、そんな事を言ってリラックスさせてくれようとしてくれるのは同じ衣装を着た春子さん。

 ライブは既に始まっていて、リハーサル通り順調に進行中……今は例のショートドラマのアニメーションが始まっていますわ。

 前は単なるファンタジー仕立ての演出だと思っていましたけど、それぞれのキャラにモデルがいる『実話』を比喩的に表現したものだと知った今だと……


「春子さん……『戦英プロ』って、『戦後英雄プロダクション』って、すごい会社ですのね」


「……どうしてそう思ったの?」


 まるで最初から私の答えを知っているかのような、優しい微笑み。

 けれど……これは、私自身が言葉にしたいと感じたことだからこそ、春子さんが先を知っていても関係なく言葉にする。

 心を言葉にして、確定させるために。


「私、最初は『戦後はお払い箱になってしまう英雄の身の振り方を探すための場所』という意味の名前だと思っていましたの……強引にでも役に立つ仕事やコネクションを作り上げて、印象を良くするためにアイドルなんかも仕立て上げて、戦時下の負の遺産そのものである自分たち自身になんとか納得できる始末をつける……根本的には、そんな苦し紛れの取り組みなのだろうと」


「…………」


「けれど……違うのですわね。『戦後英雄プロダクション』は、『戦後の世界で英雄になれる人』をプロデュースする会社なのだと、そうなろうと皆さんが頑張っている場所なのだと、ようやくわかりましたわ」


 『戦場』が世界の基本風景だなんてことはない。

 『戦争』の終わりが世界の、物語の終わりだなんてことはない。

 『戦後』はただ退屈で語るべき物もない物語に、英雄も偉業も何もないロスタイムになるなんて、そんなことはない。


 戦い方が変わるだけで、やるべきこともやれることもいくらでもある。

 少なくとも……『戦後英雄プロダクション』は、それを信じてやれることをやっている。


 まだ世間に認めきられていないとしても、満身創痍の大人たちと罪の清算を済ませないと社会に出すのが難しい子供組しかいないとしても、こうして胸を張って自分たちを見せられる仕事をしている。


「私は……まだ、何もできてないけれど。皆さんと一緒に、いつか……」


 ステージ側から見えないように、アニメーションの映し出されているスクリーンに手を伸ばす。

 けれど、そこで……


「『いつか』じゃないよ。だって、『まだ何もできてない』なんてことないんだから」


 春子さんが、私の仮面を外す。

 少し広くなった視界……よく見えるようになったスクリーンに映し出され始めるのは……リハーサルにはなかった、私の知らないショートドラマ。


 それは……


『さあ! ここで今回のサプライズ発表だー!』

『我らがレジスタンスに新たに加わった新隊長の紹介よ!』


 アニメーションの背景が『石切場』の景色に変わる。

 そして、その中央に置かれた巨岩の表面に『切れ目』が走って……はじけ飛ぶ瓦礫の中から現れる兎の石像と、その上で剣を背中の鞘に収める和服の黒兎。


「えっ……あれって……」


『ねえ、同志のみんな! あれ見て! ほらあれ! 早速すごいの作ってるよ!』


『新隊長は「石切兎」! 剣が達者な力持ち! 次回の活躍報告には期待して! もちろん、新曲にもね!』


 一気に盛り上がる会場。

 あまりのサプライズに唖然としてしまった私と、それを見て小さく笑ってから私と自分の仮面をつけ直す春子さん。

 それから……


「サプライズっていうか、リハの時はまだ完成してなかっただけなんだけどな。マジで春子からいきなり作れって言われて急ぎで作ったんだぜあれ?」


 『暗黒帝国の憲兵』としての衣装を着てメイクを決めたタカラさんが、やれやれと首を振りながらやってくる。

 春子さんは仮面をつけたまま『ほんとごめんね?』と言うように手を合わせて、タカラさんは小さく溜息をついてからステージに向き直る。


「じゃ、そろそろ先に行くぜ。お前らは少し後だから出番のタイミング、間違えるんじゃねえぞ?」


 タカラさん専用の乗り物と憲兵団役の魔法人形が置いてあるエントリー位置へと向かっていくタカラさん。

 私たちの出番までの残り時間はあとほんの少しだというのに……


「もう……本番直前に……集中できなくなってしまったらどうしますの……」


「うん、それはごめん。でも……これも、この後のために必要なことだから。夜神さんは、自分がやるべきだと思ったことをやればいい。それだけ憶えておいて」


 仮面の下でちょっと泣きそうになっている私にかけられる春子さんの意味深な言葉。

 その意図を聞き返す前に……


「んっ……」

「おっ、来たね……」


 身体の主導権を体内の『ゼット・ネイバー』に奪われる感覚。

 主導権を奪われると言っても、あくまでアシスト……本気で抗えばちゃんと自分で動けるセーフティーはついているけれど、逆に言えばアシストに抗わなければ身体が勝手に動く状態。


 こうなれば、私が泣いていようが笑っていようが関係はない。

 春子さんを見れば、まるで意思のない人形を演じるかのように力を抜いて、全身の動作確認をするみたいに関節を動かして、心じゃなく肉体から『謎の刺客』の役に入っていて……すぐに、私自身も同じように身体が動き出し、役に入る。


 事前に体験してはいたけど、やっぱり不思議な感覚

 今の私たちは、完全に抵抗感を捨ててアシストに身を任せた『操り人形』になってる。

 そして、それを繰るのは……


『行け! ダンシング・ナイツ!』


 タカラさんの声に身体が反応する。

 全自動で駆け出した肉体が、ヒラヒラとした衣装を魅せつけるように大きな動きを加えながらステージの上へ立つ。

 仮面で少し狭くなっている視界の中、私の目の前には勝ち気な笑みを浮かべたベルシィさんがいて……


「(さあ、演るよ)」


 声のない口の動きだけの合図。

 戦闘用とは違う、小道具としての軽くて丈夫なだけの模造品の戦斧を……それでも見事な動きで振り回して、アシストに従って動くこちらの肉体が勝手に振りかざす剣に合わせて舞い始める。


 リハーサルでも見たはずの動きではあったけれど、本番のステージの上で改めて見るそれはリハーサルにはない本気の迫力と流麗さが際立っていて……


「(すごい……)」


 思わず、そう呟いてしまうくらいに綺麗だった。

 アシストがある私たちとは違う、三日前に突然ねじ込まれたはずの演出なのに、本当に戦っているみたいに自然で、それでいて客席から美しく見えるように動きを選んでいるのがわかる。


 それを見て……初めて、生まれ変わる前の前世まで含めて生まれて初めて、納得できた気がした。


 『ああ、これが本当に舞台(ステージ)に上がるってことなんだ』って。


 舞台に上がっておいて、一歩も踊らないまま心臓を止めた前世の最期を思い出す。

 あの時は私にとってはその結末が全てで、夢で、復讐で、悲願だった……私のような人生なら、私が私でなかったとしてもきっと同じ結末になると信じて疑わない、どうしようもない袋小路の人生の行き止まりの最後の一歩を見定めていたのが『舞台の上』だった。


 私の中に、『客席』なんてなかった。

 孤独で、辛くて、誰にも理解されない苦しみの結末を見せつけてお母様に自分のしてきた行為の間違いを突きつけるためだけの舞台で、それを見るお母様以外の観客や審査員なんて存在すら意識していなかった。


 けれど……


「わぁ……」

「すごっ……」

「きれい……」


 狭い視界の中。

 激しい動きの中でそれでも視界に入る客席の観客たちが、私たちの殺陣(タテ)に目を奪われて息を呑んでいる。


「(……ありがとう)」


 気付けば、仮面の下でお礼を言っていた。

 見てくれて、真剣に見つめてくれて、綺麗だと言ってくれて、感動してくれて……私の努力に意味をくれて、ありがとう。


 本当に、自然とそう思えた。

 前世の最期に感じた虚しさがどうしてあんなに寒々しくて……辛くて、心のどこかでどうしようもなく後悔しながら死に堕ちて行ったのか、今になってやっとわかった。


 私は……自分で自分の人生を無意味だったことにした。

 強制されて、他の全てを犠牲にして、ひたすら辛くて苦しかった日本舞踊のお稽古だけれど……一度くらい、ちゃんと認められて、人を感動させて、あんな顔を向けられてみたかったのに、それを自分で認められなかった。


 けれど……辛くて辛くて、それでもやめさせてもらえなかっただけではあったけれど。

 それでも、私は人生をかけてこの技を究めたのだと、これだけは誰にも負けないと、それだけは誰かに認めさせたかった。


 ああ……そっか。

 だから、だったなんて……


「(蓬さん……)」


 ステージの上から見える客席。

 その後ろ……私たちの動きに目を奪われている観客たちには見えない遠い位置に集まった『初期対応部』の皆さん。


 蓬さんが親指を立てて……『作戦完遂』のサインを見せつけていた。


 予想されていた妨害工作の全てを、処理し終えたという合図。

 イベントに響く騒ぎにすることもトラブルを気取らせることもなく、全てを『初期対応』で終わらせた。


 後は私たちがステージを演りきるだけ……このまま、何事も問題なくリハーサル通りに行けばそれでいい。

 なのに……なのに……


「(蓬さん……見て……気付いて、くれるかしら)」


 いけないことなのはわかっている。

 最後まで、退場の瞬間まで、アシストに身を任せるだけでいい……それで問題ないのはわかっているのに。

 気持ちが抑えきれそうになくて……相対するベルシィさんを見つめた。


 彼女が『台本通りの演技』に夢中なら、きっと気付かない。

 こんな仮面越しの視線なんて、練習も何もしていないアイコンタクトなんて、伝わるわけもない。


 なのに……


「(……いいよ。合わせるから、演ってみて)」


 彼女の口は、確かにそう動いた。

 その瞬間、私はアシストを抑えつけて自分の意志で動いていた。


「あっ……」


 客席の向こう側。

 蓬さんが息を呑むのが確かに見えた。

 私と『守護者』をぶつけ合った彼女なら、きっと気付いてくれると信じていたから、嬉しかった。


 ほんの、五秒にも満たないアドリブ。

 私の動きが『剣舞』ではなく『日本舞踊』に変わった一息の剣戟。


 その中で起きたのは、台本の上では絶対にありえてはいけない逆転現象。

 確かにほんの一瞬だったけれど……私の『動き』が、ベルシィさんを超えた。


「──ッ!?」


 前世で、文字通り死ぬほどに『同じ動き』を数え切れないほど繰り返した。

 いつの間にか、指先までミリ単位の誤差もない精密動作を当たり前にしてしまっていた。

 だからこそ、それをそのまま『超高速』で再現できる、きっと他の誰にも真似できない私だけの技。


 剣が届かないようにわざと外しはしたけれど……その一瞬、私がどんな動きをしようと『合わせる』つもりでいたはずの、戦士としてのベルシィさんの反応力と対応力を超えて『ベルシィさんを仕留められる動き』をした。


「えっ……いま、なんか……」

「あの子以外、時間止まってた……?」

「いや、でも全員、ちゃんと動いてた……よな?」


 会場全体に、まるで幻想に呑まれたかのような放心の気配が満ちて……そのすぐ後に、時間が一瞬消し飛んだかのような困惑に近いざわめきが湧く。

 蓬さんの表情に……『信じられない』という驚嘆の色が浮かんでいる。


 ああ……報われた。

 前世で最期にこびりついた未練がなくなった。

 私が『転生者』ではなく『幽霊』だったのなら、きっと今この瞬間に成仏してしまっている。


「(ありがとう……本当に、ありがとう)」


 正しく『日本舞踊』として魅せられたのではないけれど、お母様に見せられたものではない曲芸の類になってはしまったけれど。

 たった一瞬、こんなにたくさんの人が同時に私の動きに魅入られた。

 世界に平等に流れているはずの『時間』の概念を疑うくらいに私の動きに呑まれて……蓬さんが、『絶対に真似できない』と感じたことを表情で語ってくれて。


 私は、それだけ『頑張って』いたんだと、やっと思えた。


 『苦しめられて』。

 『縛られて』。

 『奪われて』。

 ……それは今でも否定できないし、『苦しかった』のも『不自由だった』のも、たくさんのものを『失った』のも間違いなく本当だったけれど。


 決して、好きでやっていたことではなかったけれど……ちゃんと、人生をかけてやってきたことの結果を舞台の上で示せた。


 お母様に褒められたことはなかったけれど、他の人なら一目でわかるくらい、私はちゃんと頑張ってはいたんだ。

 最後の最後で頑張れなくなってしまったけれど、無理に心臓を動かし続けるのに疲れてやめてしまったけれど……私は、『誰にも真似できない動き』ができるくらいまで頑張って、本当に限界まで生きて死んだのだと確信できた。


 今更の話ではあるけれど……私は、『自殺』なんて本当はしていなかったんだと、転生者になったのも間違いなんかじゃなかったんだと思える。

 今、この世界で生きていることに、自分がここにいることに、やっと納得できたから。


 だから、これで充分。

 あとは、台本通りにベルシィさんにふっ飛ばされて退場すれば……



「あれ!」

「な、なんだ!?」

「紙? 上から何か……!?」



 そこで聞こえた不穏な声。

 観客席の人々の意識がステージの『上』に向いている。

 それはまるで、巨大な何かが落下してくるのを目撃しているようで……


「っ! こっち!」


 ベルシィさんの戦斧に衣装を引っ掛けられて、大きく振り回される。

 その直後、私のいた場所の近くに『ズシンッ!』と重い音と粉塵を上げながら落下してきたものは……


「ぶ、仏像……?」


 私の背丈の倍ほどはあろうかという、異様なデザインの木像。

 背中に神社の鳥居を背負い、たくさんの腕に数珠を巻き、その手には武器のように十字架を掴んだ、いわゆるアルカイックスマイルと呼ばれるような表情を浮かべる『仏像』は……その顔を歪めて、牙の生えた大口を空けて吠えた。


『ゴァァアアアアアオオオアアアァァアアッ!!』


 ビリビリと響く音にたじろぐ私の隣。

 セットの裏に隠していたのか、いつの間にか小道具の戦斧を『本物』に持ち替えたベルシィさんが囁き声で言った。


「夕子、気を付けて。この気配……こいつ、『妖怪』だよ」


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