第28話 『夢占い』の転生者
side 夜神夕子
『魔法知性学応用研究所』。
戦闘が激しかったピークドットの復興地区に作られた比較的新しい建物であり、私も基礎教養の教育ゲームや通信端末として恩恵を得ている改造魔法生物『ゼット・ネイバー』の研究をメインとした専門施設。
そして、言うまでもなく『戦英プロ』の関連施設の一つ。
遺伝子学をメインとするシィさんの研究所とはまた別の場所ではあるけれど、この世界の一般的な技術レベルから見れば革新的な研究をしているのは同じなのもあってセキュリティもしっかりしているそうで。
『刺客の襲撃』を受けた直後に避難する場所としては順当だと思いますわ。
ただ……
「もしもし? さっき捕まえたあの人、テーレさんの方に回しておいて。早めに尋問して知ってること全部吐いてもらわないといけないから。え? 私なら尋問の結果も知ってるんじゃないかって? 私の『占い』も的中率100%じゃないからね、裏取りは必要だよ。じゃ、他にも連絡する所あるからそっちはよろしくー。あ、もしもーし、愛理さん? 一時間くらいしてテーレさんの方の尋問が終わったら『靴底男』の隠れ家を襲撃することになると思うから、今のうちに準備お願いしまーす」
『準備が良すぎる』。
受けたのはそんな印象。
私とシックスさんを狙った刺客を逆奇襲で昏倒させて避難先としてここに導いた春子さんという転生者……これに関しては記憶に大きな空白がある私にとって慣れてしまったことだけれど、私のことを一方的によく知っているように接して来るのはいい。
けれど、私たちの誘導やその間の安全確保、そして後処理の連絡も手慣れすぎているというか、まるでルーティンワークみたいに手際がいい。
仮にも『奇襲を受けた』というお話なのに。
予め刺客と打ち合わせでもしていたんじゃないかと思ってしまいそうなくらいにスムーズな動きですわ。
これでさらっと『実は自分が黒幕だ』とでも言われたら逆に納得してしまいそうなくらいに。
「あはは、戸惑ってるね。夜神さんは春子さんの能力を見るのって初めてだったよね。まあ、厳密には今使ってるわけじゃないけど」
「シックスさん……彼女の能力って」
「うん、朝言った『占い』だよ。他人に説明するのは難しいらしいけど、『これから何が起こるのか』を『もう経験したこと』みたいに予知できるんだってさ。だから、時々こうやって私たちと見てる視点とか時間の感覚がちょっとズレた感じになるんだ。初めて見ると戸惑うけど、後から全部を振り返ってみると『ここでこうしておくとこうなるから、予めこうしておく必要があったんですね』みたいに納得できるから、春子さんのことは信頼していいよ」
『未来予知』。
レイさんの研究を手伝ってくれていた夢川さんも『未来視』という能力を持っていたけれど、他人の行動までは予測できないらしいそれとはまた別の能力なのでしょうね。
本人の言う通りなら『的中率100%ではない』というのが夢川さんの能力の上位互換ではない部分なのかもしれませんけど。
「あー、シックスさん、ちょっと来てもらっていい? 夜神さんはそのままでー」
「はいはーい。じゃ、ボクちょっと行ってくるよ」
「それは構いませんが、私はなにをしていれば……」
「夜神さんは待っている間、これで遊んでてー。試作品だからテスト協力ってことで、後で感想聞かせてくれればいいから」
「遊んでてと言われましても使い方も……」
そう言いかけて、春子さんの示した台座付きの水槽のような装置を見遣ると……そこには、私の『後遺症』を考慮して読みやすい文字で書かれた説明書が。
『簡単! 誰でもわかるドールメイカーの遊び方!
①作りたい人形の基本モデルを選択!
(今はまだ実装モデルが1種類だけだからそのまま【次へ】を押してね!)
②それぞれの部位アイコンから着せたい服装の組み合わせを選択!
③【決定】を押せば自動で生成開始!』
……本当に、準備のいい人ですわね。
けれど、人形を作れると書かれていても液晶画面付きの水槽のようなものに白い液体が入ってるだけなのですけれど……
「とりあえず、モデルは選択できないので【次へ】を押して……服装は……この制服、とかでいいのかしら?」
試作品のテストとも言われているので待っている間に何もしていないと逆に迷惑かとも思い、とりあえず各部位の服装を一番上の選択肢に指定して、【決定】を押してみる。
すると……
「わあっ!?」
水槽の中の白い液体が、まるで生き物みたいに立ち上がって人の形を作る。
しかも、その表面から『制服』らしき形や模様が浮き出てきて、色もついて……等身大の、小学生くらいの子供のリアルな人形に……
「す、すごいですわね……日本でもこんなもの作れないんじゃありませんの?」
3Dプリンタというものはテレビで見たことがあるけれど、これはまるで魔法のよう。
いえ、技術的に考えれば本当に『魔法』も入っているからこそできるのかもしれませんけれども。
「あ、これオプション機能もありますのね……表情に、ポーズに……テストというのなら、これも試しておかないと」
見事な技術に驚きながら、つい夢中になって『遊び』に熱中してしまう。
服装の選択、ポーズの選択、表情に、ちょっとした装飾品。
本当に私でもできてしまうくらい簡単な操作で人形は一度液体に戻って新しいリクエストの形を実現してしまう。
そうして、どのくらい経ったかもわからないくらい夢中になってしまって、ふとオプションの端のアイコンを見て……
「あら? これ、下着の選択までできますのね……見えない部分まで作り込めるなんて」
……ついつい、ほんの出来心。
服装の下半身部分をスカートに指定して、ちょっと可愛らしい動物プリントの下着を選択。
そして、決定を押して……と。
「テストというのなら、こういう部分もちゃんとできてるか確認しておくべきですものね……」
周囲を確認。
意を決して、息を殺して、目の前の布を指先でめくって……ピラリ。
そこには……
「あら? 指定した動物と違いますわね……それになんだか、少し膨らんで……バグ?」
少々予想と違った結果。
これは一応テスターとして春子さんに報告すべき案件かと思ったところで……
「なっ、おまっ、いきなり……」
……頭上から可愛らしい声。
顔を上げてみると、何故でしょう?
同じ顔の人形が二つ……?
それも、片方はそんな表情指定はしていないのにすごく赤くなって、私を見下ろして……まるで……
「本物の人間、みたいな……」
「きゃぁあっ!?」
「うきゃぁああっ!?」
まるで本物の人間の声みたいに響く悲鳴。
驚いて尻もちをつきながら、私も悲鳴をあげてしまって、動揺のまま視界の端に見えた白衣の研究員さんに訴えましたわ。
「に、人形が叫びましたわ!?」
「いや人形じゃねえよ!? てか仮にもクラスメイトの顔した人形相手にスカートめくりすんな!」
「クラスメイト……?」
「あ、主任くんおかえりなさーい。あれ? ライブ衣装のまま帰ってきたんですか?」
「マリア! てめえ荷物に着替え入れ忘れただろうが!」
「…………あっ!」
「おかげでオレこの格好のままここまで帰ってくる羽目になったんだからな! てか、おい春子もお前! 絶対こうなるってわかってて誘導したろこのタイミング!」
「んー? なんのことかなー?」
「白々しいぞこのクソ占い師! 今日になっていきなりドールメイカーを完成させたと思ったら基本モデルとして勝手にオレのデータ使いやがって! これが目的だったろ絶対!」
「いやー、イラズくんくらいのサイズだと必要な液体の体積と細部の精度の兼ね合いがいい感じになるからさー。ま、これでいきなり本人とすり替わってもとっさには気付かれないくらいの人形ができるって証明されたってことで。マリアさん、記録よろしくー」
「はーい!」
「この女共……」
拳を握ってプルプル震える人形そっくりの女の子……?
いえ、話を聞く限り人形のモデルだそうなのでそっくりなのは人形の方なのでしょうけど、さっき見えたあの膨らみは……
「お、男の子……ですの?」
「ん? そうだよ。てか夕子、お前正式にCクラスに入ったんだろ? オレはいつも研究所の方でやってるから教室じゃ会ってないが、一応はクラスメイトってやつじゃねえか。そもそも完全に知らない仲ってわけでもないし、そんな初対面みたいな顔するか普通?」
「あ、主任くん! 夕子ちゃんは記憶が……」
「記憶? あー……そういや、そんなこと言ってたか。てかなんだよ、じゃあ今のお前にとってはガチで初対面になんのか?」
「え、あっ、はい……」
「……『タカラ』だ。本名は別だが、今は基本芸名の方でやってる。無遠慮に本名の方で呼んでくるやつらもいるけどな」
そう言って睨むタカラちゃん……いえ、下手をすると私よりも大人びているようにも見えるタカラさんの視線を受けて苦笑いをした春子さんは私に顔を向けましたわ。
「イラズくん……タカラちゃんは、ベルシィちゃんミュジカちゃんと同じ『アウトゾーン・ティーンズ』のメンバーだよ。ティーンズは最初は二人だったけど今は三人でやってるグループなんだ。まあ、タカラちゃんのポジションは少し特殊で半分くらいはソロアイドルみたいなお仕事してるけど」
「この研究所の技術を宣伝するのも兼ねてな……てか、今日は春子が占いの結果でどうしても必要だって言うからぶっつけでゲリラライブやったんだぞ。本格的なライブが目の前なのに。このドッキリが目的だったらしばくぞこの野郎」
「いやね、それはついで。あの刺客が来る時に周りに余計な人がいるとちょっと巻き込みとか人質とか面倒なことになるルートもあったから、いい感じに人払いしておいてほしくてさ」
「おいこら、『それはついで』って完全に認めたろドッキリの方。しばくぞこいつ」
「うわーん、マリアちゃん助けてー。主任くんのご機嫌とってー」
「はいはーい。ほらほら、主任くん。ライブご苦労さまでしたのクッキーですよー」
「……チッ、お前がまたなんかやってるのはわかってるからな。オレと夕子の『引き合わせ』はこれで満足か?」
「……うん、そうだね。これからは仲良くしてあげてくれると助かるかな」
「……ったく、これから何が起こるってんだよ。面倒なことだけはわかるが、まさかこいつ次第で今度のライブが失敗するとかって話じゃないよな?」
「…………さあね、それはまだ、わかんないかも。『未来は未定』、だからさ」
そう言って、春子さんは表情を変える。
今のタカラさんとの会話なんてなかったみたいに、気分を入れ替えるみたいに。
「そうそう! 今度のライブ! 実は夜神さんにはその話のためにこの研究所に来てもらったんだった!」
そして、彼女は私の方へやって来て顔を寄せて、もう答えを知ってるみたいに、予定調和のルーティンみたいにこう言った。
「ねえ、夜神さん。『剣舞』って知ってる?」
「剣舞……? 一応、そういうものがあるってことくらいは……」
「うんうん、『そういうものがあるってことくらいは知ってる』なら上等だよ。突然の話だけどさ……三日後のティーンズのライブの時、私の相方としてステージの上で一緒に舞ってみない?」




