第27話 『夢のような世界線』
side 夜神夕子
『ねえ、夜神さん。もしも……もしもさ、この世界が私の見てる夢だって言ったら信じる?』
目の前にいる『勇者』は、まるで良くできたハッピーエンドを迎えて魔王を討った後の後日談のような世界に生きる彼女は、どこか妖しく微笑みながらそう言った。
『本当は、本来は何年か前に……そうだね、大体三年くらい前。私が「死んだふり」をし始めたってことになってる事件の時、実際は死んだふりなんかじゃなくて本当に死んじゃっててさ……私は、どうしても自分が死んじゃったなんて信じたくなくて、自分がちゃんと「勇者」として使命を果たして、本来は出会うことすらなかったはずの「未来の仲間」と一緒に戦後を明るくするための会社なんかを楽しくやってる。そんな都合のいい夢を死に際に……それか、死んだ後になっても、ずっとずっと夢想し続けてる』
カランカランと、グラスの中の氷が溶けて、崩れて、音を立てる。
『アルゴルモアの魔王は「危惧を現実にする魔王」だった……人の不安、世界の滅び、その結末に繋がる脅威の具現。そして、私はその魔王を倒すために生まれた。皆の不安を消して、アンゴルモアの魔王の力を弱らせて、私自身も不安に屈しない……そういう性質、そういう体質の人間なら不安と恐怖の魔王を斃せるんじゃないか。そんな無意識の期待の結晶として生まれた勇者……それが実現する保証なんてなくても、あたかも確定した未来みたいに都合の良い夢を見せて、自分自身もその夢の中に生きるようにできた勇者。だから、その夢と矛盾してしまった都合の悪い現実を突きつけられれば夢の中に逃げ込むしかない』
彼女は語る。
私の目を真っ直ぐに見て、問いを投げる。
『夜神さん……あなたは、本当に「記憶喪失」なのかな? 本当は忘れたんじゃなくて、最初から知らないだけじゃないかな? 本当は……この世界の外側から、都合良くなんて行かなかった本物の世界から何かの拍子に紛れ込んできちゃった「私の夢の中の人」じゃない方の夕子ちゃんじゃないのかな? 私さ、あなたが私を見てすごく驚いてて、そんなことを思っちゃったんだ。もしそうなら……私はやっぱり、あの時に死んじゃったのかなって』
そして……
「…………なんてね! 今のは全部冗談! ちょっと信じちゃったりした? いや……よく考えたら記憶喪失の人に悪質なホラ話をあたかも本当のことみたいに吹き込むのって悪質すぎるねこれ、勇者のすることじゃないよ」
急に空気を弛緩させて妖しい雰囲気を引っ込めるシックスさん。
私も、いつの間にか止めてしまっていた息を盛大に吐く。
少しでも意識を切り替えるために。
「はあぁぁ…………本当ですわ。そういう不安になるようなことを言うのやめてくださいまし」
「あははっ、ごめんって。でも、今の話で夜神さんに不安になるような要素ある? 話したのが本当なら死んでるのは私の方なんだけど」
「不安になるに決まってるじゃありませんの。知ってると思いますけど、私の最後の記憶って旧都の砦が攻め込まれてノンさんに殺されかけてる瞬間ですのよ? そこから助かったというこの世界が『夢』だというのなら、私も普通に死んでるってことになるじゃありませんの」
「あー……あははっ、いや、うん。それもそうだね、ほんとごめん。いやまあ、なんていうかあれだよ……『勇者の苦悩』みたいなものを感じてみてほしかったというか、『この世界が自分に都合のいい妄想だったらどうしよう』みたいな?」
「それ、勇者の苦悩というか思春期の軽い病気みたいなものじゃありませんの?」
「まあ、それ言われちゃうと否定しきれない部分はあるんだけどね……この世界が本当にボクにとって奇跡的な『生存ルート』な世界線らしいってことは間違いないみたいだし」
「?」
「こっちの話。ただ実際問題、『勇者』の生まれ持った性質って馬鹿にできないっていうか、そういう精神影響的なやつは多少なりともあったりするんだよ。ボクの場合、なんかこう『ボクが世界の中心で絶対勝利が確約されてる主人公』みたいに自分とか周りが無根拠に信じちゃいやすいというか……そのチェックリストを見てもらったのも、そういう傾向がどれくらい強いかを確かめたかったというか」
「正直に言って馬鹿馬鹿しいと思いますわ……三年前なんて転生してきてもいない私がシックスさんの夢に出てくるわけもないですし。チェックリストも……確かに結構当てはまってはいますけど、こんなの誰でも多少は当てはまるものだと思いますもの。特に、シックスさんみたいにハイスペックで人から好かれるような人格の持ち主ならそれだけで周りの人が自然と引っ張られていくような『主人公っぽさ』はそりゃいくらでも見つかりますでしょうに。なんなら社長サマとかレイさんの方が当てはまる項目の数もそれぞれの特徴の強さも上ではなくて?」
「それはまあ……うん、あの人たちにキャラの濃さで勝てる気は本当にしないというか、それでいて全然王道勝利ルートを先導してくれる気がしないから主人公っていうよりもなんかよくわかんないけどヤバい人って印象の方が強い気もするけど……それはそれとして、本当に馬鹿にできない悪影響もあるんだよ。ボクの勇者因子って」
「具体的には、どんなですの?」
「……サークルクラッシャー、みたいな?」
「はい?」
「要するに、周りの人間関係が歪んで集まってくるし、知らない内に依存されやすくなるんだよ。なんか、たとえるなら美少女キャラをガチャで引いてコレクションしていく系のゲームみたいに……ちょっとコミュニケーションを取ったりプレゼントをしたりしただけで異様に好感度とか友好度が上がっちゃうみたいな? 油断してると普通にみんなと仲良くしてるだけであっという間にボクを中心にした依存性のハーレムみたいな状態になりやすくなるの」
「……それが、そこまで困ることですの?」
「考えてみてよ……人間関係がボクに依存してる蜘蛛の巣みたいなコミュニティで、その中心のボクが突然いなくなったりおかしくなったりしたら何が起こるか。ボク自身も長いこと死んだふりしてて大きなコミュニティとか作ったことなかったから知らなかったけど、『ピークドット・レジスタンス』では一度とんでもないことになったんだよ?」
「………………具体的には?」
「……夜神さん。今の夜神さんって、ボクが『戦英プロのこれからの目標は世界征服です!』とか言ったらどうする?」
「とりあえず、『アタマ大丈夫ですか?』と聞き返しますわね」
「うん、それが常識的で良識的な反応だよねー。やっぱりそう言ってくれる人がいるとホッとするなぁ〜……あの時の夕子ちゃんは二つ返事だったのに」
「………………え、マジですの? そういうことですの?」
「いやぁ、違うんだよ……ボクもその時はちょっと敵の策略というか精神攻撃的なのでおかしくなってた時でさ。あの変態違法憑依転生将軍、シエスタさんにガロム正規軍の闇を暴露されるや否や『シックスに負けてもその時こっそり肉体を奪って成り代われば新生正規勇者軍として堂々と世界征服できる』みたいなプランを仕込んでてさぁ……マジでみんな気付かないうちにちょっとおかしくなってた時期があんの。世界征服の方針に反対するようなやつがいたら、あの蓬ちゃんが真っ先に『あんた裏切るつもり? もしそうなら焼くわよ?』みたいな」
「……ヤバいですわね、それ」
「でしょでしょ? 今でこそこうやってボクがちょっと距離取っててもみんな取り乱さないというか自立してくれてるけど、あの頃はなんかもうボクが死んだらみんな一気に闇堕ちしそうなレベルで執着されてたっていうかさ、下手したらボクがちょっと行方不明になっただけでも病みそうな人もいたっていうか……それが未だにトラウマで『勇者部長』ってポジション貰ってるんだよね。すぐに死ぬ予定はないけどボクに何かあったらみんなが壊れるような状態で組織のリーダーやりたくはないっていうか、少しずつ距離を取って互いに慣らしていこうって感じで」
「…………ちなみに、そのレジスタンスの時はどうやって解決したんですの?」
私の質問に対して、シックスさんは少しだけ顔を赤らめながら声をすぼませて、こう答えましたわ。
「にぃ……社長サマとレイさんが、機転を利かせてくれたっていうか。テーレさんもだけど、あの人たちって最初から『自分の世界にそんな都合のいい勇者』なんてなくてもいいって自分の中で完結した世界を持ってるっていうか、ボクへの依存とか必要ないってスタイルだからさ……ボクとかみんなが変わっても全然正気のままでね」
「…………」
「その……コテンパンに負かされました。蘇生はしてもらえたけど一回本当に心臓止まっちゃったくらい徹底的に。それで、みんなの目の前で、『世界の中心の姿か? これが?』みたいに思われるくらいまで……社長サマとレイさんに動けないくらいまでやられたボクの、弱点とか恥ずかしい癖とか、大暴露されまして」
「…………ちなみに、どんなことをされたんですの?」
「その……二人に、身ぐるみ剥がされて、めちゃくちゃくすぐられたり……おしっ……お尻がちょっと青いところとか、そういう恥ずかしい所を見せつけさせられたり……?」
「…………そんなことで解決したんですの?」
「言っておくけどボク本人としては本当に死ぬほど恥ずかしい思いしたんだよ!? ボクの尊厳とかみんなの脳とかめっちゃ破壊されたし! 闇堕ちとは別の方向でなんか堕ちたし! まだお子様な夜神さんには想像もできないかもだけど!」
「お尻がちょっと青い人にお子様と言われるのは心外というかなんというか……ともかく、要は社長サマがシックスさんを負かして『主人公』としてのポジションを否定した……その上、『この世界が物語だとしてその主人公がこんな辱めを受けるわけがない』と思わせられるような場面を皆さんに見せつけさせられた、と」
「まあ、平たく言えばそういう感じで……あれでみんなも、ボク自身も『所詮はみんな同じ、単なる人間なんだ』ってわからされちゃって、一回ガチで死んだ辺りでボクの勇者因子の性質もだいぶ弱まってね。その上でこうして『戦英プロ』の社長ポジションを狂さんが預かってくれて、ボクは二度と同じことが起きないように一度コミュニティから距離を取って自分の性質と心を見つめ直そうってやってるんだよ……せっかく一度死んだことだし、生き方変えなきゃなって」
ようやく理解できてきた。
昔話を交えながらだったから話は長くなったけれど……平たく言えば生きていたときの『黒い恋人』に近い精神影響を無意識に発生させてしまう体質をコントロールするための修行をしているということ。
そして……
「つまり、私がこうしてシックスさんと関わりながらも依存までは至っていないこと……そして冷静に、冷やかに、こんなチェックリストについての客観的な会話もできるということは、シックスさんの性質がコントロールできている証拠になると」
「まあ、そういうこと。少なくともボクにとっては大分自信になる結果だよ。けど、それはそれとして……」
まるで『ここだけの話』をしたいというように声を落として顔を寄せてくるシックスさん。
そして、彼女が口にしたのは……
「ねえ、夜神さんってさ……もしかして今も、っていうか……『今もう』、蓬ちゃんのこと好きなの?」
一瞬で、不意打ちで頭がパンクする。
うまく返しの言葉が浮かばない。
「はわっ!? えっ、あっ、あのっ、それ、なんで……なんで!?」
「うわっ、わかりやすく図星の反応……ボクが知ってるタイミングだと、夕子ちゃんが本格的に蓬ちゃんにそういう感じになったのってピークドットに来てアレがあってからなんだけど……夜神さんは砦の時から自覚あったんだね。いや、あの時の夕子ちゃんも感情を外に出さないだけで『そういう気持ち』はあったのかな? 綺麗で淡い感じの方面で」
「いや、あの、それは、あの炎が綺麗だなっていうか、眩しいだけというか! 女の子同士ですし……お、お友達になってほしいと思っていただけで……実際いきなりそうなってしまったというか、忘れてしまっただけで前からそうだったように接されるとこちらもどう応えていいかよくわからなくなるというか……」
「そして、見たことないくらいウブな反応……つついたボクが言うことじゃないけど変に意識させちゃいけない系のやつかな。パニクって変な態度にならないように普段はそういうこと考えないように接してそうというか。あ、ちなみにピークドットの法律なら同性でも普通に付き合えるし結婚できるよ?」
「私が普通に付き合えませんのよ!」
シックスさんとの今日の『デート』だって、依頼としてお願いされたからなんとかできているだけ。
これが本当に好きな人との恋仲としての逢引でしたら……私の左胸で今もハイテンポに脈打っている心臓が保つ気がしませんわ。
私が動揺を隠そうとして明らかに失敗していると、シックスさんはなんだか気が抜けたかのようにクスリと笑った。
「ふふっ……やっぱりいいなぁ、やっぱりダメだなぁ。なんだかんだで可愛くて憎めない子だよ、夜神さんも。少し困っちゃうくらいに」
「……?」
「みんなと少し距離を取って自分を見つめ直したいって言った時、社長サマからは『一人の方が生きやすかったら無理に戻って来る必要はない』って言われたんだけどさ……やっぱり、戦英プロは私にとって家族なんだなって。必要以上にチヤホヤされなくても、こうやって私への矢印以上に他の子を想ってる姿を見せられても、がっかりなんてしないんだなって」
「なんですの? もしかして、暴走してたときのピークドット・レジスタンスってシックスさんのハーレム的なやつでしたの?」
「あははっ、ぶっちゃけ愛に飢えてたのは否定できないかもだけど……性愛というよりも、本当に欲しかったのは家族愛だったのかも」
そう言って、シックスさんは遠い目をして空の雲を見て……なんでもないことみたいに、ポツリと言った。
「子供の頃……二歳くらいの時かな。母親から熱湯をかけられたんだよね。『私の子供を返して、この化け物』って」
「……え?」
「『勇者』ってさ、肉体的にも普通の人間とはちょっと違うっていうか、そうとわかってないと不気味なくらいに、普通の子供とは別の生き物みたいな身体能力とか知能が急激に発達し始めることもあってさ……それが、ボクの両親には自分たちの産んだ子供が化け物に成り代わられたみたいに感じられたみたいで。実際、熱湯をかけられた火傷も何日かで自然治癒しちゃって、幼いながらにボクも『あっ、自分って本当に人間じゃないのかも』って」
「…………」
「けど、そこで将軍が噂を聞きつけてやってきて、正規勇者の卵として軍で買い取ってくれた……っていうのはカバーストーリーだったらしくて、実際はその前から将軍は私の両親に接触して、気付かれないうちに私への母性愛とか父性愛を適当なスキルと取り替えて奪ってたんだ」
「えっ……それって」
「うん、そゆこと。『何故だか急に愛せなくなってしまった可愛い盛りの我が子』への自分の感情に錯乱して、『ボクが急に偽者にすり替えられたのを親としての直感で気付いた』って思い込んで、本気でボクを責め立てて『本当の我が子』を取り戻そうとしてたんだ。それを知らなかった頃は、大金を出してまでボクを引き取ってくれた将軍を本当の父親みたいに想ってたんだけどね……その将軍も、必要な期間が終わったら奪ったボクへの愛情を両親に返しちゃったから、急に厳しくなって……でもボクは、それが強い正規勇者になるための愛の鞭だって思い込んで、また優しい言葉をかけてほしくて死ぬ気で頑張っちゃったりして」
「…………」
「不幸自慢したいわけじゃないけど、そんな生まれ育ちしちゃったからさ。戦英プロのみんなと、みんなを、『本当の家族みたいに愛せる』っていうのは、ボクにとってすごく奇跡みたいなことなんだ」
シックスさんは、雲を見るのをやめて改めて私を見つめる。
「……だからこそ『靴底男』の件が終わったら一度、本格的な一人旅をするつもり。帰って来られる場所があるからこそ、一度『家族』から離れて新しい自分を探してみなきゃいけないって気がするんだ」
「新しい自分を……」
「そう。転生者じゃないけど、それでもどうにかして生まれ変わらなきゃいけないと思ってね。自分が世界を救うために生まれてきた勇者だって、そんな『斯く在れかし』って敷かれたレールの先に飛び出て、一人の人間として生きて死ぬ人生に後悔しないために。この世界が自分を中心にした物語なんかじゃないって当たり前の事実を、自分自身のちっぽけさを思い知るために」
「……『靴底男』の件は、もうすぐ終わりそうですのね」
「うん……きっとね。そしたら、夜神さんも晴れて新人期間終了。今日のデートはボクの性質のチェックもあったけど、それと同時に……ちゃんと確かめておきたかったんだ。夜神さんがこの世界でやっていけるってことを、ボクが近くいなくても大丈夫だってことを」
デートの終わり。
長く話していたせいか、いつの間にか赤く染まっていた夕暮れ空。
戦英プロへの帰り道を、シックスさんと並んで歩く。
「……なんだか静かですわね」
「今日は『陥落街』の方で『ティーンズ』のゲリライベントやってるからね。ここら辺の人はみんなそっちに行っちゃってるのかも」
「『ティーンズ』って……ベルシィさんとミュジカさんのアイドルグループ名、ですわよね? お二人は昨日何も言っていませんでしたけど……」
「今日はあの二人じゃなくて……あ、そういえばまだ会ってなかったっけ? 『アウトゾーン・ティーンズ』にはもう一人……」
『ギィーッ』──『ガシャーン!』。
会話の最中。
路地の先の夕陽の方角。
進行方向の角の店を曲がった先の死角になる位置から飛び出してきた暴走馬車。
それが、こちらへドリフトを試みるように急激に軌道を変えかけて……地面が想定よりも滑りやすかったのか、無理な動きで振り回された馬車がそのまま十字路を直進するように重心を引っ張られ、馬車と繋がった馬ごと横転。
派手な音を立てて荷物と乗員を散乱させましたわ。
「あっ、えっ……事故……?」
あの速度でカーブに成功していたら私たちの方に突っ込んで来て轢かれていたかもしれない。
……というよりも、私たちを轢こうとしていたんじゃないかと思わされる軌道を取っていた馬車が一瞬で視界を右から左へ抜けていって一瞬安心してしまったけれど、それはそれとして目の前で起きたそれが『大事故』であることは間違いないと思い直す。
「あ、あの……人が……大丈夫ですか……?」
「あ、待って夕子ちゃん!」
馬車の横転で路上に放り出された人影に思わず駆け寄った私を止めるシックスさんの声。
けれど、私がその声に反応しきる前に、血溜まりを作りながら路上に膝をついた彼はユラリと上体を起こしながら、血走った目でこちらを睨んで、拳銃のような形にした手を向けて魔法の光を……え?
「アァァアアアアアッ!!」
「事故だけで止まってくれなかったかー。可哀想だけど、それ撃たせると結構当たっちゃうからやめてほしいなー」
「ごふうぼぁあああっ!?」
『パリンッ』。
『ダンッ』『ダンッ』。
それもまた、一瞬のことだった。
路地の角のお店。
ファンシーなグッズや大きなヌイグルミが置かれた店のウィンドウが割れて、その向こう側から高速で飛来した二発の球体が私を魔法で撃とうとしていた男性の手と顔面に直撃して彼を弾き飛ばす。
そして、お店の中から……
「シックスさん、ごめんねー。今日は安全だって言ったけど、ちょっと早めに釣り上げておきたい刺客がいたから嘘ついちゃった」
赤い液体が巻き付くように浮遊するガントレットを右腕に装備した白衣の女性。
高速回転する鉄球を手の平の上に浮かべながら白衣を夕陽色に染めた彼女は私に言った。
「昨日ぶりー……じゃなくて、この世界線ではまだ『はじめまして』だったね。私は『巌黒春子』、特技は……夢占いかな? 夜神さんにとってはいきなりの新キャラ登場でまだ混乱してるのは『知ってる』けど、後処理はもう手配してあるから、とりあえず研究所の方で次のイベントに入っちゃっていい?」




