第26話 『"未来への恐怖"を討ち倒すに生まれた勇者』
side 夜神夕子
私は『戦後英雄プロダクション』のCクラス社員。
それも、入社からまだ一ヶ月も経っていないような新入社員で、一番の後輩。
しかも、ずっと意識不明だったせいで少しややこしい話にはなるけど、主観的にはついこの間まで戦場で少年兵のようなことをして生きていた人間。
読み書きも……日常生活の他の部分に大きな不便はないけれど、『後遺症』のせいもあってクラスの皆さんみたいにスムーズにはできない。
そんな人間がいきなり、部分的には荒事や公にできないこともあるとしても人道的に真っ当な会社の一員として生きていかなければいけなくなった。
私一人なら、間違いなく無理難題。
社内や関連施設に顔が利くくらいフットワークが軽くて誰からも信頼されている『勇者部長』のシックスさんが私についてくれるのは、そんな私の順応を補佐するため。
他にも忙しそうなのに時間を作って『頼れる先輩』として世話を焼いてくれるのは理屈としては通っているし、本当にお世話になっていて頭が上がらないと思う。
けれど……私は、そんなふうにお世話になっている人なのに、そのシックスさんについてあまり詳しくは知らない。
私が彼女について知ってることなんて、両手の指で数えられてしまう程度。
『数年前に死んだと思われていたこと』。
『戦英プロの前身と呼べる組織のリーダーだったらしいこと』。
『大人組で、少なくとも私が外で暴走しないか見張れるくらいには強いらしいこと』。
『優しくて人当たりが良くて、戦英プロの皆から好かれていること』。
『アンゴルモアの魔王、という存在を討ち倒すために生まれた勇者らしいこと』。
それから……もう一つ。
『私のことを戦英プロで唯一、下の名前じゃなくて「夜神さん」と呼ぶ人であること』。
私が彼女について知っていることは、本当にこのくらい。
いつも、何度もお世話になっておいて未だによく知らないだなんて薄情だと言われるかもしれないけれど、私自身が新しい世界に驚かされっぱなしで、私自身の内側の問題と向き合うのに必死で、助けてくれる人のことを知ろうと思える心の余裕がなかった。
シックスさんによれば『それでいい』らしいし、『それがいい』らしい。
「……『このチェックリストに目を通しておいて、ボクが当てはまっちゃってたら「アウト」って言ってほしい』。そう言われましたけど、既に知っている容姿なんかで当てはまってしまっているものはどうしたらいいのでしょう? というか、生きた人間には絶対に当てはまらないと言うか意味不明な設問もあるのですけど……」
時刻は朝方。
休日デートの集合場所。
シックスさんから封筒に入った状態で渡された『チェックリスト』を確認しながら考える。
シックスさん自身は内容を知らないらしいし何のためのチェックリストなのかは私も教えられていないけれど、どうやらあまり当てはまってほしくない内容なのだろうというのはわかる。
『ボクのことをあんまり知らないからこそ、できるだけ冷淡に、冷やかに評価してほしい』
そう、言われたから。
『公正に』でも『正確に』でもなく『冷たく』見てほしい。
そんなニュアンスで言われたから、正直に言ってできるだけ裁定は厳しく、当てはまりそうな時には『アウト』を宣言した方が良いのかもしれない。
とはいっても、生まれついての容姿なんかについての項目もあるのでそれで出会い頭にアウト宣言というのはデートとしてどうかと思う部分もあって……
「おーい、夜神さーん。待たせちゃったかい?」
「まだ十分前ですわ。シックスさん……」
デートの集合場所は戦英プロの本社区画内、私の生活している寮舎の前。
休日でも外に出るには連れ出し役の大人組が必要だから現地集合はできないけれど、雰囲気だけでもデートらしく待ち合わせしてみようという話になって決めた場所。
私が身につけているのは、変装を兼ねた『デート用』のコーディネート。
私自身のセンスではなく、どこからか今日の情報を手に入れていたベルシィさんが選んでくれたもの。
目立ちすぎない範囲で私自身よりも服の印象が強く残って『変装』としての効果が上がるようにと選んでくれたものだけれど……これは私には少し『お洋服』過ぎるというか、ほんのもう少し装飾やアクセサリーを増やせばいわゆる『ロリータ』と表現されかねないような『可愛い系の私服』という印象のギリギリを攻めた組み合わせ。
ベルシィさんはアイドルとして写真集などの仕事もしているだけあってセンスも経験も私とは桁違いらしく、鏡を見てもいい感じになっている気がしたし、いつもの仕事の時の服装でも容姿が整っていて華があるシックスさんの隣に並んで恥ずかしくないものになったと思ったのだけれど……
「あっ…………」
「どう? 今の夜神さんはお硬い方かなと思って、少しひねってみた。髪も短く見えるようにちょっと工夫したし、男の子みたいでしょ? これ……ちょっとアウト回避してみようと奇をてらいすぎたかな?」
……男装、だった。
外で見たことのない特徴的な髪を、輝くような赤髪を短くまとめて、胸を潰して男物の服を着て、こちらに手を振っている。
それを見て、私は思わず……
「……シックスさん、アウトですわ」
「え、いきなり? なんで?」
待ち合わせ場所での合流により、デート開始。
今日のルールが始まって一秒も経たず当てはまってしまったチェック項目。
思わず、挨拶よりも先にアウトを宣言してしまいましたわ。
初アウトのカウントメモもそこそこに、とりあえずは予定通りのプランでのデート開始。
デートコースはピークドットの中にあるお店をいくつか巡るというものなのですけれど……
「今更ですけれど、私が外に出ても大丈夫なんですの? 私、最初の頃は外出の度に例の転生者に……『靴底男』に襲撃されたような記憶がありますけれど……最近は林業の手伝いや石切り場に行っても何もありませんでしたけども」
「ああ、それね。こっちで調べてる感じだと、なんかあっちに変な人脈というか民衆に紛れるタイプの密偵が結構いるみたいでさ。不特定多数の人が集まる街中よりも森の中とか採石場みたいな開けてて知らない人が近付きにくい場所の方が安全らしいみたいで」
「……今日のデートコースは、普通に人がたくさんいる場所もありますわよね? もしかしてこれ、敵を誘い出すための囮作戦だったりしますの? もしそうなら先に言っておいてもらいたかったのですけれども」
「あはは……まあ、完全には否定できないけど。今日は大丈夫、ちょっと信頼できる人に頼み込んで先に確かめてもらったから。ボクたちがこのコースから外れずに行動する限りは今日いっぱいは襲撃とか妨害はなかったってさ」
「『なかった』……? それに、先に確かめてもらったというのは……?」
「あの人は、そういう能力の転生者だから。シンプルに言えば、『すごく信頼できる占い』だと思っていいよ」
そんな会話をしている内に、いつしか辿り着いていた最初の目標地点。
そこにあったのは、日本の施設をできるだけそのまま再現しようとしたらしい……いわゆる『ゲームセンター』。
再現という点で見れば本当によくできているのだけれど……
「日本にも外国風の趣きを再現したお店とかはありますけど、逆に異世界に来て日本の店構えを再現した施設を見ると妙な場違い感というか違和感がありますわね……」
海外旅行なんてしたことはないけれど、テレビで見たハワイの『本格お寿司屋さん』……和風建築まで意識した木造の内装や家具で統一されたお店が、周りの街並みから大きく浮いているように見えた時の感覚に少し似ているかもしれない。
ピークドットは日本製品を生成できる転生者やイメージ通りの建物を創造できる転生者を抱えているらしいので、これも転生特典由来の完璧再現の要素が大きいのだろうとは思うけど……
「夜神さん、ちなみに得意なゲームとか好きなゲームってある?」
「ありませんわ。ゲームなんてそれこそマインさんの部屋でやったのが初めてでしたし。私の実力なんて平均的な日本人を完全に下回ることは火を見るより明らかというものです。公衆の面前で積極的に恥を晒すのは遠慮しておきたいですわ」
「別に失敗したら死ぬわけじゃないんだし初心者丸出しでも楽しんでいいと思うんだけどなー。そういうのもデートっぽいイベントだろうし」
「……そういうのは、もう少しだけ待ってもらいたいですわ」
なんというか……まだ、私自身の生まれ育ちの『悪い意味で普通じゃない部分』を実感するのはその度に少し辛くなってしまうから。
一度や二度なら受け流せるけど、繰り返されると社長サマやアトリさんの前でそうなったみたいに泣いてしまいそうで……デートの最中にそうなるのはさすがに嫌だから。
「……そっか。うん、じゃあこうしようか。これで取った景品をキミにプレゼントする。それもまたデートっぽいでしょ?」
そう言ってシックスさんが親指で指し示したのは、少し大きめのキーホルダーヌイグルミがたくさん入ったクレーンゲーム。
確かにヌイグルミのデザインも嫌いではありませんけれども……
「やめときー、そこのカレカノ……いや、カノカノ? それ、ムズすぎてメダル呑まれるだけやぞー」
「『日本製品を完全再現』って言ってるけど絶対に失敗してるって。アーム弱すぎだし、ボタンの反応悪いし。あ、壁コンもらい」
「あぎゃー!」
クレーンゲームに挑戦するらしいと見えた私とシックスさんにかけられる、格闘ゲーム筐体の利用客の方々からの善意の声。
けれど、それを聞いてシックスさんは……
「そっかー……じゃあ、試してみよっと」
迷わず銀貨をゲーム専用メダル5枚に両替して、一枚目をクレーンゲームへ投入。
そして、試運転するようにボタンを押してクレーンの挙動や揺れ方を観察して、一度ヌイグルミに引っ掛けたアームが忠告通りの弱々しさで振り払われるように外れるのを確認して……呟く。
「うん、大体わかった」
迷わず次のメダルを投入。
そして、アームの動きから目を離さずに迷いのない動きでボタンを操作して……
「こうして、こうかな」
キーホルダー部分にアームを引っ掛けるようにして吊り上げ、持ち上げられるヌイグルミ。
それを見て、さっきの忠告をしてくれた方々も目を丸くする。
「そ、それ、引っ掛けても取れるん? え、それホントに正解じゃない?」
「うちら、てっきり挟んで持ち上げなきゃいけないと思って何度やっても落としてたのに……」
どうやら、シックスさんがたった今やったことは『誰も知らなかった攻略法の発明』だったらしく、ざわめきが広がる店内。
けれど、シックスさんはそんなことは気にかけずに淡々と残りのメダルでヌイグルミを手に入れて、そのうちの二つを忠告をしてくれた二人に渡す。
「はいこれ、アドバイスのお礼にどうぞ」
「え?」
「いいのん?」
「うん、アームが弱いこととかボタンの反応が悪いこととか先に教えてくれたから操作を調整できたしさ。ボクたちはそれぞれ自分用のが一つあればそれでいいしさ。これまで取れなくてメダルだけ取られてたなら、一つくらいメダルなしでゲットしても罰は当たらないと思うしね」
そう言って、ごく自然に初対面のはずの人たちに私が『友達100人計画』でページを埋めるのにはほぼ充分なくらいのコミュニケーションを済ませてしまうシックスさん。
相手の側もすっかり『赤の他人』ではない相手に向けるような顔になって、シックスさんの手を握る。
「ありがとう! あんたいいヤツだなぁ!」
「ねえねえ、今のやり方教えて! 取れなくてガックリしてきたみんなに教えるから!」
せがまれるがまま、クレーンゲームの前で丁寧に自分がやった方法を再現するコツを教示するシックスさん。
そのおかげで景品を引っ掛けて持ち上げるまではいけるようになったり、そこで落としてしまって泣いたり笑ったりと、楽勝にはならなくてもゲームとしての楽しさがわかるくらいには攻略の目が出てきて店内が盛り上がり始める。
けれど、シックスさんは相対的に見て習得の難しいスキルであるはずのそれを一瞬でやってしまったということで……
「シックスさん……アウト、ですわ」
「あり? ボクなんかやっちゃった?」
「『習得が難しいはずのスキルをすぐに憶える』、ですわ」
そんなこんなで、過剰に注目され初めたのでゲームセンターを離れて、次に向かった先は……『病院』。
先程のゲームセンターのように日本式ではないけれど、それでも衛生的で、建物の作りや警備もしっかりしているこの街の重要施設なのが一目でわかる場所。
その入り口でお見舞い用のお花を買ったシックスさんと一緒に院内に入って説明を受ける。
「デートの途中で悪いんだけどさ。今日は定期報告の日でね……ちょっとフィース姉さんに会ってくるから、少しだけ部屋の外で待っててもらっていい? 一応、家族以外は入っちゃダメってことになってるから」
「フィース姉さんというのは……」
「うん、ボクの正規勇者の先輩っていうか姉弟子で、あと一応は女神様の化身みたいな? ピークドットでの戦いで……ちょっといろいろあって、大怪我で入院しなきゃいけなくなってね。姉さんっていうのは……前にシィさんが詳しく調べてくれてわかったんだけど、実は本当の親戚だったみたいで」
「…………」
「家系図だと少し遠縁ではあるけどさ。軍にいた頃の所属とか、顔やら名前やら変えたり偽装死したりとかが関わってる『いろいろ複雑な経緯のある姉妹弟子』じゃなくて、もう普通に『姉妹』って扱いにしちゃおうかって話になってね。フィース姉さんは神性持ちだった上に未だにこの街の偉い人でもあるから、それなりに近い親類でもないと要人用の病室に気軽に出入りできないから定期報告もボクがやってるんだ……どうしたの?」
「……言いにくいのですけれど。チェックリストの『世界規模での重要人物との血縁』、おそらくアウトですわ」
「あー……そうなるか、うん。まあ美の女神様の性格と性質的にむしろ順当かも。参ったな……」
そう言って苦笑するシックスさん。
そこに、入り口を通ってきた年配のおじいさんが声をかけてきて……
「シックス! お前、何をしている! まさか、特別司祭の権限を譲らせようと……」
「はあ……ボク、そういう政治的な話に関わる気はないって言ってるでしょ。普通に『お姉ちゃん』と何気ない会話したいってと、戦英プロのみんなも元気にやってるって言いに来たってだけ。フィース姉さんがワンチャン死なないかって椅子の空きを狙ってる『自称親戚のおじさんたち』とは違うの」
「貴様……!」
「はいはい、フィース姉さんはアトリさんに自分がいない間の権限を預けてるんだから、それが欲しいならアトリさんの方に言いに行って。病室にまで入ろうってんならボクがつまみ出すから……フィース姉さんも、あんたらみたいなのと会話するのは身体に悪いって警備厳重な部屋使ってるんだから」
「くっ……騙し取られた分はいつか必ず取り返してやるからな! アレにはそう伝えておけ!」
「それは別にいいけど、利子がつくなんて思わないでね。それはフィース姉さんが街の発展って形で還元した分で充分なはずだし」
シックスさんの返答を聞いて肩を怒らせて出ていくおじいさん。
それを見届けたシックスさんは深くため息をついて私に言った。
「今の人、一応はピークドットの重鎮なんだけどね。フィース姉さんのカリスマに期待して、勝ち馬に乗ろうといろいろと貢いで勝手に派閥まで作っちゃってくれて。フィース姉さんもそれを利用して互いにそれなりに上手くやってたんだけど、前の戦いで姉さんが『女神の化身』をやめちゃって、そこで夢から覚めちゃったみたいでさ。他の人はもうちょっと大人らしく、大人しく対応してくれてるんだけどあの人は入れ込みが他の人よりも強かったから……ある種の『反転アンチ』ってやつなのかな?」
「…………」
「内心は『もう女神でもなんでもないならぽっと出の小娘と一蓮托生なんて気が気でない。』ってことなんだと思う、だから投資した分を今すぐ返してほしいってさ。ただ、本当にそうすると政治のパワーバランスとか崩れて絶対に面倒なことになるから今はアトリさんが中心になって軟着陸の道を探ってるんだ」
「……政治の難しい話はよくわかりませんわ」
「そうだね……簡単に言っちゃえば、あの人はボクのことが嫌いなんだよ。本能的に、生理的に、性質的に。勝ち馬に乗って不安なく生きていきたいって性分の人と『世界の不安に自分から立ち向かう勇者』はちょっと合わなさすぎるってのもあるんだろうけど。だから、ボクが姉さんのポジションをそのまま継いで自分と並び立つのは絶対に嫌だって思ってる……そういう反応になるのはわかってたから、アトリさんに姉さんの代理を任せたんだけどさ。あの人、誰が相手でもそれなり以上に上手く付き合えるタイプだから」
「…………」
「ボクの性格のせいなのかもしれないけど、人付き合いの相性が極端に分かれるみたいで好かれるか嫌われるかのどっちかなんだよね、大体。相手が子供とか動物だとわりとすぐ懐かれるんだけど……長生きして安定した地位を築いた人には、ボクは怪物か……それか、せっかく苦労して作った足場を崩しかねない変革の兆しか何かに見えることもあるらしくて」
『正規勇者』……物語を始めて、最後は終わらせる『勇者』。
それがたとえば『勇者が魔王を倒して世界を救う物語』だったとして、長く魔王と世界が戦い続けていたらその戦いを前提に地位や力を持った人、モンスターと戦う武器を売る店だったり防衛軍を指揮する将軍の立場だったりが生まれていても不思議はない。
それが、勇者が世界を救ってしまえばそのまま需要を失って築いた地位を損なうかもしれない、正義感の溢れる若い勇者がこれまで黙認されていた不正を許さなければ罪に問われるかもしれない。
そう思えば、勇者が勇者であるというだけで近くに来て欲しくない、『自分の周りの世界』に干渉して欲しくないと思う人も確かにいるかもしれない。
けれど、それはそれとして……
「シックスさん……『他人からは基本的に好かれるか極端に嫌われる』。また、アウトですわ」
「あら?」
その後も、フィースさんのお見舞いから戻ってきたシックスさんと一緒にピークドットの市街地を散策するようなデートコースを練り歩いて数時間。
楽器屋で何気なく手に取った笛で店員を感涙させて無料でプレゼントされて愛用品にすると決めたり。
公園で樹の上から降りられなくなっている子供を見つけてとんでもない跳躍力と人間一人を抱えているとは思えないような動きでの華麗に着地で救出したり。
道中で起きた迷宮入りの難事件をもはや超能力としか思えないような直感力であっさり解決したり。
……基本的にはハイスペックの見せつけだった気がしますけれど、それはそれとして。
たくさんの『アウト』を出しながらも、なんだかんだで退屈せず楽しい時間ではありましたわ。
時刻は進んで午後。
デート終わりにカフェでの小休止。
「チェックリストは……アウトたくさん出てたし、結構埋まっちゃったかな?」
「まあ、そうですわね……とりあえず、才能系はほとんど。それに、行動パターンも……ポジティブな方向に限れば大体、でしょうか」
「そっか……まあ、仕方ないか。『勇者』はそういうものでもあるんだろうし」
そう言いながら、テラスからピークドットの街並みを眺めるシックスさん。
そして、ポツリと呟くようにこう言いました。
「ここら辺も直って良かったな……それが確認できただけでも今日はよしとしなきゃかな」
「……この街が戦場になったというのは本当ですの? あまりそういうふうには見えませんけども」
「あー、えっと……そこら辺まるごと憶えてないんだっけ?」
「はい……何故かみんな、あまり詳しく教えてくれなくて……」
「うん……それもそうだね。もうそろそろ、混乱せずに受け入れられる頃かな。心の準備ができてなきゃまた今度の機会にするけど」
少し考えてから、小さく頷く。
まだ今の時代の空気に馴染んでいない時に記憶のない自分の参加した戦いの話なんて聞いたら世界が怖くなってしまったかもしれない。
けれど、今は戦英プロという居場所が、もう他人とは思えない人たちがいるからかそこまで怖くはならない気がした。
「じゃあ、簡単に旧都砦が攻め込まれた後の流れから説明するとね……夜神さんやマインちゃんはね、ガロム正規軍の攻撃を受けて陥落した旧都砦から、ジャネットさんと一緒に逃げてきたんだ。このピークドットまでね。そこで、レジスタンスを立ち上げて戦力を集めてたボクやフィース姉さんが連れてきてくれた社長サマ……狂信者さんたちと合流して結構な大所帯になった」
「…………」
「ガロム正規軍はジャネットさんを大きな儀式のパーツに使おうとしてて、このピークドットにジャネットを引き渡すように要求してきて、それを突っぱねたら宣戦布告してきた」
「ジャネットさんの……軍隊規模の『祝福』ですの?」
「少し違うかな……夜神さんも戦場で助けられてたそれは副産物みたいなものっていうか、そこからさらに条件とか祭具を揃えるとジャネットさんは世界を変えられるくらいすごい儀式の中心になれるんだ。だから、ガロム正規軍の将軍はその体質を悪用しようとして、ボクはそれを止めようとして暗躍から本格的な戦力準備に移って、この街で『ピークドット・レジスタンス』っていう組織を作った」
「それが、戦英プロの前身……ですわね」
「そう、それは初対面のときに話したんだっけ? そこから、いろいろと防衛戦の準備とかして、途中でレイさんの本体が狂さんとテーレちゃんの間に転移してきて挟まったり、アンゴルモアの魔王の力を失って瀕死になったレイモンドさんとかロバートさんが逃げ込んできたり、シエスタさんとか美森さんたちみたいにボクたちに味方してくれる人たちが来てくれたりして……まあ、そんな感じでいろいろあった末に最終決戦って感じになってね。この街が大きく壊れたのはその辺りかな。事前に危険域の住民には避難してもらってたから人的被害はほとんどなかったけど」
「…………」
「それで頑張って戦って、途中でりりこさんたちが援軍として参戦して窮地をひっくり返してくれたりして、狂さんとレイさんが敵だったノンちゃんを味方に引き込んでくれたりして、みんなで力を合わせてなんとか最強転生者のグラム将軍を倒したんだけど、そこで……うん、いろいろあって、本当にいろいろあって『恐怖の大王』って黒幕みたいなのが出てきてね。ボクたちがラスボスみたいに思ってたグラム将軍も、彼女の手の平の上……いや、計算の上で動かされてた駒の一人だった。そんな、現実でやられたらやってられないような脅威が疲弊しきったところで畳みかけてきた」
「恐怖の……」
「うん。そこの『いろいろ』は愛理さんがいない時に詳しく話すのはちょっと気が引けるから今回は省略させてもらうけど、本当に急展開で、死ぬほど追い詰められて……フィース姉さんは神性を失うほどのダメージを受けたし、フェイレスさんやロバートさんが道を作ってくれなかったら確実に全滅してた。それに、セブンスも……将軍を倒して、やっとちゃんと仲直りできると思ったばっかりだったのに……あんな、いきなり……セブンスは本当に強いから、どんな相手にだって、絶対に負けないって思ってたから、いきなりでビックリしちゃって、とっさに動けなくて……でも、気付いたら血だらけのレイモンドさんが目の前にいて、『旧都へ行け』って……本当にあの時は、なにがなんだかわからないくらい一瞬で戦場がめちゃくちゃになってね。それくらい、大変だったんだ」
「…………」
「ま、語ると長いからそこも中略として。そこから、チート全開の『恐怖の大王』に追っかけられながら、大逆転の一手を打つために皆でジャネットさんと祭壇を使って儀式をするために旧都へ行ったんだ。途中まではニドラちゃんに運んでもらえたんだけど、旧都手前で撃ち落とされちゃって、そこからは戦いながら走って神殿へ向かって……ヒトミちゃんやリーナちゃん、イカロさんたちも途中で味方についてくれて。それでも追い詰められながらだったけど、なんとか儀式を成功させて、エルノア様に降臨してもらって『恐怖の大王』を……その核だった『アンゴルモアの魔王』をなんとかしてもらって、そこで決着がついたんだよ」
「……私は憶えていませんけど、壮絶な戦いだったのですわね」
「うん……もちろん、夕子ちゃんも最後まで戦ったよ。本当に……強かったし、助けてもらったんだ」
そこまで言って、シックスさんは気分を切り替えるように声色を明るくする。
「ま、実を言うとボクはピークドットでの戦いで重傷を負っちゃっててさ。旧都ではほとんど祈ることしかできなかったけどね」
「あっ、アウ……いえ……」
「あ、またチェックリストに当てはまっちゃったかな?」
「……『世界を救ったことがある。その際、やったことはその場所へ行き、祈りを捧げたことだけである。』だそうですわ」
「なるほど……それは確かにアウトだね。ありがとう、夜神さん」
「……このチェックリストはなんなんですの? シックスさんは内容を知らないと言っていましたけど、では誰が作ったものですの?」
「さあ? 異世界の本か何かに載ってるやつらしいから、誰が書いたものかはさすがに知らないけど……そうだね、強いて言えばそのチェックリストは『よくある話』の要点、なのかな?」
「『よくある話』……」
「そう……たとえば、『勇者が魔王を倒す物語』。その『勇者』のポジションが王子様だったり聖人だったり、『魔王』のポジションが悪いドラゴンだったり犯罪者だったり、そういう違いはあっても物語の流れとしては似通う部分が出やすい、それをピックアップした特徴……特に、リアリティがないくらい出来すぎた、最初から『主人公視点で心地良いハッピー・エンド』って結論が決まってて、その都合のために道程を作られた物語によく当てはまるポイント、みたいな?」
「…………なんで、そんなものをシックスさんに当てはめなければなりませんの?」
訝るような私の問いかけに対して、困ったように小さく笑った彼女は、さも物語の語り部のようにこう答えた。
「ボクは『シックス・ブレイブ』……アンゴルモアの魔王を討ち倒すために生まれた勇者。みんなの『危惧』を現実化させてしまう魔王を倒すための、『この人がいれば全部うまく行く』『この主人公の側にいれば、最後には必ずハッピー・エンドに辿り着ける』って幻想で、未来の不安を麻痺させる性質を生まれ持った勇者」
そして、彼女は『シックス・ブレイブ』とは違う、一つの名前を口にする。
「私は『メアリー・ナンバーズ』。それが、軍に売られる前に本当の両親からもらった、『六番目の正規勇者』の本当の名前」
チェックリストの項目。
『その主人公の名前には、表記と別の呼び方がある』。
『その主人公の名前は、そうでなければならない理由がある』。
「こっちでは、よくある名前と深い意味のない家名の組み合わせなんだけどさ……日本語だと『ちょっとご都合主義が過ぎる主人公』みたいな意味にもなるんだって。そういう特徴が多すぎると、その話を読むのをやめちゃう読者さんも少なくないんだってさ」
……チェックリストの項目。
『その主人公の名前は、魔除けのまじない目的以外で「不吉なもの」や「破壊」を連想させる意味を持つ』。
「ところで、夜神さん。『私』の場合……そのチェックリスト、どのくらい当てはまっちゃったかな?」
……もし、ここまでこの世界線のタイムラインを考察しながら読んできて来てくださった方がいれば、今回の軽い答え合わせについて、『思った通りだった』でも『思ったのと違った』でも感想お待ちしております。
あと、ちなみに本編の方のテーマは『転生もの(生まれ変わり)』だったのに対して、こちらの外伝の方のテーマは『転生もの(二次創作)』だったりするので、もしよければそれも念頭に置いて今後ともお楽しみを。




