第23話 『小休止』
side 夜神夕子
ダミーさんの部屋でのあれこれがあった翌日。
二日ある週末休みの二日目朝、目覚めて最初に感じたこと。
それは……
「……お腹が痛くて身体が重い。それに、熱っぽい……これは、風邪薬が必要な時の感じですわね」
さすがに、戦英プロの中で『過労死転生者』という不名誉ながら否定できない評価が定着しつつある私であっても、自分がここ数日は無理をしすぎたのだろうなというのはわかる。
時期的にもそろそろ来るだろうとは思っていたけれど、前世の頃から病弱とは言わないまでも健康とは言い難い私の身体は、大体月に一度くらいは体調が悪くなる。
それ自体は慣れているけれど、疲労の蓄積とその周期が重なると普段のその時期よりも酷くなることがある。
今回は疲労の原因もはっきりしてる。
一昨日は、護身術の授業の後そのままソニアさんに連れ出されて森の民の方々とのサプライズ面談からの『悪神送り』。
そして、昨日はその時にもらってしまった『黒い恋人』の呪いでまだ外が暗い時間からダミーさんの部屋へ押し入ってからの流れで夜まで磔にされて半ば人体改造じみた神器加工。
……振り返ってみると、これはもう『疲労』というか普通に『ダメージ』と言ってもいいレベルの物が蓄積していて然るべき大事件ですわね。
千里先生の話によると私が昨日自分の部屋から出てこなかったのを誰も咎めなかったのも、前日の事件で私が精神的に参っていて一人になりたいのではないかと配慮した結果だったそうですし、そうなってもおかしくないくらいショッキングなイベントが立て続けに起きたというのは理解していますわ。
けれど……
「いろいろあったけれど、力が手に入ったのなら……自分ができることくらいは、また学校が始まる前に確認しておかないといけませんわよね……」
ショッキングなイベントをどうにか乗り越えただけあって得るものはあったと言うべきか、狙っていたわけではない以上は単なる怪我の功名と呼ぶべきなのかはわかりませんけれど。
今の私には、ダミーさんの改造で私専用の神器として扱えるようになった『黒い恋人』の毛皮がある。
ダミーさんの部屋では最低限の試運転だけしかできなかったけれど、その時の使い心地から考えれば高出力での扱いに慣れれば以前の私に近い戦力になれるだけの品でしたわ。
「今日の内に練習しておけば、明日から『初期対応部』の活動に参加できるかも……そのために、まずは……」
数十分後。
『戦英プロ』本社区画の『事務所』。
この本社区画の正門を管理し、外からの来客の対応と『収容対象』である私たちの出入りを監視する壁の内外の世界を繋ぐ接点になっている施設。
そして、同時に私たち『Cクラス』における教師枠が手の空いている『大人組』の持ち回りであることもあって、私たちにとっては学校の職員室のような役割もあるらしい施設。
私たちにとっては『休みの日』であっても、大人にとってはそうであるとは限らないようで、そこには今日は『Cクラス』の一員ではなく『大人組』の一人としての仕事をしているらしいねねさん……いえ、小野倉さんがいましたわ。
「屋内運動場の使用申請っすか? えっと、ちょっと待ってくださいねー……今日は他に使う人いないみたいだから大丈夫っすね。いいっすよ、そこに名前と使用時間だけ書いといてくれれば問題ないっす」
あっさりと通る申請と、手書きの施設使用記録。
蓬さんが申請してくれた時もそうでしたけど、基礎教養の授業や購買機みたいなハイテクらしきものもある反面そこら辺はアナログ管理なようですわ。
小野倉さんの書いている書類も手書きのようで……
「小野倉さん……何を書いていますの? 随分お悩みのようですけども」
「あー、これはっすね……現状の戦英プロの運営についての修正案とか改善案っすね。どんな小さなことでもいい代わりにたくさん書いてほしいって滅茶苦茶ノルマが多いんで困ってるっす」
「修正案や改善案……それも、戦英プロの仕事について、ですの?」
「それもあるっすけど、やっぱりジブンの担当的ななのは『Cクラス』とか『初期対応部』のことなんで、そっちの方で何かあったら夕子ちゃんからも言ってくれるとジブンもノルマ的に助かるっす」
それは、あまり聞きたくない話。
だって……今の戦英プロは、私にとってすごく居心地のいい環境だから。
それが変わるかもしれないというような話は、あまりしたくはないと思ってしまう。
「……今のままでは、いけませんの?」
「うーん、ぶっちゃけちゃうとジブンも『今のままやっていければそれが一番いい』っていうのは思っちゃうんすけどね。ただ、今の戦英プロってほぼ完全な身内経営で、社員同士の個人的な信用と信頼で細かい手続きがナアナアのまま上手くやれちゃってる部分が結構あるんすよ。これから『新しい人』が入って来た時に改善の準備ができてないと困るって社長サマは考えてるみたいで……ジブンも、提出したもの全部が採用されるとは思わずに『こういう問題が起きるかも』って思ったことはとりあえず思いつく限り書いてほしいって言われてるんすよ」
「……だから、『ねねさん』はCクラスに?」
「っすね……まあ、ジブンも普通にイキリ転生者としてやらかした過去があるんで残当ではあるんすけど、ちゃんと『子供側からの視点』を知ってる大人が組織構造を決める側に一人でもいるかいないかだけで完成度が大きく違うかもしれないからって。ジブンも、自分自身がちゃんとした大人に成りきれてるとは思えないって部分もあるんすけどね」
半分『子供(Childen)組』で、半分『大人(Adult)組』。
大人の決めたルールに従う側と、そのルールを決める側。
その二つを行き来して必要な落とし所を見つける役割……そう考えれば、小野倉さんのポジションは意外と重要なのかもしれませんわね。
「そういえば、夕子ちゃんこれから屋運で何するんすか? 何かボール遊びでもするならちょっと気晴らしに参加しても……って、夕子ちゃん? ちょっと顔赤くないっすか?」
「ええ、ちょっと熱っぽくて……でも、このくらいなら……新しい能力の試運転も早くしておきたいですし……」
「む、無理はしちゃダメっすからね? あっ、そうっす。そこの棚の救急箱によく効く風邪薬……みたいなポーションがあったはずっすから、とりあえずそれだけ飲んでおいた方がいいっすよ」
「そう、ですわね……ありがたく、いただきますわ」
言われた通りの棚を見ると、確かに救急箱が。
蓋を開けて中を見てみると、そこには栄養ドリンクみたいな瓶に入ったお薬とメモがあって……
『一日一本まで! 絶対厳守!』と……今日の体調と熱っぽさなら、三本くらいですわね。
「小野倉さん、少しこちらのコップもお借りしますわ」
「いいっすよー。一応、瓶は新品でキレイなはずっすけど、やっぱり直で口つけるのは気になるって子も……」
三本の薬瓶を開けて、コップに流し入れる。
ちゃんと一滴残らず中身を空けた瓶を確認して、コップに移したものを……
「ゴクッ、ゴクッ……」
「……夕子ちゃん? え、あの、それ、何本開けて……まさか、それ全部飲んでる!? ちょっ、何してるんすか!?」
「なにって、お薬を……あら……? きゅぅぅ……」
不意に揺れた世界。
浮遊感と近付いてくる地面。
頬と肩に伝わる衝撃と冷たい床の感触。
それから、どこか遠く感じられる小野倉さんの慌てた声。
「夕子ちゃん! しっかりして! 夕子ちゃん!!」
瞼を上げる。
視界に入ってくるのは、見慣れた寮部屋の天井。
戦英プロの事務室の天井ではなく……
「あら……? 私、どうして自分の部屋に……確か、事務室で申請の手続きをしていて……」
そのまま能力の練習をしに行くつもりだったのに、いつの間に自分の部屋に……あら?
寮部屋に備え付けられたキッチンの方から何か、人の動く音と料理の匂いが……
「ねね、火加減ってこのくらいでいいの? 弱くない?」
「あんまり強くすると卵が固まっちゃうっすからね。それもいい感じにトロトロになった辺りですぐ止めておかないとっすよ」
「なるほどね。それにしても、ねねって普通に料理できる人だったんだ……なんかちょっと意外」
「これでも一人暮らしの大学生だったんすから。節約のために自炊は基本っすよ。まあ、その節約のために詰め替えの洗剤まとめ買いした結果、漂白剤で毒ガス出して死んだんすけど」
「小銭拾って命落としてたら意味ないじゃんそれ」
「ジブンもホントにそう思うっすよ……」
この声は、小野倉さんと蓬さんですわね。
お二人がなんで私の部屋で料理をしているのでしょう?
「あの、お二人とも?」
「あ、夕子ちゃん。起きたっすね。ちょうどお粥ができたところっす」
「ねねから聞いたわよ。風邪薬のポーションを一気に馬鹿飲みしてぶっ倒れたって、ちゃんと『一日一本まで』って書いてあったでしょ?」
お盆にお粥の入った器を乗せた蓬さんがやってきて、小野倉さんが手際よくベッドに寄せたテーブルの上にお盆が乗る。
そして、私の前にスプーンが差し出されて……
「あ、ありが……」
「ストップ」
私がとりあえず受け取ろうとしたスプーンが直前で蓬さんに引っ張られて離れていく。
そして……蓬さんの顔を見れば、その表情は明らかにお怒りのようで……
「夕子、最初に答えなさい。どうしてこんな馬鹿なことしたの?」
「馬鹿なこと?」
「『一日一本まで』、それに『絶対厳守』って書いてあったでしょ。それなのに、なんで一気に三本も飲んだの?」
叱るような、責めるような強い語気での質問。
質問の意味はわかるけれど……質問の意図はよくわからなくて、私はとりあえず日本人として当たり前の答えを返すしかありませんでしたわ。
「説明書よりも多く飲んですぐ直さないと、練習が遅れて皆さんにも迷惑を……」
「あぁん?」
「ひぃっ!?」
「ちょっ、蓬ちゃん!? お粥の卵がカチカチになっちゃうっすよ!?」
あまりにもドスの利いた声に思わず怯えてしまった私と、発された熱気をちょっとズレたポイントから宥める小野倉さん。
それで少しだけ気を鎮めたらしい蓬さんは何故か私を強く睨んでから、ゆっくりと目を閉じて、それから深呼吸をして……こう、問いかけてきましたわ。
「あんた……もしかして、これまでそうしてきたの? 前世の日本で、風邪薬を一度に何日分も飲んだりとか普通にやってたわけ?」
「え、ええ……お母様が、三日くらいで治るくらいの感じなら三日分でいいって……」
蓬さんがどうして怒っているのかわからないけれど。
日本ではそうしていたし、それで休まずお稽古を続けていた。
『こういう市販の薬っていうのはなかなか治らないようにわざと効果を弱くして、他の薬とか栄養食品とかもたくさん買わせるようにしてあるの。だから、馬鹿正直に説明書通りの量で何日もかけて治すよりも一気に治しちゃった方が早いでしょ』
……そう、言われてたから。
もしかしたら、今回は異世界の薬というのが日本の市販薬とは違った仕組みだったのかもしれないけれど……
「風邪薬なら、一番身体が重い時で四日分くらい……栄養ドリンクなら、五日分くらいまでならいいって……他の人に言わないだけで、賢い人はみんなそうやってるって。だから、体調なんて言い訳にしてお稽古をサボるのはいけないことだって。すぐに動けるようになるために、お薬は説明書よりもたくさん飲まないと」
「あー、なるほど。『そういう子』も世の中にはいるっすか……『子供組への薬の処方はちゃんと用法用量を理解してる担当者がやるべし』っていうのは次の修正案として出しとかなきゃっすね……夕子ちゃんに協力を頼みはしたっすけど、こんな形で実例として見せてほしくはなかったっす」
「…………夕子、私が今どういう気持ちか、わかる?」
「……ごめんなさい。私は、蓬さんみたいに他の人の感情を感じ取るのは上手くないの……怒っているのはわかるけれど……こんな休日にまで手間をかけさせてしまって迷惑でしたわね。小野倉さんも、仕事の邪魔をしてしまったみたいですし」
私が頼んだことではないけれど、こんな料理まで作ってもらって。
思えば確かに食欲がなかったから朝ご飯も食べていなかったけれど……
「……夕子。一応聞くけど『看病』って概念、知ってる?」
「は、はい……あの、病気の人がお友達や家族に身の回りの世話をしてもらったり、頭に濡れタオルを乗せてもらったりするあれ……ですわよね? それが、なにか……?」
「……夕子。今、自分が『看病』されてるって言われたら信じる? ていうか、理解できる?」
「え? あっ……い、いえっ! そんな、これは誤解ですわ! ちゃんとお薬を飲んで治ったはずですもの! お二人にはそんな手間をかけてもらう必要なんて……」
「アホ夕子!」
ベチンっ。
唐突な炎のデコピン。
火傷はしませんでしたけど、思わぬ威力で首が後ろにカクンってなりましたわ!
「熱痛たっ!?」
「夕子、これからは、今回みたいな自己判断は絶対だめ。風邪薬は症状を抑えるものであって一瞬で病気を完治させるものじゃないし、たくさん飲めばそれだけ効くってものでもない。むしろ、副作用とかもあってすごく危険だから用法用量が決まってるの。そもそも、今日みたいな日は能力の試運転も練習も全部休まなきゃダメ」
「でもぉ……」
「デモもテロもない。ダミーのやったことの話は聞いたけど、ただでさえソニアに無理させられたあんたのトラウマを刺激するようなことをされたんだし……感情抑制なんかをやっててもストレスは溜まってるんだから、心身にダメージは蓄積してる。昨日の夜は案外平気そうって思ったけど、あんたがそういうタイプならむしろ目を離しちゃダメだったわね」
自分自身に反省を促すように、手の平の肉に爪が食い込むほど拳を強く握りしめる蓬さん。
そして、彼女は瞳に炎を灯すかのように真っ直ぐな目で私を見つめましたわ。
「『限界なら休む』、『体調が変だと思ったら私や大人組に相談する』。これからは絶対に守って。それから、今日は私この部屋に泊まる……誰にもトラブルは持ち込ませないから、そのつもりでいて」
「えっ、なんで……いえ、はい……」
圧が凄い。
私を押さえつけてでも無理矢理休ませるという強い意志が、いつの間にか着替えさせられていた寝間着が焦げてしまいそうなくらい熱く伝わってくるのですもの、物理的に。
私が少し怯えながら蓬さんに従う意思を見せると、彼女はまた深呼吸で周囲の温度を下げて、それから問いかけてきましたわ。
「わかればいいけど……今日、屋内運動場で能力の試運転をするつもりだったらしいじゃない。どうしてそんなに焦ってるの? 体調が悪い事自体は自覚してたんでしょ? 明日にしても良かったでしょうに」
どうして、と問われると……困ってしまいますわね。
練習できるなら毎日練習するべきというのが当たり前だと思っていたというか、さらに強いて言えば、ダミーさんのおかげで能力の新しい運用法ができて、それは新しい舞の振り付けを教えられたのと同じようなことで……それを練習せずに明日学校に行けば、ダミーさんに質問された時に『まだ練習してない』と答えなければいけないから。
そして……それで『どうして?』と問い詰められると……私は、サボっていていい人間じゃないはずなのに、単に身体がダルかったからなんて理由でみんなの役に立つための練習をサボるなんて、結局何も反省してないと、罪の意識を感じていないのかと責められそうで……
「『過去』と『できること』が急にできてしまって……なら、少しでも過去にやってしまったことの分をどうにかするために、できることを一日でも早くものにしないとって……そうするしか、怒られない方法が、怒られたときに言い訳できる方法がわからなくて……」
これまでは何もできなかったから流されるままでよかった。
世界のことがわからないから、誰が正義で誰が悪なのかもわからないまま戦場で言われるままに能力を使って。
戦略とか戦術とか、社会とか勢力図だとかの難しいことはわからないから黒雄さんの命令通りに軍都での作戦について行って。
砦での仕事が『待機』だと言われていたからいつも呼ばれたらすぐ動けるように待ちながら、時間が過ぎるのを待ちながら守護者を使う練習だけ続けて。
けど、ここではそういうやるべき事を指し示してくれる人がいないから……『命令』が誰からもないから、それは私がまだ能力もロクに扱えなくて役に立たないからだと思って。
だから、まずは能力をちゃんと使えるようになって、命令をもらえるようにならないと『やるべきこと』がわからないから、とにかく早くちゃんと働けるようにお稽古しないといけないと、当たり前に思ってしまった。
けれど……そう、でしたわね。
ここは、『軍隊』じゃないし、『夜神家』でもない。
私たちに『命令』をする人がいなくて、私たちが自分で自分の生き方を見つけられるように道を探してくれる優しい大人の人たちが作ってくれた『戦英プロ』。
きっと私は、少し勘違いをしていたのでしょうね……。
「私が、何か間違ってるのはわかりますの。でも……何がどう間違ってるのか、全部ちゃんとわかるのなら、今すぐにでも直したいけれど、そうじゃないから……どう生きるべきかわからないから、とにかく今の私にできることをやらなくちゃって」
正直に言って、まだ信じきれないけれど。
きっと、この人たちは私が結局は戦力にならなくて役立たずのままでも、見捨てたりはしないのだと思う。
けど、本当の内心はそうだとしても、私の心の中の皆が休もうとする私を、楽をしようとする私を本当は責めているんじゃないかと思ってしまう……きっと、どれだけ優しくされてもいつまでもそう思ってしまうのだろうというのが怖くて、その言い訳のためにできることなら一秒も休むことなくできることをしていなきゃ安心できない気がして。
「私は……きっと、生きること自体に向いていないんですわね。せっかく転生させてもらえて、きっと私がいなければ他に転生できていた誰かにも申し訳ないけれど……私は、自分がどうやって生きたらいいのかも、そもそも自分が生きていくべき人間なのかもわからないんですもの」
戦時下であれば、私にとっては『強いこと』や『誰かに戦力として頼られていること』が生きていく指針に、自分が生きているべきという保証になった。
ソニアさんの口にする『戦火の狂気』が、私にそう振る舞える魔法みたいな自信をくれた。
けれど、その戦場の中で意識を失ったと思ったらいきなり戦後に来てしまった私には、ソニアさんのおかげで『戦火の狂気』から解放されてしまった私には、もうその肯定感はない。
それでも、普通の人ならそこから『普通の生き方』に戻ればいいという話になるのだろうけど、私はそもそも『普通に生き方ができた時間』なんて……
「夕子ちゃん……なにも、そう難しく考えなくても大丈夫だと思うんすよ。どうやって生きるべきかとか、そもそも自分が生きるべきなのかとか」
「小野倉さん……?」
「うーん……今は、単なるクラスメイトの『ねね』の方がいいっすかね。『大人と子供』の関係として責任を持って言えるほど人生経験あるって言えないっすから。あくまで同年代の友達として、『難しく考えすぎじゃない?』ってくらいに受け取ってほしいっす」
「それは……はい。『ねねさん』は、同じCクラスのクラスメイト、ですものね……ほんの少しだけ、年上の」
そして、規模は大きく違っても、私と同じように転生者としての能力で『できてしまう』というだけでそう生きるべきなのだと思って悪事を働いてしまって、社長サマに捕まって改心させられた……その上で、転生特典に関係なく『子供組』と『大人組』の立場を股にかけて自分にできる仕事をしている人生経験の先輩。
そんな彼女の言葉は、なんだか……とても昔に、お祖母様と話していた時みたいに安心感が湧いてくる気がして、心が落ち着く。
彼女の能力を一度受けてお祖母様を重ねたことがあるせいかもしれないけれど……私が歩く道の先にいる彼女が『大丈夫』だと言えば、不思議とそんな気がしてくる。
「夕子ちゃん……そういうのはきっと、何十年か生きてる大人にだってよくわかってない人はたくさんいる難しくて気の長い問題なんすよ。だから逆に、答えなんて何十年も出せなくたってそうそう死にはしないんす……わからないうちは、わからないまま、なんとなく生きればいいんすよ。あの本が読みたいとか、あれが食べたいとか、人間なんて今日とか明日のことを考えるので手一杯でいいんす」
「…………」
「夕子ちゃん、まずは今一番したいこと、教えてくれないっすか? 能力の練習がしたいって言うなら……そのために早く、本当に良くなるために休まなきゃって言うしかないんすけど」
「……そこの、お粥を……食べてもいい、かしら?」
「……っすね。もう、お昼時っすもんね」
「ええ、実は朝は何も食べていなかったから、お腹が空いてしまって……でも、やっぱり叱られている途中で──あむっ?」
私がそう言うと、そこから先を言わせないとばかりに口に突っ込まれるスプーン。
それは、お粥の器を片手に持った蓬さんからでしたわ。
そして、文字通り有無を言わせない状態で私に顔を寄せて……
「憶えておきなさい。夕子が本気でまた過労死するってなったら、その前に焼き殺して私も死ぬから」
「むっ!?」
「これくらい言っておかないとちゃんと休む習慣つかないって今回の件で確信したから。いい? 卵も固まりきらないくらい、これ以上ないほど苦しくて後悔するくらいに弱火でじっくり炙り殺してやる。それが嫌なら今後はちゃんと休むこと。薬も今回みたいな馬鹿飲みは一生禁止。わかったわね?」
「ふぁ……ふぁぃ……」
結局、その日は蓬さんの監視付きで翌日の朝まで一日しっかり休まされました。




