2話
結局、部活には入ることなく1か月が過ぎた。高校生活にも慣れてきた頃、悠は遥香に呼び出された。相談したい事があるから放課後2人になりたい、と伝えられた。相談を聞くのは問題ないが、いつも3人で帰っているなか同じ日に2人一緒に帰らないとなると申し訳ない。なつきにどう説明しようかと悩んだ悠は、一度家に帰った後に公園で話をと遥香に伝えた。
家に帰り、着替え公園に向かう。5時を回っていたため、小学生の姿は既になく、静かな公園で遥香を待つ。5分もしないうちに遥香もやってきた。
「ごめん悠。まった?」
「ううん。さっき来たばっかりだから大丈夫」
公園のベンチに2人隣り合って座り、悠は遥香が話し始めるのを静かに待つ。いつもなら遥香がどんどん話すため珍しく静かでなんとなく落ち着かない悠は眼だけキョロキョロと動かしてみたり、空を見上げて雲の流れを見て時間が過ぎていくのを待つ。何分経ったか、遥香が口を開く。
「へへへ、私から呼び出したのにごめんね。なんて切り出そうか迷っちゃって」
「大丈夫。時間はたっぷりあるし、ゆっくりでいいよ」
更に数分待つと、ゆっくり遥香が話し始める。
「あのね、今日の昼休みにね、隣のクラスの男の子に呼び出されてさ、告白されたんだ」
「告白っ!?」
遥香は確かに可愛いが、何故か今までそんな話は聞いたことが無かった悠はつい大きな声を出してしまう。
「声でかいよ悠。もう、周りに誰もいなくてよかった」
「ごめん、つい。それで、なんて答えたの」
話の続きが気になり、悠にしては珍しく、続きを促す。
「うん。私、その人のこと全然知らなかったから、断ったんだけど、それならこれから知ってくれればいいからまずは友達からでもって言われちゃって。どうすればいいかわからなくて、考えさせてって言ってきちゃった」
「なるほど。そこからの相談ってこと?」
「そうなの。相手が私の事を好きだってわかっていて友達ってどうなんだろうって思って」
「確かになぁ」
悠も、答えなんて持ち合わせていない。もっと言えば、何で遥香が悠にこのことを相談したのかもわからなかった。悠は告白されるどころか、恋をしたことがないのだから。悠にそんな浮ついた話が一切なかったことは遥香も知っているはずだ。告白の有無はわからないが、それでも好きな人がいると聞いたことがあるなつきの方がまだ適任な気がすると思いながら、悠なりにアニメや漫画、ドラマを思い出して必死に考える。考えるが、何が正解なのかわからない。
「難しいね、一日考えてみてもいい?」
結局、良い案が思いつかず、一度持ち帰り考えてみると伝えてみる悠に、遥香はありがとうと伝え、その日はその場で解散した。
家に帰り、悠はネットで調べてみるが対応は人それぞれで、やはりというべきか正解なんてものは書いていない。答えは出せないまま、流石に寝なければ明日に支障が出る時間になってしまい、起きたらいい答えが浮かばないかと思いながら悠は布団に入った。
次の日、朝起きるも、やはり妙案なんてものは浮かんでこない。いつもなら遥香となつきと登校するが、今日は日直であった為1人早く登校することにした悠は、考えながら道を歩く。
「あ、悠ちゃん、おはよう」
後ろから肩を叩きながら声をかけられ振り返れば、そこには智美がいた。
「あ、早瀬先輩、おはようございます」
部活見学以来だったが、自分のことを覚えてくれていたことに驚きと喜びを覚える。そんな気持ちが顔に出ていたのか智美が話す。
「ふふ、可愛い子だったから覚えてたの、悠ちゃんこそ私の事覚えてくれてて嬉しい。ありがとね」
「いや、自分は全然可愛くなんて。それより、先輩のお茶点ててる姿があまりにも綺麗だったんで良く覚えてます」
「それなら、入部してくれたら良かったのに~~、待ってたんだけどなぁ」
いたずらっぽく微笑みながらそんなことを言う智美に気付かず、悠は真面目に言葉を返す。
「すいません。入ろうか迷ったんですけど、勉強についていく自信がなかったんで」
申し訳なさそうに言う悠に、智美は一瞬驚いて、笑いながら否定する。
「冗談だから、気にしないで。悠ちゃんは真面目だね。だからそんな顔してるんでしょ?」
「え?」
急に真面目な顔で問われて驚く。何か変な顔をしていただろうかと考えてみるが、いつもと変わらない気がする悠は首を傾けることしかできない。
「なんていうかね、あの時より元気ない気がする。こう見えても人間観察は得意だからね。どう?なにか悩んでるんじゃない」
悠は驚いた。一度しか顔を合わせたことが無いのに悩んでいることを当てられてしまったのだから無理もない。そんなに分かりやすかっただろうかと考えてみるが、家族には特に何も言われなかったし、感情が面に出にくいタイプだ。人間観察が趣味だとそんな所まで気づくのだろうかと疑問に思いつつも、1人では答えが出そうにないため、名前を伏せて相談することにした。
「実は、知り合いに相談されたんですけどいい答えが出なくて」
「どんな相談なのかきいてもいい?」
悠は、知り合いが隣のクラスの男子に告白されたこと。そしてよく知らない相手だから断ったこと。それなら友達からでも言いと言われどう返すべきか悩んでいるらしい。ということを伝えた。
「自分、恋愛とかよく分からないんで答えてあげられなくて、ネットで調べたりもしたんですけど……」
「なるほどねぇ、友達のためにそこまで悩むなんて、優しいね悠ちゃんは。その男の子に興味が無いなら、潔く断る方が優しさだと私は思うかな。いつまでも叶わない恋をさせ続けるなんて酷じゃない?」
なるほど、と悠は納得する。遥香のことばかり考えすぎて、相手の男の子のことを考えていなかったと反省した。脈がないのなら断ってしまうのがある意味優しさなのかもしれない。遥香が断った理由は相手を知らないからだった。そのため、遥香が相手を知ることで好きになる可能性があるのなら、友達になってもいいのかもしれないが、もしその気がないなら断ればいい。それだけの話だったのかと、自分の考えの浅さが嫌になる悠だが、今は責めている場合ではないと思い返し、智美にお礼を伝える。
「先輩、ありがとうございます。先輩のおかげで相談に答えられそうです」
「参考になれたなら良かった。そうだ、悠ちゃん連絡先交換しない? 私仲がいい後輩とかいなくて、悠ちゃんと仲良くなりたいなって思って」
智美がスマホを出しながら言う。悠も中学時代含め、今まで特別仲がいい先輩なんてできたことがない。智美と仲良くなれるのなら嬉しいが、自分からグイグイ行くタイプでもないため、交換したところで疎遠になりそうな気がしないでもなかった。もちろん断ることは無いのだが。
「自分も先輩と仲良くなりたいです。交換しましょう」
連絡先を交換すると、早速智美から『よろしくね』と送られてくる。悠も『よろしくお願いします』と返せば、可愛らしいスタンプが返ってきて、隣にいるのにスマホで会話しているのが可笑しくて、2人で笑ってしまう。
その後は、智美からあの先生の授業はどうだとか、勉強のコツなんかを聞きながら学校までの道を歩く。悠はもともと人見知りなところがあるため、基本は話を聞く側に回るが、智美は話し上手で、悠が話しやすいよう話題を振ってくる。また、悠も出すところがないだけで、知識は豊富な方であるため、会話が続く。ここまで家族以外と話すことが無い悠はそんな自分に驚きながらも楽しく登校した。




