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5話



魔石。それは、まるで燃えるような輝きを持った宝石で、とても綺麗な色をしていた。

大きさはバスケットボールほどで、見た目に反してとても軽い。


それに触れると、僕の体は魔石の中からオーラのような物だけを吸い取って綺麗な魔石は輝きを失ってしまった。


エヌさん曰く、これでエネルギーの吸収は終えたらしい。


輝きを失った魔石はもう必要ないと言われたけれど、捨てるに捨てれなかったのでバラバラに解体したコカトリスさんの素材と共に異空間倉庫に保管する事にした。


そして…。


「おう、思ったよりも早かっ…って!おまっ!?それっ!?一体何があったんだ!?」


馬車の元に戻った途端、モルガスさんに驚かれた。

僕が疑問に思っていると、アルト君が悲鳴染みた声で怒鳴ってきた。


「俺の服がボロボロじゃねぇかよ!この野郎!どうしてくれんだよっ!」


……あ。

いつのまにか白衣擬きは消えてしまってたみたいで、元の、ボロボロになった服装に戻ってしまっていた。


「ご、ごめん…」


「買ったばかりなんだぞ!どう落とし前つけてくれんだよ!」


どうしよ…。


そう思った矢先にゴチンッと音が鳴った。


モルガスさんがアルト君の頭にゲンコツを落とした音だったみたい。

それでも、アルト君が涙目で僕を睨み付けてくる。


「服なんて今はどうでも良いだろうが!そんな事より、怪我はしてないか心配しろってんだよ!」


「でも!」


「でももクソもあるかよっ!」


またもやゴチンッとアルト君の頭にゲンコツが落ちた。


「あ、あの、僕は大丈夫なんで…。服も、今度新しいの買って返すから、その…ごめん」


「ちっ」


それでアルト君は納得したみたいで舌打ちしてから立ち去って行った。


「すまんな。アルトの奴が何度も」


「い、いや。僕も服をこんなにしてしまったし…」


本当に申し訳ない気持ちで一杯だ。

僕が口下手じゃなければ、もっと上手く謝れたんだろうけど、ないものを言っても仕方がない。


「別にいいって。どうせ安物だしな。ところで、聞いていいか?どうしてそんなにボロボロになったんだ?」


言われて気が付いた。

でも、考えてみれば、こうなってしまうのも当然だ。だって、あれだけの強行軍をしたんだ。服が無事に済むはずがない。

体が無事なのが不思議なぐらいだ。いや、痛覚はないって言ってたし、どこか怪我してたり…?


《損傷率0% 。問題ありません》


「えっと…」


さすがに木に体当たりしてました、なんて言えないよね。


「ちょっとランニングを…」


「ランニングって…あー、言えないんだったら別にいいんだ。別に無理に言わせようとしてる訳じゃないしな」


「その、ごめんなさい…」


「謝る程の事でもないぞ。冒険者には秘密の一つや二つ有って当然だからな」


カハハッと笑って僕の肩を優しくトントンと叩くモルガスさん。僕を気遣ってくれてるのが良く分かる。

やっぱり優しい人だ。


「で、用事は済んだのか?」


「うん」


「なら出発……の前に、着替えだな」


「……うん」



○○○



冒険者とは、魔物の討伐や薬草の採取。他にも馬車の護衛や荷物の運搬など。何でも屋みたいな職業なのだそうだ。

日本で言う派遣会社のような認識で良いはずだ。


冒険者の各人は強さや性格などでランク付けされていて、下からF・E・D・C・B・A・Sがあるらしい。


あと、新入社員的な扱いのGランクもあるらしいけれど、これは冒険者に成り立ての新人のみらしい。早くて一週間で次のランクに上がれるのだそうだ。


とまぁ、そんな話を馬車に揺られながらモルガスさんとしていた。


ゆったりとした足取りで進む馬車内で出来る事はなく、冒険者のみんなも魔物や敵が襲って来ない限りは馬車の中で乗客と一緒に座って談笑している。


一応、交代で御者席に一人。荷台の最後部に一人の監視を付けて周囲の警戒に当たってるみたいだ。


「ーーってな訳だ」


冒険者の仕事内容は、魔物を討伐する事以外にも、手紙の配達や子供のお守りなどの雑用みたいな事まであって、そんなに大変ではない、と。


「どうだ?冒険者になれば、冒険者ギルドが身分を保証してくれるから、身分のないお前なら成っていて損はないぞ?」


僕は身分を持ってないから普通に街に入れない。だから、こんな説明をされている。


「うーん…」


冒険者になるのは別に良いんだけど…でも、危なそうだし…。


《報告。敵性を確認。方向3時。距離502m。数13体》


3時…?どうして時間を?


そう疑問に思った途端、目の前に半透明の時計が現れて、一本しかない長針が3時を指し示した。


時計盤の上には、距離を示す数値と13個のオレンジ色をした点マークが付いている。一つだけ逸れてるのがあるけれど、これは関係なさそうだね。


このマークがエヌさんの言ってる敵性かな?


《解答。そうです》


それじゃあ、早く伝えなきゃ。


「あ、あの…」


「迷うのも分かる。だから、無理にとは言わねぇよ。身分証なら魔術師ギルドや商業ギルドでも発行してもらえるからな。でも、魔術師ギルドに入るには研究資料の提出と魔法が使える事が大前提となるし、商業ギルドは大金が必要だ」


「いや、あの…」


「俺は冒険者ギルドに顔が効くから、冒険者を勧めてはいるが、お前が嫌なら別にそっちを選んでもらっても良いんだぞ?さすがに国の身分証を発行するのは俺でも難しいがな」


「ちがっ…」


「ん?何が違うんだ?」


「あの、えっと…」


ようやく話が止まったけど…この場合、なんて言ったらいいんだろう?

敵が来る?いや、でも、敵って分かった訳じゃないし。そもそも、向こうは動いてない。


この時計を見せれたら話は早いんだと思うけど…。


《解答。当機に投影機は搭載していません》


エヌさんは無理だって言ってるし…。


「……?」


僕が言い淀んでいると、モルガスさんが不思議そうな顔をした後、何を勘違いしたのか分からないけれど、不機嫌な顔付きになった。


「…もしかして、やっぱり街に行かないとか言わないよな?」


まるで怒ってるような雰囲気がモルガスさんから漏れ出して、思わず身を竦めてしまう。


「いや、悪い。怖がらせるつもりはなかったんだ」


そう言ってニカっと優しい笑みを浮かべると、僕の頭をポンポンいた。


不思議と安心感を与えるような笑顔で、怯えていた僕の心が落ち着きを取り戻す。


「お前みたいな子供が街の外なんかで暮らすのは何かと危ないし…それに…あぁ、なんだ。お前を見てると、家出した息子を思い出すんだよ」


遠い目をして過去を振り返り、照れ臭そうに話すモルガスさん。


《警告。敵意を感知しました》


一体だけ逸れていたオレンジの点マークを通り過ぎた途端、時計盤に変化が起きてその点マークが赤色に変わり、集団の元に馬車よりも速い速度で向かい始めた。


過去に耽っている所、本当に悪いんだけど…。


「あ、あの、モルガスさん」


「ん?どうしたんだ?」


よしっ。言うよ…っ。


「てき…敵がいます」


よしっ、言えた!


「敵?魔物か?」


「えっと…」


そこまで考えてなかった。

どうなんだろ?魔物なのかな?


《解答。魔物です。種類を調べています…情報不足により不明。索敵方法を変更。外見を把握しました。該当する魔物を検索…該当魔物はゴブリン種と推測されます》


「悪い。索敵持ちでも、そこまで分かるはずがーー」


「えっと…魔物みたいです。あと、ゴブリン種かも…」


「マジかよ。もう来てるのか?」


「えっと、待ち伏せ…かな?」


たぶん。確証はないけど、さっきのゴブリン種が本体と合流した途端、この先に居る残りの12体も赤色マークに変化した。でも、動きはなさそうだから待ち伏せだと思う。


《報告。残り100mを切りました。戦闘modeに移行して下さい》


「おい!お前ら!この先に魔物が待ち伏せしてるぞ!準備しろ!」


エヌさんの追加報告とモルガスさんの指示は、ほぼ同時に出された。


そして、指示を受けた他のみんなの動きも迅速だった。


御者は馬車の動きを止めて、乗客達は身を寄せ合って固まり、冒険者達は即座に各々の武器を手に持って馬車を降りる。


「魔物はゴブリンだが、決して気を抜くな!死んでも乗客は守るんだ!良いなっ!?」


「はい!」

「ええ」

「……」


アルト君の返事が一番大きく、ヤル気に満ち溢れている。マリエッタさんは真剣な表情をして頷き、ババリーさんは相変わらず無口だ。


3人それぞれの返事をした後、事前に戦闘の際の配置を決めていたのか、片手剣と片手盾を持つモルガスさんとアルト君が先頭。

マリエッタさんが弓に矢をつがえて御者席に立ち、身の丈ほどの大剣を持っているババリーさんは馬車の背後を守るように立つ。


なんだか、カッコいいな…。


「よしっ!警戒しつつ、慎重に進むぞ!」


その一声で馬車がゆっくりと進み始めた。


こんな緊張に満ち溢れた空気の中だけど、一つ伝え忘れていた事があるのを思い出した。


普通にスルーしてたけど、待ち伏せ地点まで、あと…。


《報告。残り90mを切りました。戦闘modeに移行して下さい》


思ったよりも距離がある。


「どうしよ…」


「そう心配しさなんな。きっと大丈夫さね」


「そうじゃよ。経験豊富な冒険者が護ってくれとるのじゃ。儂も若い頃はブイブイ言わせとったんじゃぞ?」


随分とキモが座ったお爺ちゃんとお婆ちゃんだ。こんな緊迫した空気の中なのに、呑気に世間話に突入し始めた。


「もう、お爺ちゃん。今は若い頃の話はいいから、何かあった時の為に備えなきゃダメでしょ」


「おぉ、そうじゃったな」


「老いぼれもここまで行くと老害さね」


「なんじゃと!?このクソババア!」


「なんさね!やるってのかいっ!このクソジジイ!」


お孫さんだと思われる少女が世間話に突入し掛けたお爺ちゃんを阻止したと思いきや、お次は喧嘩に発展した。


お爺ちゃんとお婆ちゃんの二人で胸倉を掴んで睨み合い、少女はやれやれと言った風に溜息を吐きながら仲裁している。


こんな状態なのに随分と賑やかな人達だ。

今まさに魔物の待ち受ける場所に向かおうとしてるなんて忘れてしまうほどで、自然と乗客達の緊張感を和らげてしまう。


《報告。残り50mを切りました。戦闘modeへ移行して下さい》


って事は、そろそろ見えるぐらいかな?


「止まれ!」


そう思った途端、モルガスさんの声だと思われる停止の声が掛かり、馬車が停止した。


御者席の方から顔を覗かすと、前方の方に壊れた馬車が道を塞ぐように立ち塞がっていた。


時計盤を見る限り、どうもゴブリン種とやらはその周囲の木々に隠れているみたいだ。


頭が良いのかな?


《解答。ゴブリン種の知性は低く、脅威性は0です。特記事項として他種族の女性を使用し繁殖しますが、稀に男性を狙う変異型も存在します》


それ、知りたくなかったかも。


そんな会話をしている間にも状況は進んでいる。


「マリエッタ!ババリー!馬車を頼んだ!」


「分かったわ」


「………」


モルガスさんとアルト君が先行して道を塞ぐ馬車の方へ向かった。

こちらの馬車の警備をするために残ったのは、マリエッタさんとババリーさん。


対する、ゴブリン種達も二手に別れた。


モルガスさんとアルト君を待ち伏せするゴブリン種達と、こちらを狙って馬車を囲うように移動するゴブリン種達。


静まり返る馬車の中からでも森の中をガサガサと動き回るゴブリン種達の移動音が聴こえてくる。


そしてーー音が止んだ。


マリエッタさんとババリーさんは油断なく周囲を警戒している。


束の間の静寂が訪れる。


誰かの息遣いが良く聞こえる。風の音。草が揺れる。馬が空気を読まずに地面を蹴って、一鳴き。


ヒュンッと僕の目の前を矢が通り過ぎた。


「全員伏せて!!アーチャーがいるわ!」


慌てて御者さんは荷台に移動して、みんなと同じように身を屈ませる。それを横目にマリエッタさんが矢が飛んで来た方向へ弓を射る。


「グギャッ!?」


ゴブリン種に当たったのか、悲鳴と共にマークが一つ消えた。


その瞬間…森の中からワラワラとゴブリン種と思わしき緑色の肌をした小鬼が出てきた。

武器は剣や棍棒や弓矢など。変わったもので、盾だけってのもいる。

身長は小さく頭に角が生えていて、まるで僕達を見下すような嫌な目をした、これまで見てきた魔物の中で一番嫌悪を覚える魔物だ。


「ババリー!左お願い!」


「………」


マリエッタさんが弓を射ながら指示を出すと、無言でババリーさんは左側に移動し、向かってくるゴブリン種達と対峙する。


向こうのモルガスさんとアルト君の方も戦闘が始まっているようで、二人で背中合わせになってゴブリン種達と戦っている。


でも、数が数だ。それほどゴブリン種達は多くないし、この感じだと時期に終わるだろう。


そう思っていた矢先にーー。


《警告。索敵範囲内の敵意数が増加しました。方向2時。距離162m。数105匹》


「うそっ!?」


思わず驚いて叫んでしまうほどの敵が現れた。


「どうしたのっ!?」


焦った様子で僕の方に振り向いたマリエッタさん。

その行動に僕も慌てて身を乗り出して、今にもマリエッタさんに突き刺さりそうだった矢を掴んで止める。


「ふぅ…」


「あ、ありがとう。アンタ、やるわね」


って、そうじゃない。


「て、敵!沢山来た!」


僕は敵が向かってくる方向を指差して教える。


「ちょっと待ってね。先ずはコッチを終わらせてから話を聞くから」


子供を宥めるように僕の頭を優しく撫でてニッコリと微笑んだあと、残るゴブリン種達に矢を射るマリエッタさん。


どうも話を聞いてくれる感じじゃない。


かと言って、ババリーさんは無口で怖いから話しかけにくいし…。


《警告。現状の戦力での勝算は30%以下です。戦闘modeへ移行して下さい》


モルガスさん達の方へ向かうのも、周りがゴブリン種達で囲まれている今は危ない。


これまでは武器を持ってない野生の獣同然の魔物ばかりが相手だったからなんとかなっていたけれど、ゴブリン種達は凶器を持ってるんだ。


もし流れ矢に刺さったり剣で刺されたりしたら、幾ら頑丈な身体だとしても死んでしまうかもしれない。


だから、臆病な僕は縮こまって怯え、戦闘が終わるのを待つしか出来ないでいる。


《報告。追加の敵意との距離が100mを切りました。戦闘modeへ移行して下さい》


もし…もし、僕がその戦闘モードになったとして、みんなが助かる確率は…?


《解答。不確定要素を除いた場合の完全勝利確率は100%です》


………分かった。


僕は静かに覚悟を決めた。



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