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4話


坂を登りきると、疲れた顔はしているものの、皆が一様に口元を綻ばせて一難を共にした仲間達と喜び合った。


「ふいーっ…」

「はぁ…はぁ…はぁ…つ、疲れた…」

「よっしゃー!登りきったぞー!」

「なんか、途中から凄く軽くなかった?」

「ママー!お腹空いたー!」

「そうね。少し早いけど休憩にしましょうか」

「飯だ!さっさと昼にするぞ!」

「ホッホッホ…これはちとババアには堪えるのぉ…」

「それを言うなら儂もじゃよ。腰が痛いわい」


各々が口々に感想を述べている。


僕を魔物や化け物扱いしてきた男の子は、辿り着くや否や地面に突っ伏して仰向けに寝転んでいるけれど、誰も彼に構ってあげないみたいだ。

なんだか可愛そうに見える。


御者が馬を馬車から外して、近くの木に括り付けている。

他の人達も、なんだかんだと言いながら食器や食材を各々で準備して休憩に入ろうとしている。


「おう!血塗れ坊主!」


僕はどうしようかと迷いながら彼等の事を見ていると、その中の一人が僕の方に歩み寄ってきた。


血塗れ?それ僕の事…なのかな?

なんだか嫌なアダ名を付けられたみたいだ。


「なに突っ立ってんだよ。さっさとこっちに来い。手伝ってくれた礼にご馳走ぐらいするぞ」


《提案。受領すべきです》


「そ、それじゃあ…頂きます」


エヌさんの後押しもあったし、僕自身に断る理由は特にない。

元々は人と接触する事が目的で馬車を押すのを手伝ったし、願ってもないお誘いだ。


「おっと、その前に、ちと体を拭いて来い。それじゃあ飯が不味くなるだろうからよ」


そう言って、彼の近くにあった水桶と布切れを拾って渡してきた。


「う、うん」


どこかでお風呂を借りて入るつもりだったんだけど、拭くだけでも良いかな?


《洗浄魔法を行使します…失敗。魔術式が存在しません。魔術式を構築…失敗。baseが存在しません。baseをinputして下さい》


エヌさんが何かしようとしてたみたいだけど失敗してるみたい。


まぁ、元から体は洗うつもりだったし、この際だから洗っておこう。


男の人から布と桶を受け取って馬車の影に隠れて身体を拭き始める。


《報告。コカトリス種が住処へ戻りました。目的地を視界に反映します》


エヌさんがそう言うと、僕の視界一杯に立体地図が表示された。

空白地点の多い地図で、僕の通ってきた通路はきちんと表示されている。


コカトリスがいるのは僕達の居る地点から更に進んだ先にある空白地点のようだ。


「少し大きくないかな?」


《地図を縮小します》


地図が縮んで視界端に移動した。


イメージとしてはゲームのマップ表示みたいな感じで、僕がいる地点を中心に地図が展開されている。


でも、意識して注視しないと細かな所は分かりにくい。色々と細かいし。


《平面地図に変更。縮尺を半径10kmから半径1kmに変更》


もう一声。


《縮尺を半径1kmから500mに変更》


うん。これなら見やすい。


身体を拭きながらエヌさんと地図の事で相談していると、誰かが近付いてきているのが地図の表記で確認できた。


なので、さっさと身体を拭いて服を着る。


「おーい、血塗れ坊主」


最後に髪を拭きながら、こちらに向かってきている人を待っていると、さっきの男の人がヒョッコリと顔を出した。


「お前、着替えは持ってるか?って、その様子じゃなさそうだな」


僕の姿を見て、やれやれと言った風に首を振った。どうやら、魔物の返り血で赤黒く染まった僕の服を見て呆れているみたいだ。


「ほれ、これを着な。少し大きいかもしれねぇが、アルトのだ。身長は同じだろうから着れると思うぞ」


そう言いながら僕に服を一式渡してくれた。


「あ、ありがとうございます」


正直、僕はこのままでも何とも思わないんだけど、折角の善意だし、ありがたく受け取っておく。


男の人が立ち去るのを見届けた後さっさと貰った服に着替えてから、前に着ていた服をどうするか考える。


この服の元は生き物だった。それを殺して服にして着ていた。

このまま捨ててしまうのは服の元になった兎さんに失礼になると思うんだ。


《提案。異空間倉庫に収納》


あ、じゃあそれで。


よく分からないまま適当に了承した途端、持っていた服が僕の手の平に吸い込まれるようにして消えた。


手の平を確認しても穴らしき物はない。


どこに消えたんだろ?


《解答。体内の異空間倉庫に保管しています。取り出しますか?》


いや、いい。


おそらく、体内の胃袋的な何かに保管しているんだろう。


《否定。当機に胃袋は存在しません》


あ、そうなんだ。


まぁ、大体どこにあるか分かったから、それでいいや。


それにしても、本当に僕は人間じゃないんだなぁ。こんな機能を見せられたり説明されたりすると、つくづくそう思うよ。


《解答。当機は人体を素体として作成されています。種族は混合種(キメラ)に分類されます》


やっぱり人間辞めてるし…。


考えても仕方ないか。それに付いてはもう諦めてるし、納得もしている。


だから落ち込んでも仕方がない。


………戻ろう。



○○○



僕に水桶や布や着替えなどをくれた人はモルガスさん。彼曰く、冒険者って言う仕事をしているらしい。


彼の他に、僕によく突っかかってくるアルト君。無口でスキンヘッドなババリーさん。彼等の中で唯一の女性マリエッタさん。


そんな彼等と一緒に空になった鍋を囲んで雑談中。

主に僕の身元とかが話題になっている。


「空から落ちてきただぁ?巫山戯んな!そんな奴居るわけねぇだろ!!」


「おい、アルト。お前はさっきから煩いぞ。少し黙ってろ」


「………」


不服気に顔を顰めると、親の仇のように僕の事を睨み付けてきた。


「ったく…。コイツの事は無視してて良いぞ。そんな事よりも、お前…アークツカ・ズト?」


「えっと、カズトで」


「おう。んじゃ、カズトは本当に空から落ちてきたのか?」


「う、うん。たぶん」


本当言うと、教室から出ると異世界に来てしまっていて、起きたら研究所で、気が付いたら空の上に居たんだけど…話がややこしくなるので話さない事にした。


「もしかして天人だったりしてな」


なんて冗談めかして言って笑うモルガスさん。


「天人?」


《解答。天人とは幻想生命体である天使を指します》


「んあ?知らねぇのか?飛空島に住んでる偉そうな人間の事だ」


どうもエヌさんの解答と差異があるみたいだ。


「天使とは違うの?」


「カハハッ。天使だなんて、そんなのお伽話の中だけしか出て来ねぇぞ。実際に存在してたって言われるのも数千年前の話だしな」


「そうなんだ」


《天使の存在を捜索…付近に存在しません。移動して下さい》


数千年の話って言ってるし、種族が滅びてても不思議じゃないかな?


《天使の残留物質を捜索…付近に存在しません。移動して下さい》


エヌさんは天使が存在してない事を頑なに信じようとしないみたい。


「そんで、お前はこれからどうすんだ?」


「んー…」


どうしよ?


《解答。コカトリス種の魔石を入手すべきです》


ちゃんと覚えてるよ。

エヌさんは変な所で頑固だよね。


昼ご飯をご馳走してもらったけど、まだ魔石は必要なの?


《解答。先の食事によって得られたchaos energy…0.2%》


少なっ!?


どれだけ食べても満腹にならなかったから、普段食べる量の二倍近い量を食べたのに全くエネルギーは増えてない事に驚きを覚えた。


やっぱりコカトリスの魔石が必要なようだ。


「急に驚いたりしてどうしたんだ?」


「い、いや、別に…」


さすがに、今の食事が足りなかったとは言えないし…それに、エヌさんの事は話すと変な子扱いされかねないので黙っておく。


訝しまれているので、少し慌てながらだけど、さっきの話に戻す。


「僕、ちょっとこの近くに用事があって、それを済ませてから人が沢山居る所に行こうと思ってて…」


「街に行くのか?アーテンブルクの街なら俺達の目的地だが、その用事はすぐに済むのか?」


「んーと……」


エヌさん。


《解答。30分もあれば十分だと推測されます》


「30分ぐらいだと…」


「そうか。それなら、お前が戻るまで待つように御者に話しといてやるよ。でも、待つのは1時間だけだぞ?」


「う、うん。ありがとう!」


モルガスさんは口調とか風貌は怖いけど、優しい人だ。

ちなみに、僕の口調は敬語だと他の冒険者にナメられるから、冒険者相手には普通に話すようにって言われた。


これだけ親切にしてくれるモルガスさんには感謝してもしきれない。もしモルガスさんが困っている時は手を貸そう。僕なんかでも力になれる事がきっとあるはずだ。


「それじゃあ、早速行ってきます」


「おう!気を付けてな」


冒険者の人達に見送られながら、僕はその場を後にして…彼等の姿が見えなくなった頃合いで足を止める。


そんな訳で、エヌさん。後よろしく。


《解答。了解しました。体の主導権をnucleusに移行します…》


僕よりもエヌさんが行動した方が絶対早いもんね。そもそも僕はコカトリスって魔物がどんな姿をしてるかとか、魔石がなんなのかとか良く分かってないし。


「………complete。只今より、コカトリス種の魔石入手を実行します」


そう言ってからエヌさんは物凄い速さで走り始めた。


この体ってこんなにも早く走れたんだ。知らなかったよ。

ずっと歩いてたし。


勢いが勢いだけに、一本の大木を避けると、次の大木に激突しそうになってる。だけど、エヌさんはそれすらも予測済みなようで、難なく避けている。


まぁ、枝とかは直撃してるけど。


ふと気になったんだけど、これってキロぐらい出てるのかな?

見てるだけの僕でも怖いんだけど。


「解答。現在、時速89kmで走行中しています。速度を落としますか?」


いや、別に落とさなくてもいいよ。

この速度に僕も慣れなきゃいけないと思うし。


それはそうと、走りながら普通に答えてくれるエヌさんもエヌさんだけど、僕の体ぐらいある枝に激突しても何も感じないこの体も異常だよね。


「当機に痛覚は不必要と認識しています。作製しますか?」


ううん。作らなくていい。

痛いの嫌だし。


…ん?今、何か撥ねた?


膝辺りに何か生暖かくてふっくらとした何かが当たったような気がしたんだけど…?


「解答。魔物フォレスト・ウルフです。当該生物の生命反応を確認…死亡を確認」


あー、これが俗に言う轢き逃げってやつね。


生物を殺すのは慣れたと思ってたけど、敵意のない生物を殺すのは余り良い気分はしない。


僕は生き物を殺す事を割り切れずにいて、罪悪感が僕の心を埋め尽くすんだ。


「了解。敵意のない生物の殺害を最小限に抑えます」


あくまで最小限なんだ。


まぁ、こんな速度で走ってたら完全に避けるなんて事はーー。


「…可能です」


あ、ちょっと声音が怒ってるような感じがする。

僕の思った事がエヌさんの癪に障ったみたい。


だからなのか、さっきより速度が上がったような……えっ…ちょっ…速い。速すぎるよ!危ないっ!当たる!当たってるっ!!当たってるって!!


さっきよりも確実に速度が上がっている。目前に迫る木々なんてなんのその。避ける動作がなくなってしまい、速度が急激に増加した。


まるで高速で走行する戦車の如く木々を薙ぎ倒すものだから、エヌさんが通った後には一種の災害のような悲惨な事態になってしまっている。


代わりと言ってはなんだけど、動物や魔物との不慮の事故はなくなった。


うん…。出来ないなんて言って、ごめん。エヌさん。



○○○



目的地と思わしき洞窟の中にようやく到着したのは、あれから数分ほど走った頃。


僕の目の前には、蝙蝠みたいな翼のある巨大なトカゲかな?が横たわっていた。

首から上と下肢は鶏のようで、胴はさっきも言ったけどトカゲみたいな感じ。翼は悪魔を彷彿させるもので、尾の蛇が口から泡を吐いてピクピクと痙攣している。


「ふっ」


えっ…今、鼻で笑った?

あの機械みたいな反応しかしないエヌさんが…笑った?


いや、でも、エヌさんもたまに人みたいな反応をするし…するのかな…?


「個体名、コカトリス亜種と認識。…瀕死を確認」


だろうね。


誰かさんが出会い頭に飛び蹴りを食らわしたんだもん。そりゃあ、あんな新幹線並みの速度で、尚且つ、この体の頑丈さを併せての飛び蹴りなんてしたら瀕死にもなるよ。


「これより魔石を取り出します」


……取り出す?

どこかに隠し持ってるわけじゃないの?


「解答。剥ぎ取ります」


……え?

今、なんて…?


剥ぎ取る?それって、まさか…。


「特殊武装を展開します」


エヌさんがそう言うと、手元にスパークが迸り…ったと思えば、なにかをスパークが何かを模るように肥大化し、スパークが四散すると共に歪な形をした剣が手元に収まった。


原理はよくわかんない。ただ、なんか、凄い光景だった。


話を戻すよ。


僕の手元に現れたのは、剣であって剣じゃなくて…そう。例えるなら、医療器具のメスのような形をしていた。


両手で持つような大きさなのに、エヌさんは片手で持ち、まるで扱い方を試すように軽々と振るって地肌が剥き出しの地面をスパンッと何の抵抗もなく切り裂く。


もしかして、ただメスを巨大化させただけなんじゃ…。


いや、そうじゃなくて…本当に殺さなきゃダメなの?


「解答。該当器具『E30』は解体用に使用されます。魔石は魔物の体内にあるため、一度取り除く必要があります。その際、当魔物は死亡します」


あぁ。やっぱり…。薄々は予想してたよ。

でもさ、やっぱり殺生には慣れたと思ってたけど、なんだか割り切れない僕がいる。


敵意を持って近付いてくる魔物は僕でも何の躊躇いもなく殺せるようにはなったけれど、敵意のない相手を不意打ちのような形で瀕死に追い込んで殺すなんて僕にはまだ出来ない。


コカトリスさんの鶏顔が死にたくないと瞳で語っている。蛇が親の仇を見るような殺意に満ちた瞳で睨み付けてくる。その二つの眼差しが僕の心に棘となって突き刺さる。


でも、僕が生きるためにはエネルギーが必要なわけだし…。


心の中でモヤモヤとした気持ちに葛藤を覚えていると、ふと手元に目が行った。

よく見ると、僕の服装も変わっていた。医者が着ていそうな白衣を真っ黒に染めたものだ。


返り血防止かな?

こんなのがあるのなら初めから出しておいて欲しかった。それなら服に困る事はなかったのに…。


背中にも何か背負ってるみたいで…と思ってると、次々とそれらを使用して躊躇なくエヌさんはコカトリスを解体し始めた。

使用しているのは、巨大ペンチやら巨大ドリルなど。持ってるのはメスだけじゃなかったみたい。


あと、コカトリスさん…ごめん。


僕がそんな事を考えてる内に、エヌさんは解体を半分以上も終わらせてしまっていた。


それはもう素晴らしいほどの手際で、鱗や皮。内臓や爪など。全てバラバラに解体していた。


それを見て、ふと思った。

僕にも出来るかな?と。


「可能です」


言われると共に、視界に幾つかの線が現れた。まるで、そこを斬れば良いと言わんばかりの綺麗な曲線だ。


「主導権をmasterに移行します…」


《…complete。解体を続行して下さい》


あ、うん。


なんだか出会って早々に悲鳴をあげる暇もなく殺されてしまったコカトリスさんには申し訳ない気持ちで一杯になるけれど、これは仕方のない事なんだ。


そう。仕方のない事。生きるためには必要な事。食事と同じ。


まだ割り切れないし、これからも同じような事をしなければいけないと考えると少し気持ちが暗くなる。

それと同時に、早く慣れなきゃいけない、と強く思った。

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