☆第19話 魔法使いとまほうつかい
アムエルの輝きが傾き始めた夕暮れ時。
私とジホリさんは、地面に正座した女の人とお喋りをしながら、その人の食べている姿を眺めていた。
「んぐ、んぐ! 美味い! んぐ」
豪快に食べているのに、なぜか気品も感じられる食べ方で黒パンを半分食べると、水袋に入った水を喉を鳴らしながら飲み始めた。
はやくご飯食べたいな……。
「それで、どうしてこのような場所で倒れられていたのですか?」
再びパンをはぐはぐし始めた女の人を、指を咥えながら見ていた時に、ジホリさんが質問した。
「んぐ? 人を探しにこの町まで来たんだが、町に着くまでの道中で魔法を使っていて、さらにその人の家を探すのにも魔法を使っていたら魔力がもたなくなってしまったんだ」
「人探しですか?」
「そうだ。早い話が空腹と魔力の枯渇で動けなくなったって訳だな」
魔力のこかつ!? それってあれね!
「すごく気持ちよくてしびれちゃうよね!」
「は? なんの話だ?」
私が両手で体を抱いて身震いしていると、女の人が何の話か分からないとばかりに呆けていた。ちなみにジホリさんは残念な人を見る目になっている気がする。
でもそれは、ジホリさんが魔法を使えないからしょうがない。それでも、いま目の前にいるこの女の人は同じ魔法使いだから、きっと分かってくれてるよね!
「魔力のこかつだよね? それってすごく気持ちいよね!」
「き、気持ちいい……か? それよりもお嬢さんは魔力が枯渇した経験があるのかい?」
あれ? なんで分からないの?
あんなに気分が良くなって気持ちいいのに……。
思わず真顔になってから、女の人の質問にうなずいて答える。
「そうか、お嬢さんは魔法使いだったのか」
「お嬢さん? 私はミリアだよ」
腰に手を当てて自己紹介をすると、ジホリさんに睨まれたのであわてて姿勢を正した。
「すまない。ミリアは魔法使いなんだな。どんな魔法が使えるんだ?」
「んーとね。水と風と土がつかえるよ」
それを聞いた女の人は一瞬驚いた表情を見せていた。そして思い出したかのように残りの黒パンを平らげる。
「まだ幼そうなのに3属性か……。全部一等級の魔法か?」
「うん。どれも1つずつだけだよ」
私は3属性とも1つずつ覚えていると返事をかえす。
「1つずつか、それでも凄いな」
私は褒められたことに嬉しくなって、にまにまと笑顔になっているのを自覚した。
そうしている間に、ジホリさんが女の人に質問する。
「それで、どなたに御用があったのでしょうか?」
「シプリアン・バイヤルだ。知っているか?」
しぷりあん? はじめて聞く人の名前だね。
「……鍛冶師のシプリアン準男爵様でしょうか?」
「そうだ。貴族なのに鍛冶師になった変わり者のことだ」
「確かに少し変わり者だと聞いた事はございますが……」
「場所は分かるか?」
「はい。お店は町のはずれにありますので少し歩きますが」
「案内してはもらえないだろうか?」
その質問に、ジホリさんは私を見てから視線を女の人に戻す。
「すみませんが、お嬢様のお世話とお屋敷の事を任されてますので、道を教える程度のお手伝いしかできません」
「そうか、それもそうだな。すまないが道を教えてくれ」
「道順ですが――」
ジホリさんが女の人に道を教えている間、私はお腹を柵にのっけてぶらぶらし始めた。
手と足を伸ばして、水平にたもてるように頑張っていると、女の人が持っていた斧の刃が付いた杖が目に入る。
私の身長とおんなじくらい?
形だけを見れば少し変わった斧に見えるけど、魔法石がついているから魔法の杖だと分かる。でもなんで、杖に刃物付けてるのかが分からない。
見ているとだんだん興味を持ち始めたので、ぶらぶらしていた柵から下りて、杖の目の前でしゃがんだ。それからぺちぺち触りながら観察することにする。
女の人も言ってた通り、やっぱり魔法の杖だ。
杖に付いている魔法石が、私の愛用している魔法の杖よりも大きいからか、少しだけ扱いが難しそうな感覚が触れている手から伝わってくる。
「私の杖よりも使うのがたいへんそうだね」
「お? あんまり人の杖に触れちゃダメだぞ」
「ダメだった?」
「ダメと言うか、そういう風習が魔法使いにはあるんだ。自分の杖に愛着を持って、他人の杖には敬意を払うってな」
「そうなの? はじめて知った」
ちゃんと杖に愛着もってるからだいじょうぶ!
寝る時もベッドの中で一緒に寝てるから!
「さてと、それじゃ道も聞けたし、今から行くか」
「そろそろ店仕舞いの時間ですので、明日の方がよろしいと思いますよ。宿はとっていますか?」
「あ。宿とり忘れてるな……」
女の人は少し考える仕草を見せてからこっちを見る。
「泊めてもらえないか?」
「いいよ」
「……いえ、流石に無理です」
私が「どうして?」と顔を向けると、ジホリさんが首を振ってから説明を始めた。
「どなたかも分からない方をお泊めする事は出来ないのですよミリア様」
「そうなの? あなただれ?」
最初はジホリさんに、最後は女の人に質問した。
確かにジホリさんの言うとおり、私はこの人がだれなのか知らない。でも知らないなら、聞けばいいんじゃないのかな?
「……そう言われると、名乗ってなかったな。これは失礼した。私は魔法使いのカナリス・ディードリッド。冒険者をしている」
そう言って自己紹介をして優雅に一礼する。
ディードリッドの家名と貴族式の礼で、カナリスさんは貴族だと判断できる。それと最後に、ふところから冒険者証と鉄の素材で出来た紋章を取り出した。
鉄の貴族紋章は準男爵の証。カナリスさんは女の人だから正式には準女爵となる。
準男爵(準女爵)は一代限りの貴族。主に貴族の子供がなる身分。また、15歳になると、自分から身分を捨てる事もできる。
お母さんから教えてもらったけど、私のお父さんは子爵だから、私は子爵令嬢と呼ばれるみたい。だけど、正式な身分は準女爵だって教えられた。
お父さんの跡を継げば子爵になれるみたいだけど、私はそんなことに興味ない。だって魔法使いになるんだもん。けいえいなんて勉強したくない。オリス兄さん頑張って!
「これは申し訳ありませんでした。……その紋章は神聖ヴェルガ帝国?」
「べるが? バストニア王国じゃないの?」
はじめて聞く国名に首をこてんと傾げると、ジホリさんがいつもの勉強する時のように教えてくれた。ちょっぴり怖い。
「ベルガではなくヴェルガです。ここバストニア王国の北、広大な領土と軍事力を持つ大国です」
「大国? 私の住んでる国は?」
「ヴェルガと比べるならば中規模ですね。世界から見れば大きい方だと思いますが。この辺りはじっくり勉強しましょうね」
「ううん。いい、えんりょします」
「明日の勉強にもりこみますので」
「や、やだ」
ジホリさんが満面の笑みで明日の勉強内容を提案する。
ぶんぶん首を振って拒否したけど、明日はその国の内容になると確信できた。
「母国のことなら私が教えられる。宿代としてどうだろうか?」
ジホリさんとのやりとりを笑いながら見ていたと思ったら、明日の勉強に参加すると言ってきた。それも先生側として……。
「ぁ、あの。やっぱり泊まらなくていいです」
「ふふふふ。遠慮するな」
おどおどとジホリさんの後ろに隠れてからそう言ったけど、カナリスさんはなんだか楽しそうにしている。
あ。魔法使いさんだし、もしかして魔法も教えてくれるのかな?
「……魔法もおしえてくれる?」
「師匠や先生はいないのか?」
「いないよ」
「そうか。まぁ、少しだけならいいぞ。ただ私は旅の途中だからな、長くはいないが」
「いいの?」
「あぁ」
それなら泊まってくれてもいいかな?
「あの、貴族様でも泊める泊めないは私では判断できませんので、少し待っていただけますか?」
「もちろんだ。ここで待つことにするよ」
「それでは旦那様に聞きに行ってまいりますので、少々お待ちください」
そう言ってジホリさんは私を抱えて柵を乗り越えると、手を引いてそのままお屋敷の方へと帰って行った。
お父さん許してくれるかな?




