☆第20話 先生? 師匠?
今日は朝から濃厚な勉強の時間だった。
神聖ヴェルガ帝国とかいう、ここバストニア王国の北に存在する大国に関する勉強をさせられていたから。
何回か国名じたいは変わってしまったけど、国を導いてきた民族は変わらないみたい。そう言う意味では、バストニア王国よりもずーーーーっと長い歴史があるから、話を聞くだけでも疲れちゃった。
そんなジホリさんとカナリスさんとの濃い勉強もやっと終わって、今はゆっくりとお昼ご飯を食べている。
そうだった。
結局きのうお父さんにカナリスさんのことを話したら、あっさりとお屋敷にお泊りできることになった。お父さんはカナリスさんが貴族だということも、冒険者だとも知っていたみたい。
「リオン子爵様はこの間、バタビアの森で闘豚族の群れを退治されたそうですね」
「ええ。領兵と共に退治してきました。バタビアの森は定期的に魔物が活発になりますから、外の危険を排除しませんと町が危険にさらされますから」
お父さんは今日はお休みで、カナリスさんとお話ししている。
最初に会った時のカナリスさんの言葉使いはあらかったのに、今はちゃんとしてるの。ふしぎだね?
「カナリスさんは、いつまでこの町にいられるのかしら?」
「シプリアン・バイヤルという鍛冶師に頼みたい仕事がありまして、それが終わり次第出発する予定です」
お母さんがカナリスさんの予定を聞いている様子を、私はくぴくぴスープを飲みながら聞いている。
うん。おいしい。
「シプリアン卿ですか、確かに鍛冶師をしてますね。行きかたは分かりますか?」
「はい。教えて頂いたので夕刻前には向かう予定です。それまでは泊めていただいたお礼も兼ねて、お嬢さんの魔法の指導をさせて頂こうかと」
「それはありがたい! 娘には魔法使いの家庭教師をつけたかったのですがなかなか難しくて、少しでも知識を教えて頂ければと思います」
はぐはぐもぐもぐしながら話を聞いて、ちゃんと飲み込んでから口を開く。
「食べおわったらおしえてくれる?」
「そうだな。食べたら裏庭を借りて練習でもするか」
「うん! はぐはぐ」
それを聞いてとくに食べる速度はあげないまま、のんびりと食べすすめる。
ちなみに今日の献立は、とりのお肉に野菜いため、それに野菜をじっくりことこと煮込んだスープ。
はふはふ。いつ食べても、お母さんのご飯はおいしい。はふはふ。
お昼ご飯を食べ終えると、私は自分のお部屋にもどって準備を始めた。
まずは大事な少し大きなとんがり帽子をかぶって、お父さんに買ってもらった小さな魔法使いの杖を手に握る。カナリスさんから教科書があれば持って来てほしいと言われたから、最後に本棚から1冊の魔法書をひっぱって脇にはさんだ。
扉を開けて部屋から出ようとしたら、ジホリさんが櫛を手に持って待っていた。
「ミリア様。また髪の毛が乱れてますから、今から整えます」
「いまから?」
それじゃ、少し遅れちゃうよ?
「髪留めが解けてますから、まとめ直すだけです。すぐに済みますよ」
テキパキ作業を開始したと思ったら、ほんとうにものの数秒で終わった。
それからお屋敷から出て裏庭に回ると、カナリスさんがすでに待っている。後ろから付いて来ていたジホリさんが的の準備を始めるのを見て、カナリスさんは私の方へと近づいて来た。
「さてと。教える前にある程度ミリアの実力をしっておかないといけない。そうしないと的確な助言ができないからな」
「なんで?」
こてんと首を傾げて聞くと、カナリスさんは言葉を選びながらゆっくり教えてくれた。
「物事には教える順番や順序がある。それはその人の理解や実力によって変わるから、それを見ないとこっちもどうしていいか分からないんだ」
「へぇー」
「まぁ、普段通りにやってくれればいいよ」
「カナリス先生はよく人におしえてるの?」
「せ、せんせい? ……まぁいいか、私は人に教えた事はほとんどないな。弟子もいないし、今のところとるつもりもない」
なんかね、魔法使いは三等級の魔法を覚えるとお弟子さんをとれるんだって。
カナリスさんは興味もないし、時間もないからお弟子さんはとらないみたい。
「弟子じゃないのに教えてもいいの?」
「それはいいそうだ。私もイマイチ良く分からないが」
「準備が出来ました」
ジホリさんが戻ってきて、カナリスさんに準備が終わったと伝えに来てくれた。
カナリスさんはお礼を言った後に、私の方に振り返ってこう言った。
「さて、やるか。最初は魔弾からだな。最低限の威力を保ったままどこまで距離を伸ばせるか見せてもらうぞ」
「……」
ん?
マジックボール?
なんかおいしそう。ミートボールのしんせきなのかな?
「どうした?」
首をこてんと傾けていると、カナリスさんがどうしたのかと聞いてくる。なので私は、それがなんなのか素直に聞いた。
「マジックボールってなに? おいしい?」
「……え?」
「あ! なかからチーズでてくるの? すごい!?」
「ぇ? え? 魔弾知らないのか?」
きょとんとしてから、そんな名前の料理はしらないよと答えると、カナリスさんは脇に挟んでいた魔法書を開いて指をさしてくれた。
「ほら、ここに書いてあるんだが」
そのページには、魔法の基礎としてまずは練習するべしと書かれていた。
他にもこと細かく練習方法や、使う際に気を付けることなどの注意が書かれている。
「まだ魔法儀式で覚えてないからつかえないよ?」
魔法は魔法儀式をしないと使えるようにならないし、儀式をしたとしても、必ず使えるようになるとは限らない。
その前に、私はまだ魔弾を使うための儀式はしてないから、使えるはずがない。
カナリスさんは「なに言ってるんだこの子?」と、言葉と表情で表していた。
「……もしかして、魔法儀式をしないと使えないと思ってるのか?」
「魔法は魔法儀式しないとつかえないんだよ?」
「魔弾と魔法障壁に限っては、儀式をしなくても使えるんだぞ」
「……はじめて聞いた」
「魔法使いの基礎として、魔法を覚える前にかならずやるんだが、教える人が居ないとこういうことがあるのか」
私を見て考えごとをし始めたカナリスさんは、少ししてから口を開く。
「あとで使い方を教えよう。今はどの程度的から離れてもいいか見るとするか。準備出来たら好きなタイミングで始めてくれ」
「うん!」
元気よく返事を返してから、てくてく歩く。すると途中でカナリスさんが声を掛けてきた。
「離れすぎだぞ」
「もう少し」
そこからさらに歩いて35メルトまで離れた。
この距離が今のげんかい。必ず成功する距離じゃないけど、前よりは成功することが増えた気がする。
「よーし!」
位置が決まったら、両手でつかんだ杖を握って大きく振り上げる。
いつものように集中し、体の中にある魔力を感じ取ってから体中に廻らせる。次は使いたい魔法を想像しながら、魔力を杖に付いた魔法石へと移動させながら詠唱と呪文を唱えた。
「水よ! ウォーターボール!」
魔法は私の好きな水属性。
普段よりもかなり強めに魔力を籠めると、杖の先端から水の塊が発生し、それを勢いよく飛ばす。
凝縮され、拳よりも少し小さな水の塊が飛ぶと、勢いよく的に命中した。
ウォーターボールは当たった瞬間に水を撒き散らして四散し、木製の的は空高く宙に舞ってから、落ちた衝撃で繋ぎ目がバラバラになった。
「はぁ、はぁ。ん」
久しぶりに全力でやったからきもちいい。
ぞくぞくする体をさすりながら、うっとりした瞳で的を眺める。
「…………っは?」
驚いた表情のまま私を見るカナリスさん。
「もういっかい撃ってもいい?」
カナリスさんは半開きになった口のまま私を見て、それからバラバラになった的を拾ってなにやら調べ始めた。
「……っは?」
「どうかされましたか?」
「……あの子はいつから魔法を覚えたんだ?」
「6歳ですね。いまは8歳になられましたので、2年ほどでしょうか」
あの、また撃ちたいんだけどな。
「普段もあんな感じか? いつもどんな練習してるんだ?」
「普段ですか? 今とそんなに変わりませんが……。たまに杖無しで練習してますね」
お話長くなる?
なら撃ってていい? いいよね?
「……杖無しで魔法が使えるのか?」
「ええ。魔法使い様は杖を持つのが普通なので、なるべく持って練習するようには言ってあるんですが――」
「――少しお嬢さんを借りてくぞ」
「え? えぇ」
私がもっと魔力を籠めればもっと気持ちいいかもと準備していたら、カナリスさんが私の方へと小走りで向かって来て、私を小脇に抱えると走ってお屋敷の方へと向かって行った。
なに? もっと魔法撃ちたいんだけど?
そのまま抱えられてお屋敷に戻ると、カナリスさんは勢いよく玄関を開けてお父さんに叫んだ。
「おい! この嬢ちゃんどうなってるんだ!?」
「っお!?」
「あらあら?」
「私、ミリアだよ?」
驚く両親に名前を教える私。
でもカナリスさんはそんなことどうでもいいらしく、全然聞いてくれなかった。
「8歳であの魔法の威力と杖無しで魔法使えるとかおかしいだろ!?」
「……それは薄々感じていたな」
「あらあら、そうねー、ミリアちゃんはちょっと変わってるから」




