Shopping Street2
店内が戦場の様な楽園の様な様相を呈して来たので、私は遠巻きに見ている人達を中心に話を聞いてく事にした。
物珍しそうに店を見つつも、フードを被って辺りをキョロキョロしている人がいる。年は30代前半位。身長は170cmちょいだろうか。
「なんか凄い事になってますね...」
私は自然に話しかけてみる。
「ええ、ほんとに」
そう言いながら男性は、少し楽しそうに笑う。
「ところで、何かお探しですか?」
「うん?...あ、ええ、そういう訳ではないんですけど、実は先日引っ越して来たばかりで、まだちょっと、この辺りに慣れてないんです」
「ああ、そうだったんですね。こちらには車で?」
「いえ、俺免許持ってないんで、神月台からバスで来ました」
「神月台って、高低差があって、たまに道とか分からなくなったりしませんか?」
「そうなんですよ。道自体は単純なので、少しずつ慣れては来たんですけど、逆に同じ様な道も多いので、緑道とかで坂道を上がったり下ったりしてる内に、良く分からなくなってくるっていうか...」
「分かります。私も歩いた事があるので......何か分からない事とかありませんか?...えっと......」
「あ、俺、相澤 光っていいます。分からない事だらけで、何が分からないのかさえ分からないって感じです」
そう言って、相澤さんは苦笑いする。
それにしても。相澤...?
「引っ越して来たばかりじゃそうですよね...あっ、私は、月代華凛って言います!
......ところで、相澤さんって、ニュースになっている先日の事件の事って何かご存じですか?
...その失礼ですが......名字が...」
私がそう言うと、相澤さんは楽しそうに笑った。
「ああ、名字は同じですけど、全然知らない人です!
俺もニュースを見た時は、ちょっとビックリしちゃいましたけど......
それにしても物騒ですよね。3人も殺害されるなんて。あれってやっぱり...」
相澤さんの表情がほんの一瞬好奇心に駈られている様な表情になったが、すぐに不安そうな表情へと変わった。
「そう...かもしれませんね。雨の時期ですし...」
「やっぱりそうですよね。全然情報が流れないので都市伝説みたいなものって思ってましたけど」
「相澤さんはそういう話に興味が?」
私がそう質問すると、一瞬少し表情が強ばったが
「どうなんでしょう......正直自分でも良く分からないんです。
この国でシリアルキラーなんて珍しいから、興味を惹かれたのかも...なんていうと、異常者っぽいですかね」
と、表情に少し陰を帯びながら語った。
「うーん、そんな事ないんじゃないですかね。
人間って、割と誰でも怖いもの見たさみたいな感情がある気がしますし、気にする事ないと思いますよ」
私がそう言うと相澤さんの表情が若干明るくなった。
「ありがとうございます。そう言ってもらえて、少し心が軽くなった気がします」
「いえ...そういえば八百屋には寄っていかれるんですか?」
「ははは、いえ、俺は遠慮しときます。自炊とかあんまりしないんで...じゃあ、俺はこの辺で」
「はい、雨の勢いが強いので足元には気を付けて下さいね」
「ありがとうございます」
相澤さんは笑顔で会釈してから、去っていった。
歩く速度はまちまちで、辺りを見回しながら途中の角を幹線道路の方へ曲がって行く。
さて、まだおじさんは帰って来てないし、聞き込み再開だ。
私は八百屋をやや遠巻きで見ている人達に、どんどん声をかけて行った。
───2時間近く経っただろうか。
漸くおじさんが帰ってきた。
「おお、すまねえな、ちょっと遅くなっ......って、なんじゃこりゃあ!?」
おじさんが驚くのも無理はない。
既に店の商品が完売してしまったからだ。
「も、もしかして、全部売れたのか...?」
「はい!凄く貴重な経験をさせていただきました!ありがとうございました!」
お姉ちゃんが飛びっきりの笑顔で言った。
「いやあ、私も久し振りにハッスルしちゃいましたよ。
旅芸人の血が騒ぐっていうか?」
いつから旅芸人になったのか分からないが、美月さんがハイテンションなノリで言った。
さっきまでの綺麗なお姉さんキャラは何処に行ったのだろう。
「い、いやあ、こりゃあたまげたな......つうか、お礼を言うのはこっちだぜ!ありがとな!」
おじさんも上機嫌だ。
「...あ、そうそう!他の奴らにも協力してもらって、商店街中の店に聞いてみたんだけどよ、やっぱり、一昨日の夜に、この辺りで不審者を見かけた奴はいなかったぜ。
俺みたいに、その時間に外出してた奴も何人かいるみたいだったが、そいつらも見てないって言ってた」
地元のお客さんの他に、観光や海浜浴場に来る人達が割りと流れてくるこの商店街では、色々な人を観察する機会が多い分、行動の不自然さや違和感に敏感な店員さんも多い。
だから、店の中から見える範囲は限られているとはいえ、外を出歩いている人も何人かいた状態で、誰の目にもとまらない可能性は低いと思われるし、何より土地勘がある犯人なら......
「ありがとうございました!これで、安心してこれからもお買い物出来そうです!」
私とお姉ちゃんは笑顔でお辞儀した。
「うんうん、嬉しいねぇ!
...つうか、助けられたのは寧ろこっちの方だけどな...そういや、華澄ちゃん、今日は何を買いに来てたんだい?」
「あ、そうだ!実は後で買おうと思ってた お野菜だけ別にしてあるんです」
「おお、流石華澄ちゃん、抜かりないねぇ!お代はいらねえから、持って行きな!」
「えっ、そんな...良いんですか...?」
「いいっていいって!バイト代としては安過ぎる位だぜ!」
「ふふ、ありがとうございます!」
お姉ちゃんは別にしていた野菜を持って来る。
中に入っていたのは、マッシュルームと玉ねぎだった。
「それじゃあ、私達はこれで」
そう言って、お姉ちゃんが軽く会釈する。
「おう、またのお越しを!」
八百屋のおじさんもぺこりと頭を下げた。




