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First Incident1

美月さんが運転する車で、私達は月見台へ上る階段手前まで来た。近くにはコンビニが見える。


階段の踊り場という事で見通しが良いんじゃないかと思っていたんだけど、階段は周囲が木に囲まれており、下から見上げた感じ、踊り場が何処にあるのかすら全く分からない。


「あの、すみません。現場に行く前に改めて資料を確認しても良いですか?」


事件の事は、こちらに来る途中でお姉ちゃんから粗方聞いていたのだが、現場の写真とかは見れていないので、落ち着いた状況で確認しておきたかった。


「おお、もちろん!」


えーっと...どれどれ......

まだ後部座席に置いてある捜査資料に目を通す。


被害者である白川さんは、髪型がセミロングで、服装はアイボリーロングコート、ベージュニット、黒スカートといった主にウール混の材質の服装に、ショートブーツといった出で立ちだった。


両目は両手で覆われ、まるで いないいないばぁをしている様な感じになっているが、口元が苦痛で歪んでいるのが分かる。


肝臓を刺されて何分か生きていたらしいから、その苦しみは相当なものだっただろう。


凶器はアイスピックの様な細い鋭利な物で、さっき捜査した3番目の事件と一致する。


白川さんは、とても品のある清楚な人だったみたいで、大学でもモテたらしい。

だからといって、恋愛関係で誰かに恨みを買うような人物という訳でもなく、周囲の人も、何故彼女が殺害されなければいけなかったのかと、犯人に対して怒りを募らせている様だ。


どうやら家計の負担を減らす為、階段下のコンビニでアルバイトをしていたみたいで、その帰りに殺害されたらしい。


コンビニの店長の証言では、事件当日に近辺で特に不審人物は見かけていないという事だった。

周辺の聞き込みでも、不審者の目撃証言は一切なかったらしい。


住所を見ると、白川さんは階段の降り口すぐ近くのマンションに住んでいたみたいだ。


第一発見者は、近くに住む60代男性。

足腰に良いからと、早朝の散歩で階段を利用しているらしい。

死亡推定時刻のアリバイについては、19時から22時まで、男性宅で二人で酒を飲み、そのまま一緒に酔い潰れてしまったと、男性の友人が証言しているみたいだ。

因みに男性の妻は既に就寝中だったとのこと。


......取りあえず、こんな所か。


「ありがとうございました。それじゃあ行きましょうか」


私の言葉に


「うん!」


と言いながら、お姉ちゃんが頷き


「おっけ~」


と美月さんが返した。


車を出て、美月さんを先頭に私達は階段を上っていく。

お姉ちゃんは痕跡が残ってないか調べているみたいだ。


「白川さんの死亡推定時刻である20~22時に、この階段を利用する人ってどの位いるんですか?」


私は美月さんに聞いてみた。


「殆んどいないらしいよ。

夜になると暗いし、特に今の時期は少し強めの雨が降ってる事が多くて、昼間でも薄暗いから、下のコンビニに用事があるとかでもない限りは、月見台を通ってるバスを使うか、もっと明るい道を利用するんだってさ。

それにコンビニについては、この階段を上り下りする位なら、多少遠くなっても月見台にあるコンビニまで行くって人が殆んどみたいよ」


「そうなんですね......」


確かに、まだ昼過ぎだっていうのに、階段は既に結構暗い。電灯も多少あるにはあるが、ちょっと心許ない気がする。


「着いたよ!」


美月さんがそう言って、踊り場で私達を振り返る。


この階段の途中、折り返しが二ヶ所程あるのだが、

ここは高い方にある踊り場だった。


上を見ると木の切れ目が見えるから、多分あそこが階段の降り口だろう。


高低差というのは、普通 犯人にとって心理的障壁になりやすいものなので、死角になっているとはいえ、こういった場所が殺害現場に選ばれるのは少し珍しいかもしれない。


「確かに、血痕のルミノール反応が少し確認出来ますね。ここからは何の情報も引き出せそうにありませんが」


能力で見えたのだろう。お姉ちゃんがそう言った。


それにしても、階段の下は幹線道路になってるみたいだけど、現場から去っていく人の目撃証言が一切ないっていうのはどうなんだろう?


この階段が普段から良く利用されているならまだしも、殆んど利用されていない通り道から出て来た人に気づかないのは、全くない訳ではないが、ちょっと考えにくい。

つまり...


「犯人は月見台から下りて来て、月見台の方へ去って行った可能性が高い......」


「うん、やっぱ華凛ちゃんもそう思うよね?

でも月見台に住んでいる住民って訳でも無さそうなんだよね、動機が全くないし」


そう。3番目の事件の時もそうだったが、現場周辺に住んでいる人間が犯人なら、それなりに強い動機があるはずだ。


何故なら、本来犯人は自分に疑いがかからないよう、自宅周辺で事件を起こす事は避けるから。


この犯人の自宅周辺の、事件が起こらない空白地帯の事をバッファーゾーンというのだが、この半径は国によって違う。というのも国土面積が違う為、距離に対する意識が変わるからだ。


因みにこの国のバッファーゾーンは大体500m~2kmと言われている。


だから自宅周辺で事件を起こして良いと思える程の強い動機が見当たらない以上、月見台に住む人が犯人である可能性は低いと考えられるし、そもそもそんな犯人だったら、もっと感情的になって、現場は無秩序な様相になるはず。


だけど、この犯人は極めて冷静に、しかも冷酷に犯行に及んでいる。多分、肝臓を刺して時間をかけて殺したのはわざとだと思う。


因みに、とにかく自宅から離れれば犯人にとって良いという訳では勿論なく、自宅から遠くなればなるほど、今度は犯罪の発生確率が低くなる。

つまり犯行現場の分布はドーナツ状になりやすい。


「一応降り口付近も確認しておいて良いですか?」


と私が聞くと


「もちろん!」


と美月さんは答え、再び先頭に立って階段を上り始めた。


「お姉ちゃん、足元気を付けてね」


「うん、華凛ちゃんも。

......ふふ、心配してくれてありがとう華凛ちゃん!」


お姉ちゃんが嬉しそうな笑顔で言う。


「わっ、私の方こそ、いつも色々ありがと、お姉ちゃん......」


「おっ、なんか良い雰囲気じゃん!良いな良いな~、私も混ぜてよ!」


ちょっと振り返りつつ、美月さんが仲間になりたそうな目でこちらを見ていた。


...と、そんなやり取りをしていたら、いつの間にか降り口に辿り着いていた。


確かに、近くに4階建てのマンションがある。あそこに白川さんが住んでいたのだろう。


そこそこ見通しは良いけど、だからこそ逆に誰かを見かけても、あまり気にならない距離感という感じなので、犯人はこの距離感を最大限に利用したのだろう。

被害者の行動パターンの把握といい、かなりの観察眼や土地勘があるという印象を受けるけど......


「ありがとうございました。現場周辺の雰囲気は大体分かりました。

あとは被害者がバイトをしていたっていうコンビニにも行っておきたいのですが...」


「うんうん!私も実は行きたいって思ってたんだよね。店長さん、なんか思い出した事とかあるかもしれないし」


「それじゃあ、行ってみましょうか」


私達はコンビニへと向かった。

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