The Infected1
「うぉぉぉ!さっすが華凛ちゃん!
それでそれで?もしかして犯人はさっきの三枝さんなの?
人を殺した罪悪感であんな風に...な訳ないか。
別の地域に行って人を殺害する様な時間もなさそうだし」
「そうですね......因みに美月さんは誰が誰を殺害したのか分かりますか?」
私がそう言うと、美月さんが不思議そうな表情をする。
「ん?6番目の事件は神月高校の女子生徒だとして、それまでの事件は全員同一人物なんじゃないの?」
「いえ、それが違うんです。
例えば1と4、5番目の事件現場の特徴って何か分かりますか?」
「ちょっと待ってね......んーと...高い所で人通りがあまり無い、でもある程度見通しが良い場所を選ぶ事もある...とか?」
「ええ。それじゃあ、2、3番目の事件現場の特徴は?」
「平坦な場所で......町の中の死角になる部分...って感じかな?」
「はい。では次に2、3番目の被害者は何処で犯人に目をつけられたと思います?」
「えーっと......あっ!繁華街か!
そして1、4、5番目の被害者は、繁華街とは特に何の関係もない......」
「ターゲットを物色する場所も違えば、犯行現場を選ぶ指向性も違う...そして何より、殺害方法が根本的に違うんです」
「えっ、そうなの?」
「はい。1、4、5番目の事件の犯人をオリジナル犯、2、3番目の事件の犯人を模倣犯と呼ぶとすると、例えばオリジナル犯が被害者の心臓を刺す時は、第4、第5肋間から刺してますし、それは過去の事件でもそうでした。しかし模倣犯の方は......」
「鳩尾の左上から刺している......?」
「そうです。まあ、これについては、そうせざるを得なかったのでしょうね。
なんと言っても第4、第5肋間から、心臓を正確に刺すなんて芸当、普通は出来ませんから」
「一応心臓に対するアプローチとしては合理的な方法ではあるんですけどね。
ただ、相手の不意を突いているとはいえ、薄暗い環境で、肋骨にぶつかる事なく正確に真っ直ぐ刺すというのが、少し常人離れしているというか...」
お姉ちゃんが説明してくれる。
「また、2番目の事件では凶器が深く刺さってしまって抜けなくなる。
3番目の事件では、凶器を早く抜きすぎて返り血を多く浴びるなど、全体的に慣れていないし、知識も足りていない印象があります。
3番目の事件で上手く心臓に刺さったのも、たまたまではないでしょうか」
お姉ちゃんは、一旦そこで間を置く。
「そして極めつけは、昨日、美月さんが持って来て下さった、オリジナル犯のものと思われる髪の毛です。
あのDNAは、以前3番目の事件で確認したDNAとは違いました」
そう、あの時お姉ちゃんは、自分が知っている中で該当者は居ないと言っていたのだった。
あの時、これまでの自分の推理が正しかったのだと確信していた。
「なるほど......でもさ、6番目の事件の犯人もそうだけど、なんで被害者の目を両手で覆うっていう、オリジナル犯の署名的行為を知ってたのかな」
お姉ちゃんが説明してくれたあと、美月さんが疑問を口にした。
「実はそれが今回の一連の事件で重要な事の一つなんです」
今度は私が説明する。
「例えば女子高生の犯人の方は、昨夜、食事の時に美月さんが報告して下さった事にヒントがあります」
「私が報告したこと......?」
「ええ、仰ってましたよね。高校に忘れ物を取りに行った女子高生が居たって」
「ああ!うん確かに......っていう事はつまり、その時に実は事件を目撃していた......?」
私はこくりと頷いた。
「そう考えるのが妥当ではないでしょうか。
そして模倣犯の方は......美月さん、1番目の事件現場を捜査した時、コンビニで店長さんから聞いた事、覚えてます?」
美月さん首を傾げながら必死で思い出す。
「えーっと......確か毎週タバコを買いに来るお客さんが、その週は来なかった...とかじゃなかったけ?」
「そうです。もしそのお客さんが月見台に住んでいて、事件現場になったあの階段を降りて、コンビニに行っていたとしたらどうです?」
「...その時に事件を目撃した......!
で、でもさ、一応警察で、あのコンビニを利用しそうな階段周辺の家の聞き込みは済んでるけど、特に何の報告もなかったのって....?」
「気付かなかったか、模倣犯の自宅がそんなに階段から近くないからじゃないですかね。
仮に後者だとすると、模倣犯の自宅近くにあるコンビニが苦手とか、嫌いだからあまり利用してないんだと思います。
でも、事件を目撃した日は多分家に引き返していて、階段下のコンビニにも結局姿を見せていないみたいなので、もしかしたら普段行ってない近場のコンビニに行ってるっていう事も考えられます。
ですから、そのコンビニで聞き込みをすれば、模倣犯の姿を見ている人の話が聞けるかもしれませんね」
「そ、そっか......っていう事は、2、3番目の事件の犯人は月見台に住んでいて、6番目の犯人は学校に忘れ物を取りに来た子......って事かな?」
「はい。更に6番目の事件の犯人については、バス停と事件現場と神月高校の位置関係を考えるなら、学校に忘れ物を取りに行ったあと、事件現場付近に向かうとは考えにくいですから、神月台に住んでいる可能性が高い。
実際、犯人のものと思われる足跡が、中央公園から神月台へ続いていましたよね?
仮に水嶋さんが犯人だとしても、中・高層住宅街に住んでいる彼女が、天音さんを殺害したあとに、わざわざ急な坂を登って神月台へ向かう理由がありません」
「う~ん、確かに......
とすると...神月高校の生徒で俄然怪しくなるのは......」
「陽菜さんと、委員長の白雪さんですね」
「そうだそうだ!それでどっちが犯人なの?なんか決め手みたいなのあったっけ?」
「バスケをした時に、お姉ちゃんと陽菜さんが接触しているのを覚えてますか?つまり......」
「陽菜ちゃんが犯人だったら、多目的トイレですぐに陽菜ちゃんのDNAだって分かったって事か......!
あっ!そうなるとさっき......」
「ええ。三枝さんに触れてますし会話もしてます。
......つまり、三枝さんが犯人であれば、3番目の事件で採取したDNAのデータと照合出来たはずですが、お姉ちゃんは特に何も言いませんでした......だよね、お姉ちゃん?」
お姉ちゃんが頷く。
「あと、これは必ずしもそうではないかもしれませんが、実はそれだけじゃないんです。
美月さん、三枝さんの匂いって覚えてます?」
「うん?ああ、えーと、あれは多分何かの柔軟剤の香り...かな?カッターシャツから匂ってるのかなって思ったけど」
「そうだと思います。
そして煙草の匂いは全くしてませんでしたよね?」
「おお、そういえばそうだ!
......そうなると、相澤ちゃん、永瀬ちゃん殺害の犯人は......」
「柏崎孝一さんの可能性が高いと思います。
そして、天音さんを殺害した犯人は雪村紗良さん...でしょうね」
「そういう事だったのか......
でも、証拠はある程度揃ってるけど、鑑定が済んでないから、実際の物的証拠がまだちょっと弱いんだよな~」
そう。お姉ちゃんの能力が法的に認められている訳ではないから、実際のDNA鑑定などを待たないと証拠にならないのが、こういう状況では辛い所だ。
「そういう事でしたら、犯人に自供させて緊急逮捕っていう形にして、後で逮捕状を発行してもらえば良いんじゃないですか?」
私がそう提案すると
「えっ!?自供させられそう...?
......って、華凛ちゃんだったら朝メシ前か」
と、美月さんが一人で納得する。
「ふふっ、ええ、まあそういう事です」
私達は柏崎さんの元へと向かった。




