Bloody Tragedy1
食器を終わり、該当者宅に向かおうとした瞬間、美月さんに連絡が入った。
「......はい......はい......了解......」
美月さんが暗い顔をしている。
「また事件......ですね、美月さん」
「うん...今度は中央公園で、また神月高校の女子生徒が、今度は腹を滅多刺しにされて死んでるって」
......?
なにか違和感がある......
「取りあえず現場に行きましょう美月さん!」
「お...おう!」
私達は美月さんの車に乗り込み、現場へと向かった。(を18)
中央公園は、名前の通り街の中央に位置しており、幹線道路を挟んで東西に分かれている。
東の方は、まさに都会の大きな公園という感じの、夜でも明るい近代的な作りになっており、中央公園駅という駅もある。
更に、南側の商業地区にある店が、割と遅くまで営業している事も相まって、23時頃まで それなりに人通りがあるような場所となっている。
対して、今私達が居る西側は、公園というよりは緑地、森林というイメージである。
この時期は雨雲が厚い為、夕方にもなると、高い木に囲まれた公園内はまるで真夜中の様に暗くなる。
その為か、こちらの方は夜になると、殆ど人通りがない。
公園前に着き、車を降りる。
雨は小雨になっていた。
ポツポツと電灯が灯ってはいるが、それがかえって、私達を異世界へと誘っている様な、なんとも言えない不気味さを醸し出している。
公園の入り口から石畳の道が直線状に延びている。
因みにここの入り口は、まさに入り口らしい入り口といった感じなのだが、他の入り口は、住宅と森の境目が曖昧になっていて、どこが入り口なのかすらよく分からない。
私達は公園内へと入る。
「......ごめん、ちょっと待って」
と、お姉ちゃんが突然言い出した。
「誰かの靴についていた泥水の痕跡がある。
ただ、犯人のものだとすると、3番目の事件で確認したものに比べて靴のサイズが小さい。
靴底の形からするとシューズの可能性が高いと思う」
「どこに続いてるか分かる?」
私がお姉ちゃんに尋ねる。
「ちょっと待っててね...」
お姉ちゃんが足跡を辿る。
「どうしたの?」
美月さんが不思議そうな顔をする。
「たまたま誰かが雨の日に遊んでたってだけかもしれないんですけど、お姉ちゃんが ちょっと気になる痕跡を見つけて。
今、お姉ちゃんに足跡を追ってもらってるんです」
「おお、もう既に手掛かりがこんなと
こに!?」
「...現場を確認するまではなんともいえませんけど...もしかしたら」
美月さんとそんな会話をしている内にお姉ちゃんが帰って来た。
「どうだったお姉ちゃん?」
「泥水の膜で出来た足跡が歩道橋を渡って、神月台方面へ断続的に続いてるのが確認出来たよ」
「早速幾つか証拠として保存させるよ!」
美月さんが手早く指示を出す。
「...んじゃ、改めて現場に行こっか」
美月さんの後に続いて私達は現場へ向かう。
中央公園は森林の合間に、天然の草むらや、遊び場として人工的に植えられた芝生地帯があるのだが、草むら付近の石畳に、若干泥がついてるのが肉眼でも見える。
暗くて良く見えないが、草が倒れている箇所があるのも辛うじて確認出来た。
「こっちの足跡は入り口とは違う方向に続いてるみたい......多分あそこじゃないかな」
お姉ちゃんの視線を追うと、私達から見て左側の、森が少し開けた所に東屋が、それと道を挟んだ向かい側に大きめの公衆トイレが見えた。
「ああ、なるほどね......でも、泥そのものじゃなくて、泥水で出来た膜で足跡が分かるって、なんか面白いね」
「うん!靴の底についた泥水が、アスファルトとか石畳にある、僅かな凹凸に少しずつ転写されて膜を作るんだ。
雨が小雨になってたお陰で、洗い流されなかったみたい」
「へえ~」
勉強になるなあ......っていうか、そんな細かい所も分析出来る3Dスキャンって凄いな...
トイレが見えた位置から少し進んだ先に、今度は右方向に伸びる、細めの暗い石畳の道が見え、美月さんがそこで曲がった。
どうやらこの先が現場らしい。
それにしても......
さっきの、入り口から続く大通りっぽい道は、一つの電灯で照らされる範囲が広いものの、まんべんなく照らしているという訳ではなかった為、照らされていない箇所の暗さが強調され、かえって道の一部分に虫食いの様な死角を生んでいるという印象だった。
それに対してこの道は、電灯が照らす範囲がそもそも狭い上、電灯の本数自体も少ない為に、道全体で真っ暗な区間が点在しているという印象だ。
正直私だったら、幾ら近道になるとしても、暗くなってから この道は絶対に歩かないだろう。
警察の人達が集まって、現場を光で照らしているのが見える。
道からほんの少し外れた所に遺体があった。
腹部に複数箇所刺された痕があり、セーラー服が血で染まっていた。
目はやはり両手で覆われている。
髪型はハーフアップで、身長は多分私と同じ位だろう。
背中には、朝比奈さんと同じ撥水性のリュックを背負っていた。
「死因は、腹部を複数回刺された事による出血性ショック死。
死亡推定時刻は17時ちょうどから30分までの間。
生活反応がない傷痕もあるから、被害者が亡くなった後にも刺し続けてたみたい。
あと、真っ直ぐに刺せないで、途中で曲がっている傷口が幾つかあるね」
お姉ちゃんが更に分析を続ける。
「石畳の方にも血痕があるから、刺したけど仕留めきれず揉み合いになって、そのまま道脇に雪崩こんだって感じかな......被害者の指の爪の間に皮膚片が付着してる。
あとは、被害者の手の甲に同じDNAがニトリルと一緒に付着してるよ...犯人がゴム手袋を装着する時に、手袋の手の平の部分を触ったから、微量のDNAが手袋に付着してたんだね。
雨が小雨になってなかったら洗い流されてたんじゃないかな。
仮にこれが犯人のものだとすれば、犯人は10代の女子だよ」
最初に感じた違和感はそのせいだったか......
「報告によると、遺体の第一発見者は酔っ払いのおじちゃんだったみたい。
低層住宅街にある自宅で出来上がって、お酒が足りないから買いに行こうとしたら、間違ってこっちの方に入っちゃって......
それで足を滑らせて転倒したみたいなんだけど、そこがたまたま遺体のあった場所だったんだって」
美月さんが教えてくれた。
そのおじさんが居なかったら、場所が場所だから、最低でも翌朝まで遺体は発見されなかったろう。
なんというか今回の事件は、奇跡的な偶然が重なっている様に感じる。
「制服の胸ポケットに入ってた生徒手帳から、被害者の名前は天音 心春、17歳......って、ん?...この名前どっかで......?」
美月さんが首を傾げる。
「...ああ、陽菜さんが言っていた、永瀬さんとも親しい、クラスのアイドル的存在の人と一緒の名字ですね...」
これも偶然......いや、もしかしたら"魅いられてしまった"のかもしれない。
「ああ、そういえば!
......でも話を聞く感じじゃ、こんな風に殺される様な、回りに恨まれてた子って訳じゃなかったよね...別人かな?」
「うーん、多分同一人物だと思いますよ。
だから怨恨っていうより......」
「っていうより......?」
「それは明日、犯人と共に明らかになると思います。
取りあえず、この後は犯人の足跡を追いつつ、証拠を集めて行きましょう」
「よっし来た!」
美月さんが大きく頷きながら言う。
私達はお姉ちゃんを先頭に暗い森の中へ分け入り、犯人の足跡を追った。




