Armchair Detective
いつも通り教室に入り、クラスメイトと朝の挨拶をしつつ、私は自分の席に座る。
「ご機嫌よう、月代さん」
「ご...ご機嫌よう、東雲さん......」
私も良い加減慣れろという話なんだけど、やっぱりちょっとこそばゆい。
それより、今日の東雲さんは、昨日に比べ少し元気そうだ。
「昨日は大丈夫でしたか?」
それとなく聞いてみた。
「ええ、お陰様で!ただ...」
「ただ...?」
「あの...やっぱり車の中でも感じたんです...視線を...」
そう言って、東雲さんの表情が少し陰る。
「精神的な部分もあると思いますけど、一応暫く用心なさっていて下さい。
でも昨日、親戚に相談したら、この辺りのパトロールを強化してくれるって言ってましたし、その点は安心しても大丈夫だと思いますよ」
「まあ......なんとお礼を申し上げて良いのやら......!」
東雲さんが涙ぐむ。
「いえ、そんな......あと、犯人はもうすぐ捕まりそうとも言っていました」
「......ああ!こんなに嬉しい事はありませんわ!......私、耐えてみせます!
......月代さん、本当にありがとうございます!」
ちょっとオーバーな所もあるんだけど、東雲さんって良い人だよな。
隣の席で良かったなって思う。
放課後はいつも通り、お姉ちゃんと一緒に商店街に夕飯の買い物に行き、八百屋のおじさんと軽く世間話をしたりもしたけど、特に気になる情報はなかった。
午後7時───
美月さんが家にやって来た。
「こんばんはー!おっじゃましま~す!
...ん?なんか食欲をそそる良い匂いが......?」
「良かったら、食事をしながらお話ししませんか?」
お姉ちゃんが微笑みながら言う。
「...えっ!?良いの!?それじゃあご馳走になろっかな♪
......てか、挨拶を間違えたね......ただいま我が嫁と可愛い妹よ......」
いつまで擦るつもりなのかな このネタ......
いや、美月さんだったら本気って事も......?
私は少し身震いする。
......そんな事より!
今日はお姉ちゃんのハンバ~グ~♫
つまり私のテンションは爆上がりなのだ!
さあ、食べるぞ~♬
40分後───
あぁ~美味しかった~。
もうね、何回でもおかわり出来ちゃうよね、ほんと!
美月さんも食べるのに夢中になって、あまり話が出来なかったが......
1.階段の踊り場で殺害されていた朝比奈さんは、やはりバイトの帰りに襲われたという事
2.緑道で殺害されていた野田さんは、神月台のバス停から自宅に帰る所を襲われた事
また、事件現場と神月高校周辺のバス停はここだけで、バス停の北側が犯行現場の区域、南側に神月高校がある事
3.朝比奈さんはシフトの関係上、あの階段を、ほぼ決まった時間に上っていた事
4.身内の証言によると、野田さんは ここ1ヶ月、ほぼ決まった時間に帰宅していた事
5.昨夜、神月台で巡回中の警官が、高校に忘れ物を取りに行った女子高生に声をかけていた事
6.神月高校では、30代男性で該当する足のサイズの教師が居なかった事
7.神月情報システム株式会社では三人該当者が居た事
が分かった。
「いやぁ~、何このハンバーグ!なんならもう世界とれるっしょ!美味すぎなんだけど!!」
美味しさのあまり、美月さんのテンションがちょっとおかしい事になってる。
まあ、気持ちは分かるけどね、うんうん。
「ふふっ、ありがとうございます!
......ところで美月さん、お話の続きを......」
お姉ちゃんがそれとなく話を促す。
「おおっ、そうだった!えーっと、確か神月情報システム株式会社で三人該当者が見つかったってとこまで話したんだよね?」
私達は頷く。
「一人は...そうそう、話を聞いてビックリしたんだけど、被害者の二人──相澤と野田は同じシステム開発部に所属してたらしいんだよね。
でっ、今回足のサイズが一致した一人ってのが、そのシステム開発部に属している三枝 信夫だったんだよ。
年齢は32、身長は170後半。髪型は重めのマッシュでチャコールグレーのスーツを着た、見た目からして気弱そうな男でさ。月見台に住んでるって話だよ。
あと取りあえず、公衆トイレで足跡が見つかった、3番目の事件が起きた日のアリバイを確認したんだけど、会社が終わった後はすぐに家に帰ったらしくてアリバイはない」
ふーむ......
「その人って、会社が終わったあと、いつもすぐ家に帰るんですか?」
気になったので聞いてみた。
「いんや。たまに同僚に飲みに誘われると、繁華街の方に飲みに行ってるらしいよ。なんつうか断れない性格みたいだからね」
なるほどね...
「あっ、そうそう。それとは対照的に、絶対に誘いは断って、すぐ帰宅するっていうのも該当者にいてさ。
名前は的場 崇、34歳。
身長は野田と同じ位で、髪型はセンター分け。
人事部に所属していて、チャコールグレーのスーツを着てた。
中・高層住宅街に住んでる。
他の同僚からも話を聞いたけど、確かに人付き合いが悪いらしくて、必要な事以外は殆んど話さないらしい。
的場が言うには、そもそも繁華街みたいな騒がしい所が大嫌いらしくて、絶対にそういう場所には近づかないし、同僚と飲みに行く位なら、家で趣味の時間を持ちたいんだって」
...なんとなく分かるような......
私も基本的に早く家に帰ってゲームしたいしな......
「もう一人というのは?」
お姉ちゃんが尋ねる
「営業部の柏崎 孝一、34歳。身長は他の二人と同じ位。
髪型は七三寄りナチュラルツーブロックで、雨でも崩れない様にガチガチに固めてるねありゃ。
柏崎も他の二人と同じくチャコールグレーのスーツを着てた。月見台に住んでる。
今の話から想像出来ると思うけど、かなり生真面目な人で、人付き合いも良いから、良く繁華街で同僚と飲みに歩いてるらしい」
「的場さんと柏崎さんのアリバイも無いんですか?」
念の為聞いておいた。
「うん、全員一人暮らしだし、特にその日は店に寄ったって訳でもないらしいからね」
「そうですか......あと気になってる事があるんですけど、システム開発部ってかなり忙しいんじゃないかって思うんですよね。
大体どのくらいで帰れるものなんですか?」
「それ、私も気になったから聞いてみたんだけど、ここ1ヶ月ちょいは納期が迫ってるって事もないから、大体同じ様な時間に仕事を終えられるらしい...っていうか、最近労基がうるさくて、そうしないとまずいって会社の人が言ってたな」
「なるほど...大体分かりました...この件については、私達が直接話を聞けば、事件の真相がハッキリ見えると思います。
あとで該当者の家まで行くか、明日会社に行って話を聞きたいんですけど......」
ここは学校を休んでも確認しに行くべきだろう。
「よし分かった!じゃあ早速家に突撃しちまおうぜ!」
なんか物騒な物言いだが善は急げだろう。
「...と、その前に、これ、シリアルキラーの過去の事件の資料ね。実は華凛ちゃんに頼まれる前から同僚に頼んどいてたんだけど、結構手に入れるのに苦労したみたいよ」
そう言いながら美月さんが何かを取り出す。
「......そしてこれがなんと!!
一番最初の事件の時に採取したっていう、シリアルキラー本人のものと思われる毛髪なんだな~」
そう言って美月さんは、袋に入った毛髪を見せてくれた。
「どう、華澄ちゃん?なにか分かりそう?」
「私が存じ上げている中には該当者がいないという事位しか......」
「そっかー、そう簡単には行かないよね、やっぱ...」
ああ...やっぱりね。
「......取りあえず食器だけ片付けちゃいましょうか?」
私が提案すると
「おお、そうだね!嫁の手伝いをするのも夫の甲斐性ってやつだわ!」
と、再び同じネタを擦ってくる。
「そんな...お気をつかわなくても大丈夫ですよ」
お姉ちゃんが美月さんのネタを完全にスルーしながら言う。
「ううん、ご馳走になったり捜査を手伝ってもらったりで、君達には世話になりっぱなしだからさ、これ位はやらせてよ」
美月さんが優しく微笑む。
こうしてると、美月さんって綺麗で優しいお姉さんなのにな。
時計を見ると時刻は午後8時を回っていた。




