Hell´s Gate2
「遺体が見つかったんですね、美月さん?」
「うん、さっき華凛ちゃんが言ってた通り、巡回中の警官が幹線道路近くの緑道で発見したみたい」
「場所は近くですか?」
「うん、ここの歩道橋を渡った区域の端の方だから、そんなに遠くない。車で近くまで行こう!」
私達は大急ぎで美月さんの車まで戻り、現場へと急行した。
程なくして現場付近に到着する。
ここの幹線道路は、左右の区域が低くなっており、溝になっていない為、見通しが良い。
今にして思えば、私が嫌な予感を覚えたのは、この様な地形に対してだったのかもしれない。
車を降り、坂を上りつつ、緑道へと入る。
所々、電灯は灯っているものの、緑道入り口付近は若干薄暗くなっており、一瞬まるで冥界に続く入り口の様にすら見える......遺体はすぐそこにあった。(へ17)
さっきの事件と合わせ、事件現場の位置を脳内マップに記入する。
相変わらず目が両手で塞がれているので、年は分かりづらいが、皮膚などの感じから多分30代後半の男性。
髪型は七三よりのショートで、ウール混のダークグレースーツを着て、黒い革靴を履いている。
さっきの朝比奈さんとほぼ同じ箇所から血が流れていた。
「お姉ちゃんこれって...」
「うん、間違いなく朝比奈さんの時と手口も死因も同じだね。
死亡推定時刻は19時45分から55分までの間かな」
私はスマホで時間を確認する。
現在は午後8時30分だった。
私達は美月さんに説明する。
「なるほど......ところでさ、華凛ちゃん、なんで犯人はこの場所で殺害したのかな?
華凛ちゃんにはこうなる事が見えてるみたいだったよね?」
「今までニュースとかネットで得た情報から推察するに、最初に事件があってから日数が経過して、警戒が強くなっている時に、わざわざ警戒が強いエリアを選ぶ...みたいな習性が犯人にはあるっぽいんですよね。
多分、警察さえも出し抜く事で、自分がこの場を支配しているんだって、確かめたいんじゃないかなと思ってるんですけど。
それで、もしそうだとすると、パトロールで回りやすい幹線道路付近の、見通しが良い場所の近くを選ぶんじゃないかなあって」
つまりこの犯人は、極端にリスクを回避するのではなく、多少のリスクを敢えて許容し、それを支配する事に悦びを感じている...様に見える。
でも或いは......
「そういう事だったのか...ありがと華凛ちゃん!」
「いえ...それより美月さん、被害者の持ち物は...?」
「おお、そうだった!華凛ちゃん達はカバンの方をお願い!......それじゃちょっと失礼して...」
手袋をはめた美月さんが、被害者のポケットなどを慎重に探り始めたので、私達も念の為必ず常備しているゴム手袋をはめて、被害者が持っていたカバンの中身を確認する。
......仕事の資料が入っているだけで、他には特に何も無かった。
「おっ、社員証発見!
えーっと......名前は野田 修治、年齢は38歳。
神月情報システム株式会社で働いてたみたいだね」
美月さんが私達にも社員証を見せてくれた。
「...この会社って...二番目の事件の被害者である相澤さんが働いてた......」
お姉ちゃんの言葉に美月さんが頷く。
ここでも被害者の繋がりが生まれたのは偶然なんだろうか?それとも......
「華澄ちゃん、辺りに目立った痕跡はある?」
美月さんがお姉ちゃんに問いかける。
「いえ、雨が強いせいで何も残ってないみたいです......」
「そっか......犯人はどこに向かったんだろう...?」
犯人の逃走ルート、か......
そういえばさっき車でここに来る時に、この区域と外縁を渡す歩道橋が二つあった気がするが...
「美月さん、もしかして朝比奈さんの事件現場の隣に別の階段とかありません?」
「あ、うん...あるけど...もしかして...?」
(マップ上部が北
実際の道幅は狭いが1マス50m
緑色の線は緑道
橙色の曲線は歩道橋
赤色の線は階段
黄緑色の線は中央分離帯
高→低は標高)
「ええ、そちらから逃げた可能性が高いんじゃないでしょうか。
一番早い上に、警察の近くを通る訳ですから」
「なるほど...この犯人だったら確かに......」
美月さんが悔しそうな表情をする。
ある程度の安全を確保しつつも、敢えて警察のすぐ近くまで行き、堂々と逃げるというのが、犯人らしい発想だなと思う。
また今回、本命は野田さんの殺害だと考えられるが、その為に朝比奈さんを殺害し、それをほぼ決まった時間に階段を上る女性に発見させ、通報させる。
そして、近場を巡回中の警官の注意をそらした隙に、野田さんの殺害に及ぶというのが犯人の計画だったと思われる。
高低差があり、同じ様な緑道が続く、この神月台という場所の事を考えると、地理や人の動きを知り尽くしていないと出来ない犯行であるように感じる。
普通に考えれば、地元に長く住んでいる人間の犯行だと考えるのが妥当である様に思うけど......
同じシリアルキラーのものだと思われる事件が、全国各地で起こっている事を考慮して、もし......もし仮に、犯人が神月台に住んでいないとすると、犯人は一体どうやって人に違和感を持たれる事なく、こんなに細かい情報を収集出来たのだろうか?
何回も下調べに来ていたなら、絶対に誰かの印象に残るはずなのだ。
それにも関わらず、過去の事件の目撃者ですら、目撃情報が一致せず、共通の印象を持っていない......
可能性としては幾つか考えられるけど......
...でも少しずつ見えてきた気がする......
「お!華凛ちゃん、その格好は......」
気付くと私は、傘の柄を前腕で挟んだ状態で、両手の指先を合わせ口許に寄せていた。
推理に集中していると、どうも無意識にこのポーズをとってしまう。
...まさか傘を持っている状況でもやるとは思わなかったけど。
「あっ、ええ、はい...まだちょっと足りないピースがあるので、解決...とまではいかないんですけど、少しずつ見えてきた気がします」
「さっすが華凛ちゃん!
それじゃあさ、華凛ちゃんから見て、次はどうするのが一番良いと思う?」
「神月情報システム株式会社の聞き込みと、3番目の事件で見つかった足跡と靴のサイズが一致する男性を、神月高校と会社で探してみるのが良いと思います。
高校の方は年齢的に教職員の方ですね。学校にスーツを着て来られるかどうかも調べた方が良いでしょう。
...まあ、空振りに終わる可能性もありますけど、それはそれで間違いなく捜査が大きく前進する事になります。
あとは...念の為、別の地域であった過去の同様の事件についても、もう少し詳しい事が知りたいですかね」
「オッケー!じゃあ、その線で捜査を進めてみるよ!
この短期間で同じ学校と会社の人が複数人殺害されてる訳だし、先方も捜査に積極的に協力してくれるだろうから、明日の夜には色々報告出来ると思う!
......そうだな......明日の午後7時位に、また君達のお家にお邪魔しても大丈夫かな?」
私達は頷いた。
「よし!じゃ、今日は取りあえずこれで解散って事で......家まで送ってくよ!」
「いつもありがとうございます美月さん」
私達はそう言ってお辞儀する。
「いやいや、それはこっちのセリフだってっ!いつもありがとね」
美月さんの車に乗り、神月台の景色が窓を流れる。
暗い闇の中にも、電灯の明かりがほのかに、でも何処か力強く道を照らしていた。




