Daily Life3
車を降り、下校途中の生徒に、手分けして片っ端から声をかけて行く事にした。
取りあえず、事件の事じゃなく、学校での普段の永瀬さんについて知っている人を見つけたい。
最初の内は空振りだったが、ちょうど10人目の生徒に話しかけた時
「ああ、永瀬さんね......私と同じクラスだったよ」
と、女子生徒が答えてくれた。
髪型はロングボブで、身長は160cm中盤辺り。
ポリエステル製の紺色のセーラーの上にカーディガンを羽織っていて、白いシューズと黒いタイツのコントラストが目立って見える。
他の生徒も同じ種類のシューズを履いていたから、登校用の指定シューズなのだろう。
存外早く見つかったな。
「それで何か用?その制服...貴方、清女の子だよね」
清月女学院...略して清女か。うーん、語感は良いけど...
「はい。実は私の友達が昔、小学校の頃永瀬さんとお友達だったみたいなんです...それで、あんな事件があって、すっかり塞ぎこんでしまって......
だから、事件の真相を知る事が出来れば、少しは前に進めるようになるんじゃないかって思ったんです。
もちろん、それは警察の方達のお仕事だっていうのは分かってるんですけど、私、新聞部員なので、私なりに何か出来る事はないかって、居ても立ってもいられなくなっちゃって......」
うーむ、我ながら70点の嘘といった感じか...
「そうだったんだ...でも、ごめんなさい。
永瀬さんって結構学校をサボる事が多かったし、同じクラスではあるんだけど、私も彼女の事、あんまり詳しく知らないんだ...それに...」
「それに?」
女子生徒は少し躊躇いつつも
「ちょっと苦手だったっていうか...ぶっちゃけ嫌いだったの。
だから本当はなんかせいせいしたんだよね......あっ、この事は誰にも言わないでね」
と言った。
ああ、それは確かに言いづらいよね。
「もちろんです!
......ところで、友達から聞いた話だと、永瀬さんと幼馴染みで、こちらの神月高校に通っている人がいるって聞いたんですけど、どなたかご存知ですか?」
永瀬さんには、動機がある幼馴染みが実際にいた事だし、他にも地元の公立校にたまたま一緒に通う事になった、古い知り合いがいる可能性は高いだろう。
「んー...それって多分、神崎さんの事じゃないかな?小中学校の頃の話をしてたの、前に聞いた事あるし...
まあ、そこまで親しい友達って感じではないみたいだけど。
神崎さんの座席、私の近くだから、聞きたくなくても聞こえちゃうのよ」
女子生徒に一瞬だけ嫌悪の表情が出る。
「その神崎さんって方、今どちらにいらっしゃるか分かりますか?」
「さっき教室で、同じクラスのバスケ部の子に声かけてたから、多分神月駅前にある、あそこに行ってるんじゃないかな...ほら、スポーツとかカラオケとか出来る...」
ああ、複合アミューズメント施設の事ね。
確か名前はPLAY PORT──略してプレポだったっけ。
私は行った事ないけど...
因みに神月駅は北側の繁華街にある。
私の脳内マップで言えば1の駅である。
「あ~、あそこですね!
...でも、あそこへバスケ部の方と一緒にわざわざ行くっていう事は、今体育館が使用出来なかったりするんですか?
もしかして事件のせいで...?」
「うん、そう。遅くなると危ないから、部活は暫く全面禁止。
生徒会とか以外は早く帰宅しなくちゃいけないんだ...まあ、私としては良かったけどね。
この町であんな事件が起こって、正直私も怖かったから......」
「お住まいは神月台ですか?」
気になったので聞いてみた。
「ううん。神月浜大学の隣にあるマンション街」
「そうなんですね...あっ、そうだ、あそこから通っていらっしゃるのでしたら、バスか何かを利用されてるんですよね?
長い間お引き留めしてしまって、ごめんなさい」
ここから中・高層住宅街までだと、直線距離では比較的近くない事もないけど、自転車や徒歩だと神月台の急な坂とかしんどそうだもんな。
「ううん、別に良いよ。話してたらなんかスッキリしたし。
バスは一本逃しても、この時間帯ならすぐに次のバスが来るしさ」
「今日は色々教えていただいて、ありがとうございました!ちょっと今から駅前まで行って来てみますね!...あっ、私、月代華凛って言います!」
「私は水嶋 美玲。また会う事があったら、よろしくね」
「こちらこそ!水嶋さん、脅かす訳じゃないですけど、道中気を付けて下さいね」
「ええ、貴方もね月代さん、それじゃ」
水嶋さんが軽い足取りで去って行った。
お姉ちゃんと美月さんをスマホで呼び、私達は駅前へと向かう為、車に乗り込んだ。
「プレポか~、私も学生の頃は良く遊びに行ったなあ」
美月さんが少し懐かしそうにする。
「へぇ~、実は私達行った事ないんですよ」
「おっ、じゃあ今日が初めてなんだ。私が手取り足取り教えてあげるから、岩船に乗ったつもりで、どーんと任せなさい!」
うん、沈むよね、それ。
「ところで美月さんとお姉ちゃんは何か掴めました?」
「私はダメだったわ。警戒されちゃってさ。やっぱセーラー服着て来れば良かったな」
美月さんが、さらりと恐ろしい事を言う......
いや、美月さんならギリギリ高校生に見える......か?
「私は、永瀬さんのクラスにお友達がいるっていう人から話が聞けたよ。
そのお友達の話だと、いじめとかはなかったみたいだけど、人間関係がなんかギクシャクしてる感じがあって、時々険悪なムードになってたんだって。
それで、その中心になってたのが、大体永瀬さんだったみたい」
「なるほどね」
動機は探せば結構出て来るもんだな......だけど...
一瞬視界が開けて、神月台に林立する団地の一部が窓から見える。
ここは幹線道路が一番低い場所を通っているので、車だと左右を壁で囲まれた、溝の様な場所を大体進む事になる。
だが、たまにこんな感じで、建物のある区画同士が、幹線道路とほぼ同じ高さになっている所があり、そういう場所だと一気に見通しが良くなるのだ。
......なんだろう。何か嫌な予感がする。
虫の知らせってやつだろうか?
でも漠然とし過ぎていて、何をどうすれば良いのかが全く掴めない。
正体の分からない気持ち悪さを抱えながら、車は神月台を下りた。




