Daily Life2
昼食はいつもお姉ちゃんと食べる事にしている。
私が何も言わないと、毎日でもお弁当を作ってくれるから、それがお姉ちゃんにとって幸せな事だというのは知ってるし、それを嬉しいとも思うけど、二日に一回は学食で食べる事にしていた。
今日は学食の日だ。
さーって、今日の日替わりメニューはっと...
肉と魚だったら...やっぱ肉でしょ♪
私は焼肉定食っぽいBセットを、お姉ちゃんは焼き魚定食っぽいAセットを頼んだ。
二人で窓際の席に着き、ご飯を美味しく食べながら、周りに聞こえないよう、さっきの東雲さんの件についてテレパシーで会話する。
「凄く気になる話だね。それに...」
そう言って、お姉ちゃんが考えこむ。
「そんな感じの人に、私達も何処かであった気がする...でしょ?
私はちょっと覚えてないんだけど...」
雰囲気的には、この前商店街で話を聞いた、相澤光さんみたいな感じの転入者...
「えっと...確かあれは1ヶ月位前...華凛ちゃんと一緒に、ビジネス街に新しく出来たっていう商業施設に行った帰り...だったよね?」
そう、そこまでは私も覚えてる。
「そうそう。それで帰りの電車を降りて、駅を出ようとした時に......」
「うん、道に迷ってた上、突然の雨で困ってたおじさんが居たんだよね。
それで道を教えてあげて、私達はそろそろ雨の時期だからって事で、二人共傘を念のため携帯してたから...」
「おじさんに傘を一本あげた...そうか、あの時のおじさんか...どんな感じの人だったけ?」
「うーん、年は40代後半って感じだったかな。背は私より低くて、髪は白髪混じりの短い髪だった」
あの時の記憶が少しずつ甦って来る───
「よろしければ、私の傘をお使い下さい」
お姉ちゃんが、おじさんに傘を差し出す。
おじさんは驚いた表情をして
「い、いえ!そんな申し訳ないですよ!それにそんな事をしたら、お嬢さんが濡れて風邪をひいてしまう!」
「ふふ、大丈夫です。妹の傘に入らせてもらうので」
家までは大した距離ではないし、相合傘をしても特に問題はないだろう。
お姉ちゃんの事だから、私を優先して肩が濡れてしまうかもしれないけど...
「...すみません...道を教えていただいた上、こんなに親切にしていただいて...傘はどちらにお返しすればよろしいでしょうか?」
「いえ、普通のビニール傘ですし、差し上げます。もしお邪魔になる様でしたら処分して下さって構いませんから...」
「そんな......何から何まで本当にありがとうございました。
私、最近こちらに引っ越して来た、中山 樹といいます。
もしまた何処かでお会いする事があれば、その時は必ず恩返しさせて下さい」
中山さんが手を差し出す。
「恩返しだなんて...お気になさらないで下さい。困った時はお互い様ですから」
お姉ちゃんは笑顔で握手に応える。
中山さんはちょっと涙ぐみながら
「それでは」
と言って、頭を下げたあと、一定の歩幅で静かに去って行き、路面の状態を気にしつつも、私達が教えた通り、二番目の角を右に曲がって行った。
「じゃあ、私達も行こっか、お姉ちゃん」
「うん......ふふ、久し振りに華凛ちゃんと相合傘かぁ、嬉しいな~♫」
お姉ちゃんがはしゃいでる。
「よっ、喜ぶのは良いけど、私に遠慮して、あんまり濡れたりしないでよ!風邪引いちゃうし!」
「は~い♪」
まったくもう......
私達は自宅まで並んで歩いた...
───ああ、そうだった、そうだった!中山さんだ!
......でも、中山さんは30代には見えなかった...とすると、東雲さんに話しかけて来た人とは別人...?
まあ、引っ越して来たばかりの人は他にもいるだろうから、それも当然か。
「あの時、華凛ちゃん、私が濡れない様にって気をつかってくれたんだよね...ふふ、ありがとう華凛ちゃん!」
「...ど...どういたしまして......」
お姉ちゃんが自分だけ濡れようとした事に私が抗議した結果、お姉ちゃんが私を抱き抱える様に密着して歩いて帰ったから、あの日は二人とも肩が少し濡れただけで済んだ。
昼食を食べ終え、午後の授業で寝落ちしそうになりながらも何とか耐えて、いよいよ放課後になった。
さて、学校が終わったら連絡くれって言ってたな。
私は美月さんに電話する。
「はーい、もしもし!」
「あっ、美月さん、学校終わりました。どちらに向かえば良いですか?」
「わはは!学校が終わるの、この位の時間かなと思って、実はもう来ちゃってるんだよね~」
へっ?
学校の玄関付近から正門の方を確認すると、なんと美月さんが、車の中から笑顔で手を振っているではないか!
下校途中の生徒の注目を浴びている......かっ、かなり恥ずかしい......
「月代さん、あの人知り合い?」
下校途中のクラスメイトが私に尋ねてくる。
「う...うん、まあ...私の親戚...なんだよね...今神月浜町にいるから、放課後待ち合わせしないかって話になって...」
「へぇ~、顔はハッキリと見えないけど、なんか明るくて綺麗なお姉さんって感じだね!
いいな~美人なお姉さんが二人も居て...」
クラスメイトは羨ましがりつつも、「じゃ、また明日!」と言って、自転車置場の方へと去っていった。
私も行くか...
途中でお姉ちゃんと合流し、私達は美月さんの車に乗り込んだ。
「ねえねえ!なんかクラスメイトの子と話してたみたいだけど、何話してたの?」
美月さんが目を輝かせながら聞いてきた。
多分、今時の女子高生の会話に興味津々なのだろう。
「美月さんが明るくて美人なお姉さんに見えたみたいですよ。私の親戚だって言ったら、綺麗なお姉さんが二人いて羨ましいみたいな事も言ってました」
「うわっ!何それ!何て見る目がある出来た子なんだっ!飴を買ってあげたかった!」
今時の女子高生が飴を買ってもらって喜ぶかどうかは疑問だが、半分真剣なのが美月さんの恐ろしい所だ。
買ってもらったら...私は...まっ、まあ、嬉しいかもしれないけど...ん?
後ろで車が止まる音がした。
もしかして...ああ、やっぱり東雲さんだった。
一応放課後になってから、今日迎えに来て貰えるかどうか本人から聞いてはいたんだけど、少し心配だったのだ。
「うん?華凛ちゃん、知り合い?」
車を出発させながら、美月さんが聞いてきた。
「はい、クラスメイトの東雲さんっていうんですけど、実は...」
私は事情を話した。
「は~なるほどね...そりゃあ確かにヤバイわ」
美月さんが何度も頷きながら言う。
「警察の方でも住宅街のパトロールを強化してはいるんだけどね。
この町って結構死角になる部分が多いから、カバーしきれてないってのが現状なんだよ」
神月浜町は、樹木や高低差がある場所が多く、割りと近くにいても目の届かない所が、それなりにある。
実際今まで事件が起こった場所は、まさに街中の死角と呼べる様な場所ばかりだったし、これからもその傾向は続くと思われる。
また、警備を一ヶ所に集中したとしても、仮に自分の頭の中にターゲットとなる人達のリストを持っている犯人なら、ターゲットの選別に、余程譲れないこだわりの様なものがない限りは、柔軟に対応し警備の薄い部分を狙って来るだろう。
まあ、それを利用して誘う事も出来るかもしれないけど...
うーん...なんだろう、そうするには、何かが引っ掛かるんだよな。
論理というより、勘に近いんだけど...
「そろそろ着くぜ~」
美月さんの声に我に返り、窓の外を見ると、神月高校が見えてきていた。
下校する生徒がちらほら見える。
色々話が聞けると良いんだけど...
そんな事を思っている内に、車が目的地へと到着した。




