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無能と追放された「鍵師」、世界の命運を握る禁忌の扉をすべて解放してしまう 〜今さら国に戻れと言われても、実家の鍵はもう変えました〜  作者: 臥亜


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第3話:白金貨100枚と、実家の鍵を神話級に変える男

「え、えええええええええええええーーーっ!?」

数秒の沈黙の後、冒険者ギルド『エンドル支部』の建物がひっくり返るほどの絶叫が響き渡った。

叫んだのは受付嬢のミリーだけではない。

酒場で酒を飲んでいた屈強な冒険者たちも、全員が立ち上がり、目玉が飛び出そうな顔でアルトとアイリスを凝視している。

「あ、開けたって……おい、あの『神封の扉』をか!?」

「冗談だろ!? 大国の宮廷魔導師団が総出で挑んでも、煤一つつけられなかったんだぞ!」

「本当だよ。ほら、これがその証拠っていうか……中から出てきたアイリスさ」

アルトが苦笑いしながら言うと、アイリスは一歩前に出て、スカートの裾をつまんで完璧な淑女の礼をとった。

「アルト・ウォーカーの専属従属人形、アイリスにございます。マスターの不利益となる存在は、国家規模であっても即座に消滅させますので、以後お見知り置きを」

「挨拶が物騒だよアイリス!」

その時、ギルドの奥からドタドタと激しい足音が聞こえ、筋骨隆々の大男が姿を現した。

この支部のギルドマスター、ガザルだ。

「おい、今の話は本当か……!?」

ガザルはアイリスを一瞥した瞬間、その強靭な肉体をガタガタと震わせた。元・超一流冒険者である彼の本能が、「この少女に関われば一瞬で消される」と最大級の警鐘を鳴らしていたのだ。

「ギ、ギルマス……魔力測定器が、測定不能エラーで爆発しました……!」

奥から青ざめた職員が、煙を吹く魔道具を持って走ってくる。

ガザルは額の汗を拭うと、アルトの肩をがしっと掴んだ。

「……アルト、お前、一体何者だ?」

「ただの鍵師ですよ。ちょっと鍵を開けるのが得意なだけの」

「ちょっとのレベルじゃねえだろ!!」

とはいえ、依頼は完璧に達成されたのだ。

ギルドマスターの特権により、即座に報酬の支払い手続きが行われた。

ジャラララッ、とカウンターに並べられたのは、妖しい光を放つ100枚の白金貨。

「これが約束の報酬、白金貨100枚だ。……正直、うちの支部が破産しかけたが、文句なしの依頼達成だ! アルト、お前を今日から当ギルドの『最高級プラチナ職人』として登録する!」

「ありがとうございます。これで当分、遊んで暮らせそうだな」

アルトはホクホク顔で報酬を道具袋に仕舞い、アイリスを連れてギルドを後にした。

残された冒険者たちは、「とんでもない怪物が街にやってきた」と、しばらく放心状態で固まっていた。

◇◇◇

街の少し外ずれ。

そこには、アルトが亡き両親から受け継いだ、古びた一軒家――実家があった。

長年放置されていたため、あちこちが傷んでいる。

「よし、アイリス。ここが今日から僕たちの家だ。まずは掃除から始めようか」

「了解しました。マスターの拠点のクリンネス任務を開始します」

アイリスは袖をまくると、超古代テクノロジーを無駄遣いして、目にも留まらぬ速さで家中の埃をすべて消滅させていく。一瞬で、新築のようにピカピカになった。

「助かるよ。じゃあ、仕上げに一番大事なことをやろう」

アルトは実家の古ぼけた木製の玄関ドアの前に立った。

ユニークスキル【万能開錠マスターキー】。

このスキルは、どんな鍵でも「開ける」ことができるが、それは裏を返せば「鍵の構造と本質をすべて理解している」ということでもある。

つまり、アルトは『絶対に開かない最強の鍵』を「閉める」こともできるのだ。

アルトはドアの鍵穴にピッキングツールを差し込み、魔力を流し込んだ。

「僕の家だし、防犯はしっかりしておかないとね。……【万能施錠パーフェクトロック】」

カチリ、と小さな音が響いた瞬間。

地味な木製のドアを中心に、目に見えない幾重もの神聖な障壁が家全体を包み込んだ。

それは、アイリスを閉じ込めていた『神封の扉』の術式をベースに、さらにアルトが改良を加えた、神話級の絶対防御結界セキュリティだった。

「よし、これで良し。これなら魔王が軍勢を率いて攻めてきても、ドアノブ一つ動かせないはずさ」

「……マスター、今施された術式、当機の全力砲撃でも突破不可能なのですが。防犯の域を超えていませんか?」

アイリスが珍しく驚いたように目を丸くしている。

「これくらい普通だよ。王都の勇者パーティは、僕がいないといつも鍵を無くしたり、ドアを壊したりしてたからね。これくらい頑丈にしないと安心できないんだ」

アルトは満足げに頷き、これから始まる気ままなスローライフに胸を躍らせるのだった。

◇◇◇

その頃、王都。

満身創痍、全身包帯まみれの姿で、勇者レオンたちは命からがらダンジョンから生還していた。

しかし、彼らを待っていたのはさらなる絶望だった。

「お、おい! 俺たちのマイホームの鍵が……開かないぞ!?」

レオンたちが王都の一等地に構えていたパーティハウス(実家兼拠点)。

その豪華な鉄製の扉の前で、レオンは壊れた聖剣の柄をがちゃがちゃと動かしていた。

実は、あの拠点にかけられていた防犯の鍵も、すべてアルトが施したものだったのだ。

アルトがパーティをクビになった際、彼の魔力の供給が途絶えたため、セキュリティが『完全閉鎖モード』に移行してしまっていた。

「ミーナ! 魔法で壊せ!」

「馬鹿言わないで! アルトがかけた鍵よ!? 私の爆発魔法なんか跳ね返されて、王都の半分が消し飛ぶわよ!」

「新入りの聖女ちゃん! お前の神聖魔術でなんとか……」

「無理ですぅ! 汚い包帯男たちに触らないでください! 報酬が出ないなら、私、もう別のパーティに移ります!」

「待て! 行かないでくれぇぇぇ!」

聖女には見捨てられ、家には入れず、ダンジョンで財宝も得られず医療費で全財産が消えた勇者パーティ。

王都の冷たい雨の中、レオンは地面に膝をつき、涙を流しながら叫んだ。

「アルトぉぉぉ!! どこにいるんだアルトォォォ!! すまなかった、俺が悪かった! 戻ってきて、頼むからこの扉を開けてくれぇぇぇ!!」

だが、最果ての街で美味しいシチューを食べているアルトに、その声が届くことは二度となかった。

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