ファイル9:宿屋メイディの改装(リフォーム)、親としての責任
【謎の音:記録時間——2031年3月21日——午前9時20分。】
宿屋メイディ、ホール。空気中には、古い木材の匂いと、微かなインクの香りが混ざり合っている。
いつものようにヴォイドと縁之介の帰りを待つリリィとウォク。しかし、今日のホールの雰囲気は少し違った、空気から冷徹と『真面目』な温度が伝わってくる。
テーブルには、山のような大量の紙が積まれていた。ウォクは頬をつき、万年筆を握る。紙の上で金属が擦れる「ガリガリ」という乾いた音が、静寂を削り取っていた。
「よし、完成した! どんな作品にも勝る超一品。うちってば天才。」
リリィが描いたのは、単なる図面ではない。それは彼女の脳内にある「想像した画面」だ。
彼女は自作を見つめ、心が跳ねるような、『非現実的』な興奮で手足をバタバタと動かす。その『傑作』を世界中に叩きつけたくて、彼女の存在自体がうずうずと震えていた。
「見て見て、ウォク兄! うちの『傑作』。」
リリィが駆け寄るが、ウォクは淡々とした生返事を返すだけだった。彼の意識は、数字の選別と計算という「工作」の中に埋没していた。
「も〜ウォク兄ったら」
リリィの頬が河豚のように膨らむ。
「この足音……もう帰ってきたか!二人にも見せないとね」
その時、ドアの外から足音。ヴォイドたちが帰ってきたのだと直感するリリィは描き上げたばかりの設計図を握りしめ、ドアへと駆け出す。
だが、開いた瞬間。外から入ってきたマリーと、真正面から激突した。
重力が歪み、二人の質量がもつれ合うように床へ叩きつけられる。
「いたたたた……あれ、地面どこ?」
リリィは手探りする。立ち上がろうとした指先に伝わったのは、路傍の石とは違う、「なにこれ?めちゃ柔らかくて、弾力のある球体」の感触だった。
「きゃー!」
同時に、艶めかしい女性の悲鳴が耳に届く。
嫌な予感がしたリリィは、恐る恐る顔を上げて状況を確認した。
視線の先には、顔を真っ赤にして羞恥に染まった、リリィが見たこともない女性——マリーが倒れていた。
マリーは両手を広げ、自暴自棄になったのか、あるいは観念したのか、されるがままに横たわっている。
「どうか……お手柔らかにお願いします……」
後ろにいたヴォイドと縁之介。その「絶景」を視界に収める。
「二人、何してるの?」
ヴォイドは純粋な好奇心で、さらに顔を近づける。その瞳には、女同士のゼロ距離の絡みが、一つの『未知現象』として記録されていく。
「なにも見えてない、俺はなにも見えてない」
縁之介は反射的に手で目を覆い、顔を背けた。
騒ぎを聞きつけ奥から出てきたウォク、ドアを開けた瞬間にその『修羅場』を視認し、僅か一秒で身を翻すと、ドアをそっと閉めた。
「ヴォイド、お前がそれを知る必要はない。」
縁之介はヴォイドの襟首を掴み、現場から引きずり出す。
「なぜ? なぜなぜ?」
ヴォイドの周囲には、処理不能な疑問マークが大量に浮遊していた。
ひとしきりのドタバタの後、騒ぎは一旦休止した。一行はホールのテーブルを囲むように集まる。
リリィはまるで怒られた子供のように、誤解されたことにしょんぼりして、2Dの『ピクセルデフォルメ』されたような丸っこい泣き顔になっていた。
「はじめまして。私はマリー・メタトロンと申します。まずお二人に事情を相談したい、私に関することなんですが。」
マリーが語る、自己紹介と経緯。
「うちは別に気にしてないよ、むしろ大歓迎よ」
「僕も同じだ。まぁ、すでに二つの前例がいるからね。」
メイディ兄妹は、それを当たり前のように受け入れた。ヴォイドや縁之介という「特例」が、すでに存在したから。
「これって、新しい家族ができたってことだね。祝わなきゃ。」
マリーの暗く沈んでいた顔に、一筋の陽の光が差す。
「新しい家族が増えた祝いに踊りましょう! ルンランラン! ルンランラン!」
兄妹は縁之介を無理やり引っ張り込み、手をつないでグルグルと回り始める。
容赦ない回転。縁縁之介は目を回し、頭の周りを星が飛んでいるようだった。その無邪気な光景を見て、マリーの口元が綻んだ。
「なぜ、テーブルの上にこれほどの紙が積み上がっている?」
ヴォイドの問いに、二人は急に手を離した。中心にいた縁之介は遠心力を失い、空中で二回転半した後、床に激しく叩きつけられた。
「それ全て宿屋メイディの改装計画だよ。」
ウォクが説明を始める。奪われていた『経営権』を取り戻した今、時代に合わせて『革新』しなければならない。
『宿泊』を軸に、『飲食施設』を充実させ、静かに読書ができる『カフェ機能』も併設する。
マリーは「楽器を演奏できるスペース」を、縁之介は故郷を思い出し「大浴場(銭湯)」を提案した。
そのアイデアを受けたリリィ。ペンを取り、紙の上をササッと数回なぞる。
その瞬間、設計図の絵柄が『変貌』し、新しい絵が完成した。
「これが、リリィの異能なのか?」
ヴォイドは察知した。紙の上に残留する、異能の波動を。
リリィは説明した、彼女の異能は、脳内で構想した映像を物体の表面に投影し、薄い膜のように定着させることだ。
リリィが説明を終えた後、ヴォイドの興味津々な視線がウォクに移り、彼の異能を尋ねた。
ウォクは拒もうとしたが、リリィに「自分だけズルい」と図星を突かれ、仕方なく実演した。
ウォクは倉庫から四角い金属の塊を持ち出し、縁之介に金属の塊を真っ二つに切ってくれと頼んだ。
「縁之介、これを切ってくれないか?」
「わかった、これを真っ二つに切れば良いなぁ」
すんなりと頼みを受けた縁之介は刀を抜いて、金属の塊を一刀両断にし、真っ二つに切り裂いた)。
ウォクは片方を拾い上げ、手で強く握りしめた。彼が「クリエイト」を唱えた後、手に持ってた金属の塊がだんだんと水のように溶け出し、そして新たな形状、『フライパン』の形に再生成された。
「これが僕の異能「クリエイト」、物質を分解して、自分が思うままの形状に再生成する。材質は本来のままで、武器に変えることもできる。ただ、あくまで物の形を変えるだけで、それ以外の技はない。要するに、戦闘特化の異能種類ではない。」
「もし僕みたいな、訓練も受けていない一般人が無理矢理に戦うなら、待つのは死だけだ。だから、僕は出来る限り闘いたくない。」
「そういえば、買い出しに出かけなきゃ、夕食の材料もそろそろ切れそうだ」リリィが思い出した。
●
ヴォイド、縁之介、マリー、リリィ、ウォク。五人勢揃いして、夕飯と改装に必要な材料を買いに出かけた。
買い出しの時間はさほど長くはなく、しばらくして、必要な材料が買い揃った。
帰り道の途中、五人はケーキ屋が発見した。
「みんなケーキを食べたいか?お祝いの証にケーキを買おうよ」
ケーキ屋を見て直ぐ、リリィはケーキを買えばと提案した。
ウォク、縁之介、マリー、三人異論なしでリリィの提案を賛同した。ヴォイドは特に欲しいわけではないため、一行が異論なしなら、彼にも異論なしと話した。
大きなケーキを飾って、甘さを感じさせるピンク色のケーキ屋の前、一行はショーケースの中、目まぐるしい種類のケーキを見て選べ始めた。
「うちはやっぱり『フルーツケーキ』!鮮やかな色で豊富なバリエーション。一口食べればフルーツの甘みが口の中でジューシーに炸裂。まるでうちの可愛いさみたいでしょ?」
リリィがかわい子ぶってフル一ツの気に入りボイントを紹介始めた。
「僕は『チ一ズテリーヌ』にしよう。シンプル イズ ザ ベスト」
割りとシンプルなチョイスするウォク。
縁之介とマリーの番に周った。珍しく「選ばなら、最高級ケーキを選べ」と同時に宣言した二人。
二人がそれぞれが思う『最高級』なケーキに指差した。しかし、選択は当たり前のように分けた。
縁之介は『ミルククレープ』、そしてマリーは『ガトーショコラ』を選んた。
選択が分けたにあらず、それぞれが思う最高級とあまりにも差がありすぎるゆえに二人は喧嘩し始めた。
「『ミルククレープ』?なんだ、そのセンスの欠片もないケーキのチョイス。ただ薄い生地を重ねただけの、『家庭料理』の延長じゃないか」
「あぁ!? お前、今なんつった。『ミルククレープ』は、職人が火加減を気にしながら極限まで薄く焼き上げ、それを何十層も積み重ねる。この『積み重ね』こそが、俺たちの歩んできた道と同じ、職人の誇りだろうが! そっちの『ガトーショコラ』こそ、ただチョコを固めただけの塊じゃねぇか!」
「『ガトーショコラ』こそシェフの誇りよ。良質なカカオの苦味、それを引き立てる砂糖の甘美、そして焼き加減一つで変わる繊細な口溶け。これは『救済』の味わいなのよ。あなたみたいな、数を重ねればいいと思っている脳筋サムライには、この『高貴な余韻』は理解できないでしょうね!」
「笑わせんな。腹に溜まってこそ力になる、それが本物の食いもんだ。お前の選んだそれは、気取った連中がちびちび齧るための『痩せ我慢』にしか見えねぇよ!」
大きな笑いてマリーを嘲笑いする縁之介。
「もういいは、話しにならない。こうなったら、どちらか『最高級』な一品か、白黒付けよ」
「ちょうどだよ、乗ってやる」
対峙する二人の後ろにそれぞれが推したケーキの『化身』らしいものが薄々く現れた。
二人が喧嘩する最中、未だに選択決められていないヴォイドはたっだひたすらにショーケースの中を見詰めているだけ。
「まだ決まっていないの、ヴォイド?」
「それがわからないだ、何を選ぶべきか?」
「自分が好きな物を選べいい」
「でも好きな物はない」と言ってたヴォイド。
「だったら、勘で行けば?このケーキの中でどれに一番惹かれたか、あるいは気になっているのか。うちも見たいね、ヴォイド兄ちゃんのチョイス」
躊躇するヴォイドにウォクとリリィが優しいく気遣いしてくれた。
「気になっていいた……」
その時、ヴォイドの視界に入ったのは、黒と紫色が混ざり合った、平らな長方形の多層構造ケーキ。その瞳は、まるで『深淵』に吸い込むように純粋だった。何の迷いなく、彼彼はそのケーキに決めた。
「お兄さん、すごいものを選んだな! これは当店売上No.1の、『オペラケーキ』だ。」
『オペラケーキ』とは甘さだけでなく、しっかりとした苦味が混ざる。要するにいろんな味のディテールが混ざった独特な味のするケーキだ。
「その独特な味でいつもすぐ完売してしまうんだ。だが、なぜ今回は特別に一個殘ってる。まさか初対面の客に買われるとは。ちなみに、このケーキの名前は——【ブラックホール】だ。」
「『ブラックホール』!ヴォイド兄ちゃんにぴったりなケーキだね〜」リリィが嬉しいそうに話す。
隣で喧嘩していた縁之介とマリーは、ヴォイドが選んだ「真の最高級」を目にし、ショックのあまり体が溶けるような錯覚に陥っていた
●
遠くから一人の男の子が走ってきて、ヴォイドと真正面からぶつかり、双方が後ろに倒れ込んだ。
ヴォイドはすぐに体勢を立て直し、地面に座り込んでいる男の子に手を差し伸べ、彼を引き起こした。
男の子は立ち直り、礼を言った後、まっすぐケーキ屋に向かった。
「嘘!『オペラケーキ』、もうないの?!」
「申し訳けない、つい先そちらのお客さんたちにより全部完売した。」
男の子は『オペラケーキ』を買いたいが、店員さんから完売という残念な結果を知らされた。
「これが欲しいの、譲ってあげるよ。」
「ありがとう。でも……お兄さんのケーキを僕に譲ってしまって大丈夫なの?」
ヴォイドは自分のケーキを差し出した。男の子は恥ずかしがりながらも、その好意を受け取るべきか躊躇していた。
「よかったら、三人とこの子と一緒にここで食べたら?」
ウォクは男の子を見て、ヴォイド、縁之介とマリー、三人に男の子と一緒に店内で分けてながら食べればいいと提提案した。その後、また他の事を処理する必要があったので、リリィと先に家へ戻った。
ケーキ屋の中、4人はそれぞれが選んだケーキをテーブルに並べ、共にシェアすることにした。
フォークでケーキを切って、口へ送った瞬間、味の香りが炸裂。咀嚼を重ねて進むと、チョコレートのとろっとした甘みとコーヒーの渋い苦味がしっかりと感じられる。
初めてケーキを食べたヴォイドですら思わず「美味し」と評価した。
「お兄さんとお姉さんのおかげで、ケーキを食べれました。そういえば、名前をまだ聞いていないよね、僕はレオ」
「俺は斬炎こと、煉獄縁之介、隣のしけた顔してる奴はヴォイド、そちらにいる貴族気取りなメスはマリー」
縁之介は先陣を切り、自己と他の二人のことを紹介した。
「レオ、なぜただケーキを食べられないだけなのに、あんな辛そうな顔してるの?」
レオの切なさを感じたヴォイドは疑問を抱いて、彼に問いかけた。
「ケーキ……デザートと言うものには、人を楽しませる『魔力』があるそうだ。僕はその『内包』された『秘密』を知りたい、僕の願いに近付けるために。」
(願い……)沈黙したヴォイド。
「見つけだ、こんなどころに居たか!いい加減に戻ってこいよ!」
この時、ある成成人男性が勢いよくケーキ屋に入ってきて、怒りでレオに向かって怒鳴った。
「エリヤス……とっさん」「嫌だ!絶対に帰らない!」レオは反発して、縁之介とマリーの後ろに隠れた。
「またぁ…そんな事言ってるのか!お仕置きが必要だな。」
「あの、おっさん。レオは結構嫌がってるから、あまり命令するような口出しをしないで。」
「君とは無関係だろ、私には彼を正しく導く『責任』がある。彼の『未来』のためにも…」
「はぁ?責任?やかましいな。あのさ、おっさん。お前、レオの親だって言ったよな。だが、てめぇは親らしい責任を一度でも全うしたことあるのか?」「お前からは同じ匂いがするんだよ、俺が大嫌いな大人たちの匂いがな」
火が点いた縁之介が、容赦ない言葉で父親を問い詰める。
「お前に何がわかる!私はあの子の親だぞ!」
「お前の責任など知らんけど。だが、俺が知ってるのはただ一つ、お前みたいな大人は、『責任』や『栄誉』など何もかもを子供に押し付けているということだ。それは『責任』なんかじゃない、子供の『選択』を奪う行為だ」
「行くぞ、レオ」
「はい、縁之介さん」
「待て、縁之介くん、レオくん」
縁之介は子供を連れてその場から離れだ。マリーもその後を追う。自分の子供が遠ざかっていくのを見つめることしかできないエリヤスは沈黙した。
●
「なぜ君はそこまで、子供の『未来』にこだわるんだ?理由は『親だから』ではないと断言する」
ヴォイドが静かに問い詰める。
「なぜはっきり断言できるのかな。君は私ではないだろう。あの子を庇うのか?!」
「いや、庇うという理由じゃない。ただ知りたいだけだ。『親』という存在が、なぜ子供のためにそこまで体を張れるのか。かつて、俺にもいたんだ。『親』という存在が」
「かつてって……君は親から逃げ出したんじゃないのか?」
「縁之介とマリーはそうかもしれないが、俺はちょっと違うかな。血は繋がっていないけど、『親子』という概念をちゃんと認識する前に、父ファザー——シェラウドは火の海の中で俺を守るために、炎に焼かれて息を引き取った。」
「悪い……こんなこと、君から言わせるべきではなかった。すまない」
エリアスは言葉を詰まらせた。
「いいよ、別に話しても構わない。過ぎたことだし」
ヴォイドは淡々と返す。
「それより、君の方こそ、何かあったのか?」
「昔、元救急隊員だった私も救い損ねた子供がいた。今思い返せば、あの子も助けを求めていたのかもしれない……」
(救い損ねた子供……もしや……)
ヴォイドは何かを察したかのように、脳裏に二つのシルエットを浮かべた。
「君の親は、どんな感じの人だったんだ?」
エリヤスが好奇心からヴォイドに尋ねる。
ヴォイドは、養父ファザーシェラウドと共に過ごした様々な記憶を回想する。
見渡す限り、どこまでも広がる大草原。その中央を一本の川が隔てるように流れている。川のすぐ近くには、修復すら不可能なほどに荒廃した木屋が建っていた。
シェラウドはそこで、不慣れに服を洗濯している。少し洗えば落ちるはずの汚れだったのに、彼は不器用すぎて服を擦り破ってしまうのだった。
「不器用で、得意でもないことなのに、『一生懸命』にやてくれる『強靭』な『精神力』。あきらず、覚え立てな物を俺に教えてくれた『優しさ』も、彼しかない『魅力』だと思う。」
ヴォイドは自分の袋から彼の『日記』を取り出して、見つめた。
「この『日記』も彼の贈贈り物だ。もしまだ会える機会があれば、ちゃんと彼には感謝の言葉を伝えなきゃいけない、でもそれはもう不可能なことだ。」「俺が旅に出ると決めたたくさんの理由の一つ、それは『父ファザー』という存在は何なのかを知るためだ」
「君の親はまさに『理想的』な存在かもしれないな。私とは全く違う。自分の過ちを繰り返すことに怯えて、子供に厳しくして、子供が辛いことにすら気づけない。私は……親失格だな」
「そうでもない。厳しいのは良くない、それは確かだ。でも、君は自分の子供が間違った道に進まないように、精一杯頑張ったんじゃないのか?それも一つの選択。それに関して、俺には否定できない」
ヴォイドはエリヤスの願いを否定しなかった上で、彼に助言をした
「俺は思う、『親』ってものは、何が起きたとしても子供と共に背負うことこそが、本当の『責任』なんじゃないかって、かつてシェラウドがしてくれたように」
「私は……どうすればいいだろうか?」
「まず、子供と一緒に一旦落ち着いて座りながらゆっくり話したらどうだ。お互いの気持ちを確かめ合うためにだ。試試しに子供のことを理解してみるのはどうだ?」
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ケーキ屋から少し離れた5メートル先の公園。縁之介、マリーとレオはその中へ逃げ込んだ。追手がいないと確認した三人は、ベンチに座った。
「縁之介さん、どうして僕を助けてくれたの?」レオは縁之介に問いかけた。
「別に、ただ気に入らなかっただけだ。そういえば、なんで親父と喧嘩したんだ?」
珍しく、縁之介にも渋い一面が現れた。
「先に言ったでしょう、僕に関することだって。僕は『パティシエ』になりたかった。僕が作ったデザートで、戦いや生活に苦しんでいる人にも甘い楽しみを味わせたい。だけど父はそれに反対した。危険だとか、『無価値』だとか、散々言いまくって。」
「お前……勇気があるな、それはいいことだ……」
目の前の男の子の『陽気な姿』が、まだ純粋だった頃の縁之介自身の姿と重なった。『親』と言う概念に思考を取られた彼にふと、妹の「焔月」のことを思い出す。
いつもニコニコしている焔月だが、時には厳しい一面もある。それはある夜の出来事だった。
いつものように『選別』と『始末』を終えた縁之介が自室に戻る途中、ある部屋の窓が少し開いており、そこから微かな光と話し声が漏れていた。
「焔(月ほつき)……」
縁之介はすぐに声の主が妹だと気づき、バレないように息を潜めて身を隠した。
部屋の中で、焔月は針と糸を使い、ボロボロになった縁之介の羽織を一つ一つ丁寧に縫って直していた。
「まったくもう!!縁兄ったら、最近はずっと暗い顔してるし、服はボロボロだし。何かあったのかって聞いても、『大丈夫』って誤魔化すんだから」
「一体何があったの?なんで何も言ってくれないの?私にまで内緒にしなきゃいけないくらい、そんなに怖いことなの……?」
嫌な想像をしてしまった彼女は、一瞬、体がゾッとするような寒気を感じた。
「大人たちが何をしたいのかもよくわからないが、揉めたところで何の問題も解決しないじゃないか。私たちは……家族だろ」
文句言ながらも、本当はただ兄のこと心配するだけの優しい妹。
「わかってる……けど、このまま続けたら、お前まで『淘汰』されてしまう。唯一残された家族だから、お前を死なせるわけにはいかない。死んだ『親』の代わりに、兄である僕が親としての責任を全うしなければ……」
窓の外で、縁之介は小さな声で呟いた。放たれたその言葉は、彼なりの不器用な優しさだった。
「なぁ、お前。親父のことが嫌いなのか?」
縁之介はレオに問いかける。
「嫌いだ!だけど……怒らない父は父ではないから」
「そっか。なあ、これだけでも覚えてくれ、どんなに家族を嫌っても、家族と居る時間は大切にしろよ」
優しい笑顔で男の子の頭を撫でる縁之介を見て、先ほどまで彼と口論していたマリーが、ニヤリとしながら嫌味を言った。
「へぇ、意外ね!縁之介くんにもそういう渋い一面があるなんて。てっきり、ただの熱血馬鹿だと思ってたわ」
「好きにしろ。」
「もしかして、噂の妹のことを思い出したの?」
マリーと縁之介は犬猿の仲だが、同じような傷痕を背負っている背景があるからこそ、さすがに縁之介の心境の変化には気づくのだ。
「だったら、なんだ?」
「いえ、ただ思った……私たちは同じ群れの仲間なんだなんて。」「私と縁之介くん、ウォクさんとリリィちゃん、そしてヴォイドくん。みんなは何かを失ってから、こうしてお互いに出会ったのかもしれない。自由の身だからこそできること……これって、自由の証なんじゃないかって」
「そうかもしれないなぁ……」
ふと、マリーの視線が動く。
「あ!ヴォイドくん」
「レオ、君の『本音』、教えてくれないか?私はどうすればいいか」
「まず、これを食べて」
レオはバッグから型が固まっていないケーキを彼の父に食べさせた。
「形はボロボロだけど、甘い……」
エリヤスの先ほどまで厳しかった顔が、すっかり穏やかな顔に変わった。
「僕が作ったんだ。まだ未成熟だけど、僕はこの味でみんなの人生を甘い気持ちに変えたいんだ。」
「そっか……ちゃんと最後までやりきるを約束すれば、君の願いを全力でサポートする」
親子喧嘩も終わり、エリヤスとレオはヴォイド三人に礼を言った。エリヤス、レオ親子を見送った三人もいつしか絆が深まって、本当の家族みたいに。マリーと縁之介はまた喧嘩する最中だけどね。
(これから、レオもエリヤスも自らの願いを新たな道へ再定義リディファインするだろう。俺もこれからどんな『願い』に出会えるのか、少し期待し始めたかもしれないな……)
(あと……こいつらとも上手く溶け込めるのか、ケーキのようにね)
仲悪いか、良いか見た目じゃわからない縁之介とマリーを見て、ヴォイドはここれからのヴィジョンを脳内で想像した。
それから2ヶ月時間が過ぎた、改装が終了した宿屋メイディは、新たな構造と共に新たな名前が付けられた。
それは『ヴィッシュファミリー』と言う素敵な名前だ。
そんな日、ヴォイドたちにある手紙が届いた。ザーシーカーと言う人物からの謎の手紙(挑戦状)が。
それぞれが『家族どしての責任』と言う議題に検討した結果。血の繋がりか、それとも共に背負う覚悟のことかこそ家族を表しているのか。
リスナーさんたちにも会っただろうか?家族と意見が割れて、喧嘩に発展した、収拾つかない、両方とも傷つけにしまったこと。
だがそれは両方にもそれぞれの思いやりと選択があるこそ、必然的に起きることかもしれない。誰しも考えは同じで言うわけではない。
だから、一番の解決方法は……
次回、ファイル9. 5:リリィが思い描く絵




