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ウィッシュコレクター 願いを証明する者  作者: アスタ. 天ユ
ファストシーズン:意識する(リアライズ)
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ファイル9.5:リリィが思い描く絵(キャンバス)

自分の部屋で、リリィはキャンバスを前にして酷く悩んでいた。


「うん……違う! これも違う!」


「だめだ……思いつかない」


頭が詰まり、思考が泥のように停滞する。その時、棚の上に置かれていた古い紙箱がバランスを崩して落下し、リリィの頭を直撃した。箱の中から、数多の画用紙が雪花のように部屋中へ散らばる。


散らかり放題の部屋を前に、リリィの怒りは頂点に達しようとしていた。しかし、床に散った一枚の絵が、彼女の動きを止めた。そこには、抽象的なタッチで描かれた「幸せな四人家族」の姿があった。


「懐かしいな……」


リリィはそっとその絵を拾い上げた。数年前、まだ「宿屋メイディ」が光に満ちていた頃の記憶が、鮮明に蘇る。


「父さん、母さん。そっちで元気にやってる? うちは……ウォク兄も、それなりに頑張ってるよ」


絵を見つめるリリィの瞳には、家族への思慕と、今までの苦労を噛み締めるような、複雑で悲哀に満ちた色が宿っていた。


かつて、メイディ兄妹の父はウィッシュバトルで敗北した。相手はプリテンタ商会のオーナー、ライア・プリテンタ。彼らの父の商売相手であり、親友だと信じていた男だ。彼ら父はその敗北によって全てを失い、死へと追いやられた。彼らの母もまた、父の死に耐えられず、後を追うように逝ってしまった。


「なぜ、こうなってしまったのか?」


意識に潜り込んで、リリィはある記憶フラッシュバックした。それは彼らの父が戦敗して、母も亡くなった後の話。


経営権を奪われ、商売不能に陥った宿屋メイディは、もはや風前の灯だった。ただ一つ、建物としての「家」だけが奇跡的に残された。


泣きじゃくるリリィを前に、冴えない不器用な兄——ウォクは、その時初めて「犠牲にする覚悟」を決めた。


「リリィ。無理をする必要はない。宿屋のことは僕に任せろ。僕は長男だ、これは僕の責任だ。リリィは、自分の『願い』を追い続けろ」


それは、兄としての強がりであり、同時に絶望の中でリリィを支える唯一の頼りだった。


「でも、それじゃ……ウォク兄が自分の『願い』を……叶えられなくなるじゃん! 私はそんなの、嫌だよ!」


リリィは察していた。自分が「画家になる」という願いを叶えるための代償として、兄が自分の願いを「代価」として差し出そうとしていることを。


「僕は長男だ。この宿(いえ)も、リリィも、親から託されたんだ。ここには父さんや母さん、そして僕たちの思い出が詰まっている。この『魂』を込めて作り上げた宿(いえ)を、捨てるわけにはいかない」


「だったら、うちも一緒に背負うよ!」


「だめだ! リリィにはまだ選択肢がある。ここで止まらせるわけにはいかないんだ」


リリィは兄と一緒に背負うようとしてるが、兄に酷く反対された。ウォクもまだ妹を思ってるから言った。


「嫌だ、嫌だ! ウォク兄を犠牲にして、うちだけが『願い』を叶えるなんて……そんなの、絶対に嫌だ!」


兄の献身を拒絶し、リリィは自室に引きこもった。ウォクは何度も扉越しに語りかけたが、返事はなかった。


それ以来、ウォクは文字通り「工作ウォク」のように働き始めた。妹を養い、宿(いえ)を守るための資金を稼ぐため。


人気のなくなった宿屋メイディを蔑み、彼を侮辱する連中もいた。だが、ウォクは一切の怒りを見せず、ただ黙々と働き続けた。家族こそが、今の彼にとって『唯一の願い』だったから。


朝から晩まで、繰り返される単調で過酷な生活。ある夜、疲れ果てたウォクはテーブルに突っ伏して眠りに落ちた。


その時、ずっと閉ざされていたリリィの部屋のドアが静かに開いた。リリィは階段を降り、熟睡する兄の疲れ切った横顔をじっと見守った。


「ウォク兄の馬鹿……なんでも一人で背負わないでよ……」


「私の願いが叶ったとしても、ウォク兄が自分の願いを叶えないなんて、嬉しくなれないんだよ……」


リリィは手に持っていた手紙を握りしめ、呟いた。


「いちかばちか……やってみるよ」


翌朝、意識が朦朧とする中でウォクが目を覚ますと、そこにはリリィが立っていた。


「待て、ウォク兄」


「リリィ……ようやく話してくれたね。でも、もう仕事に行かないと」


リリィがようやく話し掛けてくれたことに喜んでいるウォク、だが彼の喜びもすぐ現実に飲み込まれた。


「ウォク兄、もう仕事に行く必要はないよ」


「何を言ってるんだ。僕は一体何のために……」


「大丈夫だって言ってるの。この宿(いえ)を守るための資金は、もう十分にあるから」


リリィの突然の言葉に詰まらせたウォク。その時リリィは一通の手紙を差し出した。


「これを見て。ある貴族様が、私の絵を買ってくれるって言ってきたんだ」


「まさか……リリィ、お前の『願い(絵)』をすべて売ったのか!?」


「……全部じゃないよ。たった一枚だけ、手元に残した」


リリィが大切そうに抱えていたのは、あの『一家四人の絵』だった。


「なんで……僕は……」


あまりにもショックな知らせのせいで、ウォクは膝の力が抜け、その場に崩れ落ちた。涙を溢れさせながら、手は手紙を強く握りしめる、まるでこれまでの努力を全て白紙に戻したような絶望感が滲み出す。


「ウォク兄、これで引き分けだね。ウォク兄の願いだけ犠牲にするなら、うちは願いが叶えられなくなっても別に構わない。願いなんて、前へ進む限りまだ叶えられる」


リリィは苦しんでいるウォクを強く抱きしめ、共にその痛みを背負った。


二人の涙は絵にしたたり落ちて、広げる水は既に置かれた色彩を一度洗い流し、再び新たな魂を注ぎ込むように。


フラッシュバックから今に戻ったリリィは今の環境を見て、ヴォイドや縁之介、そして入ったばかりマリーを思い付いた。


「あれから、うちらはその資金でなんとか、しのけた。そして、少しいい方に道が転び始めた。」


「そういえば、まだ紹介してなかったよね。うちらの新たな家族……」


「マリーねちゃん、見た目は冷徹美女に見えるが、その中身は『天真爛漫』な女の子だった。」


「縁之介兄ちゃん、最初はその『中二臭い』熱さを苦手だったけど、それも彼なりの気遣いだと今を思う」


「そして……ヴォイド兄ちゃん、うちらが大切にしてきたこの家の『魂』を取り戻してくれた人。これでうちらもようやく自分の願いを再定義(リディファイン)を出来るようになった。」


「うちは……再び画家を目指すか……」


そう言い切ったリリィ、自分の頬を軽く叩いて。しばしのリラックスで、塞ぎ込んだ頭もスカッとした。その後、彼女は再び絵描きに没頭し始めた。


ウィッシュファミリーの末っ子であるリリィにも知らなかった一面が存在した。


そして語られた彼女の願い、再び画家を目指すことを決めた彼女にこれからはどんな絵が描くのだろう。


いつか、彼女もまた自らの願いに直面するだろう。彼女だけではなく、長男であるウォクも同じだ。


次回、ファイル10:異能者裁判、知恵を求める探求者(シ一カ一)


追記、次回の一話は情報量は簡単で読められる制限文字数を超えたから、前半(1)と後半(2)に分けられだ。


謎の人物ザ・シーカーから送られた謎、その謎はザ・シーカーの居場所を突き止める手掛かり。


妻に自らの手をかけた罪を着せられた異能者の男性。謎に包まれた犯行現場、曇った真実。男は果たして罪を犯したのか、それとも冤罪か。


風林火山のように、激しい弁論戦闘を繰り返す裁判所の中、一点の真実を見極めろ。


次回更新時間、前半(1)は8月11日、後半(2)は8月12日。

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