ママ
高月渚は視線を再び左にした。
ガラス障子とガラスの向こうには大木が見えたが、誰もいない。
「どこにいるの?」
「そこにおるではないか」
そうやって芙蓉が指を指したのは高月渚が横になっているベッドだった。
するとベッドから突然赤い髪が生えてきて、丸い頬をした可愛らしい子供になった。
「ママ」
ベッドから生えてきた子供は歌うような楽しそうな高い声でそう言うと、するりとベッドから抜け出し仰向けに寝転がっている高月渚に腹ばいになった。
「ママ」
「えっ?」
「ママー」
赤い髪の子供はめくりあがった高月渚のシャツに頭を潜り込ませた。
「ママー」
子供とはいえ、そこそこの大きさである。鼠の大きさとはわけが違う。
彼女はシャツが破れることを、まず危惧した。
「ちょっと、ダメだよ、破れちゃう」
そう言って子供の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「ママー」
子供は高月渚の胸の谷間にゴールし、顔を埋めると、おとなしくなった。
「おい、お前、離れろ。高月渚が困っているだろう」
高遠忍は子供の黒いサスペンダーの交差するところを掴み、引きずり出し、透明な袋に入った金魚すくいの金魚のように右手でぶら下げた。
「ママー」
「誰がママだ」
「ママー」
そう言うと子供は足をバタバタさせ、高月渚に両手を伸ばした。
高月渚は起き上がり、ベッドに腰かけた。
子供は玩具の飛行機のようにぶら下がっていたが、一瞬にして高遠忍の手から逃れ、思い切り彼女に抱き着いたので、彼女は支えきれずひっくり返った。
子供は彼女の肩に顔を置き、両手でしっかりと彼女を羽交い絞めにしている。




