芙蓉ちゃん
「鼠がおるな」
「見えるんだ?」
「蛇もおるの」
「見えるんだね」
「あれが見えるのに、我が見えないはずなかろ」
「そっかー」
白鼠は下着の底に潜り込み、体をできるだけ丸めた。
「怖がっとるの」
「そうなの?」
「そうよな、鼠?」
「チュウちゃんていうの、蛇さんはね、シロちゃん」
「そうかえ」
「で、私は、高月渚っていうの、高遠君とはね、同じクラスなの」
「知っておる」
「そっかー」
「腹に落書きされておるの」
高月渚の骨盤の辺りに下がった芙蓉が彼女の白い腹部を指でなぞりながら言った。
「うん、そうなの、見える?」
「見える、ようもまあ、こんな細かい字で、びっしりと、阿呆よな」
「ねえ、ふようちゃんってどういう字?」
「花よの」
「お花の芙蓉ちゃんね、芙蓉ちゃんって呼んでいい?」
「勝手にせえ」
手首の拘束はほどけたが、馬乗りはそのままだったので彼女はベッドに寝ころんだまま、シャツのボタンを留めた。
すると高遠忍の「入るぞ」という声がして、芙蓉が彼女から降りたので、高月渚は起き上がり、高遠忍からグラスを受け取り麦茶を一気に飲んだ。
「ありがとう、すっごく喉渇いてたの」
「そうか、悪かったな」
「ううん、全然」
芙蓉は高遠忍の背中に乗り、小さな顔を半分だけ高月渚に見せ「忍、お前が読め。我はあんな細かい字よう読まん」と言った。
「お婆ちゃんか」
「はようせい」
「高月渚、いいか?」
「うん。じゃあ、お願いします」
彼女はシャツをたくし上げた。高遠忍はしゃがみこんだが、見にくかったので「高月渚、すまないが横になってももらえないか?」と言った。
彼女は「うん」と言って横になり、シャツをまくり上げ、胸のところで左手に右手を重ね合わせ、高遠忍の顔を見るのが、何だか恥ずかしかったので、顔を左に向けた。




