断片
「本当?」
「ああ」
まるで根拠はないがそう言いきった。
まあ、相手が妖怪なら何とかなるだろうと高遠忍は思っていた。
「ねえ、これって、何かの呪い?」
「呪い?」
「うん、山の神様とか、怒らせちゃったのかなあ?」
「心当たりがあるのか?」
「ううん、ないけど。この間佐和山に登った時、何て言うか、何か、いたよね?」
「ああ、でも、あれは神様なんかじゃないから大丈夫だ」
「そう?」
「ああ」
高月渚はお腹を高遠忍に丸出しにしたまま、泣いている。
高月渚をこのままにするわけにいかないので彼は言った。
「続きは俺の家で聞く。歩いてすぐだから、行こう」
彼女は「うん」と言うと、たくし上げていたシャツをしまい、おとなしく高遠忍の後ろをついてきた。
公園を出ると自販機があったので、彼女は立ち止まった。
泣いてしまったので喉が渇いていて、炭酸ジュースが飲みたかったが、高遠忍が「飲み物くらい出すぞ」と言ったので買わなかった。
「急にお邪魔しちゃって、お家の人困らない?」泣いてすっきりしたのか、彼女は恥ずかしそうにおずおずと高遠忍の背中に話しかけた。
「大丈夫だ。同居人はいるが、家族はいない」
家族はいない。あっさりと告げられた彼の個人的な情報に高月渚は、少し驚いた。
知りたかった彼の私的な部分。
それはほんの一部に過ぎないのだろうが、高遠忍のことを何も知らない彼女にとっては、初めて知る彼の断片だった。
彼女が何も言えないでいると、彼は察したのか「別に亡くなったわけじゃない、一緒に暮らしてないだけだから、気にしないでくれ」と言った。




