銅像の裏
公園に入るとすぐ、大河ドラマの石碑がある。
その石碑を右手にまっすぐ行くと井伊大老の銅像がある。
井伊大老の銅像が視界に入ると、高月渚は立ち止まり、一歩一歩探る様に歩き、銅像の裏に回った。
約束通り、高遠忍はいた。
秋になれば赤くなりさぞや美しいであろう緑の葉生い茂る枝を背負い、陽炎のように淡い美貌の少年が光の届かない影の中で佇んでいた。
彼は彼女の姿を認めると、口を開き、明朗な声で言った。
「高月渚」
二週間ぶりに聞く高遠忍の声だった。
たった二週間だ。
二週間前までは話したことすらなかった。
それなのに彼女は百年も二百年もこの声を聞いていなかった気がした。
ずっと待っていた。
話したかった。
でもそうじゃなかった。
聞きたかったのは、その声なのだ。
何を話すかなんて本当はどうだって良かった。
その声をただ聞きたかった。
「高遠君」
高月渚はそう一言彼の名を呼んだきり、涙を流し、俯いてしまった。
高遠忍は困惑し、ほとんど無意識に彼女へ一歩踏み出していた。
影の中に二人きりだった。
彼女を誘うように名も知らぬ木々が枝を伸ばしている。
まるで彼女の涙を拭いたいかのように。
「高月渚」
彼の声に彼女は顔を上げ「高遠君」と言うと、スカートからシャツを出し、思い切りよくシャツをたくし上げた。
彼は「うわっ」という声を上げると、顔を赤らめ、「何をやってるんだ、あんたっ」と、明らかに狼狽し、上ずった声で言った。




