嬉しくて
高月渚は高遠忍の反応を待った。
だが彼は何も言わなかった。彼女はこの沈黙に耐え切れず言った。
「高遠君、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・見え、る?」
「見えるよ」
彼は至極何でもないことのように言った。だ
がこの反応こそが彼女が幼い頃より待ち続けたものだった。
彼女は堰を切ったように涙を流した。
これには高遠忍が驚き慌て、立ち上がり「大丈夫か?どこか痛むのか?悪い、俺が何か言ったか?」とおたおたと矢継ぎ早に喋った。
彼女は止めどなく流れる涙を恥ずかしそうに右の指ででぎこちなく拭い「違うよ」と言った。
そして「嬉しくて」と付け足した。
左手は今だにスカートをたくし上げている。
高遠忍はこれだけの会話でも同い年の少女としたことはなかった。
同年代の少女と言うものはいつも自分を遠巻きに眺めるだけで話しかけてくるような子はいなかった。よって彼はこんな風に泣かれたこともなかった。
ましてや、嬉しくて泣いてるなどと宣うのは。
「高遠君、見えるんだよね?」
「ああ」
「何が見える?」
「白い蛇だろう?」
彼女の涙腺は火に油を注ぐように加速した。
高遠忍は益々困惑した。彼は涙を拭えるようなものを探したが、生憎白い紙しか持ってなかった。
これはティッシュに比べると固めなので不向きだった。
そんな彼には気づかず彼女は、制服のポケットからハンカチを出して、口元を押さえた。
そうしていないと何かがあふれ出して止まらなくなりそうだったから。




