顔が見えない
それは不思議だった。
赤い瞳がこちらを見ていることはわかったが、彼女にはその瞳の持ち主の顔が一向に見えなかった。
だが気配を感じた。
そこに誰かいる、そして自分を見ている。
見えない顔が笑った。
彼女にはそれがわかった。大きな口を開けて子供のように無邪気に笑っている。
でも顔は見えない。だが幼子特有の頬の丸みを感じる。
何か自分に話しかけているのがわかったが残念ことに何を言っているのか高月渚にはわからなかった。
だが彼女は無意識に頷いた。
紅い球形の瞳が三日月のように細められると、彼女はそれを最後に意識を手放した。
高月渚が目を覚ますと、そこは佐和山の頂上で彼女は青いベンチに横になっていた。
彼女の下には白いフードのついた羽織が敷かれていた。
彼女は羽織を手にし後ろを振り返った。
美しい金色の髪が佐和山城址の石碑の前で揺れていた。
高遠忍は、近いはずなのに遥か彼方に見える白い塔のような建物に向かい右手には金色の先端に丸い輪のついた杖を持ち、新体操の選手のように白い長い紙をはためかせながら白くて細長い炎のように立ち上ってくる光と戯れていた。
綺麗。
他に言葉が見つからなかった。
目の前に広がる光景は彼女が今まで見たどんな美しい物語のエンディングをも凌駕していた。
高遠君。
綺麗。
高遠君はきっと女の子になっても美少女なんだろうな。巫女さんって言ったら、やっぱり女の子だし。
高遠君が女の子なら、ミステリアスで無口な転校生ヒロインかな。
髪型はショートで。最初は敵か味方かわからないけどいつだって主人公を助けてくれて、最後に散りばめられた伏線が見事に回収されて。
彼女がさっきまでの尋常ならざる世界から佐和山の穏やかな日常を感じ、そんな馬鹿なことを考えていると、高遠忍は気配を感じたのか、視線をこちらにやり、二人は見つめ合った。




