高月渚
少女は黒くて長い髪を耳の下で二つ結びにしている。
瞳は黒。肌は白い。
高遠忍は百八十センチ以上もある自分を抱え顔をのぞき込む少女を見つめ、彼女が同じクラスの高月渚と微かに一致した。
「高月渚」
彼は彼女の名前を呟いた。
自分では呟いたと思ってなかったが、彼女には届いたらしい。どうやら彼の記憶の高月渚で間違いないらしい。
彼女は嬉しいのか悲しいのか判断できない、高遠忍の見たことのない顔で高遠忍の名を呼んだ。
「高遠君」
彼は初めて彼女が自分の名を呼び自分の身をを案じてくれているのだとようやく気付いた。
それでも彼は彼女に何て声をかけたらいいのか、まだわからなかった。
「高遠君、大丈夫」
高遠忍は彼女が問いかけているのか断定しているのか声音から判断つきかね、どう答えていいのかわからなかったが、次に彼女が発した一言で彼は立ち上がらざるを得なくなった。
「大丈夫、ごめんね、救急車、呼ばなきゃね、ごめんね、気づかなくて」
彼女は今だ止まらない涙を零しながら、必死になって声に出していた。
声に出さなければ高遠忍が消えてしまうような気がしていたのだ。
彼女は辺りを見回し自分の鞄を探した。
彼女の鞄は二人のすぐ近くにあった。
彼女が自分の鞄に手を伸ばそうとしたとき、高遠忍は起き上がり、高月渚と振り絞るように彼女の名前を呼んだ。
体は流石に痛く、まだこのまま休んでいたいと悲鳴を上げているようだったが、ここに自分以外の人間が存在していている以上、もはやそうも言っていられなくなった。
一刻も早く彼女を逃がさなければ。




