名前を呼んだ
歩いても歩いてもお墓だった。
足元にはキノコが生えてたりしたのだが、高月渚は気づかなかった。
彼女は墓石も見えなくなり、木でできた階段があり、光が遠ざかっていく鬱蒼とした山の中にへの細い道まで来たとき、こらえきれなくなり、求め続け、切望した、尋ね人の名を呼んだ。
呼んでしまった。
「高遠くーん」自分でも独り言のようだと思った。
今度はもう一度大きな声で呼んでみた。
「高遠くーん、いないのー」彼女は足を止めず、登り続けた。
白兎は彼女の腕の中で右胸を鷲掴みにしたまま図々しそうに眠っている。
高遠忍がいる以上、行かないわけにいかないと思った。
彼はこの山の中にいる。それは確かだった。
もう最初に何て声をかけようだとか、そんな想像をしていたのが嘘みたいにどうでも良くなった。
彼女はただ、高遠忍に逢いたいと思った。
話せなくたっていい。声が聞けなくても、その姿を一目見たいと思った。
登れば登るほど高遠忍に近づいていくのを、高月渚は感じていた。
彼女は夢中になって登った。
道はどんどん狭くなり、掴まるところもないので危なかったが、何だかもう怖くなかった。
山の中へ入れば入るほど彼女は、今この山には自分と高遠忍以外の人間はいないとわかった。
墓地ではあれほど怯えていた不審者など、もう想像すらしなかった。
此処には高遠忍と自分以外いない。
そう思うと何も怖くもないし、寧ろ嬉しくてワクワクして、心が躍った。
野猿注意の看板があったが、どうやらいないらしく、今だ遭遇していない。
これなら頂上までいける。そう意識すると彼女の心に呼応したのか、それとも歩き続けた結果か、光が差し込み見えてきた。
もう頂上か。
随分登ってきた気がする。もう少し。あと少し。
あの頂上に高遠君はいるのだろうか。ううん。もういてもいなくても。
自分は彼と、何か共有できたのではないかと思えた。
昨日までと全然違う。自分は彼を、高遠忍を知っている気がした。
そんな彼女を知ってか知らずか、天からの贈り物のように高遠忍が空から降ってきた。




