怖いよ
高月渚は「ごめん、ごめん」と白兎に謝り、そろりと歩き出した。
彼女の左には佐和山観音が立っておられ、彼女は頭を下げ手を合わせたが、何を祈っていいのかわからなかったので、「みんなが健康でありますように」と全くこの場にそぐわない頓珍漢なことを願っていた。
佐和山観音のすぐ横には石田三成公が正座している、中々端正な容貌に作られた銅像があるのだが、これに彼女は驚き、声こそ出さなかったがビクッと肩を震わせた。
観音様と違い、結構な高さと距離があったにもかかわらず、彼女には自分以外の人間がいるかのように感じられたのだった。
竹藪が見事なせいか、光が微かにしか感じられず、時が止まっているかのように静かで涼しかった。
石段を上り、山門の端の扉を潜ると、左には龍潭寺だったが、白兎は「あっち」とばかりに指を指し、彼女を龍潭寺には入らせなかった。彼女は白兎に促されるままに、まっすぐに石畳を歩いた。
右手には小さな七福神がいて彼女は祈りたい気持ちだったが、そんなことをしている場合じゃない気がした。
一刻も早く高遠忍を見つけたかった。顔を見て安心したかった。
七福神の前を「どーか、お願いします」と唱えながら後にし、向かった先は墓地だった。
見渡す限り墓しかなかった。
彼女は怖がりである。足がすくむような思いがしたが、両腕の白兎をしっかりと抱きしめ、力強く一歩を踏み出した。
歩き出したら歩ける。
止まらないことだ。そう高月渚は自分に言い聞かせた。
だが頭の中は恐ろしい想像でいっぱいだった。
不審者とか出たらどうしよう?死体を埋めてるところに遭遇して、一緒に埋められてしまったら。




