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手と足  作者: 仁崎 真昼
17/25

第十七話

短いので、同日に二話上げてます

 村にたどり着く頃には、雨は止んでいた。

 僕たちが森から僕の家に近づくと、雨戸は開いてして、中からベルンが外を眺めていた。ベルンは僕たちに気づくと、慌てて雨戸から離れる。そして、玄関から移動椅子の車輪を回して出てきた。

 ぬかるんだ地面では車輪はたまに空転する。それでも、少しずつ、その両手を動かして近づいてくる。

 僕はムツに下ろしてもらった。なんとか立てるくらいには気力が回復している。

歩いてベルンに近く。

「ただいま」

 ベルンは僕に抱きついた。そして、その両腕で僕の首をへし折らんばかりに抱き締める。

「遅い」

「ごめんごめん」

 僕もベルンを抱き締めて謝る。

「腕、大丈夫? 変な感じしない?」

「平気。元の腕が戻ってきたみたい」

「緑色の腕じゃなくてよかったね」

「爪は緑色だった」

「え、見せて」

 ベルンを一度椅子におろし、しゃがみこんで右手の指先を観察する。たしかに、鮮やかな緑色になっている。毛や爪といった部分だけ緑色になっているのは何故だろうか。

 なんだか、あれだ、爪紅だっけ。あれしてるみたい。

「……気持ち悪い?」

「全然。だってベルンの手だもん」

 僕は右手の中指に接吻した。

 うん。これでよし。

 顔をあげると、真っ赤な顔をしたベルンが左手を振り上げていた。まるで怒っているみたいだ。珍しい。

 次の瞬間、手首の振りのきいた平手が、僕の右頬を打っていた。

「ほんっ……とにっ……」

「いや、一応きちんとやっとかないと駄目かなって思って。女の子はこういうの気にするってデデーさんに聞いてたしシャトさんだって前話していたときにベルンが――」

 だからね、そんな怒らないで。

 どうやってご機嫌をとろうか、と考えていたら、僕の顔をベルンが両手で掴んだ。そして、僕の額に唇を落とした。

「え? 今のは?」

 単純に口付けをされたから驚いたわけじゃない。だって、今のは、求婚に対する返事の作法そのままだったから。

 しかし、ベルンはプイと顔を背けて家に向かって移動椅子を動かし始めた。くるりと反転して家の方に向かってしまう。僕がいくら話しかけても返事をしてくれない。

 背後ではムツがクックッと喉をならしている。本当に感情表現が豊かな狐だ。

 ぐーとまたお腹がなった。

 まあ、いっか。

「そういえば、朝御飯、食べたい」

「ちゃんと作ってあるさ、旦那様。ただし、味は保証しない」

「しないの?」

「塩と砂糖だけでは限界がある。まあ、極端に不味くはないだろうから。食べてみて、くれ」

「やった。ベルンの手料理だ。ほら、ムツもおいでよ」

「我は砂糖は苦手なのだがな」

「大丈夫です、砂糖はほとんど使ってありません」

 僕はベルンの移動椅子を押して、家の中に入る。

 そして、入ってすぐに台所の惨状を見て、ベルンに家事を教えようと誓った。



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