魔女の店
「いらっしゃい パラケルルス錬金術師」
「その名で呼ばれていいのは師匠だけだ。せめて『二世』をつけてくれ」
出迎えたのは、大きな三角帽子にレースのついたケープ、そしてふんわりと膨らんだスカートに身を包んだ『ミミミミ人』の少女であるいかにも「ステレオタイプの魔女」といった装いの彼女の名はミント・マルハ。
ミミミミ人は、エルフを思わせる長く尖った耳を持つ。獣人とはまた異なり、彼らの耳は「万物の声」を聴き取ることができると言われている。魔術師として、素材に眠る術式の最適解を見極める彼女にとって、それは天賦の才だった。
その尖った耳に、涼しげな青い髪がさらりとかかっている。長く伸ばされた艶やかな髪筋は、それ自体が一種の高貴な衣であるかのように彼女の背を彩っていた。
「何が用かえ。仕事でも私用でも、儂は歓迎じゃがな」
恋人ではないが、聞きやすい友達の関係であるアランとミント。
ホテプも彼女に懐いており彼女の足元に歩いていきミントはホテプを抱きかかえた。
「用は、用でもちょっと言っておかないことがあるんだけどな」
「あら、もしかして告白かえ?ダメじゃよ、エレアに怒られるじゃからの」
からかう表情でミントはアランに向かってそんなことを言うが二人の関係は錬金術師と魔術師である。
この世界において、錬金術師と魔術師は明確に役割が異なる。
錬金術師は「物質の錬成」に特化した術師だ。
師匠エミリアが発明した水精霊鋼や土精霊砂のように、望む特性を持った新素材を作り出すことを得意とする。
対して魔導師は、それら錬成素材を加工・成形し、付与や加護といった「術式」を施す。
つまり、世に出回る「魔導具」とは、錬金術師が材料を用意し、魔導師が製品として完成させた共同製作物である。
店先に並ぶ商品の中には、火の魔石による熱変換と風の魔石の動力を組み合わせた、前世で言うところの「ドライヤー」があった。
その隣には、風の魔石でプロペラを回転させて涼を得る、これまた前世で見慣れた「扇風機」のような魔導具も鎮座している。
優れた機能は、自ずと最適な形となって現れるものだ。
たとえ動力が電気から魔力へと置き換わろうと、物理法則が支配するこの世界において、効率を突き詰めれば結局は同じ姿に行き着くということか。
アランは、その奇妙な一致にどこか感心しながら、それらの魔導具を眺めていた。
「レディオ商会を辞めてきた」
この言葉に事情をよく知るミントは目を大きく見開いた。
アランとミント、そしてエレナの三人は幼馴染。
錬金術師であるアランの養母エミリアとミントの母は一緒に仕事をしており、自然と三人は一緒にいる時間が長かった。
三人で思い付き開発し、工房内で爆発騒ぎを起こし、窓から捨てられるという罰を受けたことが何度も受けた。
「婚約者の身内の商会なんじゃろ? もったいないの~?」
「その婚約も破棄されたよ」
「……まったく。もったいないことするの~、あの子も」
ミントは笑顔を崩さなかったが、その瞳にはどこか得も言われぬ圧があった。
アランとの付き合いは長いが、彼女がこれほど鋭い気配を漏らすのは見たことがない。
「ということは、半年間はどこかの専属として働くことはできないってわけじゃな」
「デメリットも多いけど、自由にやれるっていうメリットもあるからな」
通常、錬金術師が扱う素材はどれも高価で希少だ。
そのため商会に素材を工面してもらうのが一般的であり、個人で活動するアランにとって今後の素材調達が最大の難関になるのは目に見えていた。
「分かった。儂からの注文を受けてくれるなら、素材はこっちで融通してやるかの」
「ありがとう、ミント。助かる」
「いいんじゃよ、別に。そなたには『ハニカムシェル』や『スライムキャップ』で随分と儲けさせてもらったじゃからの~」
ハニカムシェルは、アランが前世の知識をもとに開発した「段ボール」だ。
ハニカム構造と厳選した紙素材を組み合わせることで、驚くほど軽く、そして丈夫な板材を作り出した。
それまで木箱による運送が主流だったこの国では、割れ物の破損が絶えなかったが、アランの作ったハニカムシェルはその問題を劇的に解決した。
一方のスライムキャップは、スライムを擬似ビニール状に錬成した素材で作った「気泡緩衝材」である。
ミントはこのハニカムシェルをさらに強化し、運送業者や農家へ大量に売りさばくことで、アランと共に莫大な利益を上げてきたのだ。
「本当にもったいないことするわい。儂がもらっていいかえ?」




