賭け
クリスティーヌさまの婚約披露パーティーは夜会だった。私たちは夜会用の装いをして、贈り物を用意して夜会へ乗り込む。
参加者の中で私と双子たちが一番身分が高いため、到着後すぐに婚約者になった二人に挨拶をする。二人で顔を合わせてほほ笑んでいるのを見ると、政略感は感じない。クリスティーヌさまも婚約者もとても幸せそうで、私まで嬉しくなった。
クリスティーヌさまの後ろには、私が潜入した時にお世話になった侍女長が控えていた。私は目で挨拶をすると、侍女長も気が付いたようでかすかに礼を返してきた。……もしかしてクリスティーヌさまが何かを壊した時の対処要員としているのかもしれない。うん、きっとそうだ。
クリスティーヌさまのところに潜入した時に、何もしていないクリスティーヌさまの周りでいろいろなものが壊れたことを思い出した。あれは、何と言っていいのか、うん、不謹慎を承知で言えば面白い体験だった、かも。
主催者への挨拶を終えると、双子の友人でクリスティーヌさまの婚約者の弟のところへ案内してくれた。名前はツリウスという。私も面識がある。
「オルテンシアさま、パーティーに参加していただきありがとうございます」
「幸せそうなお二人が見られて私も嬉しいわ。ねえ、ツリウスさま。あのお二人、もしかして以前からの想い人だったのかしら?」
聞くと、ツリウスさまが苦笑した。
「兄がずっとクリスティーヌさまを想っていたのです。クリスティーヌさまはウィリアム王子の婚約者候補と噂されていましたから、当主の父は他の令嬢と縁組をしようとしていたのですが、兄が頑なに拒んでいました。そこで先日ウィリアム王子の婚約が発表されたので、そこから兄がすぐに行動したと言っていました」
「そうでしたの」
ウィル兄さまが婚約していなかった影響で、ツリウスさまのお兄さまにまで影響があったとは。
アン姉さまが潜入したイリスさまも先日辺境伯令息と婚約されたし、エル姉さまが潜入したカトリーヌさまはエル姉さまの隣国への輿入れについていくことになっている。
ウィル兄さまになぜアン姉さまともっと早く婚約をしなかったのか聞いたことがある。国外との関係とかもあって、早い時期から動くことができなかったと言っていた。王家にも事情があったとはいえ、クリスティーヌさまたちが今まで婚約者をつくれなかったのはちょっと気の毒だ。
と言っても、いま並んで来場者の対応をしているこのパーティーの主役たちを見ると、とても幸せそうなのでまあいいか、という気持ちだ。
ツリウスさまを見ると、ツリウスさまも婚約者夫婦を温かい目で見守っている。と、そこで双子たちが不穏なことを言い出した。
「ツリウス、賭けは」「どうなってるの?」「どんなものが」「予想されてるの?」
また双子で交互にしゃべりだした。ツリウスさまは驚いた様子もなく淡々と質問に答えた。
「僕はクリスティーヌさまの身に着けているもの、兄はクリスティーヌさまが手に触れたもの、だね。クリスティーヌさまの侍女長はこの建物の設備って言ってたよ」
「……はい?」
耳を疑うようなことが聞こえてきた。
「今の話は?」
「クリスティーヌさまが」「今日は何を壊すのか」「周りの人で予想を立ててるんだよ」「予想が当たった人に」「クリスティーヌさまが」「プレゼントを贈るんだって」「楽しそうだよね」
双子が悪びれもせずにニコニコと話す。
「……クリスティーヌさまご本人がプレゼントをするの?」
……正直ちょっと面白そう、と思ってしまったけれど、それでいいの?
すると、ツリウスさまが私に話してきた。
「クリスティーヌさまは兄と婚約した時に、自分は何もしていないのにいろいろ壊してしまう、と告白したそうです。兄はそれを承知していました。兄はクリスティーヌさまのことをよく調べていて、今までいろいろ壊れたかもしれないけれど、クリスティーヌさま本人や侍女たちがけがをしたことはないと聞いている。誰も傷つかないのなら、せっかくだから逆手にとって楽しんだらどうか、と提案したようです」
「それで賭けを?」
「そうなんです。そもそも兄はクリスティーヌさまの体質のことを知っていて楽しい人だと思って婚約したかったそうです」
クリスティーヌさまの婚約者は懐が大きいというかポジティブな人らしい。いいのか、という気持ちもあるけれど、楽しそう、と思ってしまう自分もいて。心の中が複雑だ。
「ダリルは僕と同じで身に着けているもの、チェリルは侍女長と同じで建物の設備に賭けました。オルテンシアさまもいかがですか?」
「……では、手に触れたもので」
ツリウスさまはにっこりと微笑んで、承知しました。さあ、みんなで見守りましょう、と言った。
なにかを壊すことはクリスティーヌ本人の中でも確定しています笑




