キアラと双子への相談
時系列としてはオルテンシアの姉のエレオノーレの方が先に婚約が決まっていますが、筆が乗らないのでオルテンシア編を先に投稿します。
これはどこかの国のいつかの時代の王女、オルテンシアの物語。
オルテンシアの家は王族だ。父が現国王、母は現王妃。一番年上のウィル兄さまは次期国王に内定している。
オルテンシアには姉が二人いる。その二人ともが最近婚約した。
一番上の姉、エレオノーレは求婚してきた隣国の王子を好きになって婚約した。
二番目の姉、アンネリーゼは外堀を埋められて婚約した。
娘の婚約は当主の意向で決まる。娘の意見を聞かずに、自分の家の利益だけで婚約を決める当主もいれば、娘が結婚したい相手を優先してくれる当主もいる。国王であるお父さまは後者だ。娘たちに無理強いをしようとする気配はない。
つまり私はある程度は希望した相手と結婚できるはずだ。私が王族だから男爵家の子息とかだと爵位が釣り合わない。でも上位貴族の養子にしたりすれば大丈夫。元々高位貴族の家ならそのままで大丈夫。あと一番大事なのは相手が了承するかどうか。
でも、私、今のところ好きな令息もいないし、結婚に実感がわかないっていうか……できれば先延ばしにしたいなぁ、なんて。だからと言って、ずっと家にいるというのは無理な話なのだ。いつかは覚悟を決めなくてはいけない。
私、どんな人となら結婚したらいいのかな、と考えていたらいいアイデアを思い付いた。自分でわからないなら、周りに聞いてみたらいいじゃない。客観的な意見って大事だと思う。
まずは姉、アンネリーゼの侍女キアラを捕まえてみた。私の侍女たちは話を聞かれたくなかったので、お茶とお菓子だけ用意してもらって人払いをした。部屋には私とキアラの2人だけになった。
「キアラ、時間作ってくれてありがとう」
「アンネリーゼさまは今、王子妃教育の時間ですので。ちょうど時間が空いていたので大丈夫ですよ」
「そっか。アン姉さま、王子妃教育で疲れてない?」
「そうですね。少しお疲れのこともありますが、頑張っておられますよ」
キアラはお茶を一口飲んでにっこりとした。キアラ、お茶を入れるのが上手で、評価が厳しいからね。お茶お入れてくれた侍女がドキドキしていたけれど、後で合格だったみたいだよ、と教えてあげよう。
キアラとのんびりおしゃべりをするのも悪くないのだけれど、時間も限られているし、さくっと本題に入ることにした。
「ねえ、キアラ。アン姉さまの婚約はキアラが後押ししたって聞いてるけど、理由を聞いてもいい?」
「理由ですか? アンネリーゼさまが幸せになれそうな相手だと思ったからです」
「どうして幸せになれそうだって判断したの?」
「そうですね。アンネリーゼさまのご性格を考えると、アンネリーゼさまを強くリードして引っ張っていってくださる殿方がいいと思っていたのです。ウィリアムさまはその条件に合っていたので、でしょうか。あと、国外より国内のほうがいいとも思っていました」
「国内のほうがいいと思ったのは、キアラが結婚してからも一緒にいられるから?」
「アンネリーゼさまから何か聞かれましたか?」
「アン姉さまからは、国外に嫁いだらキアラが付いてきてくれないって聞いてるわ」
キアラはなるほど、と頷いた。
「実はそれは建前なのですよ。私の婚約者は文官ですし、翻訳関係の部署ですので、国外に出たとしても働き口は問題ないんです。彼と私は国内にとどまらなければいけない理由はありません」
「じゃあ本音は?」
「アンネリーゼさまが言語習得を苦手にしておられるからです」
「あっ、なるほど……」
アン姉さまはそれなりに他国の言葉を学んで理解しているけれど、話すのに苦手意識を持っている。国外に出ると言語で苦労しそうというのはわからなくもない。
「そうよねえ。外国に行ったら言葉のことも考えないといけないものね」
そうつぶやくと、勘のいいキアラは気が付いたらしい。
「もしかしてオルテンシアさま。ご自身の婚約についてお考えですか?」
「そうなの。考えれば考えるほどわからなくなっちゃって。キアラは私が結婚するならどんな人がいいと思う?」
「そうですね。私よりオルテンシアさまの侍女たちのほうが、オルテンシアさまのことをよく存じているでしょう。侍女の方には聞いてみましたか?」
「聞いてみようかとも思ったんだけれど、私の侍女たち、みんな遠慮がちで……私の欠点とか聞いても絶対言ってくれないのよ。キアラだったら言わなければいけないことはズバッと教えてくれそうだと思ったんだけどな……」
上目遣いでおねだりすると、キアラはすぐに頷いた。
「そういうことでしたら、僭越ながら申し上げます」
「うんうん、お願い」
前のめりになって耳を大きくした気分で聴く。
「オルテンシアさまは楽しい方と一緒にいるほうがイキイキされているように思います。一緒に笑えるような方がよろしいのではないかと愚考いたします」
「楽しい人、笑える人、かぁ」
楽しいことは好きだ。変わり映えのない日常より、変化のある暮らしが好きだと思う。
「ありがとうキアラ。参考になったわ」
「相談相手に選んでいただき光栄でした」
もう少しだれかに相談してみようかな、と思っていたら、双子の弟たちが私の部屋を訪ねてきた。
丁度いいと思って、双子を部屋に招いてお茶にした。名前はダリルとチェリルという。
「シア姉さま」「久しぶりだね」「一緒にお茶ができて」「嬉しいよ」
「……ちょっと待って」
なんで交互に話すの!しかも息ぴったり!
「何か変かな?」「僕たち、声は同じでしょ?」「声が同じってことは」「こうやって交互に喋っても」「違和感なく」「聞こえるよね?」
「……違和感ありまくりよ!」
「なんで?」「僕たち」「さっき侍従が」「後ろを向いているときに」「こうやって交互に話したんだけど」「みんな気が付かなかったよ?」
「侍従のことはおいといて。私はあなたたちの声、聞き分けられるもの。違和感しかないわよ」
「本当?」「聞き分けられるの?」「僕たち後ろ向くから」「どっちが喋ったか」「当ててみてくれる?」
「わざわざ後ろ向かなくてもいいわよ。私が目を瞑るから喋ってごらんなさい」
私は目を閉じて、その上で両手で覆った。
何やら向かいのソファでゴソゴソ音がした後、
「シア姉さま、僕はどっち?」
「ダリル」
「ほんとにダリルだと思う?」
「今のもダリル」
「あたり。ダリルが話したよ」
「今のはチェリル」
「なんでわかるの?」
「チェリル」
「すごいね、シア姉さま」
「ダリル」
「僕たち、同じ声じゃない?」
「チェリル」
「シア姉さまが聞き分けられるのは」「よくわかったからもういいよ」
「最初がチェリルで、後半からダリル」
「「降参だよ」」
「よく2人同時に喋れるわね」
目を開けると、目をまんまるにした双子が向かいのソファに座っていた。ご丁寧に目を瞑る前と座っている位置が違う。あのゴソゴソ音は移動した音だったのね。
「なんで交互に喋ってたの?いつもは一人ずつ喋ってるのに」
「双子が出てきて交互に喋る、面白い小説を読んだんだ。だから僕たちもやってみようって思って侍従たちで試したんだけど、みんな気が付かなくてつまんなかったの」
と、ダリル。
「シア姉さまならわかるかもしれないと思って来てみたんだけど、ほんとにわかるとは思わなかったよ。少しくらい間違えると思ったんだけどな」
と、チェリル。
「さすがに弟の声はわかるわよ。でも面白かったわよ」
正直ちょっと楽しかった。こんな感じの生活のスパイスは歓迎だ。
そうか。キアラが言っていた楽しい人って、こういうことを一緒に楽しめる人だ。いいことに気がつけた。
「面白かったならよかった。シア姉さま、最近ちょっと元気ないでしょう?少し元気出た?」
ダリルがニッコリした。
「元気なかった?そんな風に見えてた?」
「考え込んでる感じがあったよね。何か悩みでもあるのかなってダリルと話してたんだ」
チェリルがダリルと、目を合わせて二人で鏡のように頷いた。
話を振ってくれたので、最近自分が嫁ぐことについて考えているということ、キアラから楽しい人を選ぶといいのではないかとアドバイスをもらったと話した。
「キアラはよく人を見てるよね」
「シア姉さま、今度僕たちの友人の家で婚約披露パーティーがあるんだけど、行かない?」
「どこの家?」
双子が告げた家名は侯爵家だった。双子の友人の兄が婚約したのだという。お相手は公爵令嬢のクリスティーヌさま。クリスティーヌさまと言えば、嘗てウィル兄さまの婚約者候補で、私が潜入して調査した令嬢だ。
壊し屋のクリスティーヌさま……婚約したのね。クリスティーヌさまのお相手ってどんな人なんだろう。ちょっと気になる。
「行くわ。招待状は持っているの?」
「同伴者は自由なんだ。僕たちと一緒に行こう」
「わかった。よろしくね」




