太陽の外戚
球状の肉塊は萎んでいき、膨張した樹木のような形から、五つに分かれた枝木・・・、遂には人の手の形になって、
サコンの掌となる。それを見て、
「コイツは、あんたの手下ってわけか」と、粘液塗れのルウペ少年。目を向ける先に、
弱々しい風体の革命家。リィとかいった車椅子男は、
「否・・・、同志です・・・」と応え、
「民主革命の・・・」そう付け加える。そんな話は置いておいて「てか・・・」とルウペ、
「あんた死んだんじゃなかったっけ?」気怠気な表情の濡れた頭に癖毛が一本立ち、
「薬漬けにされたとかで」聞いていた反逆者の凄惨な末路について話す。すると、
「その挙句・・・」話題の本人が付け加える・・・。
「ここ、〝暗楽園〟に引き渡され・・・、拷問趣味の輩に惨殺される運命だった・・・」現在地を聞いてルウペと執事長が周りを見渡すと、白い石の床と朱色の柱、両色で彩られた通気性の良い壁に囲まれた、東洋風の建物の中にいる様子・・・。そこに、
「が・・・」と続ける、悲惨な運命から逃れた様子の反逆者は、
「あなたの師に救われた・・・」と、また癖毛が一本立つ、少年を見る・・・。
「暗楽園に一区画を所有している人物に、ある大国の映画スターがいるのですが・・・、スェル老はその国の有力者を通じて彼に働きかけ、私をこの〝収容所最深部〟に匿って貰えるよう取り計らってくれたのです」
「表向きは、無残に死んだことにして・・・」そう、革命家が生かされた経緯を聞いて、こちらも粘液塗れな執事長、
(不穏分子の温存か・・・。後々、復讐に利用するために・・・)そう思ってから、
「でも・・・」
「バレないでしょうか?」顔を上げ、車椅子男を見遣る。
「矯正収容所の所長は、侮れませんよ」纏わりつき糸を引く粘液を嫌がりながら話す彼女に、
「《《お楽しみ》》の邪魔をしないよう・・・」応えるリィ、
「客の屋敷に無断で入れない契約になっています。たとえ所長であっても。それに・・・」
「こんなところに来たくはないでしょう・・・」白と朱色の引き戸へ目を遣り、両開きに開かれたその向こう、屋外へ皆の視線を向けさせる。青い芝生の中に石畳の道が敷かれた、和風だか東洋風の庭園が見えている。真ん中には、ごつごつした奇怪な形の巨木があり、その枝から垂れ下がる紐の先に、人骨が縛られている。他にも幾つか木に吊るされているが、どれも手足を欠損しているようだ・・・。
「今は乾いて、臭いもありませんが・・・、ここの主人がいる時は」
「生々しく、それは酷い有様です。所長《彼女》も頻繁に調べに来たくはないはず・・・」そんな話を聞きながら、顔に汗を浮かべて庭園を見る執事長、
(そうね・・・)
(彼女はドSだけど、グロいのが好きってわけじゃない。それに、あの守銭奴がそんな、店の評判を落とすことはしないか・・・)そう内心納得する・・・。その横から、
「で・・・」三本目の癖毛が立つルウペ少年、
「何でここに連れてきた?」気の抜けた顔で車椅子男を見る。
「《《先日の反乱》》について聞きました・・・。交叉路の罠によって、都市守備隊のほとんどを壊滅させたとか・・・」
「こうしてお呼びしたのは・・・」
「その才を、我々に貸していただきたいからです」そう話す革命家は、鼻から管が伸び車椅子に座り痩せこけているのに、情熱と活力に満ちた顔で勧誘してくる・・・。
「民主革命のため、どうしても国軍を打倒しなければなりませんが、我々には戦闘経験がほとんどなく、指揮できる者、作戦を考える者も皆無です・・・。ですから」
「我らに足らぬ、戦の才を持つあなたに、協力をお願いしたいのです」車椅子の革命家は、両手で自分の膝を掴み頭を下げる。
「民主化、ねぇ」半目で応じる少年だが、その心中では、
(何をするにも大衆に伺いを立てなきゃならない、どこまでも悠長な仕組か・・・)革命家《彼》らが目指すものに不満があるようだ・・・。そして、
(それは置いといて・・・)心中で続けると、
「今の体制の連中は、どうするつもりだ?」虚ろな視線をリィへ向ける・・・。
「もちろん・・・」痩せこけた男は下げていた頭を上げ、
「尽く処刑致します・・・」下から覗き込むようにこちらを見てくる。
「生かしておいても・・・、外敵を呼び込むだけですので・・・」使命感に満ちたキリっとした表情で、どこかの鬼畜老人みたいなことを言うそれを、
球状頭に三本の癖毛の生えた子が胡坐をかく隣で見ていた、執事長、
(そのとおりね。でも・・・)
(それじゃあ、この方は頷かない・・・)という心中で少年を横目に見る。彼が才能を惜しむのを知っているようだが・・・、その勧誘されている当の本人はというと、
「あんたはどうだ?」斜め後ろへ振り向き、
「指導者の言うとおり、皆殺しか?」と、そこにいる、志ある怪物サコンに目を遣る。すると、
「考えものですね・・・」顎下に手を遣るサコン、
「革命勢力がそのつもりなら、彼らは逃げるか、徹底的に抗うしかない。前者なら人材や技術、国の内情が外に流出し、後者なら内乱が長引いて国を疲弊させる・・・。それこそ・・・」
「外敵を利することになりませんか?」顔を上げ、指導者を見る。
「それも、そうだな・・・」若き同志の意見に少し動揺してる様子のリィ、
「受け入れることも、考えておくべきか・・・」そのように、敵に対する処遇が曖昧なものだから・・・、
「方針がはっきりしてないなら・・・」ルウペが口をはさみ・・・、
「こっちの返事も、保留でいいか?」こちらの革命協力の是非まで曖昧になる・・・。
「そ、そうですね・・・」少々戸惑っている様子の革命指導者、
「私の一存で決められるものでもありませんし、仲間内で話し合ってから・・・」と続けながら心中では、
(〝高官共をどうするか〟が、それほど重要か・・・)目の前にいる少年の拘りが理解できない・・・。一方で、
その頭に立つ癖毛の後ろで、サコンは、
(こちらと同じ理由ならば・・・)
(この子も〝先を見ている〟ということか・・・)体液に濡れた床に座る小さな背の、その深慮を察する。そんなところに、
「ちなみに・・・」痩せこけた男が聞いてくる・・・。
「彼らをどう扱えば、協力してもらえますか?」彼が少年の希望するところを聞くと、
「殺さなきゃいい・・・」他所を向くルウペはすぐさま答え、
「後ろの奴が言ったのと同じ理由でな・・・」相手の目を凛々しい眉の男へ向けさせる。
「じゃなきゃ・・・」
「未来のない革命なんかに手は貸さない」不愛想に話すそれを、
(「先がない」とまで言うか・・・・)サコンは不安そうに見るが、
「そうですか・・・」と受けたリィは、
「なら、あなたの助力を得るために考慮しますが・・・」
「あなたの処遇も、その返事次第であることをお忘れなく・・・」呑気で緊張感のない少年に、その置かれた状況について話す・・・。そうして子供を脅しているうちに、いつの間にか同志の男が車椅子の隣まで歩いてきていて・・・、
その手が、座るリィの肩に置かれると、
「があぁぁ」彼が置かれた方の顔半分に血管を浮かび上がらせて苦しみ藻掻く。何時かの暴漢にやった、体内に根を入り込ませる拷問をされて、
「な、何をする!」車椅子の男が乱暴な同志の方を向くと、
「あなたこそ、何のつもりです・・・」太く凛々しい眉の彼は冷めた目で見降ろしてくる・・・。
「民衆を導いていく人間が、ヤクザか独裁者まがいの脅迫などと・・・」厳格な雰囲気でそう非難されると、
「しかし・・・」
「卑劣な独裁国家相手に、そんな綺麗事は・・・」革命指導者は顔に汗を見せながら反論。が、それも、
「だとしても・・・」
「あなたが、やることじゃない・・・」一睨みで一蹴される・・・。
「外道で強引なやり方は、国軍や諜報機関に任せるもの・・・。汚れ仕事は、〝手段選ばぬ敵〟と対する彼らにやってもらい・・・、革命指導者たる者は、どこまでも高潔であるべきだ」リーダーのあるべき姿について語るようで、
「でなければ・・・」と、またその大きくも男らしい瞳をこちらへ向ける・・・。
「たとえ民主化を果たしても、そこに暮らす国民達はこちらの法を守ってくれない・・・。横暴な統治者を真似て、この国は無法地帯になり果てる・・・。それを無理矢理治めるにしても、「反社のような人間のくせに、どの口が言う?」って話で・・・」そんな、先のことを考えている正論っぽい物言いに・・・、只々圧倒されているリィは、
「もういっそ・・・」と、疲れた様子で、
「お前が指導者になればいいんじゃないか・・・」己の立場を、若くも賢き同志へ譲ろうとする・・・。
「ワシが手を汚すから・・・」その手を眼前に持ち上げる彼に、
「駄目です・・・」若き同志はコクリと頷き目を閉じて、
「まずはあなたから・・・。私のほうは後から幾らでも機会がありますので・・・」リーダーの譲渡を断る。その理由から、
(老い先短い方から、やっとけと・・・)と解釈し、何とも言えないでいるその細い背の向こうで、
「それに・・・」同志サコンは続ける・・・。
「昔の栄光に駆られたり、担がれたりして・・・、こちらがやってるときに「やっぱり自分がやる」と、出て来られても困りますので・・・」革命家を信用してないような、中々辛辣なそれに、
「むぅぅ」図星を突かれたのか、ぐうの音も出ないリィ・・・。そんなやり取りを、置いてけぼりにされ横から見ていたルウペ少年は、
(なんか・・・)
(民主革命、二周目みたいな奴だな・・・)怪物で真面目な若き革命家を、そう評する・・・。そんな彼へ、
「とにかく・・・」
「身内の先輩が申し訳ない。ルウペ殿・・・」と謝罪するサコン・・・。
「ご協力いただけなくても、一切危害は加えません・・・」
「断られたら・・・、執事長殿同様に、ここの主人の玩具という体で国外に逃がしますので、ご安心を・・・」先輩の脅しを撤回する。
「ふむ・・・」と応じた癖毛の少年は、
「《《連中の処遇》》を聞いてからな」その柔らかい頬を、手のひらにもたれさせる。それとすれ違うサコンは、
「はい・・・。では・・・」車椅子の先輩へ振り向くと、
「部屋にお連れしてかまいませんね?」と確認・・・。
「あ、ああ・・・」先の叱責が尾を引いているのか、まだ動揺している彼、
「頼む・・・」何ともぎこちなく頷き、受けてサコンは、
「お二人ともこちらへ・・・」客達の後ろで、さっきまで進んでいた方向へ手を差し出し、
「個室を用意しておりますので・・・」その先に見える朱色の両開き扉へ、立ち上がる二人を促す・・・。その後ろで、
「あっそうだ・・・」何かを思い出した様子のリィ・・・。
「行かれる前に、お二人に尋ねたいことが・・・」と続けるそれへ二人が振り返ると、
「スェル老についてです・・・」かの鬼畜について尋ねる・・・。
「抜かりがないあの方がどうして、部下に密告され、あのように容易く失脚されてしまったのでしょうか?」老謀略家を知る者としては腑に落ちないことを、彼の部下や教え子に聞いてみると・・・、
「さぁ・・・」と部下の中性的な女、
「私には見当も・・・」顔に汗を浮かべ心当たりがないようだが、隣の癖毛の五月蠅い教え子は、
「義母上が・・・」
「親子喧嘩し易いようにだろ・・・」と、師の思惑を察している・・・。
「近いうちに、あの人の親父が海賊討伐から帰ってくる・・・。あの人は親離れしたがってるから・・・・、《《それ》》を憂いなくできるように・・・」
「あの鬼畜爺は政府から離れた・・・」そんなルウペの話を、傍らで聞いていた執事長、
(総統夫人の養父・・・、ギ=ラガナ殿・・・)という思いで少年を見る。後ろから彼を見ていたサコンはというと、
(養女の口添えで軍事を司る〝火臣〟の地位につき、数年前に北海で幅を利かせる海賊共を討ちに出ていった男・・・)ラガナという人物について、そのように考える。そして、その前で客達越しに座る、痩せた同志は、
(厄介なスェル老がいなくなり政府を完全掌握した彼女が、帰還してきた養父を迎え撃つ!?)来る〝親子喧嘩〟の形をした政争に動揺の汗を見せた・・・。
波静かな深青の洋上に、何隻もの船が浮かんでいる。
どれも硬質そうな灰色の船体で所々に機銃が備え付けられており、そんな戦艦らしきものが等間隔に並んで海原を埋め尽くす様子は、将に〝大艦隊〟といった感じだが・・・、人の気配が全くない・・・。いや・・・、
一隻の船艇、その甲板に幾つか、人影が見える・・・。一人は釣りをし、別の小さな一人がそれを後ろから眺めている・・・。もう一人は・・・、
晒し台に繋がれている。ボサボサ髪で無精髭の浮浪者のような男が、厚板に空いた穴に首と両手首を通す形で拘束されているようだ・・・。
釣り糸が揺れ、竿が持ち上げられると・・・、掛かったのは・・・、
生きたまま骨から肉が引き剥がされている魚、のような生き物。釣り上げられたそれには、海面から伸びる粘着質な液体が執拗に纏わりつき、その内臓をも引き抜こうとしている・・・。その魔の手から救い上げて・・・、食い荒らされた獲物を目の前に持ってくると、
「何だ、これ?」燃えるような髪型の中年男が、目を見開く。軍服をルーズに着た彼は、グロテスクな獲物を隣に持ってきて、
囚われの浮浪者に擦り付ける。
「見ろよ。北海王・・・。この気色わりぃぃの」軍人のオッサンが笑いながら、ボロいTシャツにジーパンという「王」らしからぬ男の顔面に、ヌチャヌチャと気持ち悪い内臓の飛び出た肉の断面を押し付けている・・・。
「わぁ」おかっぱ頭で体をマントで覆い隠した童が、興味深そうに眺め・・・、その前で中年軍人は、死人のように反応がない捕虜に酷い嫌がらせを続けていたが・・・、
そんな後ろで、水しぶきが上がり・・・。
海中から二人の男が飛び出す。小舟を大盾のように持った小柄な男と四つのプロペラで浮く小型機からワイヤーロープで釣り下がる細身の男。特異な得物を使うドワーフとエルフような二人が、「王」を虐める軍服を睨みつける。
「よう、お前ら・・・」開けた軍服の中年はその殺意に気さくに応じて、
「何、怒ってんだ?」と不思議そうな顔をする傍ら、捕虜を辱め続けている。
(煽ってくれる!)空中で釣り下がる襟付き半そでシャツのエルフはそう思いながらも、眉間に皺を寄せるだけだが、
「裏切ったからだろうが・・・」話す口を覆うほどに髭が豊富なドワーフほうは、その手に持った自分の身体より大きな船体の内側に、もう一方の手を突っ込んで・・・、
「貴様が!」怒鳴りながら長い円柱状の何かを、憎き中年へ投げつける。
放たれた銛を、そのマントで受けた童。勢いよく放たれたはずの鋭利なる凶器は、柔らかくはためく衣のひと掃いで弾き飛ばされる。
(奴の子飼い・・・)とマントの子を見るエルフ、
(あれを掃い退ける!あのマント・・・、内に鎖帷子でも仕込んで・・・)心中驚いてはいるものの、その手元では端末を弄り、
操作する小型機は、北海王に近づき何か工作している。備わった三つ指のアームが持つ鋏が、晒し台、厚板の端に付いた金具を断ち切ると、その衝撃だけで拘束具の上部は外れ、下部からズレ落ちた捕虜の身体は甲板上に転がる・・・。それに気づいた中年が、
「ジョマ!」と呼ぶと、
「あっ」前髪を舞い上がらせた童ジョマは、壊れた晒し台前で浮かぶ曲者機械へ、すでに何かを投げつけている。
その木の葉か鱗のような形の投擲物が当たり、プロペラ浮遊の小型機械はバランスを崩して捕虜の前から離されるが、
(これで後は・・・)
(連れ去るのみ・・・)端末片手にその様子を見る細身の男の思惑通りに事は進んでいる。
「ワーフィ!」と彼が呼ぶとともに小舟がイルカのように水中から飛び出し、その凹んだ船体の内から小柄な髭モジャ男が出てくる・・・。その手にはクロスボウが握られ、向けられた矢の先には筒状の物体が括りつけられている。放たれ、
灰色の船体に当たると、それは爆発し、
甲板の上を大いに揺らす。船上の中年軍人やマントの童がバランスを崩しふらついているところに、またも銛が飛んできて、
炎頭の中年の前に着地したジョマが、マントで掃う形でこれを弾く。が、そうしているうちに、
アーム付き遠隔操作の小型機が、転がる北海王に再度近づき、〝連れ去ろう〟と動いている。その広げた三つ指が今にも届きそう・・・、だが、
海上の方から目が点で大きな丸顔の、簡素なマスコットのような存在が現れ、大口を開けて、
小型機を丸呑みにする。マスコットは半透明で液体っぽく、中の機械が透けて見えているが、
「現れたか・・・」小型機使いのエルフがそう溢すとともに、マスコットの頭頂から少女の上半身が生えてくる。
「ダメダメじゃん。あんた」明るい茶髪の彼女は冷めた目で見下し、
「そんなんで戦闘用の子飼いなの?」要人をまんまと連れ去られそうだった、不甲斐ないマントの子に嫌味を言う。
「海が得意じゃないだけ?それとも、ただの可愛いだけのペット?」水の化け物だか少女だかわからない生き物は辛辣な物言いだが、
(・・・誰だっけ?)幼い顔のジョマはそんな思いで、キョトンとしている・・・。
半透明な首長竜のような存在が甲板の上まで首を伸ばしている様子を遠くから見るドワーフ、
「船長が弄ばれ、怒って出てきたかと思えば・・・」その後ろから女の声、
「意外と冷静じゃない」こちらにも水面から上半身を出した女が現れる。いやらしい目で紫の髪、妖艶な雰囲気の彼女は、
「こちらを油断させるための、あの態度なら・・・」
「流石宿敵ってとこかしら?」襲撃者達の作戦を褒めているようだが・・・、
「まぁ」と、その胸元から下が半透明な身体を上昇させると、
彼女の上半身と繋がった巨大な怪魚が海から飛び出す。液体状の半身を、食い荒らされた大魚の傷口や目に入り込ませ、操っている様子の彼女、
「私らがいる以上、無駄な浅知恵だけど!」怪魚の鋭き牙揃う大口を開けて喰らいつかんと飛び込んでくる・・・。が、
口の中を何かが貫き、向こう側が見える大穴が開く。その致命的な傷を下に見て、女が動揺しているところに、
「散々やりあったのに、まだわからんか?」ワーフィの声。目を向けると、またも銛を投げた様子で、
「彼奴の策が・・・」
「あれで終わりなわけないだろ・・・」まだ企てがあることを匂わせる・・・。それを聞いて、
気になった紫髪の女が、液体仲間が小型機を捕らえた甲板上に目を向け・・・、そこにいる茶髪の少女が一体化している透明なマスコットの腹の内に異変を感じると・・・、
小型機が爆発し、周りを覆っていた液体も弾け飛ぶ。それとともに、煙まで拡がり甲板上を覆い隠す。その中に包まれた状況にあるジョマ、後ろから、
「海王から海側よ!」爆発で飛ばされて足元に転がっている茶髪の少女、
「追加のドローンを飛ばして来てる!」捕虜が転がっていた方を指して、警告する。だが、
「そうかな?」ジョマは話を聞かない様子で・・・、煙の中をふらついている・・・。
そして、立ち止まると、
「この辺?」左方向にそのマントをはためかせる。
煙が晴れ、姿が見えたマントの子供。その隣に、
突然、ダイバースーツを着た女が現れる・・・。女体にぴっちり密着し湿っぽくて光沢のある、そんな姿の彼女・・・。その周りで切り裂かれた透明な布のようなものが舞い、スーツが破れて露出した二の腕に切り傷が浮かぶと、
彼女はその場に倒れてしまう・・・。隣では、
両手を左右に伸ばした童ジョマがまたも鱗形の投擲武器を投げた様子で、それぞれの手が指す先で転がるドローンに鱗か鳥の羽根にも似た刃物が突き刺さっている・・・。その状況に、
(海中からのアプローチが潰された!)驚いて見ているドローン使い。しかし、
(いやそれよりも・・・)と汗を浮かべる理由は、
(あれに切られたということは・・・)現れた女の腕の傷・・・。
「知ってるだろ?」そんな動揺を察して、中年軍人がこちらを見てくる・・・。
「これは、毒だ・・・」足元で気絶しているぴっちりスーツの女を見下ろしてから、
「しかも、問題なく治せるが早く処置したほうがいい毒・・・。つまり」
「船長なんぞ救っている暇はないぞ・・・」再びエルフの方に視線を戻し、彼に選択を迫る・・・。宙に釣り下がるドローン使いは焦りを顔に見せながら、
「ワーフィ!」またも小舟盾持ちのドワーフを呼び・・・、平らに折りたたまれた何かを彼のほうへ放り投げる。それは立体的に開いて、四つのプロペラを持つドローンの形になりながらドワーフに近づき、小型機の中央、下腹辺りにある取っ手が掴まれると、
(この逆境にこそ・・・)
(二兎を追わせてもらう!)という思いで、高速飛行するドローンに掴まるエルフとドワーフが向かい来る。狙うは甲板上に転がる仲間。エルフは指先が機械的な手袋をはめて女に狙いを定め、ドワーフは素手で船長を救うつもりのようだが・・・、目標が目前に迫るところで、エルフは冷や汗を浮かべたじろぐ・・・。
無数の鱗型の刃物が、隙間なく飛び来る光景。ジョマがマントを翼を広げるように掃い、投げた様子だが、
(毒羽根の弾幕!)エルフが状況を現したその言葉からすると、投擲物一つ一つが、先ほどの厄介な毒を含んでいるようで・・・、そのことは・・・、
ドローン使いに「全滅」という結末を過ぎらせた・・・。が、
彼らと〝弾幕〟の間に、突然オーロラかベールのような遮蔽物が現れ、それに突っ込んだ両者は柔らかなカーテンに包まれる形で、その勢いを殺される。無力化された毒羽根が透明な布地越しに見え、肌に滑りけのある質感を感じたエルフが、
(海藻のベール・・・。情け深い三人目か・・・)そう察している上で・・・、 オーロラを形作る流麗な白髪、そんな長い自分の髪の上に女性が座っている・・・。
「行ってください」彼女が俯き声を発すると、触れているベールを通してエルフとドワーフに伝わり・・・、彼らに纏わりついた透明なカーテンが左右に掻き分けられる形で開いてドローン共々解放してくれる・・・。
そうしてエルフ達が空中に放り出されると、その手に掴む高速飛行のドローンが再び起動して・・・、
甲板に倒れている女《仲間》にエルフの手が届く。特殊な手袋を付けた手のひらを彼女の背に付けると、彼女の纏う黒のぴっちりスーツが手のひらへ吸い付き、彼女の身体を浮かせて、
疾走するドローンの勢いのままに、甲板上から仲間の女を連れ去る。一方、後ろで少し遅れて飛行するドワーフ、
必死に手を伸ばすも、救うべき北海王、彼らのにとっての〝船長〟へ届かない。ターゲットへドローンが向かっていたはずなのに、この状況、
(甘い水神め。解放した時に、引き離されたか)という思いのワーフィの目は、流れ落ちる白滝のような髪の上に腰かける成人女性へ向いている・・・。ともかく髭モジャの小男は船長を救えぬまま船上を通り過ぎ・・・、
仲間を抱えたエルフ共々、口惜しそうに後ろを向きながら、高速ドローンに手を引かれてそのスピードのままに、
大艦隊犇めく、この場を離脱していく・・・。それを船上より見送る、小柄で細い士官の背中・・・。
茶髪の少女が起ち上がり、幼いマントのジョマが振り返って、開けた中年軍人が転がる海王の側に立つ、灰色戦艦の甲板上・・・。
「終わったようで・・・」女性の低い声、あるいは声変わりしそうな少年のような声が聞こえる。
「ソウちゃん!」現れた士官服を着た十代半ばくらいの少年を、茶髪少女の声はそう呼ぶ。そして、
「聞いてよ、またシラナミが敵見逃した!」長い髪を尾のように引いて近くに降り立った、白い髪の彼女を指さして、彼へ言いつける。加えて、
「いい加減にしてほしいんだけど・・・」と、申し訳ない様子のシラナミを睨み責める紫髪の女・・・。水の化け物という意味で同類な彼女たちの険悪なムードだが・・・、
「まぁ、良いではないですか」事を収めんと手のひらを向けた若い士官は、
「海王が奪われなかったのですから・・・」歩み進みながら、先で転がるワイルドなボロシャツジーパン男を見下ろす。そして〝ソウ〟と呼ばれた青少年は、
「ねぇ、親父殿」その前で振り返った、燃えるような髪の中年に声をかける。
「ん?ああ・・・」ぎこちなく相槌を打った親父、
「コイツさえいれば問題ない・・・」と足元を見遣ってから、
「そして・・・」と付け加える・・・。
「奴らは毒を喰らったわけだから、しばらくその治療で動けず・・・」
「警戒の必要がなくなったわけだ・・・」そんな感じで、安全が確保できたわけだが、それを聞いて、ワカメのような髪質のソウは、
「つまり・・・」
「私は行っていいってことですね?」厳つい〝親父殿〟へ確認する。襲撃の最中姿も見せなかった彼が、海王の手下から護る役の警護か何かような口ぶりだが、
「ああ・・・」親父が肯定すると、実際にその役を担った〝水女神〟らがワカメ髪の元に集まって、
「先に戻って報告してくれ・・・」厳つい男が続けたそれを、彼女らに囲まれたソウが受ける。美女三人を彼が率いている感じだが・・・、
そんな連中が命令通りにその場を去ろうとしたところ・・・、
「〝エン〟の奴によろしくな」気さくな親父が別れ際の挨拶のような言葉をその背にかける・・・。すると、
「それは・・・」と、言葉に反応して立ち止まる小柄な背の士官、
「謀反せぬよう釘を刺して来いということですか?それとも・・・」
「宣戦布告?」そう振り返り、親父に確認する。
「ん?」と解らない様子の男に、
「〝姉さん〟は、あなたが〝今以上〟を望むのを恐れている・・・」ソウは〝エン〟だか〝姉さん〟だか呼ばれる誰かを思い、遠い目をする・・・。
「五行臣筆頭の上、大陽国総統かそれ以上の地位・・・。今のところ、それに値する肩書きはありませんが、この海賊討伐の功を機に新たに設けられて、その執政だか国父だかに就くことになれば・・・」
「総統の傍らで国を牛耳っているあの人の立場はなくなる・・・」こちらを見てくる軍帽の青少年は、どうやら総統夫人の話をしているようだ・・・。親父殿が出世し、彼女の立場が危うくなると・・・。それを聞いて、
「〝双頭〟では動くこともままならんからな。良くても二番手に落ちてもらう・・・」夫人が恐れる事態を否定しない親父。ソウの話によれば、海賊討伐から帰るらしいこの男こそ、ルウペ少年の話していた〝ラガナ〟とかいう夫人の父で総統の義父であるようだが、
「だからか・・・」と納得した様子のラガナは、
「あ奴が、俺を除こうと待ち構えていると・・・」釣りの時に使っていた折りたたみ椅子に座り、考え込むように顎下を触る。
「敵を同じくする保守派連中共々・・・」と続ける彼の横顔の向こうで、「はい・・・・」一人立ち尽くす若き士官が肯定しているが・・・、
「立派になったものだよな・・・」俯き気味だった視線を戻したラガナの口元に笑みが零れる・・・。
「収容所という名の娼館で生まれ、親同様に〝社会奉仕〟を死ぬまで強いられる運命にあった絶望の子が・・・」親父は養女の出生について語ってから、
「あのしたり顔で、俺や老獪な謀略家と張り合って来おる・・・」最高権力者を傍らから傀儡にしている彼女の現在が、愉快に見えている・・・。
「反逆に怒りを覚えるよりも、むしろその成長が感慨深い・・・」そんな親心を聞かされているソウ・・・。彼もラガナの養女を〝姉さん〟と呼んでいたのだから、彼女同様に親父殿の養子か、或いは実子なのだろうが・・・、
「で・・・」
「どうするんです?」親の心情など、どうでもいいような冷めた感じで再度指示を仰ぐ・・・。
「釘を刺しますか?宣戦布告?」帰国する彼が、姉にどう〝挨拶〟するかということだが・・・、
「それとも・・・」と続ける言葉が気になって、親父が目を向けると、
「協力するふりをして、海辺に誘い込みますか?」無表情の我が子は、新たな提案を出してくる・・・。企てる策略の内容ははっきりしないが・・・、
「ほう・・・、具体的には?」興味を引かれた親父が詳細を聞くと、
「〝凱旋式〟を利用します・・・」姉を陥れる策が語られる・・・。
灰色戦艦の甲板上・・・、大艦隊が浮かぶ中で‥‥。
「凱旋式?」肘掛けにもたれた総統夫人が解らない顔をする。壇上に敷かれたクッション椅子に座る彼女の前で、
「はい・・・。御存じの通り・・・」頷く小柄な士官。ソウらしき声変わりしそうな少年の声が続けて、
「戦利品を披露する場ですが・・・」
「その《《戦利品》》というのが、海賊から奪った艦隊でして・・・。それを披露するなら・・・」
「凱旋式は港で執り行われることになる」
「そうなれば、それに参加する総統様に伴って海辺に誘われますから・・・」
「それを取り込んだ海賊共で襲い、どさくさに紛れて・・・」
「あなたを排除するという寸法です・・・」どうやら〝姉を陥れる策〟をターゲット本人にバラしてしまっている・・・。
「それでは・・・」夫人の座る脇からの声と人影、
「総統閣下から恨みを買いませんか?」頭頂部で髪を結った、白背広の青年が尋ねる。確かどこかで、保守派高官らの知恵袋のようだった彼だが、
「逆に火臣殿の立場が危うくなると思うのですが・・・」養女を排除せんとする中年親父を〝火臣〟と呼んで、そのように疑問を呈すと、
「ドッペルゲンガーを使えば、問題ありません」軍帽を脱いでワカメ髪を晒しているソウは、しっかりこちらを向いて答える・・・。
「海賊が夫人を拉致し、それを救い出した体でⅮGに挿げ替えれば、その偽物のフォローで何とでもなります・・・」という恐ろし気な火臣殿の計画・・・。聞いて、
「スェル老ですか・・・」若き髷高官は、ⅮGの後ろにいるであろう男の名を出して、
(確かに、奴なら夫人の排除に協力するか・・・)火臣との謀略的なつながりを察している・・・。そうしていると、
「それで・・・」声変わりしそうな声が話を進め、
「私が考える対応策ですが・・・」青少年の士官が正面の姉へ顔を戻す・・・。そして、
「凱旋式を取り巻く民衆に、兵を潜ませるというのはどうでしょう?」腰辺りの脇で手のひらを上に向けた手振りで、そう提案する。
「海賊が襲ってきても、返り討ちにできる戦力を・・・」と続けながら、視線を姉から隣に立つ高官のほうへ移すと、
「つまり・・・」
「奴が罠を張る港へ、まんまと向かうというのですか?」額の開けた聞き手は敵の思惑通りにこちらが動くことが解せない・・・。この様子にソウが、
「はい。事は起こさせた方が良い・・・」
「その上でしくじらせれば、こちらは問答無用で裁けますし・・・」その必要性について説いても、
「しかし・・・」
「総統閣下に危険が及ぶのでは・・・」愛国心のある知者は不満気な顔・・・。そこに、
「大丈夫よ・・・」立ち上がる夫人の声、
「あの人、悪運強いから・・・」少し高い壇上から他所を向いた横顔を見せる・・・。前のめり姿勢の彼女は、
「じゃあ・・・」と壇上を降り、
「そのつもりでお願いね・・・」後ろ髪を結うことでうなじが見えている高官に背を向けて、親父の罠への対策を任せる。
「了解しました・・・」と後ろで御辞儀する彼を、横目に見ながら総統夫人エンは思考する・・・。
(従順で真面目・・・)
(頭もキレるこれに任せておけば問題ないでしょうけど・・・)目を瞑り頭を下げるこの保守派の知恵者には信頼を置いているようだが、
(問題は、こっち・・・)擦れ違った弟、ソウのほうはそうでもないようで、
(正直、得体が知れない・・・)そんな心中の彼女側から見た弟士官の横顔は、怪しげに微笑んでるように見えている・・・。それから、
姉は彼と出会った時のことを思い出して・・・、
(実家に連れて来られた、あの時から・・・)身体全体を覆い隠すほどに大きすぎる大人の背広を羽織った、ワカメ髪の幼児を思い浮かべる・・・。
「動機は?」一回り成長した彼の後ろで振り返る姉、
「あんたは何で裏切るの?」そんな彼女の疑問を背に受けて横顔を見せる弟士官は・・・、
「実は私・・・」背を向けたまま、着物姿の姉へ答える・・・。
「〝海の子〟でして・・・」意味不明な単語に彼女も戸惑う・・・。
「故郷を海賊に奪われ・・・、それを取り戻す力を得るために親父殿に近づきました・・・」そんな彼の身の上を若き保守派も聞いている・・・。
「それが先日成されましたので・・・」と続けた弟が、やっとこちらへ振り向くと、
「あの人は《《用済み》》ということです・・・」怪しげな横顔を見せてくる。受け手の姉エンは、
(あんな幼い頃から・・・)背広を羽織る下には何も身に着けていないような、幼きソウをまた思い浮かべる・・・。
(そういえば、際どい格好だった・・・)両開き扉の片方を押し開いた姉の顔は赤らんでいるように見える・・・。部屋の外、扉脇に立っていた警備がそれに気づくと、
「あの人は?」夫人からの声にびくつく・・・。
「今どこに?」尊大に戻った彼女の視線が向き、
「え~」紺色スーツの警備は考えてから、
「謁見の間で、《《環再》》の代理と面会中です・・・」扉がまだ空いている前で、そう答える。閉まっていくその向こうの室内には、背を向けて立つソウ士官が見えるが・・・、
(環境再生地区長官代理・・・・)そういう思いで彼が振り返るとともに光沢のある木製扉は閉じられた・・・。
「こちらが、事業成果をまとめたものになります・・・」板状の端末に表示された送信ボタンを押すと、
どこかで見た〝眼付きの悪い禿げ頭の高官〟が手に持つ端末の端に付いたライトが点滅し、送られたデータか何かを受信する・・・。
そうして表示された画面には、文章と数字、図などで〝事業成果〟を示しているようだが、それを確認する釣り目の高官は、
(水質、土壌、空気・・・。どれもいつも通り、生活するに問題のない数値か・・・)という心中で、良好なリアクション・・・。そこに、
「後・・・」データを送信した男の声。どこかで聞いたような声だが、
「その証明となるサンプルです・・・」この温和そうな〝ハ〟の字眉の男は確か、スェル老を匿っていた農夫・・・。今は背広を着て礼装だが、そんな彼が傍らを指し示すと、
メイドが押して転がしてきた移動式のテーブル、その上に幾つかの容器が置かれている・・・。その土やら水やらの入ったのを、
「ご自由にお調べ・・・」彼は指し示して続けるが・・・、
「もういい・・・。わかった・・・」耳上辺りだけ髪が残っている高官は不機嫌そうに眼を閉じて、見ていた端末を脇に抱えると、
「次の任地については追って沙汰する・・・」と、追い払うようにその手を前へ掃う。
「政府の近くで待機していろ・・・」そう続ける灰色背広の高官は何とも冷たい態度だが・・・、
「はい・・・」温和そうな男は顔色も変えずに御辞儀し、
総統も同席していた、謁見の間を出ていく・・・。
扉を通過したところで、男は気配を感じて横を向くと、
(総統夫人!?)夫人が待ちくたびれたように壁にもたれている。その様子から温和っぽい紺の背広男は、
「もしかして・・・」
「待たせてしまいましたか?申し訳ない・・・」と壁から離れる彼女へ・・・。しかし、
「別に・・・」と明らかに待たされていた夫人はどうでもいいように返事をして、〝謁見の間〟へ入っていく・・・。彼女は、「総統が謁見の間で《《環再》》の代理と会っている」と聞いて、ここに来たのだから、
この優し気なハノ字眉男こそ、〝環境再生地区長官代理〟のようだ・・・。
〝環再の代理〟が扉を開けて部屋に入ると、
「お待ちしておりました・・・」《《声変わりしそうな》》若い声に話しかけられ、
「木臣殿・・・」ソファーから立ち上がった、ワカメ髪の青少年士官がそう続ける・・・。絵画や家具などで飾られた豪勢な部屋で待っていた彼を見て、
(若すぎる士官。確か・・・)思い出そうとする、〝木臣〟と呼ばれた環再代理。
(ラガナ殿の子飼いの・・・)火臣のオッサンと一緒にいた彼のことを思い出すと、
「水臣殿ですか?」若い士官へ確認。奥に、両手を後ろで組んで仁王立ちする、ボディーガードみたいなのが二人見える、その前で、
「はい・・・」肯定した彼は、
「あなたと同じく、五行臣の一人。大陽国海軍を預かる、ソウという者です・・・」胸に手を当てて自己紹介する・・・。聞く限り、〝何たら臣〟という呼び名は政府内の役職らしいが、
「それなのですが・・・」木臣は手のひらを相手に向けて・・・、
「私は代理で・・・、実際の木臣は兄の・・・」その呼ばれ方を訂正する。が、
「本当に相応しいのはあなたでしょう?」水臣ソウはそう言って、怪しい笑みを見せる・・・。
「木臣が為すべき使命は、国土再生・・・。実際にその役目を果たしてきたのは、カイセ殿・・・。あなたなのだから・・・」持ち上げてくれているのだろうが・・・、これを受けている木臣代理ほうは少々引き気味に見える・・・。
「現政府を〝自然破壊の根源〟と忌み嫌うばかりで、非協力的な兄ではなく・・・」付け加える青少年士官に、
「よくご存じなようで・・・」カイセが顔に汗を浮かべて応じると、
「ファンですから・・・」やけに友好的な青少年は、木臣周りに詳しい理由を説明する・・・。
「私も汚染地域出身でして・・・、それを浄化できるあなたを遠い空から応援しておりました」
「そして・・・」
「機会があれば、その技術を学びたいと・・・」穢れ国の再生者を尊敬するソウは、さっきまでの胡散臭い感じから一転して、情熱の籠った目で迫ってくる・・・。
「いつか故郷を取り戻すために・・・」と締めて目の前で立ち止まった、夢ある若者に、
「立派な郷土愛ですね・・・」と応じる、偉人らしい温和男・・・。相変わらず好意的に詰め寄ってくる相手に圧倒されている様子だが・・・、
そんなところに、部屋の入口の扉が開いて・・・、その間からタキシード姿を覗かせる執事っぽい人物が、
「水の臣様・・・。総統閣下がお会いになります・・・。謁見の間までお越しください・・・」と、ソウを呼び出す・・・。閉められる扉の前で、
「丁度、〝北港〟で凱旋式が行われます・・・」呼ばれた青少年は、事情を知らぬカイセに説明する・・・。そして、
「私も式に参加するため、あなたが浄化したあの港に向かうのですが・・・」
「貴方も来ていただけませんか?」と、その手を差し出す・・・。
「そして、式典が終わった後で・・・」
「実際の浄化装置でも見ながら、環境再生についてご教授願いたい・・・」そんな教えを乞う言葉と姿勢に・・・、
「それで「待っていた」ということですか・・・」先ずは、そう応じる穢れ国の再生者は、
「別に隠すような技術ではありませんし、どちらかと言えば・・・」
「進んで広めるべき技術ですから・・・」顎下に手をやり考えるそぶりを見せながら、そのように前置きして、
「喜んでお教えしますが・・・」ぎこちなく了承する。まだ引っかかる事があるような感じだが・・・、それでも、
「本当ですか!」良い返事に、ソウは喜んで、
「では、港でお会いしましょう・・・」子供のようにはしゃいで、部屋を出る。開いた扉越しに、
「総統様が待ってますので、わたしはこれで失礼します・・・」そう会釈して、扉が閉められた・・・。
カイセが部屋に残されると・・・、嵐のようなファンに面食らったままの彼の後ろから、
「良かったですね・・・」若い声がかかる。
それなり偉い木臣代理の隣に、ボディーガード姿の一人が来て、
「こうやって我らの志が広まっていくこと・・・、兄上もお喜びになるでしょう・・・」笑みを含んで、要人を横目に見る。
「どう思う?」それとは反対方向へ目を逸らしている要人カイセが、そちらへ尋ねると、
「あなたと同じ匂いがしますね・・・」視線の先に、もう一人のBGが歩いてきている・・・。環境再生地区にもいた糸目の彼によれば、
「媚び諂いながら陥れる策謀を巡らす・・」
「胡散臭いおべっか使い・・・」若い士官はそんな印象・・・。話の中に含まれた護衛対象も同族扱いする言葉に、
「本人を前に言うか・・・」裏があるらしい温和な男は苦々しい顔をしてから、
「だが・・・」
「そうかもしれん・・・」真顔になり、ソウが信用ならないことを肯定する。そして、俯き顎を触って、
「スェル老にでも聞いておくか・・・」客間らしき豪勢な部屋、両脇で護衛の立ち尽くす中、そう溢した・・・。




