52.はかどらない調薬、助けの声
前回のあらすじ
・【解体】と【解剖】は違います
・調薬の仕方はまじめです
・薬は完成度により完治する確率が変わります
《アビリティ:【調合Lv1】が【調合Lv6】に上がりました》
調薬を初めて早5時間
俺は一心不乱、集中して特効薬【ルディ・レユアン】の調薬を繰り返している。
失敗することも多々あったが最初の1時間と比較して成功率がぐんと上がっているのは感じている。
だが、この特効薬20本以上調薬を繰り返してはいるものの完成度が50%を超えることがなかった。
一本一本に差が生まれるように混ぜる時間や沸騰温度、また切り刻みかたや叩く回数など変えてはいるものの一向に上がる気配を見せないのだ。
「一体どうしたら完成度があがるんだ?」
この完成度を上昇させることにかなり頭を悩ませている。
なぜか文献には作り方のみが記載されていたし、どうしてそのようにやるのかという理由もあったわけでもなかった。ただ、調薬方法が記載されていただけなのだ。
そのため完成度を100%__今は50%にでも達するにはどうすればいいのかというの指標が何もない。
ただただ、頭を悩ませるばかりだ。
しかも、素材も無限にあるわけではない。
一番数の少ない『イノケンティウス』の個数から考えていくと作成可能な特効薬の数が残り12個あるのかないのかというシビアなところ。
これ以上完成度の停滞は厳しいと判断している。
しかし、現状パーセントを上昇させるための工夫を思いつくことができないのでどうすることも出来ないのだ。
現状を整理するためにも今までやってきた工夫を説明しておこう。
まずは【聖樹草の葉】に着眼点を置いた。
葉の切る方向を縦にしたり横にしたり、交互に刻んでみたりどれぐらい刻んでみたりするのか工夫をしてみた。
さらにはすりつぶすときにはどれぐらいの液体度合いになっているのか調整してみているが、この2点を注視して工夫を凝らしている。
次は【『イノケンティウス』の精鱗】についてだ。
こちらは精鱗の砕き方に注視している。
どれぐらい砕くのか小麦粉のようなレベルまで粉砕するかという感じだ。
そして【清らかな聖冷水】
こいつもいくつか注視しているところがある。
温度管理や混ぜ具合などを考えていろいろ組み替えてはいる。
しかし、それでも完成度は50を超えることがなかった。
「一体何が原因なんだろうか」
と、頭を悩ませていると
『それはこの素材たちの正しい処方で調薬していないからよ』
そんな声が聞こえた。
「ん?!だ、誰だ!」
あたりを見渡すが俺以外に誰もいない。
ふわふわと飛んでいる精霊以外にこのテント内には人がいないのだ。
『ここよ、ここ。貴方の目の前にいるわよ』
と、目の前を注視してみると緑色の精霊が俺の目の前に現れているのだ。
「うぉ!精霊ってしゃべれるのか?」
『失礼わね貴方、精霊だってしゃべったりするわよ。ただ、人間にはわからない言語だったりするわね』
「あぁ、そういうことね。でもなんであんたはこちらがわかる言語でしゃべれるんだ?」
『まぁ、それなりの知識があるってことなのよ。それにしても貴方の調薬は見るに堪えないわ』
彼女?(声質的には女性だと思うけど……)がそう語るっていると同時に俺は【鑑定】を行った。
彼女の名前がないということと種族が『緑の精霊』というところまでわかったと思うと急に視えなくなったのだ。
『貴方、私のこと視たわね?』
「あぁ、すまない。しかし急に視れなくなったのだがそれはあんたの能力かね?」
『ええそうよ。というか精霊のことについてそこまで知らないのね?【認識阻害】という私たち精霊の固有の異能__貴方たちの言葉に直すならスキルに値するわね』
どうやら精霊たちの不可視の存在というものは種族固有のスキル【認識阻害】というものがあるため、その存在を悟らせることがないんだとか。
実際にはこのOFWのいたるところに存在していて俺たち__否、この世界を支えているんだとか。
「ほぉ、そんな種族スキルなんてものがあるんだな。初めてしったよ。で、そんな精霊さんが何の御用で?」
『え、えぇそうだったわね。貴方が作ろうとしているのは【ルディ・レユアン】、【イラ・ミルトン】の唯一ともいわれている特効薬で間違いないわね?』
「あ、あぁそれで間違いはない。で、俺は文献に載っている通り調薬をしたつもりなのだが……どこか違うのか?」
確かに文献に載っている素材であれば、間違いがないと思ってはいるのだが確かに完成度が50以上上がっていないのが現状である以上どこかしらに間違いが生じているというのは薄々というか自明の理である。
しかし、その方法が何かがわかっていないのもあるが調合できる個数に時間がないというのもある。そのため作れる数がないというのもあり、考察に時間を割いているっているのが現在進行形であった。
まぁそれもこれも目の前にいる緑色の精霊さんが教えてくれるみたいだ。
『教えるのはいいけれど、その代わり対価を要求してもいいわよね?人間がものを請うのにそれ相応の対価・代償を得るものよね?』
うーん、あながち間違ってはいないが解釈が悪魔の契約のそれと対してかわからないんだよねぇ。
だが、方法を知っている以上教えてもらう以外完成度を上げることができないのは事実なんだ。
彼女の望みを受け入れないといけないと判断し、俺は彼女の望みをいったん聞くことにした。
「で、望みはなんだ?可能であればそれに応じるつもりだが」
『そんなに身構えなくていいわよ?私の要望は………私を外へ連れていくことよ!』
………えっと、それだけ?
というか、自分ででればよくない?
と、よくわかっていない俺を察したのか彼女が語る。
『私たちは確かにこの世界いたるところに存在するわ。だけどもダンジョンにいる精霊はその概念に当てはまらないの。ダンジョン内にいる精霊はそのダンジョン内を出ることができない。つまりはここで一生を過ごさないといけないの』
「へぇ、そんな縛りが設けてあるのか。でもそれだと要望をかなえることができなくないか?」
『……ひとつ、精霊界でいわれていたことがあるの。特殊な人間、もしくはこの世界ではない住民であれば我らを従え共存する力をもつ、という伝承があるの。ここまで来れるということは並々ならぬ力があると思うの。現にあなたから感じる力は未知そのものなのよ』
はへぇ、そんなことがわかるのか…。
ま、特殊な人間というのは多分【精霊使い】という職業を選択している人間でこの世界ならぬ住民というのが俺たちプレイヤーのことなんだろう。
ということは、俺でも精霊を使役することができるということなのか。
ん?ちょっと待てよ。
「それって俺に従うっていう認識で間違いないのか?もしその認識で正しいならあんたにメリットがあるとは思えないんだが」
『普通なら確かにそうなんでしょうね。でもね、私はそれ以上にこの広い世界を見てみたいの。こんな小さな世界だけで一度の生を無駄にしたくはないの』
そんな気持ちがあったのか、彼女の意思をみて到底このCPUがただのAIには見えないのが驚きだ。
『それに貴方からは悪意を感じられないの。それなら貴方についていっても世界を視ることができると思うの』
「?まて、そのさっきから俺のことを知っているように話しているがなぜ断言できるんだ?」
そう、俺が違和感を覚えていたのはおそらくここだ。
こいつと俺は今日のこの瞬間しかかかわっていない。それにも関わらず、まるでこの世界に入ってからの一生を見てきたかのように話す彼女が不思議でたまらなかった。
『それは私たち精霊の存在意義みたいなものね。精霊は不可視の存在と同時に【視る種族】ともいうの』
「【視る種族】?」
『ええ、私たちは対象物を見るだけでその者の力はもちろんそのものが抱く感情を視ることができるの』
うーむ、ただ見えない存在の種族だと思いきやそんな秘密があったとは精霊おそるべし。
彼女の話が本当なら精霊たちが単に見えないのはその不可視の存在であるからだけでなく欲深い人間から避けるためその存在を隠しているようだ。
『それでどうするの?私を外へ連れて行ってくれるの?』
俺はこの質問にまた頭を悩ませるのだった。
残り時間 1日と6時間
今話のまとめ
・完成度が50以上にするにはただ単に調合するだけではだめ
・精霊は不可視の存在とともに【視る種族】という別称を持っている
・この世界のNPCは性格や人格が豊富で普通の人間とほとんど変わりません




