11.その後
貞子はスマホを取り出して読み始めた。
「わたしの勤める会社は、なかなか大きいオフィスビルに入っている……。駅に近く便がいい。数十の会社が入り活況を呈している……」
ん?
なんだ、これ?
貞子は笑いながら読み上げる。
「初めて貞子に出会った時、彼女が可愛いと思ってしまったのは、一生の不覚である……ぷぷぷっ……わたしの最大の黒歴史だ。なかった事にしたい……あの時は、頭がどうかしていたのだ……ぷぷっ……、なに、ちょっと、ひどくない?」
げげ!
わたしが投稿した小説じゃないか!
「お、お前! なに読んでんだよ! やめろ!」
わたしはスマホを取り上げようとすると、貞子は片手をつっかえ棒にして防いだ。
「ラウンジで過ごしているうちに親しい友人ができた……、って、ぜんぜん親しくなんかないし、友達でもないじゃん」
「悲しいこと言うな!」
「ちなみにわたしが小説を書いていることは極秘事項である……、ふーん、へー、そうなんだ……」
貞子は意地悪い目をした。
身バレだ。
よりによって、こいつにバレた。
最悪である。
「絶対に言うなよ」
「どうしようかなぁ……」
彼女はニヤニヤして人差し指で顎をさわった。
やめて欲しい。
まじで、やめて欲しい……
わたしは、恐る恐る「望みは?」と尋ねた。
「新しい別のイラスト」
「色塗ったやつはどうすんだよ?」
貞子は怒ってスマホを見せた。小説家になろうのページには、わたしが描いたイラストが表示されていた。
「もうコレじゃあ、夢学ちゃんが描いたってバレバレじゃん!」
そりゃそうだ。
わたしの小説など誰にも読まれないと高を括っていたが、絵を知っている人間にとっては一目瞭然である。
「いい? もう一枚描いてよね! あと、それから」
「なんだよ、まだあるのか」
「お腹すいた……、お蕎麦おごって」
うん……
まあ、そのくらいなら安いからいいか。
交渉は成立し、わたしと貞子は固く握手した。
わたしたちは、木枯しの吹く中、駅近の蕎麦屋に向かった。蕎麦はアツアツでとっても旨く、身体を芯から温めてくれた。
ちなみに、伽椰子も付いて来て、なぜか、その分も払わされた。彼女は貞子に無理やりドッキリに協力させられたらしい。
その後、わたしが小説を書いていると暴露されることはなかった。約束はちゃんと守ってくれた。
わたしは、ほっと胸を撫でおろした。
貞子は相変わらず態度がデカい。しょっちゅう面倒くさい要求をしてくる。
その一方、時々、わたしの小説の感想を言ってくれるようになった。
面白くないとか、ひねりが足りないとか、文法がヘンだとか、辛口の批評だから、ちゃんと読んでくれてるようだ。
ありがたいことである。
感想を生でいただくのは、
うん……
実に、悪くないものである。
ありがとうございましたm(#^.^#)m