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紅羽妖録  作者: みお。
第1章
9/15

第8話 逃走と追跡

予告通り本日2本目の投稿。

若干短いですが、お楽しみください。


 自分を拾った少女を逃すと、クロ……関口颯太は目の前の老婆に向き合う。

 老婆といっても、明らかに人間ではない。髪を振り乱し、鬼の形相でこちらを見るその老婆の腕は2mを軽く超えている。

 更にその腕には関節の概念がないのか鞭のようにしなり、相手を叩きつける際に絶大な威力を生み出す。


 颯太や他の人間は、目の前に存在しているものを"妖"と呼んでいる。


 「全く。人の不意打ちかましてくるわ、こんなところまで追いかけてくるわ……そんなに"石"が欲しいのかよ?手長ババア!」

 「ぐう……っっ」


 目の前の妖が欲しているのは、この少年がとある理由で守っている"石"のこと。

 妖はそれを狙って襲撃を仕掛けた。

 が、あと一歩のところで颯太の逃走を許してしまった。

 那央の手当てした傷はこの妖によって傷付けられたものだ。


 「小童……"石"だ……!!"石"を寄越せぇ!!」

 「それしか言えねぇのか、テメェは!!?」


 妖の伸ばした手をかいくぐり、懐に入るとその鼻っ面に思い切り黒い炎を纏わせた掌底をかます。


 「ぎゃあああああああ!!!?」


 老婆の妖はもう一度吹き飛んで、廊下を転げ回る。

 他人の家を無茶苦茶にしている罪悪感にかられながら、颯太は違和感を覚える。


 (こいつ……なんでこんなに弱ってるんだ?)


 颯太は知らないが、この老婆は齢300年を超える古い妖。並の力を持つ者では歯が立たないようなとてつもなく強力な妖だ。

 最初の襲撃を受けたときも、彼はこの妖に対してほとんど攻撃を通すことができずに逃げの一択しか取れなかった。

 それが今では、こっちの蹴りや掌底で綺麗に吹き飛ぶほど弱体化している。


 一体何があったのか……ふと、体を起こす老婆の腕に何かが突き刺さっているのに気がついた。


 (ボールペン……?)


 そのボールペンは先程自分が逃した少女が、颯太が助けに来る前に突き立てたものなのだが、それを見つけた颯太は驚愕する。


 (まさか……あり得ない!妖相手に物理攻撃が通るなんて……!)


 妖とは、人間と違って"概念"のような存在。実体を持っているものはほとんど存在しないと言って良い。

 その為、普通の武器による攻撃は一切妖相手には通用しない。

 巫女や法師の念が込められた護符や、童子切のように妖刀と呼ばれる様な特別な武器でないと妖に効果らしい効果はない。


 にもかかわらず、武器ですらないただのボールペンが目の前の妖の腕に深々と突き刺さっている。

 更に、先程から明らかに妖はその傷を気にしている。

 ひょっとすると、妖の力が落ちているのはあのボールペンのせいなのではないか。颯太はそう考えた。


 (だったら今のうちに畳み掛けるのみ……!!)


 何故ボールペンにそこまでの力があるのかは全くわからないが、攻撃の好機であることに違いはない。

 老婆との間合いを一瞬で詰めると、炎を纏った追撃の蹴りをお見舞いする。がー……


 「何っ!?」


 老婆は霧の様に散って、颯太の攻撃を躱した。


 「小童、貴様は後回しだ!

 おのれ……あの小娘、ただではおかんぞ……!!」


 そして姿をもう一度消す前に捨て台詞を残して、老婆は完全に気配を消した……。


 「くそっ、取り逃しちまったか!」


 颯太は妖の残した気……"妖気"を追いかけようとしたが、完全に消されて追いかけることができなかった。


 「あのババアを追いかけるのは難しいか……だったらあっちを追うか」


 老婆の追跡を諦めた颯太は狼の姿に一瞬で変化しすると、その場に残っていた少女の匂いを嗅ぎ分け記憶した。

 犬の嗅覚が優れていることは周知の通り。当然狼の嗅覚もそれに劣ることはない。


 (よし、これで追いかけられる)


 あの老婆は良い様に颯太にやられ、怒りで我を忘れて完全に感情で突っ走ろうとしていた。

 そして最後の台詞……あの妖の向かう先は間違いなくあの少女の元だ。


 (頼むから、無事でいてくれよな!)


 見ず知らずの獣になんの迷いもなく手当てを施した少女の無事を祈り、狼は走り出す。

 外の太陽はいつの間にか沈みかけ、本来相見えることのない者たちが交錯する"逢魔時"が迫っていたー……。


ここまでありがとうございました。

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