晴れ時々まだスライム
鼓動が止まる。
呼吸が止まる。
そして
ゆっくり体温が下がっていく。
スライムはじっと見ていた。
まだ。
んでもまぁ、良いかな?
いただきます。
ムニュとスライムの体が持ち上がる。
「こら、スライム。ダメよ?」
相変わらず可愛いマスターが、可愛く「め!」をしてます。
うん。従わせる気はないらしい。
スリスリマスターにくっついていると女神が降りてくる。
魂を捕まえるとこねこねして丸くする。
そのまま、ふよふよ丸い魂を持って上がっていく。
「……最後のお別れを」
では、いただきま……。
ムニュとマスターが!
「スライム、聞いてた? こちらは次の学園長」
ジロジロ。
デップりとした脂ぎった蛙。
「あー、スライム只漏れ」
ん? 人類絶滅白書?
「蛙はないでしょ? 一応人間だし?」
マスター。
マスターも疑問系なの?
だってどう見ても蛙。
「だから蛙に悪いから比較しないでね?」
あー、そっちですか。
一応人間さんがプルプルしてますよ?
「え、なんで?」
周りの人間がみな青くなったり赤くなったり白くなったり大変な目に遭うのが、ビィとの日常である。
「この子がスライム。契約できるかは当人次第だよ?」
むーん。契約? ご主人様は寝てますが。
「あ、それと知ってる通り対価はその時によって違うけど、前の学園長は髪を差し出していたからね?」
そう、この見事なテカリ。磨きました!
一同が固まる。
「か、髪?」
「うん。後は血だったり肉だったり……。まぁ君は肉も血もたんまりありそうだから当分大丈夫かな?」
恰幅のよい蛙顔の殿方は、ビィの視線を受けて一歩後ずさった。
スリスリするスライムはビィの髪をモグモグしていたからだ。
「む、お腹すいてるの?」
スリスリして顔の産毛もつるつるに。
「ちょうど良いね。お腹すいてるって。で、誰が試してみるの?」
しんと静まった室内。誰かか唾を飲んだ音がひどく大きく聞こえた。
赤目の魔王が目を細める。
ぐふふ。お肉~。
魔王様は人を試すのがお好き。
にーくー、と跳び跳ねたスライムから避けまくる人間の集団。
「ねぇ欲しがったのはお前たちよ? 何故逃げるの?」
クスクス笑う。
今日も破壊神は絶好調だ。何せ怒る学園長は女神が連れていったのだから。
「まったく、主になる度胸もなくて何故頼むかな」
「実際血肉が報酬の従魔は居ますから」
「……アッシュ、それ執事服?」
「見習いです」
見習いとはいえ、それなりにでないと表に出されないだろう。
きっちりとした青年を見上げるビィ。
少し前まで、警備隊と剣を振り回していた気がする。
逃走するビィを捕まえるのが主な仕事だったが。
「見習いって家出してきたの?」
「……体験学習です」
「丸め込まれたのね」
当たってるだけに回りも苦笑いが。
「と言うことは警備は」
「あ」
ピユーと走り出すビィ。
使用人一堂総出の追いかけっこは街ならまだいいほうで、領内に発展することがーー。
ビィの食べ残しを平らげながら、スライムは晩御飯を考えていた。
「……ビィは野に放たれたか」
いつもは見つけた老人が名を呼ぶとすごすご戻ったビィである。
と言うのも一度後を追った老人が転んで大変な事になったのだ。
それ以来見つかったら終了な逃走だったのだが、名を呼ぶかの御方は女神の元へ旅立った。
「アッシュですが、本当に研修後は警備に回していただけるのですよね」
「あの書類さばき、手放せると?」
「いやいや、それをいったらあれでしょう」
あれと視線が訴える。
ビィを小脇にかかえたアッシュが戻ってきた。
「さすが、捕まえたか」
「ですから警備に」
「だめです」
武官と文官が言い合う足元で、スライムは草を頬張る。
「お風呂~アワアワ」
「泡作ってやるから逃げるなよ」
「後、ケーキも」
「ああ、持ってくるから逃げるなよ」
すれ違う二人の会話が聴こえる。
「アワアワ?」
「お風呂?」
大人の二人が固まる。
入浴剤で泡が楽しいという新製品は泡を作るのが大変なのだ。
会話は楽しげだ。
「……」
「あれよろしいので?」
「……なにか問題でも?」
とりあえず見なかったことにする。
危険人物がマスターとお風呂に!
スライムの呟きが響く。
「げふっ」
「ゴホゴホ」
スライムの心話は不意をつくとかなりダメージか入る。
マスターとお風呂。僕も入る~
シュタシュタ後を追ったスライム。
後には微妙な大人が残された。
ザバザバ上からお湯を落とす。勢いよくすれば泡がモフモフと出来る。
お湯を汲んで持ち上げてザバザバのエンドレス。
中々の労働だ。
暑い。蒸す。
ビィが泡に埋まっているのに、見ている余力が……あるか。
ビィは風呂が好きだ。特にでかいこの兵士用の。
だから、ビィに甘い陣営も泡作りはやりたがらない。
「泡~」
この入浴剤高いのに、でかい風呂に惜しげもなく使われて。
泡を作るのがやりたくないだけで、入浴剤を使うのは別に気にもしない執事である。
しかしビィが気に入っている。個室の1人の風呂なら皆喜んで手伝っていそうだとアッシュは思った。
「スライムのアワアワ」
スライムと戯れている。
「……」
可愛い。
ビィを抱き寄せてスライムの視線が突き刺さる。
「あた、痛いよ?」
ビィに誤爆をしたらしい。
「もう、おいで」
ムニュっと間に挟まってくる。
「狭いところ好きなのね。くすぐったいよ」
長閑な時。それは長く続かない。
「ビィとスライムよ」
「やったー、泡ブロ」
乙女たちがスライム風呂を求めて雪崩れ込んできた。
「⁉」
・
・
・
「君たち、何をしているのかな」
ほどなく現れたレーガルが声をかけるまで最強の乙女たちに揉みくちゃにされたビィとアッシュだった。
「ミカンとリンゴとモモとスイカとーー」
「あー、はいはい、フルーツたくさんね」
モシャモシャ剥いた皮をスライムが食べる。
「ところでビィ」
レーガルは書類を持っていた。
「アッシュが経営者の木の枝武器屋の申請書なのだが、販売物木の枝加工品というのはどんな物なんだね……」
アッシュが手にしていたスイカを落とす。
「俺が経営者!? なんですか、それ」
「ビィ、書類だす前に本人ときちんと打合せするように」
「あい」
しぶしぶ信用ならない返事をするビィ。
スッとアッシュに書類の束が出された。
「……ナニ」
「カクニン」
片言のビィ。もうなれたものでアッシュは書類と果物を見比べる。
「えーと、先に果物むきますね」
食べている間は逃走しない前提でアッシュは先にデザートを作ることにした。
「ところでビィ、いくら側女候補たちでもお見合いに一緒にお風呂はやりすぎだろう」
「あれ勝手に入ってきたんだよ。折角アワアワしてたのに」
「……泡? スライムに造って貰えば」
「あ、そっか」
ナニか変な会話が続いている。
側女ってナニ。おいしいの?
スライムがビィにくっつく。
「ああ、ビィのお世話を寝ても覚めてもする乙女のことだよ」
レーガルがしらっと答える。
寝ても覚めても……。ん? お見合い?
「……いや、相性もあるし」
じろりとスライムが睨む。
マスターは僕がお世話するの!
マスターは僕のモノ!
どうやらスライムを丸め込むのは失敗した。
「側女」
横でアッシュもダメージを受けていた。
お陰で書類の中身はサッパリだった。
そしてレーガルはスライムを甘く見ていた。
お世話を張り切ったスライムは、家中を泡で満たした。
「…………アワワ」
「ビィーー」
今日も叫び声が絶好調に響く。
「レーガル、ビィの側女は放っといて良いから自分の嫁の事を考えなさい」
父親にトゲを刺されているレーガル。
ビィより可愛い乙女居ないよ?
「……スライム」
あや、隠れていたのが見つかった。
うん。リリに睨まれて大丈夫な乙女居ないし。
レーガルの竜は、まだレーガルが一番だ。
繁殖の恋も皆蹴落としている。
「……先にリリに旦那か?」
「ソンナモノイリマセン」
レーガルも親バカらしい。
「ところでスライムは増えないのか?」
「……スライムの生態はよくわかっていません」
「スライムにも嫁が必要か?」
「世話が無理です」
ビィにこれ以上手のかかる玩具を与えるというのは恐怖だ。
「スライムを使っていいという許可を出したんだって?」
「うぅ」
「スライムの泡の掃除で隅々まできれいになったと報告が来ていたぞ」
「え?」
「まあ、やる前に告知はしてほしいと要望が上がったが定期的に泡掃除もしてほしいと……レーガル?」
「あ、はい」
僕は出来る子!
「ハイハイ」
軽くスルーされた。
ジーとパパさんを見上げる。
「ん? なんだ。スライム」
スーリスリ
ビィ直伝必殺甘える。
「くす、そういえばスライムの事をビィは別の名で詠んでいたな」
スリスリスリ
「あのお方とは違うーーレ」
ビチビチ
「主は当分不要か?」
パパさん、ビィは叱らないのね?
「……嫌われて大嫌い何て言われたら落ち込むだろ?」
フム。ショックで魂が抜けるかも?
「そうだな」
「……ナルホド」
レーガルが渋くため息をついている。
「道理で誰も叱らない筈だ」
ビィと名を呼んでいたお方もあっさりとしたあとは、抱っこして楽しく過ごしていた。
キライなんて言われて泣かれたら世界は終わる。
「叱ったところで、好きなことしかしないからな。言うだけ無駄だ」
「……商売も好きなことなんですか」
書類は領主に渡った。
「武器屋? 農場はアルに任せて、経営はいいが八百屋でなくて?」
ビィに駄目を言わない領主にNOはない。
「アッシュに経営に回す時間が有るのかね?」
見習いとして忙しい。
「さあ?」
どうにか時間を捻り出さないとビィが野に放たれる。
店舗経営。アッシュの実施研修はアッサリと決まった。
ビィは良い匂いがする。
がんばって作った泡の入浴剤の香りだ。
しかし。
廊下をすれ違う乙女も兵士も同じ香りがする。
それはビィの漬かった湯船が共同男風呂だったから。
何故に乙女もかというと、乙女の乱入があったのと、あのあと聞き付けた乙女たちに風呂を占拠されたからだ。
さすがの男たちもおとなしく乙女が入浴終わるまで待機。
乙女の後に入った。スライム風呂効果なのかすこぶる健康そうだ。
しかし。
それとは別の壁も床も良い匂いが漂う。
スライムが泡で満たした結果である。
側女ってナニ。
スライムが廊下で乙女に聞いている。
「怖い乙女のことですよ」
怖い乙女と言えば。
「あら、オホホ」
アッシュに気が付くと苦笑いして逃げていく。
「スライム、乙女の秘密を聞いてはいけないよ」
ひ、ヒミツ。
ビィの秘密はピーマンキライ。
「あはは、だからスライムにこっそりあげてるんだ」
食べられるけどキライで残すのと、食べたら具合が悪くなるから残すのは違う。
怖い乙女。
そうビィの側にいるということは、回りからの目に耐えなければならない。
そして正妻が来ても仲良くできなければ追い出されてしまう。
「俺は追い出されそうだ」
スライムが付いてくる。
「スライム? 今日は俺の部屋に来るのかい」
ポヨと付いてくる。
「ーーなるほど」
部屋にはいって理解する。ビィが寝ていた。
ということはビィの部屋には乙女が乱入したのだろう。
「やれやれ」
試される。事ある毎に。
スライムがビィの横に陣取る。
何時ものように。
それは日常。
スライムは寝こけたマスターにくっつくと、すごすご自分のベットの隅に潜り込むアッシュを観察する。
気配を消した乙女の殺気が降り注いだが、アッシュは気にすることなく眠りに落ちた。
試される。
何を?
忍耐?
殺気の乙女はゲンテ~ン
ガダと音がしたが、ウトウトと微睡む。
ビィの前では殺気は厳禁。
マスターは僕の!
ガタガタ。
天井裏でネズミが!
明日は屋根裏の掃除をしようと呟くスライムは眠りに落ちた。
ご主人様が改善しようとした学校にかよう補助金は、子供を売らない対策でもあった。
そして子供が卒業後、帰れる家を残す対策でもあった。
しかし、初等科の終わる12~13歳が帰ってもつける職は限られてあるのが現状だった。
貧しい村が進学出来るわけもなく、結果売られるように街に出される。
学校での職の斡旋もあったが全ては無理であった。
低学年7~9歳の小規模学校の設置と4~6歳の託児をする施設の設置に奔走した。
試験的にではあったが概ね好評で、平民の学力向上になっている。
初等科の入学で文字を教わるのと、低学年から文字をならってから初等科に上がるのとでは差があってあたりまえだ。
大抵の貴族は読み書き簡単な計算など出来る状態で初等科に上がるのだから。
低学年は自宅から通えるよう考慮され小規模ながら住宅地の近場に建てられた。
「ライムのご主人様はすごいよ」
ビィはニコニコ笑いながら莫大な経費をぽんぽん出す。
マスターのお財布はどうなっているのか謎である。
と、ご主人様は溢していたがスライムは知っている。
マスターの遊び場のダンジョンはディジが頑張って地下迷宮に育っている。
地上の学園部分ももはやーー。
マスターにお願いして、家の地下にダンジョンを造って貰おうか?
スライムの泪石を沢山。
エネルギーはビィの髪。
フ、フ、フー♪
「スライム、変なところに穴を掘るのはやめてくれ」
庭師に見つかった!
「うぉ」
あら、落とし穴に誰が引っ掛かっている。
「こらー、スライムっ」
ヒャッホイ♪
今日もすこぶる平和です。
終




