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叔父さんは辛いよ? ギルド長の愚痴

プラプラ足を揺らす。普通ならはしたないと注意が行くところだが、余りの愛らしさにこっそりと眺めることにする。

秘書にお茶を貰い、目の前の山程のクッキーににこりと笑う。

「ありがとう、お姉ちゃん」

声をかけられ、秘書は微笑み返す。

「ふふ、ごゆっくり」

にこやかな笑顔を見せて退室する秘書に、ギルド長は渋い視線を送る。

後が怖いとは言え、その前に目の前の子供である。

「ビィ、家は良いのか?」

「僕のお仕事は片付けてきたよ?」

それが問題なのだと、眉間の皺がよる。

長男のレーガルは、年上の分の余裕の見せ方を心得ている。

次男のアルは、独立する気満々で居る分 弟の能力には無頓着だ。

しかし、周りは目の当たりにしたら後継者に悩むだろう。

(だからこそ覚醒済みなのは、かえって良かったのか?)

覚醒者は、跡取りには成れない。王家に行くことが決まっているからだ。

そして見回しても、覚醒の儀式を承けたがる者は誰もいない。

(ビィが大人になるまで、あの王は持つのだろうか)

変な心配が持ち上がる。

「…………スライムには見合いを毎日させているが、契約はできていない」

お陰で、有能な者が山程量産されている。

「あの子、干からびたりしてない?」

「干からびてもいないし、怪我もしてないし……とょっと待て」

スルーしてはいけない台詞があったはずだ。

「……お前を小脇に抱えて追いかけっこをしたという夢を見た馬鹿が居たのだが」

「彼はダンジョンで仲間が怪我して治療費が必要だったらしいね。夜道でスライムと遭遇して大変だったんだよ? 街は吹き飛ぶし、ダンジョンは暴走するし」

「ゲホッ」

気管が!

「スライムったら 死体(アンデット )食べちゃうし、不気味な進化するからお仕置きをーー」

スライムの進化先など知りたくもない‼

「……お仕置き?」

「見えないふり3日したら、泣き崩れて」

目が泳ぐ。

小さいものを虐めるのは禁止。が発動したのか。

お陰で、世界は救われているらしい。

そうか、救われているのか。

「スライムは」

救わないのか?

「叔父さん、水槽の魚新しくしたの?」

ソコソコの場所を取る水槽を覗き込む子供。

「え」

「前に来たとき、水草だけだったよね? 」

そんな事実はない。多分。

「だから今日は水槽に入れる子持ってきたんだけど入れていい?」

「入れる子?」

子供が高らかに見せる。

亀だ。

亀だが。

「それ、陸亀だろ。陸亀は泳げないぞ?」

「うえ?」

マジマジ亀を見る子供。

「うん大丈夫! 今から練習すれば泳げるようになるから」

因みに子供は泳げない筈だ。

「あのな、練習しても陸亀は多分無理」

「世界が水で埋まったら泳げないと困るよ」

ちょっと待て! 何時世界が水で埋まる?

亀の世界は水で埋まった。水槽の中で必死に手足を伸ばして首を伸ばして水面から鼻先を出している。

「…………」

うん。あれは苛めでないのか?

「ビィ」

ため息が出る。

「魚が怯えているから、出してあげなさい」

水槽の魚は、亀から反対側に固まっている。

「むぅ?」

亀より小さい魚が怯えている。

「お前たちも、陸上生活力いる?」

「……カエルに進化したら、お菓子をくれる乙女が逃げていくぞ」

彼女は両生類が苦手だ。

子供は渋々水槽から亀を取り出す。

ウム。カエルに進化するらしい。

水の管理をしっかりしなければ。

「ねぇ、抱っこする?」

小首を傾げた可愛子供が!

「……する」

何故か濡れた亀が膝に来た。

「良かったね~」

良くないわ。

「……って、この亀 エルフの里のーー」

玄武種は、保護獣だ。持ち出し禁止だろ。

いやその前に、親が捜しに来る。

玄武の大行進などお断りだ。

「パパが言うには、亀は髪に良いとかで鍋になるところだったの」

……是非食べよう。

「それで洪水が起きて海のそこ」

うん? 海の底?

ウミノソコ?

街は何度廃墟になっていたのだ?

「でも波に飲まれてねぇ」

泳げなかった亀はドボーン。笑えない。

ワラエナイヨ?

「そうか、じゃあビィと一緒に泳ぐ練習しないとな」

子供が油の切れた玩具の様にギギギと変な動きで首を向ける。

そして腕の中の亀もギギギと首を回す。

「玄たん、お水攻撃はダメよ?」

コクコク亀が頷いている。どうやらしばらくは水難は回避できそうだ。

二人とも、泳ぎを覚える気は皆無らしい。

はぁ。

「ビィ、スライムは放っとくのか?」

子供の目が伏せられる。

「僕は、あの子を置いてきたのに?」

何処か憂いを秘めた声色。

「あの子は湿原で仲間と生きていたのに、呼び出したのは人間だよ」

そう呼び出した人間に向かって、怒りをあらわにして氷の剣を造り出した。

命を削ってまで拒絶を目の前で見せた。

だから仲を取り持って、呼び出した人間に渡せなかった。

大抵の子達は、諦めて新しいマスターを受け入れてくれた。

猫も犬も、兎も鼠も。

なのに、あの子は拒否を明確に示したのだ。

それに命の線が細いから、本来獣魔になる種族ではない。

付きっきりで世話をしてどうにか育てることが可能かもしれない。

でも、それを出きるような人間はまず居ないだろう。

「…………ビィ、受付にお前宛の荷物があるから受け取って行ってくれ」

「荷物? わかった」

お菓子を食べまくる合間に返事をする子供。

あの宝箱をとっとと持っていってほしい。

それだけだ。

「ダンジョンでもあの子干からびてない?」

「人間に水を持たせて見張らせている」

ほぼ助けられているのは人間の方だが。

「良かった」

子供は、冷めたお茶を飲み干すと扉へ向かう。

「じゃあ、またね」

パタンと子供の背中を見送り、膝の上の亀と視線が合う。

「……玄たん、君は」

ビィと行かなくて良いのか?

亀はモソモソ首を伸ばして、果物をしっかり入手している。

あれ? 玄たん?

名前を呼べている。

あれ?

その日、亀はギルド長室に居着いた。









「きゃあ」

箱がかぱりと口を開けて飛びかかってくる。

「あー、はいはい」

子供が普通に箱を受け止める。

「道理で宅配できなかったんだね」

なんか違うと、受付嬢は思ったが表情にも出したりしない。

「はいはい。静かに」

箱が大人しく待っている。

「え~と。中身はミミック。ん? ミミック?」

箱がにこにこしている。

「はぁ、あの子連金に目覚めたの?」

受取票にサインをしながら子供がため息をつく。

「まぁ良いや、無限収納箱のミミックと。え~とミーちゃん?」

箱は無事貰われていった。

「無限収納箱って何よ?」

受付嬢の呟きは誰にも聴かれなかった。

彼女は書類を握りしめながらすれ違いなスライムの事を思う。

ギルド長が言うには、逢えない呪いが掛かって居るのだと。

あんなに会いたがっているのに。

かぱりと口を開けた箱を思い出す。

防犯には良いかもしれない。

収納にも。

(でもあの箱ってギルドの箱だったのに)

何時の間にミミックになっていたのだろうと首をかしげた。






夕方スライムが戻ってくる。

「はい。箱は無事届けたから」

スライムがサインを見て、落ち込んでいる。

会えなかったからね。

カウンターにどっさり荷物が積み上がる。

「……換金はあっちで」

「それスライムのだから」

今日のお付きの冒険家は、まだ山程荷物を抱えている。

「…………また箱に詰めとく?」

スライムが、コクコク頷く。

可愛い。只の箱に素材を詰める。

後で箱をこっそりつつくと、パカッと口を開けた。

「…………お水要る?」

スライムみたいに萎びた箱を発掘はしたくない。

箱はきっちりミミックになり、ギルドの防犯を担っている。

亀と一緒に、ギルド長の果物をつまみ食いしながら。

ギルド長は知らない。

倉庫がミミックの巣になっていることを……。




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