晴れ、時々 ミミック
「良い空ねー」
子供が窓辺でのんびりと日向ぼっこをしている。
足をぷらぶらして、鉢植えの花をつつく。
只の花のふりしたディジーは、我慢である。
ここで子供に抱きつけば、ダンジョンの祭壇に戻される。
「ビィ、お前の書類は」
屍な兄がジト目で聞いてくる。
「え? 終わったけど?」
「……こっちも手伝え」
書類の山をポンポンしながら、笑顔が返ってくる。
「えー、アッシュは?」
「お前に襲われたショックで逃げたんだろう」
「むぅ」
何だかんだと机に戻り書類を手にする。
「ビィに襲われた?」
マロンが首を傾げている。
あれはどちらかと言えば、襲う側だと思う。
襲われたなら大喜びしそうだ。
「デリケートなんだよ。だから聞くなよ?」
そう、踏み込んだ先でよもやプルプル震えていた仔犬がアッシュだったとき仔犬を襲っていた弟に何と論せばいいのか教えてほしい。
仔犬は、素早くアルの背中に隠れて難を逃れた。
踏み込んで良かったと兄は本当に思う。
本当に、この可愛いのに襲われて大ピンチだったのだろう。
と言うか、踏み込んでアッシュをタコ殴りする気で居た。
兄で良かったと思う。
一応兄である自分はあんな感じで襲われたりしないだろう。多分。
何て言うか不憫なアッシュである。
「所で、ビィ」
「あーい?」
呑気な返事が返ってくる。
「なぜそいつの膝に乗っている」
腐れ魔法使いの膝に納まった子供。
いくら魔法を教えて貰っているとは言え、膝に乗っかるのはどうだろう。
「あぃ?」
次の生け贄は鼻の下を楽しげに伸ばしている。
多少怖い思いをするといい。少し殺伐した視線が隠る。
何故に魔王と呼ばれているのか身を持って体験するといい。
とは思う。しかし体験後はあれが始終貼り付いてると思うと対策を取らないと。
「ビィ、来なさい」
まだ家族としての威力を発揮する。
子供はすんなり自分の膝に来た。そしてカプリと首筋を噛んだ。
うん。ひきつってる。
あほ魔法使い。身の安全を考えてビィとの距離をーー。
「ビィ、キスマーク付けていたのあなたなの?」
冷めた視線のマロンが呟いた。
はい。見たまんまです。
子供がギギギと首を回す。
「あれ?」
ニッコリ鞭を構えた乙女に首を傾げている。
そこ、考える前に逃げないと酷い目に。
「むきゃ」
酷い目なのか? 乙女の胸で窒息は。
「アワアワ」
「あれはご褒美じゃないのか?」
「黙れアホ、ご褒美に見れるか?」
渋い顔をして眺めていた魔法使いは、関節を決められていることに気が付き青くなる。
「あわわ」
「ご褒美に見えるなら頼んでしてもらえ」
「え、遠慮します」
頼む前に、俺がトドメをしてやろうと続ける前に空気を読んだ魔法使いは答えた。
回答が間違えてたらディジーが楽しく参戦していただろう。
乙女にエロ思想でお願いが出た場合は、ディジーはお仕置きを許されている。
シュピンと構えた蔓をウネウネさせディジーが残念がっている。
「良かったな。ミミックが飛びかかる気満々だったぞ」
「え」
ビィの持ち帰った宝箱はカパッと口を開けていた。
不埒な思考の男を噛む前に、子供を助けなくて良いのか? とも聞きたいところだが、何せ一番に乙女に噛みつこうとして調教されたのは記憶に新しい。
「死ぬかと思った」
気のせいか艶々になった子供が戻ってきた。
「肩こってたの。兄さんもしてもらったら?」
恐ろしいことを笑顔で薦めてくる。
「マロンの整体か。そういえば、頼んでくる奴が結構いたな」
「あら、じゃフルコースする?」
ギャー
「書類が終わりませんから、残念ながら頼めません」
「……ビィがバリバリ処理してるわよ」
ギャー、ビィやめてー。
その後、泣きながら縄脱けから始まったフルコースに魔法使いは健全に命をかけることを誓っていた。
そう、ビィを膝に乗っけた時点でアウトだからね。
乙女の厳しい教育が待っている。
てか、教育されるのは配下決定ですか。
なぜか知らないが補習で、従魔や下級生に魔法スキルを覚えさす才能に目覚めたらしいが、アホ魔法使いだぞ?
気が重い。
「所で、そのミミック。従魔契約は?」
「してないよ?」
野良ミミックが部屋にいる。
「そこのディジーは」
「ン? 何処にディジー?」
ディジーは、たらりと固まる。ウネウネしている場合ではない。
かくれんぼは得意!なディジーである。
いや見つかったら祭壇に磔にされる。
「……」
「まぁ、暴れないなら気にしないし、学生に噛みつかなきゃ大丈夫だろう」
「この商会、なんで僕が会長?」
書類を見ながら子供が首をかしげる。
「うん。アル兄さんにしとこう」
エイ、ヤア、トオー。
ビィは素早い。
「ちょっ」
「僕はミミックの生体調査するね? ミミックって今まで生け捕りに中々ならなくて研究進んでないし。ねぇ、解体して良い?」
ガビン
ミミックが隅に逃げる。
良い玩具が手に入ったらしい。
ナイスだ。スライム。
ビィの興味をきっちり捕らえている。
「……スライムに、次のミミック頼んどくか?」
「……あれ、解体確定かよ」
魔法使いが渋く呟く。
「ビィ、先に何を主食にしてるかだ。コインか?」
倒されたミミックは、貯め込んだ財宝を残す。多分食べたからだろう。
「聞いた話だと、装備品やら宝石も出るんだよね?」
ビィの目が輝く。
「じゃ剣も丸飲み? ちょっと待ってね」
カコーン、カコーン。ビィの工作が始まる。
あのミミックが、妙な進化をしないように祈りたい。
無理やり剣を詰め込まれて涙目になっているミミックに、子供のお守りを丸投げする。
ディジーがひきつっている。
「ビィ、腹が減ってないのに喰わせるな。泣いてるだろ」
「あら、……剣じゃなくてコインいる?」
パカリと蓋が開く。おやつは食べるらしい。
でも知っている。そのコインは夏休み中に溜め込まれた売り上げで有る。
もう管理が面倒で保管場所を求めただけだ。
ミミックは当分ビィの貯金箱決定である。
「あれ取り出すときは、解体か?」
魔法使いの呟きは聞かなかったことにされた。
コインであーん(餌付け)
ディジーの植木鉢には、貝殻の殻でも突っ込まれているかも知れない。




