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ダンジョンのスライム②

商隊の護衛で、久しぶりのギルドは何かおかしかった。

受付のカウンターにスライムがスピスピ寝息をたてている。

スライムは確かに危険な魔獣ではなかったが、一応魔獣である。

弾力のありそうな透明な表面。

思わずつついてみた。

「ぷにゅ」

スピスピがぷにゅになった。

適度な弾力に、何か惹き付けられる。

ぷにぷに

スピスピ

平和そうに寝ている。

ピシッ

凸ピンをすると、カウンターが返ってきた。

攻撃に勝手に発動したらしい。

ぶっ飛んだ。

周りの視線がおかしい。視線をこちらに向けないのにしっかり見られている。

高度な技をほぼ獲得している同業者。

おかしい。

一月離れたぐらいで、誰もが習得できている。何故だ?

スライムは寝ている。カウンター返したのに寝ている。

「スピ?」

スライムがプルプルしている。

さすがに起きたらしい。

「おじちゃん、よけて」

おじ……おじちゃん!?

気がつけば回りは子供だらけだった。

いつの間に? さっきはいなかったよね?

「あ、ごめんね?」

カウンターに用事があるのだろう。子供は町の雑用を良くしているから。

子供たちは色々な容器を持っていた。

水が入っている。

神妙な顔付きで並ぶ子供たち。

その1つにスライムが飛び付く。

「はいはーい、今日はレクスっと」

受付嬢が何かメモをとり壁に貼る。

「スープ皿、噴水の水に噴水横の雑草?」

ちらりとスライムを見れば、雑草は雑草だがタンポポだ。

それを器用に取り込んで食べている。

「やったー」

「はい、1ぺぺね。スライムのお世話よろしく」

「はーい」

子供たちはザバザバ容器の水をスライムにかける。

溢れない所を見るとスライムが吸収しているみたいだが、スライムは特に大きくなってないと思う。

水と一緒に木の実やら何かの植物の破片やらを器用に食べている。

スライムのお世話? 子供に生き物との接し方を学習させているのか。

農村の子供たちは、毎日牛や馬や鳥と戯れているものだ。街特有のあれか? ペットを飼っていない家庭への対策か?

学園に行く前の子供に生き物との接し方を?

たまに、仔犬に触れないお子さまが出るから。

などと思案しているとスライムが顔にアタックした。

「……」

モソモソ登っていく。

「はい」

受付嬢が紙を極上の笑顔で差し出している。

普段なら大喜びかもしれない。

「何?」

「指名依頼。子供たちよろしくね?」

「は?」

紙には、ギルド長の拒否の許されない刻印があった。

「あの俺、今日はお休みなんだけど」

「そうなの? よかったわ。時々ブッキングして苦労する人がいたのよ。今日行く子達は名前かいてね」

最後は子供たちにかけられた言葉だ。

「おじちゃん、紙」

紙に名前を書いていく子供たち。

頭上でスライムがモソモソしている。

「せーの、おじちゃんよろしくお願い致します」

子供たちは整列して、男にお辞儀する。

「えーと?」

紙には、1日見習い教室とあった。

自分の名前は、教師とあった。

「夜には報告に来てくださいね。来ないと捜索隊が出ますから」

受付嬢が優しい。

何故かそれだけでどうでも良くなった。






「お前たち、なにしたい? それによって持ち物とか変わるからな」

「薬草取り」

「ウサギ取り」

「木の実」

「お花摘み」

「えーと、お花……。すぐ行きなさい。というか出発前にみんな済ませるように」

ワラワラ子供たちが厠に走っていく。

「意外、子供好きだし、優しいのね」

「スライムの見立てだもの。出世するかもね?」

裏方で乙女たちの気味がされていたが、真面目に何処を見て回ろうかと思案しているのに忙しく一切気がつかなかった。








本格出発前に商家による。

「すみません。専属のお話をもらっていながら恐縮なのですが」

雇い主の商人は興味深く店内を行儀よく観ている子供の集団をちらりと見て護衛にと思っていた男を見る。

「ああ、1日学校だね。休日に後輩の面倒まで見てるとは流石だね」

あっさり推進される。どうやら結構広まってるらしい。

「そう言えばどこ回るんだい? 道具は揃ってるのかい?」

お土産まで貰った。

「ありがとうございます」

子供たちが一斉に挨拶する。

「ウフフ、子供って可愛いのね」

お嬢様が何か感心している。

あれらはかなりしつけが行き届いた子供だ。普通の子供とは違うと思う。

誰がしつけたのか。

俺の頭上で、現在俺をしつけている。はい。

「では、行ってきます」

うう。きっちり挨拶をして外に出る。

ペチペチとスライムが進む道を指示してくる。

道中、お土産を貰う。

何故かしっかり装備になった。

「さて、薬草だったな」

門番は緊張したおもむきで、頭を下げていた。

……あれはスライムに緊張していたのだろう。

「お前たち、周りの注意を怠るなよ。ウサギならまだ大丈夫だが猪や鹿やらだと子供の力じゃ無理だからな」

それにこんな場所には居ないだろうが魔獣に遭遇したときも対応をーー。

子供たちは意外と役割分担している。

「薬草発見」

「むむ、でも誰か来てたみたいだよ?」

「んじゃもう少しあっちかな」

子供たちはもう教えることないんじゃないか? と首をかしげていたらスライムが道草を食べていた。

「あ、スライム」

「ああ、それモドキだから」

スライムが捕獲して食べていたのは薬草に擬態した虫だ。

「刺されたら麻痺るから注意するように」

「腫れて痛いんだよ」

刺された子供がいたらしい。

「知ってる。体内に卵産み付けるんだって」

「ホジホジして取り出すの。痛いの」

うむ。そこまで教育してたのか。

「見張りと採取交代でな」

「はーい」

可愛い。子供はみなくそがきばかりだと思っていたギャップが凄い。

冒険仲間が子供を自慢して親バカを発揮するのがわかる気がする。

カサカサ草が揺れる。

子供たちはいち速く身構える。

ウサギが出てくる。子供の一人が弓を構える。

その弓は練習用の安いものだったがヒュンと器用に当てる。

「ほう」

「やったー、シチュー」

乙女予備軍がサクッとナイフで解体している。

「シチューって」

「うう。ウサギ……」

青くなったのが一人。

その内、慣れるだろうと思いながら子供たちの様子を見る。

「お昼のご飯なの」

「ご、ご飯っ」

ぐーとお腹が鳴る。

「……ご飯」

何かを諦めたような、納得したような様子の子供たち。

「ご飯」

お昼は、ウサギを焼いて食べた。

簡単な火の使い方、料理の仕方を学習した。

簡単なスープを作っているとスライムがドボンした。

あせる大人の横で、スライムをスープ皿に避難させると何事もなかったように配膳が行われる。

慣れすぎだ。

「はい。おじちゃん」

渡されたスープ。簡単な材料な割には濃厚な味を出していた。

(ん、シチューっぽいな? だがあの材料からこうなるか?)

大人の葛藤は現実のスープと理解できない変わりように思考を巡らす。

どっちにしても子供たちの喜ぶ姿に大人の常識を引っ込めた。

ちなみに出汁のとられた骨はスライムに消化された。








「沼だな」

記憶にない沼に首をかしげる。

「雨が降ると出来るらしいの」

「へぇ、この前の雨で?」

にしてはおかしい。

こんなになるほど降っただろうか?

「えーと、水場は動物たちが集まるので」

視線の端でスライムがパシャパシャ水に突入していく。

「あ」

突然水飛沫が上がる。

「…………という感じに無邪気に近付くのは危険だからな」

水飛沫はスライムを飲み込んだらしい。

穏やかな水面はなにもなかったように静まりかえっている。

「……スライム?」

子供たちが皆青くなっている。水中から何かが飛び出しスライムを連れていったのをしっかり見てしまった。

「スライム助けなきゃ」

フラフラと子供の一人が前へ進む。それを手で制し

「あれお前より大きかっただろう」

「だって僕、スライムのお世話係り」

「あ?」

お世話係り?

「スライムが危険なことしないように見てなきゃいけなかったのに」

そう言えばギルドで選ばれた子供だったなと思う。

「まて俺が行く」

涙目な子供を下がらせて進もうとしたとき、プカリと何かが浮かび上がってきた。

ビクッと大人の背中に隠れる子供たち。

ピョンと浮かび上がった腹の上にスライムが乗っかり、プルプルしている。

「……」

「…………あ、スライム。メッよ?」

呼ばれてスライムが走ってくる。いや、脚がどれか知らないが。

「ちょっと待て、あれは良い素材になるんじゃないのか?」

チラリと水面の獲物を振り返りスライムは水辺に降り立ち、ペチペチと水面を叩くと、ザバンと腹を見せて浮かんだ個体より大きな個体が浮かび上がった。

「ひっ」

裾を掴んだ子供たち。大きな個体は、鼻先でぐいぐい押してくる。

「ああ、ワニだな。アノように1つ倒したからといって、別の個体がいる場合があるので十分注意するように」

青くなった子供たちがコクコク頷く。

ある程度押し込むと、大きな個体は水の中に沈んでいった。

ドキドキしながら引き揚げると、しっかり死んでるのを確認する。

「えーと、剥ぎ取りは」

スライムがスパスパ器用に処理した。

うん。欲しいぞ。スライム。

帰り道は簡単に目についたキノコや木の実など取りながらの帰宅になった。


「よ、お帰り」

門番は明るく声をかけてくる。

「うお、陸鰐か」

大人が背負った荷物に気がつくと驚きの声をあげる。

「ちょっと待て、子供が行ける範囲にそんなのがいたのか?」

「ああ、もっとでかいのもいたが、ギルドには報告これからするよ」

「ただいまです」

「おう、お帰り」

子供たちに囲まれて、門番は優しく応じている。

案外世話好きらしい。


ギルドで叱られた。

もちろん子供たちが解散したあとで。

「何てもの狩ってくるんですか」

そう叱られながら、帰りに子供たちが

「先生、さようなら」

と呼んでくれた台詞を思い出してにやりとする。

おじちゃんから先生になったのだ。

あ、いや。決しておじちゃんではないが。

「って陸鰐だと、新入りじゃ返り討ちだろうから、うー」

「あー、因みにこれよりでかいのが居たからな」

「⁉」

受付嬢が張り付けた笑顔が恐い。これと指したのは剥ぎ取られた革だ。

スライムは水槽に突っ込まれていた。いや、それギルド長が大事にしている魚じゃないか?

ぷかぷか浮いてるスライムをつついている魚。

何匹かスライムの腹に取り込まれているように見えるのは、多分気のせいだろう。

うん。後ろでギルド長が声もなく泣き崩れているのは多分気のせいだろう。

ギルド長。子供たちはもう居ないけど、若手や新入りが固まってますよ?

まぁベテランが「ギルド長でさえ泣きたくなる事があるんだ」とフォロしていたが。


本日の1日学校の売り上げは、子供たちの収穫品と鰐革を納入して手数料を引いて、子供たちに渡された。

スライムは水槽から鳥かごに移されたが、やはり腹に魚が……。

多分気のせいだろう。


後で知ったが、スライムは何時も子供たちの皿に飛び込む訳じゃないらしい。

そして大人の先生を選ぶのも毎回ではないらしい。

時には、街の中だけの徘徊で終わったり、どこかの工房に突撃して荒らしたりと まあその予防で街の商人はスライムと子供の集団には先に色々与えるそうな。


後日子供たちのレポートを受け取った。その時、ギルド長が変な躍りをしていた。

レポートは中々泣けた。

そして。

「……この魚、何で分けられているんですか?」

商家の水槽に分けられた見覚えのある魚がいた。

「ああ、こっちはモドキだから。放っておくと本家を食べてしまうんだよ。強いから増えまくって気が付いたらモドキしかいなくなってたとか。いやぁ気がついて良かったよ。実はスライムがモドキを腹に入れて遊びに来たんだ。もう違いがよく判らないバカが仕入れたらしくて本物が食べられて大損だよ」

共食いではなく、れっきとした別種らしい。

「ギルドで置いてましたね。この魚」

「スライムに魚をとられたと嘆いていたがモドキを教えたらスライム小脇に抱えて家に持ち帰ったらしい。家にも水槽が沢山あるらしいから」

「へぇ」

ギルド長がスキップしていた理由がかいまみえる。

中々深いスキップだ。

なにも知らない受付嬢が気持ち悪がっていた。

話題にちょうど良いかも知れない。









ギルドに入ると、男が吹っ飛んできた。

避ける。

喧嘩か? と思えば相手はスライムだった。

「あれどうしたわけ?」

「ダンジョン講師の許可が降りなかったらしい」

ダンジョン講師? なんだそれ?

ペチと後頭部に何かがぶら下がる。

「…………」

何かデジャブが。

チラリと見ると緊張の趣の若者が。

モシャモシャ

頭上でスライムの聞いてはいけない音がする。

「はい、これ」

笑顔が恐い受付嬢が書類を差し出す。

「1日ダンジョン講師よろしく。それとスライム早くとらないと剥げるわよ」

何かデジャブが。

「絶対変なの狩っちゃ駄目よ?」

変なのって? 陸鰐討伐は大変だったらしい。

なにせ沼自体が移動するから。

モシャモシャ

「スーラーイームー」

とりあえず、頭上から剥ぎ取らないと大変な事になる。

「プキョ」

鳴いた。

「ビキョ」

「あだだ」

ペチペチアタックが来る。

モシャモシャ

離れる気はないらしい。

「で、お前たち。装備は揃っているのか?」

諦めが肝心な冒険家である。

ペチペチとスライムがやる気になっている。

「スライム。新人なんだから陸鰐みたいなのは要らないからな?」

「プキョ」

実に不安になる返事が返ってくる。

はーとため息を付き新人に向き直る。視線が頭に集まっているのは気付かない振りで、ダンジョンへ向けてゴーである。

本日はダンジョンの散歩、決して探検ではない。多分。

スライムが頭上でしてはいけない音をたてる。

モシャモシャ

うう。泣いてやる!












「で、何で彼は駄目だったの?」

受付嬢は足先で伸びている男をつつく。扱いが酷い。

集団の視線はうろうろする。

機能的にも別に問題ないと思ったのだが。

「ああ、髪ね」

「!」

ゴフッと噎せる者、視線を合わせないようにする者色々。

「まあ良いわ。起きるまで奥で寝かしておくわね」

そう言いながらひょいっと担いだ。

軽々と。

無言の視線が集まる。

ギルド名物美人な受付嬢が、実はスライムよりヤバイのを時々猫を忘れた娘が垣間見せる。

ウッカリ初遭遇な恋心が砕けていくのも気にせず、奥の仮眠室に放り込み「起きたらお粥でもつくってあげようかしら」と呟いた。

手料理看病とざわつく一部とは違い、ひきつる一団はそそくさとギルドを出る。

恐ろしい手料理が振る舞われる前に仕事に出た方が安全なのだ。

「フンフンフーン」

その後どうなったのかを話題にする人は居ないので、餌食になる人材には困らなかった。

ギルド長が食中毒注意の紙を貼っても、食べたがる人材には困らなかった。




ちゅどーん。






























スライムーー。

子供や新人を育てる前にギルド乙女を何とかしないとヤバイのじゃ?(笑)


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