隣の陰は魔王様
視線の端で、脚がプラプラしている。
御者台でぼんやり視線を合わせると脚が見える。
が、意識して見ると誰もいない。
お日様は高い。真っ昼間なのにである。
ダラダラと汗が出る。
真っ昼間からお化けに遭遇!
ぎゃー
「天気良いね」
お化けが話し掛けた‼
「う、うん」
「……ここどこ?」
「え? ……きみだれ?」
「え、あれ?」
消えずに子供が首を傾げて回りを見る。
「……ここは馬車の上。うん」
キョロキョロ見回す。
馬が妙におとなしい。
「アー、学園の街道か。じゃ荷物はデイジーの?」
「卵とかまぁ色々……」
物資の持ち込み以上に、帰りにのせる森の素材や学生の生産している作物などいつも以上に満載である。
「……外出届は」
「僕、家で寝ていたはずなんだけど。何でお外にいるのかな」
ーー知りません。
すいーと、影が落ちる。
鳥の影なら気にしなくてもいい。
馬が大人しい。
直ぐ上を、竜が飛んでいく。
腹やら間近に見えてしまった。
そして少し先の茂みに降り立つ。
ワラワラと茂みから人が飛び出してくる。
「…………」
「人、多いね?」
「いやいや、なんで茂みに隠れているかとか変ですよ」
「なるほど、盗賊かな?」
竜に手をふる子供。
「ここいらはあの子の縄張りだから狩りしたら怒られるのにね」
「サヨウデスカ」
後ろから馬に乗った護衛が来る。
「あの竜が」
「あれ、この辺りのボスらしいです」
「え? ボス、……きみだれ?」
子供に気がついたらしい。
「…… 魔王様です」
「様は要らないよ? あ、あっちのボスも来ちゃった」
「え?」
反対側の茂みが揺れ、にゅと狼が顔を出す。
「もう少し奥だと、蜘蛛のボスもいるし、あ、」
白い丸いのが茂みから飛び出してくる。
「コー!」
とそれは子供の膝に大人しく陣取っている。
「…………コッコ?」
と、同じように数羽のコッコが子供にくっついて丸くなる。
「狼に追われて?」
「こら、ロウ 道に出てきたら追いかけられるよ?」
顔を出した狼は、道には出てこなかったが茂みのなかを並走する。
いや、反対側には竜がのしのし歩いている。
そして狼がたーと走っていったと思えば、前方で人が飛び出してくる。
「…………もしかして待ち伏せに」
「あ、ロウ。駄目よ。食べちゃ」
楽しい街道になりそうだ。と言うか。
学園森のボスに護衛されるとは、貴重な体験です。
休憩中、狼が腹を見せてデロッと伸びています。その腹を撫でる子供。
横で、竜が同じように腹を見せて寝転がって居ます。
「しかし盗賊と行進」
商隊より縛られた盗賊の方が5倍位居ますが、彼等は狼と竜をガン見しています。
「……つまり我等は」
何かあったのでしょう。
魔王様が出てきて、学園のボスが出てくるようなーー。
積み荷は学園の出荷物。
「ランランラン」
子供が歌っている。
気のせいか、枝に鳥が鈴生りーー。
「もうすぐ皆戻ってくるからね?」
夏休みが終わる。街道の安全を確認しに来たのか。
「馬鹿をしたみたいですね? 魔王様の出荷物を襲ったらどうなるか考えたりしなかったんですか?」
盗賊達が青くなっている。
「魔王様」
「学園にいたのか」
「道理でーー」
馬鹿な盗賊です。噂で景気がいい事を聞いてきたのでしょう。
この学園の街道は世界一安全です。
本来なら、学生達が商隊になって荷物を運んでるのですから。
魔王様が在学してなくても護りは完璧です。
出荷先の受け皿も完璧です。
例え奪えたとしても、何処にも流せませんよ?
「ビー様、狼や竜も学生達が時々討伐していると思いますが、撫でて良いのですか?」
「間引きしないと、溢れるからね」
デロと伸びでた二匹がびくんとする。
「この前は蜘蛛の間引きしたから、次は」
チラッと見られた二匹。
「ああ、そういえば市場に糸や布が沢山でたのは増えすぎてたのですか?」
「んや、僕が糸取りに行っただけ。余りは出荷したのかな?」
小首を傾げて、笑う。
「そうね、保護区から竜素材は沢山でたし、毛皮は冬毛が良いから」
チラッ
「……まだ早いねえ」
狼の毛皮はまだ夏毛らしい。
「フフフ、冬毛~」
変な鼻唄を歌いながら子供に撫でられる狼がギクギクしてたのは見ものだったかもしれない。
糸は染めらるていたり、布も色々加工されていた。
服や鞄に生成された製品もあった。
因みに一番人気だったのはリボンである。
雪降る季節に二頭が「まてー」とか言われながら追いかけッ子されてるかもしれないと思い浮かべる。
ありそうだ。
街への門が見えてくる。
門番がぎょっとしている。
狼と竜が居るからね。
「お疲れ様です」
門を潜るーー。
破壊された街並み。
竜が死んでいる。
狼が死んでいる。
戌がーー。
佇む子供。
背後に女神が降り立つ。
ああ、盗賊に追われて逃げた。
街に逃げたが、気がついた竜と狼が暴れた。
街の護衛がーー。
ああ。私は死んだのですか?
女神が、子供の背後に
「ビー」
魅惑的な女神の声が響く。
ふわりと風が女神のスカートをめくりあげる。
すらりとした綺麗なおみ足がーー。
「あ」
女神がキッと睨む。
「観たわね?」
ブンブン
全力で首を左右にふる。
気のせいか、背後でもブンブンふっている気配がする。
それよりも、めくり上がったスカートが子供にカカッテマスガーー。
「え? お尻見た」
ブンブン
見える範囲の全てが首をふる。
「ビー、観たわね」
「え? ご免なさい?」
チラリと周りを見る。
「もしかして皆も見えたの?」
「おほほ、見ていいのは貴方だけよ?」
女神に抱き締められる子供。
「え、ピンクのーー」
ひーーっ
「綺麗なーー」
女神の人差し指が子供の口に当てがわれる。
「フフ、見ていいのは貴方だけよ?」
女神が微笑む。
そして巻き戻った。
「……」
カボカボ馬が進む。
何か寝ていたみたいです。
見てはいけない。
プラプラする脚を。
見てはいけない。
女神のーー。
ん?
脚など見ていません‼
途中、竜が丸くなっていたした。
お茶目な竜です。
狼が欠伸をしてました。
気のせいです。
コッコが並走しているのも気のせいでーー。
「オー、果物と卵か、帰りに寄るよ」
門番が積み荷に喜んでいます。
直ぐ店に卸すので、彼等の帰りには店に並んでいるかもしれません。
多分。
ええ、横に魔王様の脚等、プラプラしていません‼
「えーと、きみだれ?」
ぎゃー
「あれ?」
無事通過できました。
門番も見習いみたいなものです。
私は乗りきりました‼
「えーと‼ ここどこ」
うぎゃ
魔王様。
ワタシの幸運を試さないでください!
「あ、コッコ」
子供はコッコを追いかけていきました。
ドキドキ
「ねぇ、冬に狼の毛皮いる?」
店のなかで、子供が小首を傾げてーー。
うぎゃ
ワタシの忍耐を見ているのでしょうか?
「コッコの羽毛だけで十分デスヨ」
「ディジ、羽毛も出荷してるだ」
ええ、女神の脚など知りません。
毛皮はまだ早いデス
卵と肉と羽だけで十分です!
子供の影がゆらりと揺れる。
「パンツはピンクーー」
うぎゃ
変な鼻唄を歌いながら陰は消えました。
なにも聞いていません‼
だから
だから女神様
ふよふよ周りを飛ばないでください!
☆★おまけ★☆
「コー」
庭を駆け回るコッコ。
同じサイズの戌が走り回っている。
うるさい。
アッシュは、幸運の騒がしさにため息をつく。
「はぁ」
コニが嬉々として世話している。
朝、たまご料理が出るようになった。
ママンの栄養には良いのだろう。
はぁ
「コッコーー」
安眠妨害するコッコ。
絞めて良いでしょうか?
ココイチ
ビーに撫でられた幸運のコッコ
幸運のたまごを生む
ココニ
ビーにくっついた俊敏のコッコ
俊敏のたまごを生む
ココサン
ビーの膝に乗った知識のコッコ
知力のたまごを生む
ココヨン
ビーを追いかけた筋肉のコッコ
雄 そのキックで群れを守る
何もミテイマセン。
うっかり鑑定をかけて後悔したアッシュである。




