ピンチは突然な日常
どとーんと、目の前の壁にビーの目がうろうろする。
「ビー、確かお散歩だったよな? お散歩がお泊まりと同意語だったとは知らなかったよ」
笑顔が恐いアルがお迎えにきた。
「に、にいたま」
うるっと必殺甘えるをかます。
「⁉」
兄は怯んだ。
「弟はあんな感じに良いとこ取りだな」
「……俺にあんな風にされたいと?」
「ーーお前、従兄弟。少し違う」
アッシュとコニが仲良くお茶を飲んでいる。
「で、夢の感想は?」
「蜘蛛が恐い」
げふ。
「あんなでかいのがいて、良く安眠出来る」
「あれはククリだ。侵入者を捕まえるから安全だぞ?」
「あ、あれが安全?」
「危ないのはあっちだ」
指を指した先には、戌が尻尾をフリフリしている。
「あいつは侵入者を頭から丸飲みで生きちゃいねえ」
げふ
「ま、丸飲み?」
「ビーの前だとあんなチビになっているが本来は蜘蛛よりでかいぞ?」
げふ
「フフ、やっぱり兄弟って良いわぁ」
「お、お嬢様……あ、奥様、あの」
「レイチェル。貴女は義妹なの。お嬢様も奥様も違うわ。お姉さまよ?」
「う、うぇ、お、お、お、お姉さ……ま」
どこを向いてもむずむずする会話が交わされている。
「平和だな」
「……貴方の頭のなかが花畑なのはよく知ってましたが」
コルは小さくため息をついた。
子供をさらい、姿を消した自分を一切の捜索をしなかった。
「……あのな、お前がやっていた仕事が全部私のところに転がり込んで来たのだぞ。レッシュが寝込んだからまだましだった。あれが外に飛び出しててみろ。恐ろしい……ン?」
漫然の微笑みを称えたコニに、ブルリアが首を回す。
「!」
「オホホ、あなた」
ぎゃー
ごく一部、恐ろしいことになっているが まぁ大体は花畑である。
ーーーーーーーー
ギルドの受付嬢はニッコリ微笑み
「未処理の入金をカードに、入れても良いでしょうか?」
と端末を操作しながら、チラリとビーの後ろの青年を見る。
「? 未処理? パパからのお小遣いかな」
首を傾げて、「うん、お願い」と返すビー。
「かしこまりました。ーーあ」
カードは満杯になった。
「ええと限度額になってしまいましたので、残りはーー」
「満杯? じゃ臨時で俺のに処理しておく?」
アルが覗き混む。
「うん。パパ金額間違えたのかな?」
「……俺のは間違えてなかったが」
ビーのだけ意識的に間違えた可能性はある。親バカだから。
「かしこまりました。あ」
「ん、どうした?」
レーガルがビーを抱き寄せながら言う。
「こちらも一杯になりました」
「え?」
「ビーと俺のカード満杯」
「……親父が親バカを発揮したのか?」
「兄さん、親バカって」
「え、パパって もうボケたの」
爆弾発言。
「いや、少し目が悪くなって丸多くかいたんだろう」
アルが焦ってフォローする。
「む、老眼」
「とりあえず私のにいれておくかい?」
レーガル兄がカードを出す。
「かしこまりーーあら」
ーーーーーーーー
「それで三人ともカード一杯になって、会議の終わったパパが来たからパパのカードに入れてきたの」
ビーがクスクス笑う。
「フフ、公爵家の取引がビーのカードに流れたの?」
「んー? なんか知らないけどデイジー商会が売上とか? 税金は引かれてると言ってたけど」
ゲフ
「知ってるのか! デイジー商会」
ブルリアが立ち上がる。
「ううん、知らない」
ポヨポヨ。
「知らないけど、なんか書類がいっぱい貰って嫌になってお散歩に」
逃げてきたのか。
一同が苦笑い。
「リリがアッシュ見付けて急降下。で、お邪魔しました」
ペコリ。
なんだかここに来て最初のご挨拶になった。
「ビー、デイジー商会が出している卵を回してくれ」
あきらめない親父がここに。
「えー、ブルリアもコッコ飼えば良いじゃん」
「コッコ?」
「そうそう、コッコとモーモー飼ってレイチェルに食べさせて健康な三つ子を、ねぇ?」
「ふむ」
子供は三つ子に増えたみたいだ。
「コッコの捕獲に飼育と繁殖の手順を……」
ぶつぶつ思案し出す。
「コッコは、羽や肉も流通に乗りますよ」
とコル。
「モーモーと……牧場か」
フフフと親父がやる気になっている。
「あの人、若いときは牧場やるつもりだったのよ」
レッシュがクスクス笑う。
「んじゃ時々デイジー来させる?」
「ん?」
「どうも学園のデイジーが飼育しているらしいんだよね。なにやってるんだろね。ダンジョンのボスなのに」
ビーは、きっちり爆弾宣言を残してくれた。
ビーを送り出したあと、レッシュはふうとため息をついた。
子供のカードが三枚満杯。
次男と三男が限度額が少なかったのかもしれないけれど、跡取りの長男までも満杯になったという。
ーーどんだけ稼いでいるのかしら?
きになるレッシュである。
★
「と、とうたまーっ」
うわーんと、ベッドに寝ている父親に飛び付くビー。
ビーがいなくなって心労で倒れたことになっている。
ぶっちゃけ、休みに戻ってくるはずのビーは調査隊に着いていき 戻ってきたと思えば行方不明に成ったのだ。
アッシュからの連絡が来るまでは本当に大騒ぎだったのだ。
なにせ良く拐われるから。
ビーはそのうち、父親の横で寝息をたて始めた。
お子さまである。
執務室に兄はいた。
「お帰り、ビーは?」
「親父の横で寝た」
「ふ、まったく」
鳥籠に、竜が入っている。
「……ははは」
うるうるした竜を見ながら、兄も結構来ているなぁとアルは思う。
「お前、ご主人様を放といたら駄目だろ。拗ねて大変だったんだぞ」
こっそり鳥籠に話しかける。
「ま、ご機嫌とり頑張れよ」
キューと、竜が鳴く。
兄の手がぶるぶるしている。本当なら膝に乗せて甘やかし放題をしたいところを籠にいれているのだから。
従獣の躾も大変なんだと苦笑いしか出てこなかった。
「本日は指示通り、ビー様が書類整理を先ほどからなさってます」
「そうか」
ふて寝中の主人がそっと先ほどまでビーが寝ていた温もりをなぞる。
「昨日レーガル様が難しい案件を処理なされたので、さほど難しいものは残ってないと思われますが」
「ふ、あれも優しい事だ」
「アル様は器用に逃走しましたから」
「執務補佐で逃げ出していては……はぁ」
「パパーー」
ビーが飛び込んできた。
「ビー」
気のせいか幼児化している。
「休憩かい?」
「え? 終わったよ?」
グリグリ胸の中に潜り込む子供。
「今、にいたまがチェックしている」
「そうか……ビー?」
くうくう寝息をたてる子供が。
「……」
「確認してきます」
「やれやれ」
出ていったきり帰ってこない。
上の決済が終われば、下に流れて行く。
一度にあれだけ次に流れれば。
おかげで、ビーは腕の中。
「アールー、何処へ行く」
「いや、と、そうそう、トイレ」
「ほう」
兄の目が恐い。
「イーヤーァーー」
ごく一部を除いて、幸せである。
世界は花畑。
「キュー」
余りの忙しさに竜は忘れられていた。
しくしく
スライムが鳥籠に入れられて たそがれていたのを覚えている。
確かスライムは……。
ガシガシ
だーせー!
竜はアピールを覚えた!
……段々お転婆になっていく竜。
ビーのリセットに巻き込まれるとエライ目に合います。
一夜の夢で人生やり直し恐怖体験。
ビーは子供には優しいので、母に会いに行った泣く子供の欠片(成長してない心)がもしなかったら蜘蛛に捕まっていたことでしょう。
ビーの神隠し(トキワタリ)は制御出来るようになるのか?
闇は何処にでもいて、目を離してはいけないが
その実 見付けてもいけない存在。




