桃色な日常
ブルリアとレッシュの若かりし頃。
レッシュの名字やらは今後変わるかも。(ゲフゲフ)
「父さん、俺結婚したい人がいるのだけれど」
一定の能力を認められた跡取り候補以外は、成人と共に家を出る。
だから。
まだ家にいるうちは報告が必要だと考えた。
「……ブルリアか。どこの娘だ?」
「え、レッシュ・グリニア。グリニア伯爵家の御令嬢です」
げふ
父は噎せた。
どうやら、最後に父の気は引けたらしい。
それだけで十分だ。
「と言う事で、今度プロポーズしに行きたいと思ってーー」
「何処だ。どこで知り合った?」
「ええと、毎年お祭りで連れてきている戌を構ってたら」
父の剣幕にやり過ぎた感があったが、外に出される身の振りとしては小金もちの娘に取り入るのは良くある就職先だった。
「ぷ、プロポーズ、では断られる事もーー」
「ええと、その、出来ちゃったので早くしないと」
モジモジしながら言うと、父は呼吸困難を起こした。
「で、出来?」
げは、ぐほ、酸欠で白黒している普段威厳たっぷりな父は面白い。
「バッカモーノ!」
立ち直った父は長剣を振り回し、それを器用にひょいひょいと避け回る少年。
もう食事どころではなかったが、テーブルに座っていた居残り組は巧く取り入った本来なら脱落組を、何処か諦めたように見ていた。
「ちょろまかと逃げ回りおって」
ほんのり汗をかいた額を拭いながら、用意されたお茶に手を伸ばす。
「素早さは中々のものだと評価されてますが」
「見せろ」
評価ブックには、平均的な結果が載せられていた。
「……あれだけ素早くて6なのか?」
「最初の加点が有りませんので」
ペラリとめくった細かい判定に目を通す。
「動物に触れない?」
「ええ、どの動物も捕まえられなかったと」
戌も猫も鳥も兎や鼠すら捕獲できなかったと書かれている。
「…………あんなに素早くてか?」
「動物に嫌われたらしく」
「……御令嬢の戌がどうとか言っていたはずだが、余所の戌は触れてたのか? ククリ、ブルリアを捕まえてこい」
隅でかさこそしていた蜘蛛はのそのそ出ていく。
あちこちで悲鳴が上がる。
「……何を騒いで」
窓から外を見れば、蜘蛛は戦闘中だった。
剣を振るうブルリア。しかし適当に手抜きした剣術は決定打に欠ける。
あれでは剣の道は諦めろと言える。
バリバリバリ
閃光が走り、蜘蛛がひっくり返った。
「……雷か」
「電撃ですがたいした威力は有りません」
蜘蛛は直ぐ気がつき、逃げようとしたターゲットを捕獲する。
いーとーまきまき
「離せーーバカ蜘蛛っ」
騒いでいるが、抜け出せないでいる。
「縄抜けもあのとおりでございまして」
評価6は見た限り妥当だ。
「なるほど」
引きずられてきた糸玉は、これが何故銀狼一族の血の濃い娘に見初められたのか実に悩めるものだった。
ブルリアは戌が好きだ。戌だけでなく猫や兎や動物は大体好きだった。
最初の試練は、どれかと仲良くなってお世話するだった。
しかし仔犬も仔猫も一ミリも触らせてもらえなかった。
だから次の躾も進めないまま、あっさり外に出される事に落ち着いた。
外組は街中での実習も多い。
小遣い稼ぎをしながら、自分に出来る仕事を見つけなければ路頭に迷う。
お祭りの会場警備擬きに駆り出されたその日、繋がれていない戌を見る。
綺麗な毛並みなので、野良ではないと思いながらもひょいと抱き上げた。
「つーかまえた、お前、迷子か?」
ガブリ
「うお」
容赦なく反撃してきた戌は、腕から逃れ間合いをとる。
「むう」
戌との追いかけっ子をしながら、彼女にあう。
少女の腕のなかには収まった戌。
「それ君の戌? 撫でても良い?」
少女に一切の興味を見せず、ひたすら戌と遊ぶ少年。
周りの大人がヒヤヒヤしていたのを知らない。
銀狼の戌に無防備に飛びかかっていく。
その日、少女の名前すら聞かずに帰っていった少年は 途中から持ち場を離れた事を叱られ散々ではあったが 戌に触れたのである。
しかし数日たって、飼い主の名を聞かなかったことは後悔した。
何せ何処に行けば、あの戌と会えるのか全く情報がなかったのである。
それ以降、戌の飼っている家を探し歩いたが見つからなかった。
裏道を通ったある日、変な馬車を見かける。
もぞもぞ動く袋。何か生き物が入れられている。
本能のままに袋を担いで逃走。
「ほーらワンコでてお……いで!?」
袋に入っていたのは子供だった。
戌じゃない。が、しかし
マジマジ子供を覗き込んでそのまま担ぐ。
一目散に家に逃げ帰った。
狭い自分の部屋に寝かせると、台所に忍び込んで食材を漁る。
部屋に戻ると、子供は目を覚ましていた。
「パン持ってきたよ。お腹空いただろ?」
モグモグ食べるのを見る。今後どうするか。
折角の戌は名も知らぬ誰かの物だ。
あんなに探したのに会えもしない。
この拾った子供とはなんとしても伝を残さねばならない。
どうするか。
その時、何かが降ってきた。
気がつけば半壊した家に、ワイバーンが首を突っ込んできていた。
子供が、ペチペチ鼻先を撫でている。
良く見れば、ワイバーンの後ろにもでかいのがいた。
ワラワラ集まってくる大人たち。
あ、これは見付かる。と、凍り付く空気を出す背後を見上げる。
「……ブルリア」
ウム。やばさ全開。
子供は引き取られていった。護衛が送り届けると言う。
そして保護された家だったとはしらず空からの救出劇になったわけだ。
いや、子供は確かに家にいたが躊躇なく突入してきた。
あの子は、家の家名より余程上の者だ。
「お前はどうしてとっとと大人に言わないんだ‼」
元気な祖父に追いかけ回された。
泡や誘拐犯になりかけた一家。
話題の一族になって肩身を狭くなどしなかった。
父の手腕は時の人を巧く操り、事業拡大に成功したから余計に忙しくなった。
しばらく外出禁止からやっと抜け出した先で戌と出会う。
「戌!」
横の綺麗な女の子には見向きもせず、戌に飛び付く。
毎回そんな感じで過ごした。
気がつけば、女の子の回りには、花を贈るものや可愛いアクセサリーを贈るものやで溢れていた。
「私今度お見合いするの」
泥だらけになった坊主の横で花を抱えた娘は呟いた。
「……そいつ戌好き?」
「さあ知らない」
「結婚したらコイツ連れていくんだろ? 戌と仲良くやっていけないときついだろ」
「……その子に触れた人誰もいないわ」
スーと目がほそまる。
「ねぇ、貴方戌より先に構う人はいないわけ?」
「親父忙しすぎてかまってもらえないよ」
「え?」
「俺より出来の良い子供の教育に生き甲斐だから、だから郊外に小さな牧場でも貰えれば御の字だよ」
「……牧場、牧羊犬なら出来るわね。利口だし」
「ン?」
「前に猫に触れなかったって言ってたけど、牛や馬には触れるの?」
「ええと」
目を泳がす姿に、クスリと笑う娘。
「触れないのね」
「世話の仕方は教わってるよ。餌さとか掃除とか。ただ……」
「ただ?」
「ブラッシングしようとしたら、いつのまにか追いかけっこになって」
モジモジ。
「フフ、貴方まだ子供だから仕方ないのよ」
「……大人になったら触れるのかな?」
真面目に考え出す男の子。
「よし、ドラゴン牧場にしよう」
「は?」
「前にワイバーン見たんだ。そいつは俺から逃げないで格好良かった」
「……ワイバーン」
うっとりとした目をして語る男の子に、目を細める女の子の仕草は気にもとられなかった。
その後お嬢様がワイバーンを追いかけ回し、見合いの席で戌が睨みを利かせまともなお見合いにならなかったのを少年は知らない。
「も、申し訳ございません‼」
父は最初から低姿勢でいくことにしたらしい。
「う、家の愚息がとんでもないことをっ」
「なんのことで」
「ここ、子供が出来てしまったとか」
「ああ、親の同意を貰って来るようには言ったが、親を連れてこいとは言わなかったのだが」
「だってもう直ぐ産まれちゃうよ」
「う、産まれ? もう直ぐだと⁉」
「ぐぇ」
絞まる。容赦がない。
「あら、叔父様来ていらしたの?」
娘の腹をマジマジと見た父は、息子の首根っこを捕まえたままささやいた。
「いつ産まれるんだ?」
「もう一ヶ月ぐらい?」
「いっ、彼女が産むのでないのか」
「……え、人の子はそんな直ぐに産まれないよ? 父さん」
娘の腹はぺたんこだ。
次いでに言うと、妊婦特有の胸の膨らみも目立たない。
「やあね、私の子は年明けぐらいよ? ねぇ?」
静まり返った室内。
「え」
「え?」
「ば、馬鹿者!」
追いかけ回す馬鹿親子。
「レッシュ、お前、冗談はもう少し笑えるものにしなさい」
「え? 冗談?」
「……え」
タラリ。
「エ、エ、エェェーー!」
「? ねぇ赤ちゃんは妖精がキスしたキャベツ食べた女の子には来るのよね? お庭のキャベツは食べれるのはまだ先よね?」
「お、お嬢様」
止めにはいる執事や護衛や、逃げ回る少年や入り乱れるなかで
「年明けには食べれるかしら」
と、娘が子首をかしげた。
もっとも産まれた仔犬たちは触らせてもらえず、ブルリアは結局貰えなかったのはもう少し先の話。
「ええと、僕、郊外に牧場でも貰えれば良いのですけど」
「黙れ」
山程の書類を前にして、跡取り教育を詰め込み出された少年は 何故こうなったと悩みながらも いつの間にか馬に触れるようになっていた。
もっとも、馬で遊びに出掛けたら お嬢様はワイバーンに乗り飛び回っていて、こっそり泣いたのは秘密である。




